笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。「蓮花楼」「古相思曲」「ロングシーズン」「宮廷の諍い女」「月に咲く花の如く」を更新中。⇩カテゴリー選択はスマホでは左にフリックしてください。

韓国版 SKYキャッスル感想考察/シューベルト魔王,ボレロ/日本版との違い

韓国ドラマ『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』が日本でリメイク放送され興味を持ち、そんな折に本家の韓国版『SKYキャッスル』がBS Japanextで2024年8月14日より放送されているのを見始め、途中から配信放送で一気に観て完走しました!
本国版は全20話ですが、BS版は全28話で、配信は全36話

SKYが示す、S=ソウル大学、K=高麗大学、Y=延世大学という韓国での熾烈な大学受験戦争に、スカイキャッスルという豪邸に住むセレブたちの暮らしぶりも見どころなドラマ。こういう格差を描くのは韓国ドラマはシャープで面白いよなぁと思う。

日本のドラマだとセレブの描き方がどこかヌルいと言うか、いまひとつ突き抜けず、中国ドラマでは『30女の思うこと』を思い出すが、わりと「情」が重くなりがちな気がする。

セレブのドロドロしたドラマかと思いきや、受験を巡る親子関係が描かれてはいるものの、思いのほかコメディ寄りな韓国ドラマであった。

韓国版SKYキャッスル感想

このドラマには主に4家族が出てきており、最初見ていて感心したのは、女優たちの髪型がPerfumeなみにショートヘア・ボブ・ロングウェーブ・結ぶと異なり、それだけで登場人物の区別が付きやすかったことである。キム先生は引っ詰めだし。

夫側の男性も、顔の系統が異なりメガネというアイテムも用いて、登場人物の名前は覚えにくかったが、顔の見分けが付きやすかった。それによって家族ごとのキャラが覚えやすいし実にキャラが立っていた

これだけキャラが立ちながら、誰にも感情移入できぬまま進むため、さほどしんどい思いもせずに見進めることができた。

最初の方こそサスペンスになるかと思われたが、読書会でスイムがチャ教授を評して言った「コメディだわ」の言葉通り、次第にコメディ要素の方が強くなり、それぞれの秘密暴露場面もするすると進んでいった。

ラヴェルの『ボレロ』と共に現われることの多かったチャ教授も、初めはモラハラで怖い人物に見えたが、読書会以降は喜劇的な人物として見ることができた。


受験戦争に過熱する母親というと中国ドラマ『家族の名において』の斉明月とその母親を思い出すが、あれも凄まじかったよなぁ。「受験生と親」というのは現代社会では普遍的なテーマで、このドラマで描かれている内容(子を是が非でも医師にしたい親など)は身の回りで見聞きしたことが連想され、なんともいえない思いになる。

スチャンが語っていた「対岸の火事」はそうではあるのだが、その反面として家庭で身近で起こりがちな要素を含んでおり、ぐぃぐぃと引き込まれ次が気になるのがこのドラマの魅力。


ドラマ最初の方は、主人公のハン・ソジンが長女イェソの方ばかりに熱心で、次女イェビンがないがしろにされている場面で、次女役のイ・ジウォンが上手いなぁと感心していた。あれほど成績優秀だけど人をバカにする姉がいたらシンドイだろうなぁ。

そんな中、友人のユジンは母チン・ジニにハグされている様子が映り、ミョンジュが贈った母子像とも相まり印象的だった場面。

チャ教授が食事を作ってもらえない場面があったが、素直にカップラーメンを食べており、外食にも走らないんだなぁと思いながら見ていた。

良識的で上品なノ・スンヘがなぜにチャ教授と結婚したのか不思議ながら、スンヘが「高圧的な父から逃れるため、価値観のすり合わせもせずに結婚した」と言っていたことから、高圧的な父と似た人を選んでしまった面もあるのかな、と思ったり。

チャ教授が娘セリとダンスしている姿も愛らしかった。

チャ教授のピラミッド説を聞いたらしいチン・ジニが、家に小型のピラミッドを置いていたのが笑えた。意外と洗脳されてしまうんだな。
そんな元ヤンキー&女優だったチン・ジニと夫ウ・ヤンウは最も安定していた家族。ヤンウの手術と息子ユジンの家出があった位で、口の軽い妻ジニをたしなめているヤンウの姿は、ここまで徹底していると信頼できる人物に思えてくる。

童話作家イ・スイムファン・チヨン夫婦は道徳観のあるふたり。デキの良い子と思われたウジュがそれほど荒れた時期もあったように見えなかったが、実際のところ、よそ様の子にそんな時期があっても分からないものなのだろう。
スイムが親戚でもないケイ(キム先生の子)を施設に入れて面倒を見ているあたり、母性とはなにか、とも考えてしまう。そして我が子だからこそ、子を吞み込んでしまう母の一面が現れるのやもしれない。


物語の要のキム先生は序盤、良い人なのかそうでないのか、でも医学部に行かなかったヨンジェのことを知っていて見過ごしていたあたりは悪意を感じ、なぜにそうするのかが分からずにいた。その後、娘のケイの経緯を知り、を殺すハズが、優秀な娘を巻沿いにし、天国から地獄へと突き落とされた思いを他の母にも味あわせたいのかなと思ったら、おおよそそうだった。

疑問だったのは、チョ先生がキム先生に忠実だったこと。大金を必要とする病気の家族でもいるのかと思ったが、そうでなく麻薬中毒の自分を救ってくれた恩義を感じているらしい。あのアメリカ時代の整備士がチョ先生なの? 大金を得たけど、キム先生のその後を知って寄り添っていたということなのかしら。

他にも、年に二人しか採らないキム先生があれだけの講師陣を賄えていたことは不思議だった。合格したらコッソリ金貨な重箱が届くとかなのかな。


この物語のもうひとりのキーパーソンはキム・ヘナであろう。
嫡子より優秀なんじゃないかという婚外子
あれだけ賢いと、悪賢くもなる10代後半という年齢もあり、なんだかどんどん黒化していったへナだが、父親に認められるかどうかは不安が強かった。
へナの母親がもう少し子の認知に頑張ってほしい気もしたが、そうすることの出来ない気弱さがあるから離れたんだろうしなぁ。カン・ジュンサンと結婚できても、その母のユン女史にこき使われてそうだし。

それまでヘナが相手していたのは金持ちマダムだったから、脅しも通用したんだよね。キム先生を相手に恐喝してしまったが相手はサイコな魔王サマ、適うワケもなく。

ヘナを落としたのは、SKYキャッスルの守衛なんでしょうね。大金に目がくらみ、赤いパーカーを着て落として、トンズラしたけど捕まり、護送車の中でキム先生に毒づいていた、と。

ただ、へナが亡くなってしまうのは気の毒でしかない。意識不明にしておいて、事件がひと段落がついたら目覚める……とかでも良かったのではと思うが、それはそれでソジンたち家族はあんなムードにはならないだろうし、難しいところである。

ヘナが婚外子となってしまったのは、祖母ユン女史の行動も大きかったようで。
カン・ジュンサンがあの年齢となっても、母親ユン女史を責める姿に、代々受け継がれたものを強く感じた。医師三代にこだわる祖母に、次女イェビンが「おばあさんがなれば良かったのに」はまさしくそうなのよね。

素性が分かった時に味方になってくれなかったカン・ジュンサンが、最後は寄り添ってソジンを励ます夫婦になったのは良かったな。

 

決断するまでは犠牲にするものが多いと思われたことも、決断するとツキモノが落ちたようにサッパリした姿を見ると、案外と妄執のような思いも、自分にとって大切なものを守っていれば姿を変えるのかな、とも思えてきた。

ドラマでは歴史は繰り返され……ているようだが。

クラシック挿入歌の考察

チャ教授の場面で流れるラヴェルボレロがとりわけ目立っていた。『ボレロ』は同じ旋律やリズムを繰り返すものであり、チャ教授以外でも勉強を強要する場面で流れていたようにも思うので、なにか繰り返されるもの、を象徴しているのだろうか。

キム先生の場面で流れるピアノの音が印象的なシューベルト『魔王』
『魔王』の歌をひもとくと、魔王の存在を訴える子の叫びを父は聞かず、父が気付いた時には子が息絶えていた……と言うもので、子は受験生、父は受験生の親たち、そして魔王はキム先生でもあり、受験制度でもあり……と言ったところなのだろうか。

調べるとシューベルト自身の父子関係も、父は厳格な教育者でシューベルトに自分と同じ教育者になるよう強要したようで、音楽家を志したシューベルトと相容れなかったとか。それを思うとなかなかの曲選である。

『SKYキャッスル』のOSTを見ると、ボレロと同じくラヴェルマ・メール・ロア 第5曲 妖精の園』が収録されており、こちらも流れていたようだ。
この曲は『眠りの森の美女』が王子様にキスされて目覚める場面のようなので、そのような場面で流れていたのかな。

主題歌はハジンの『We All Lie』。全36話を見ると、主題歌をすっ飛ばしても毎回流れるので、耳に残るテーマソングである。

主題歌の通り、どの家族にも秘密はあり、その秘密を知った時の、キム先生・チャ教授・カン・ジュンサンの高笑いが印象的だった。一方、苦労が絶えない母親たちは、その心情を慮って気の毒そうな顔をしていたね。

日本版最終回を見て韓国版との違い

たまたま日本版最終回を見かけて、少し設定が異なると分かる。

チャ教授(二階堂亘)にはハーバード騒動な娘も双子息子もいなかった。でもピラミッドは健在してたのね。韓国版のダンス場面、面白かったんだけどな。

童話作家スイムのあの母性あふれる善人さも、南沢泉ではなくなっていたようだ。

一番大きいのは、キム先生のとらわれが娘のケイでなく、九条先生では母親になっていた事。だからスイムとケイのあの場面もなく……。

最後、急展開に皆、物分かりがよくなるのはどちらも一緒だけど、日本版浅見沙英(ソジン)は姑と同居予定なのね……ご苦労さまです。

そして山田未久(ヘナ)を落としたのは、秘書と携帯を巡りもつれてとなっていた。韓国版チョ先生の、いつも何か言いたそうな感じ、良かったんだけどな。

日本版で気になったのは、九条先生と青葉(ウジュ)がすれ違った場面。あの間はなんだったのだろう? 

 

韓国版スカイキャッスルの建物自体も開放的でステキだし、女優たちの装いや、お茶に招かれたい……と思いながら、テーブルセットにも見入っていた。

 

 

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