第11話、第12話最終回、ドラマ完走記と論語についてまとめると長文になるのだが、見返すのにわかりやすいかと同じページにしました。
各話までのネタバレはあります。
11話感想
易者の岳鉄嘴が笠を被った男と話しており、岳鉄嘴が気付いたのは「故園にて君と眉を切る」から。
張執事が易者に金子を渡す現場に、乗り込む捕吏たち。陶製の暗器には石灰が入っていた。
薛挙人と宋典史との対峙。魏知県は釈放せよと言う。
あ、あのロバちゃん。易者の情報文を隠す曲三更。
張執事は白装束で木に吊され「人に仕えず鬼に仕えるとは」との文字が残されていた。曰く「張貴が仕えた主人は悪鬼だ」と。
孔子『論語 先進 第十一 十二』
季路问事鬼神,子曰:“未能事人,焉能事鬼?”,曰:“敢问死。”曰:“未知生,焉知死?”子路がどうして死者の霊魂におつかえしたらよいかとおたずねした。先生がこたえられた。「生きている人間にじゅうぶんつかえることすらできないで、どうして死者の霊魂におつかえすることができようか」子路がさらに死についておたずねした。先生がこたえられた。「生についてまだよくわかっていないのに、どうして死のことがわかるものか」
貝塚茂樹「論語」中央公論社
陸不憂は生きているのか?
仔犬であった三更は、「老犬(冷頭領)に守られていたから」と鳳秀才に話す。
薛挙人 VS 三更、かつて役所では冷頭領が協力していた。
(回想)陸不憂が小鳥を巣に帰している。銅頭大将軍はコオロギの名前なのね、隣にいる米問屋の次男 岳吉が易者か! 助けに入る小宝子。陸不憂は眉が傷つき、観相では「兄弟の決裂」を意味する。
妓楼へ行ったことで閉め出された陸近信に勉強の出来を尋ねられ、陸不憂は「論語」衛霊公編「子曰く我はまだ見ず、徳を色の如く好む者を」と言い返す。解説は「女を好むように、徳を好む者を見たことがない」。
妓楼へ行った父親への皮肉かしら……。
子罕編でも言及がある。
陸直の姓は薛で、陸不憂より二月年上。殺人にはためらう陸直だが、陸忠は違う。そんなタイミングで陸直が陸不憂の童僕になる話が持ち上がり、一生奉公するだけの人生から逃れる決意をする陸直。なんて間の悪い……。
尤料理人が鴨の心臓炒めを作り、陸直に声をかけている。陳旺たちの酔った話から事態を察した尤料理人。これで陸直たちに加わったのね。
曼荼羅散は眠り薬。
陸不憂は、役所の魏知県か?
(つづく)
結局、兄弟(血は繋がっていない)対決になるのかしら。
12話最終回
最終回はいきなりの1時間41分放送。
万暦17年9月7日。陸不憂は小宝子とすっかり仲良しさんになってる。そして陸不憂は離れの庭の枯れ井戸の中に、陸忠の隠し部屋を見つけていた。あの火事の日に小宝子も陸家にいたのね。
塩辛い包子は尤料理人の思惑通りで、水瓶も空っぽ。しかし陳旺には陸不憂を殺せなかった。
いよいよ火事が起きる。小宝子に助けられ、陸不憂たちは枯井戸のある離れへと逃れる。
陸直が陸忠をメッタ刺し、「俺を取り返す」と操られることを拒んだ陸直。陸忠は金子を隠していた様子で、それを陸不憂が目撃していた。
あ、冷頭領が三更父の曲天明を殺したよ。「皆、善人だったよ」と言う陸直。小宝子が亡くなったのかな?
OPが流れる。
万暦17年火災の3日後。「鴻順織物工房の株を陸直に譲る」との遺言書を、趙挙人に見せる陸直。
出た、痛みを感じない杖刑。刑罰も金次第でどうにでもなる世の中。
陸直は趙挙人を仲間に引き入れ、知県に陸遠暴を殺したのは弟 陸近信だと訴え、遺言書は趙挙人の質屋に預けていたという体をとる。遺言書を聞いて、ヨヨヨと崩れるお芝居 陸直ちゃん。思惑通りに、知県が後ろ楯となる。
ああ、町を出ることを嫌った陳旺はここで殺されたのか。
万暦37年。「魏知県が復讐」との易者の文を読んでいる薛挙人たち。残っているのは牛不厭=尤料理人と柳十七か。呂三はそんなに強いのね。三更が牛不厭を通して柳十七に情報を流していた。
魏知県が宋典史を訪れ、ミカンを剥いている。
冤み(うらみ)の解釈について宋典史に問う魏知県。宋典史は「生きている限り恨みが晴れることはない」、「死はゆっくり訪れる、人は少しずつ死んでゆくのです」、「遅すぎる正義は正義ではない」と語る。
「宋典史の大きな恨みは、宋典史を告発した御史も、拷問を命じた刑部の長官も、政争に明け暮れる大臣も、不正をしたと決めつける愚民も、誰一人として罰を受けていないこと。冤罪は晴れても憎しみは行き場を失った」と語る魏知県。噂を信じ込んだ人々もこの中に入るのね。
高士聪の「何も言わなくてもいい、お前を1人で行かせないから」な言葉に涙したよ。
1人目:冷無疾。放火の共犯者で、長年薛奇をゆすっていた。
2人目:程逸致。釈放後、死を遂げる。
3人目:趙挙人。自宅にあった自供文にも薛挙の名があった。
宋典史は曲三更に「牛不厭が町を出た際、柳 守衛総管がいたか、張継祖を捕縛した時に呂三に暗器を投げつけたのもその男か」と問う。
魏知県こそ真の下手人。石臼を注文し、骨董商でもある。張継祖の釈放を知県に知らせると、謝相談役を連れてすぐに出ていった。そして呂三に追跡させ空城の計を図った。刺客に自分を殺させるために。朝廷の高官を殺せば、地位や財産があろうとおしまいだから。
魏知県は「命と引き換えに正義を貫くことができれば、この上ない喜びだ」と書き残す。
宋典史は曲三更に「復讐に燃える者にできぬことはない」と言う。
曲三更の「公正」という言葉に、かつて宋典史は判決が覆り、罪をかぶって死んだ友に祭文を書き雨を待つが降ってこず、友が本当に死んだことを悟ったことを語る。
宋典史は魏知県の身柄を確保、勅任の伝奉官 奉直大夫の宋辰と名乗るのが良いな。
魏知県と柳十七が対峙、宋典は「あなたには仇がいる、うらやましかった」と言って息絶える。柳十七も倒れる。
ロバには「知県の魏は陸不憂」とあったのを、曲三更は復讐のために薛挙人にその情報を伝えていた。高士聪は役所の警備を手薄にするため駆り出したと知る。
宋典史たちを殺してしまったと嘆く曲三更。高士聪は酒を手向け、「俺たちがどちらに味方するかが鍵だ」と曲三更に語りかける。魏知県は冷頭領を含む6人を殺しており、陸直は陸家全員と林女将 宋典史を殺している。高士聪の「冷頭領は選んだ、間違った道を」にふっきれる曲三更。
尤二は曲三更に「1本の縄に止まったイナゴだ」と言う。
曲三更は魏知県に「宋典史は典史の仕事をしただけ。俺も捕吏の仕事をします」と伝える。復讐ではないのね。
曲三更が薛奇を捕える。魏知県が「小宝子を覚えているか?」と問うと、「見捨てる以外の術はなかったのだ」と答える薛挙人。
火事の時に、陸不憂によって倒れた火柱からかばわれ、助かったのは小宝子だった。小宝子は井戸の中で学び、ネズミがかじったのは金子。論語が彫られた版は黄金でできていた。
小宝子は論語の一節には「生を求め仁を害さず身を殺し仁を成す」「不憂様は俺を守って死んだ。仁を成したんだ」「奴らの罪を正してみせる」と誓い、自ら眉に傷を付ける小宝子。
孔子『論語 衛霊公 第十五 九』
子曰:“志士仁人,无求生以害仁,有杀身以成仁。”老先生の教え。人間として生きたいと思う者(志士)や、人の道に生きようとする者(仁人)は、ただただ生きていることのみを求めるあまり、人の道を損なって平気というようなことがなく、逆に、生命を捧げてでも人の道を全うしようとするのである。
加地伸行『論語』講談社
問われて薛挙人(陸直)は「罪を天に獲れば祷るところなきなり」と言う。
薛挙人(陸直)は「神に祈ったことはないのに、神に罪を咎められている」と言い、魏知県(小宝子)は「神に道理など通じぬ」と答える。
魏知県が薛挙人の耳元でどうやって知ったかを囁くと、薛挙人が魏知県を刺し、魏知県は「知っているか?酥油鮑螺だ、うまいぞ」と言い残す。
そして少年時代の陸直と小宝子ふたりの、酥油鮑螺や川遊びの回想場面が静かに流れる。
1年後、牛不厭(尤料理人)が殺された。「食は精を厭わず、膾は細きを厭わず」。名前の「不厭」が一節に入っている。
手をくだしたとおぼしきこの人は、魏知県の傍にいた謝相談役かな。
孔子『論語 郷党 第十 六』
齐,必有明衣,布。齐,必变食,居必迁坐。
食不厭精、膾不厭細.
斉して心身を浄めるとき、常食を必ず改め、常の居室も変え別室に移る。主食の穀類はそれほど精白でなくてもかまわないし、膾はそれほど細かく刻んだものでなくてもかまわなかった。
加地伸行『論語』講談社
易者が笑顔でミカンをむきながら、女性とどこかへ行くのか馬車に揺られている。
妓女 杏花に届けられた宋典史の詩「杏花仙子歌」。
「杏花灘の杏花天、杏花天に杏花の仙女あり。仙女が植えし杏の木。杏の花ひらひらと舞う。舞う花を見る者もなく、花びらは投げ銭の如し。舞う歌いながら散るなり。悲しみも恨みも未練もなく。杏花は牡丹にあらず、埃風が残花を散らす。牡丹の香りに勝るものなし。枯れかけた残花を好む者なし。残花と牡丹を比ぶれば、乱心せりと笑われようか。いっそ正気を失いしまま、万年を過ごさん。一年杏花天を守り、万年杏花と縁を結ぶ。常に花の間に身を置き、死しては花の下に眠らん」。
《杏花仙子歌》
杏花滩上杏花天,杏花天里杏花仙。
杏花仙子植杏树,再摇杏花舞翩跹。
起舞花开无人见,舞罢落花充赏钱。
且舞且歌且零落,不悲不怨不流连,
曾笑杏花非国色,又惜风尘吹花残。
国色天香世无匹,风尘脂粉万人嫌。
若将风尘比国色,世人皆笑我疯癫。
若将疯癫比世人,情愿疯癫一万年。
一年守得杏花天,万年结得杏花缘。
此身常来花间坐,身后还在花下眠。
宋典史の情景と重なり、じんわりと胸に来る良い詩。
元の詩は杏花ではなく、桃花らしい。
唐寅〔明代〕《桃花庵歌》
桃花坞里桃花庵,桃花庵里桃花仙。
桃花仙人种桃树,又折花枝当酒钱。
酒醒只在花前坐,酒醉还须花下眠。
花前花后日复日,酒醉酒醒年复年。
不愿鞠躬车马前,但愿老死花酒间。
车尘马足贵者趣,酒盏花枝贫者缘。
若将富贵比贫贱,一在平地一在天。
若将贫贱比车马,他得驱驰我得闲。
世人笑我忒疯颠,我咲世人看不穿。
记得五陵豪杰墓,无酒无花锄作田。
第3話で学堂の庭に、鳳可追が植えた梅も花を付けている。
(完)
字幕翻訳:藤原由希
字幕制作:IMAGICA
ドラマ完走記
いわゆる見立て殺人は好きなジャンル。
論語が出てこなければ視聴継続しなかったであろう猟奇殺人事件だが、じっくり見返すとヒューマンドラマで佳作な作品。ただドラマ『ロングシーズン』と異なり、猟奇的なので見返す気にはならないのが正直なところ……。
陸家の火事後20年が経ち、「誰が生き残っていて、誰になっているか」が見どころだったこのドラマ。
易者の岳鉄嘴や魏知県はまだ名残があるが、薛挙人に陸直要素はなさすぎでしょ、とは思う。まぁ、似ていたら正体が分かっちゃうもんね。
冷頭領が三更の父を殺したことを、薛挙人が曲三更に「お前は冷頭領の仇を取っているのだろうが、(実際は父が殺されたので)父親が泣いているよ」的な事を言うのかと思っていたが、誰も言う人はいなかったね。
曲三更と冷桂兒がなんとなくイイ感じになっており、曲三更の母にも冷桂兒が可愛がられている様子を思えば、知らない方がいい事もあるのかもしれない。冷頭領の残した銀子はどうなるのかな、没収されちゃうのか、一部をどこかに移してあるのか。
とにかく宋典史が印象的! 給金をちゃんと貰って杏花を身請けしてほしかった。それができるほど、世も自分も許せていなかったのかもしれないが。
冷頭領と林四娘のエピソードも短かったけど良かった。苦界に落ちる辛さが伝わってきたよ。
そして序盤でのおじさんたちの入浴場面での曲三更とのやり取り……むさ苦しすぎてこのドラマで印象に残っているエピソードだ。
白蓮教が出てきたのでそちらに話が展開するのかと思いきや、陸家を巡る人々で終始しましたね。宋典史も、強盗殺人された退官した人が実は宋典史の知り合い?とか睚眦の彫り物とかあれこれ考えたけど、うらみと職責でしたね。まぁ全12話という短さでは、あまり広げられない制限はあるか。
そしてこのドラマでは冤み(うらみ)というものが描かれていた。
小宝子がそこまでして仇を取ろうとしたのは少し無理があるような気はするが、小宝子は「生を求め仁を害さず身を殺し仁を成す」ですものね。幼い陸直と小宝子のエピソードな酥油鮑螺が再び出てきたのは良かった。
陸直役の于垚の不気味な感じも凄みがあった~。
魏知県(小宝子)が薛挙人(陸直)に耳打ちしたのは、陸直のことで陸忠に関連するものなのかな。小宝子は陸忠の隠し部屋で、一部始終を記したものを見つけたと言っていた。
陸直は「孝行」をよく口にしていたので、やはり実は「陸直の父は陸忠だった」あたりなんだろうか? 妙に陸忠は陸直をかばっていたしね、でも金子の方が大切そうではあったけど。そうなると陸直が父を求めて叩頭させられていたり、陸忠に「父はいらない」と言っていたのが皮肉になってくるワケだが。
父親を殺され、師父に仕事を導かれた三更と、陸忠に導かれ殺した陸直が相対しているのだろうか。
繁城の殺人と論語
ネタバレになるので記事では書かなかったが、『論語』とその後の展開を見ると興味深いものが多かった。
第4話、陸直が「弘毅ならざるべからず」と言っているのも皮肉。
第5話「怪力乱神を語らず」も、大猿などの怪しい超常現象というものはなく、人がしているんだよね。
第9話、「お前が祭るな」は、陸直が祖先でもない父 陸遠暴を祭っていたことへの皮肉もあるのかな。
第11話「人に仕えず鬼に仕えるとは」では、張執事が仕えていた薛奇は、死んだハズの陸直。
第6話で見かけた魏知県の後ろの対聯の「日月两轮天地眼,诗书万卷圣贤心/明るい太陽と月は天地の眼で、人々の一挙一動を見ており、聖賢の心を理解するために万巻の詩書を読むこと」もヒントと言えばそうで、知県は一挙一動を見て、小宝子は文字を学び書を読んでいたね。
曲三更の友人たちの鳳可追と高士聪が、曲三更に寄り添いつづけてくれていたのは心強かった。特に高士聪は良かった~。疑心暗鬼になりすぎて、このふたりが「実は……」になったらどうしようかとハラハラしていたよ。
多分、陸直たちの友人関係と、対の関係にはなっているのだろうね。
主人公の名前が三更で、鳳可追が「地鶏」と呼ばれていたのは、この詩にちなんでいるのだろうか。
颜真卿《劝学》
三更灯火五更鸡,正是男儿读书时。
黑发不知勤学早,白首方悔读书迟。三更の灯火から五更の鶏が鳴くまでが、まさに男児が書を読む時である。
黒髪が朝早くから学問に勤しまねば、白髪になり書を読むのが遅いと悔やむことになる。
そして黒髪な若人も20年経ち、白髪(年老いる)になり……と。
第8話、鳳秀才が事件の手がかりだと言っていた。4+11=15、9+6=15は論語の第15編だと類推していたが、15と言えば、「吾十有五にして学に志す」という『論語 為政 第一 二十四』の有名な一節を思い出し、少年だったかつての陸直と小宝子の年齢もそれ位だったのでは?とも思えてくる。
そして、第3話で鳳可才が「友あり遠方より来たる、また楽しからずや」と生徒に唱えていたのは、陸直と小宝子がかつて友だったことを思えば、ふたりの再会を示唆していたのだな、と思わないでもないのだ。
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