笛の音と琴の調べ

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琅琊榜<弐>と蝉について/曹植「蝉賦」,虫の奇聞録,蝉文金璫,寒蝉賦

琅琊榜<弐>~風雲来る長林軍~のオープニング(せみ)で始まる。濃紺な線の蝉がひたすら映り、中国ドラマでは珍しいオープニングのように思われる。今回はその蝉についてまとめてみた。
なるべくネタばれにならないようにしたが、最後まで見た人向けではある。

日本での蝉のイメージ

蝉と言えば、土の中で数年幼虫として過ごし、羽化して樹上で鳴くのは数週間で命を繋いでいくという習性もあり、儚いイメージがある。

また角田光代氏の『八日目の蝉』という小説では、蝉は七日で死んでしまうが、八日目を迎えた蝉は見たことのない風景を目にする、という話も印象的だった。

中国での蝉の逸話

中国の逸話では、『説苑』巻第九 正諫の「螳螂捕蝉, 黄雀在后」が思い浮かぶ。これは第15話で上師・濮陽纓が自ら口にして弟子に言っていた。

蝉を捕る蟷螂を狙う雀。
(利益を追い危険を顧みない例え)
渦中にいる者は誰もが自分を雀だと思っている。

「蟷螂捕蝉」については、『陳情令』の「金の雀を追いしかの道」記事で説明しています。
 第26話で蕭元啓に対峙する上師 濮陽纓が、蝉とおぼしき髪留めを身に着けていたのも目を奪われた。倒れるのでなく膝をついていたのは、蝉に模したのだろうか? 昆虫の最期は脚がちぢまり硬直するとあるのだが……。時々ドラマで主要な登場人物は倒れない時があるような。

蝉賦について

第13話で蕭平旌が兄・平章と自分との繋がりや、それがもたらした影響について知った場面で、林奚の前で剣舞に興じながら

皎皎贞素,侔夷节兮。帝臣是戴,尚其洁兮。
皎皎たる意志、気高くて屈せず。帝臣も規範と載き、その高潔を崇めるなり。

と詠じた場面は印象的であった。
これがそもそも今回の記事を書く発端となっている。
しかもドラマ字幕で、曹植『蝉赋』漢詩名が紹介される親切設計であったのだ。
興味をそそられ、早速調べてみる。
日本での曹植の本ではなぜか『蝉賦』は取りあげられていない事が多いので、一部拙訳です。

曹植(漢代)『蝉赋』
唯夫蝉之清素兮,潜厥类乎太阴。
在盛阳之仲夏兮,始游豫乎芳林。
实澹泊而寡欲兮,独怡乐而长吟
声皦皦而弥厉兮,似贞士之介心
内含和而弗食兮,与众物而无求。
栖高枝而仰首兮,漱朝露之清流。
隐柔桑之稠叶兮,快啁号以遁暑。
苦黄雀之作害兮,患螳螂之劲斧。
冀飘翔而远托兮,毒蜘蛛之网罟。
欲降身而卑窜兮,惧草虫之袭予。
免众难而弗获兮,遥迁集乎宫宇。
依名果之茂阴兮,托修干以静处。
有翩翩之狡童兮,步容与于园圃。
体离朱之聪视兮,姿才捷于狝猿。
条罔叶而不挽兮,树无干而不缘。
翳轻躯而奋进兮,跪侧足以自闲。
恐余身之惊骇兮,精曾睨而目连。
持柔竿之冉冉兮,运微粘而我缠。
欲翻飞而逾滞兮,知性命之长捐。
委厥体于膳夫。归炎炭而就燔。
秋霜纷以宵下,晨风烈其过庭。
气憯怛而薄躯,足攀木而失茎。
吟嘶哑以沮败,状枯槁以丧形。
乱曰:诗叹鸣蜩,声嘒嘒兮,盛阳则来,太阴逝兮。
皎皎贞素,侔夷节兮。帝臣是戴,尚其洁兮

蝉の清らかで清々しい様と、焼かれて食されたり寒くなりそのまま……となかなか無情な様子も描かれている。
蕭平旌の台詞は、曹植『蝉賦』の最後の部分である。
潔白な貞節はかねてより、伯夷に等しい。帝臣たちはこれを頭に戴き、その清潔さを尊ぶのである

ちなみにシリーズ1である琅琊榜第12話では、周玄清と玉の場面で梅長蘇も『蝉賦』を詠じており、賦の前半部分である。本来の性質は静かで争わず、独りで楽しそうに鳴いている。そのますます高まる鳴き声は、貞節な士の一本気な心のようである

实澹泊而寡欲兮,独怡乐而长吟。
声皦皦而弥厉兮,似贞士之介心。
利求めず無欲にして、独り詩歌を吟じる。
その声高らかで力強く、不屈な士の心なり。

蝉の漢詩その1

川合康三氏の『中国名詩選 中』を読んでいると
駱賓王『在獄詠蝉』の説明の中に、

後漢以来、露しか口にしない清廉な生き物とされる蝉は、不遇の士大夫の隠喩としても用いられた。この詩でも、潔白な身でありながら獄中に繋がれている悲痛の思いが、秋の蝉に託される。則天武后に対して謀反を企てた人物。

とあり、「おぉ、なるほど~」と感心していた辺りで、蝉についてまとめられている本に行き当たった。

中国の蝉についての本

瀬川千秋『中国 虫の奇聞録』2016年 大修館書店である。
中国の蝉について体系的にまとめておられ、蝉賦の訳も一部載っている。この本を読んでください、でヨイ気もするのだが、本より自分なりに『琅琊榜<弐>』に関したものをまとめてみた。

蝉は高潔、超俗、節操の象徴であるとされる。禁中に出入りできる武官はセミをデザインした黄金製の「蝉文金璫」(せみもんきんとう)を冠正面に飾ることができる。この蝉文金璫は高位高官のみならず、皇帝にも重用されたとある。

伯夷

『蝉賦』には伯夷の名も出てきており、その故事も紹介されている。
 父王の遺言は弟・叔斉に国を譲るというものだったが、叔斉は兄・伯夷をさしおいて王位にはつかない。そして結局ふたりして国を捨ててしまうのだ。
 訪ねたでは、父・文王を亡くしたばかりの子・武王が、殷の紂王を討とうとしており「父が亡くなったばかりで挙兵をするとは不孝、臣下の身で主君を誅するとは不仁」ととがめいさめた、と兄弟の絆や王逝去時の挙兵などどこかで聞いたような話なのだ。

曹植

『蝉賦』の作者である曹植曹操の子であり、曹植自身も同母兄の曹丕との後継者争いに敗れ、謀反の心がないことを訴えるも聞き入れられず、常に監視され封地も転々とさせられ、曹丕の子・明帝が即位しても冷遇が続いた。この辺りは長林王府親子が代が替わっても荀氏に疑われ続けていたのと似ている。

『蝉賦』の「在盛阳之仲夏兮,始游豫乎芳林/ 真夏の陽が盛んになると、林で遊び始める」も、つれない奚に何かとボヤキに行っていた蕭平旌の姿が思い浮かび、ちょっと微笑んでしまう。あらためて『蝉賦』を見ると、前半部分ののびのびと過ごす様子や毒蜘蛛の網な所など、蕭平旌のようでもある。

寒蝉賦

また西晋陸雲『寒蝉賦』で、

陆云《寒蝉赋》
夫头上有緌,则其文也。
含气饮露,则其清也;
黍稷不享,则其廉也。
处不巢居,则其俭也;
应候守常,则其信也;
加以冠冕,取其容也。
(略)

セミの頭に冠の下げ飾りのような文様があるのは教養のあらわれ
気を食べ露を吸うのは清らかさのあらわれ
五穀を食べないのは廉直のあらわれ
自分の巣をもたないのはつつましさのあらわれ
季節にしたがって生まれ死んでいくのは信義のあらわれ

セミの徳について述べている。これらもまた蕭平旌のようで、林奚とふたりで流浪しながら生きていく様を思わせる。

琅琊榜<弐>と蝉について

ドラマ『風起洛陽』にも出てきた荘子『逍遥遊』の蝉は、「蟪蛄不知春秋/ 蝉は春も秋も知らない」と描かれている。

荘子 内篇 逍遥遊 第一』
小知不及大知,小年不及大年。奚以知其然也?朝菌不知晦朔,蟪蛄不知春秋,此小年也。楚之南有冥灵者,以五百岁为春,五百岁为秋

こちらは自分の価値観でしか人を推し量ることができない上師 濮陽纓&蕭元啓の姿に重なる。


琅琊榜弐の登場人物の中でも、蕭平旌たち長林王府、荀飛盞や岳銀川将軍たちは、高潔な蝉のイメージ。
上師や蕭元啓は、己の体験や思いで世を捉える蝉のイメージとなろうか。

そして蝉は朝臣が身に着けることからも、臣下のイメージは強い。
皇帝である蕭元時が今後どの蝉を重用するかで、国や己の運命も変わってくるのではないだろうか。


琅琊榜<弐>でカタルシスがあるのは、兄・蕭平章が、父・蕭平庭が、そして蕭平旌が長林軍を率いて勇猛果敢に戦う場面と、蕭平旌の元に続々と将軍たちが集まってくる場面だが、その姿は土の中にいた蝉が羽化して、猛暑と共に一斉に鳴き出す姿に似ていなくもない。そしてその長林軍は『琅琊榜』から受け継がれているスピリットでもある。

その一方で、7日ではなく、3日天下な蕭元啓や濮陽纓も描かれている。
このような様々な「蝉的なもの」を描いたドラマだったのだなと思うのだ。

 

蝶と琅琊榜

『虫の奇聞録』には他に蝶・蟻・蛍・蜂・飛蝗も紹介されている。
はまさしく『琅琊榜麒麟の才子、風雲を起こす~』のテーマであろう。『琅琊榜』のOPは蝶なのである。

『琅琊榜』には、「含蝉」(セミの形をした含玉の一種)が出てきており、これは「再生への願い」「登仙」を意味すると本にはあった。

飛蝗と東離劍遊紀

琅琊榜とは関係ないが興味深いのは飛蝗である。本には中国で五害のひとつにあげられている虫害バッタであり、作物を食い荒らしながら大移動する飛蝗を指すようだ。統治者がもっとも怖れた虫ともある。
そしてバッタ(蝗虫)と言えば、『東離劍遊紀』禍世螟蝗を思い出したのだった。そういえば禍世螟蝗のCVは速水奨さんだったな。

 

これらの思いもあり、今年の蝉の鳴き声は少し違った趣で聞いていた。

続編制作が期待される『琅琊榜<参>』のOPは何になるのか?
春の蝶、夏の蝉と来ると、秋の蟋蟀だろうか? 勝手に言っています。

楽しみである。

 

▼未視聴の方は陳情令のネタばれあります。

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荘子『逍遥遊』について

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▼琅琊榜<弐>13話@アジドラ

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