23話 黄泉の路
1.艶鬼が蝎王に言う
男は薄情で 女は薄命だ
男人薄情 女人薄命
2.曹蔚寧が温客行に誓う
天地神明に誓います
皇天后土 實所共鑑
魏晉 李密『陳情表』
皇天后土,實所共鑑。
天地神明に誓います。
記事「陳情笛に吹かれて」にて解説。
3.曹蔚寧が温客行に言う
温殿に托されたからには
蒙你青眼 把他托付給我
唐 杜甫『短歌行 贈王郎司直』
(略)
仲宣楼头春色深
青眼高歌望吾子
眼中之人吾老矣ここ仲宣の楼のあたり、春の色はいままさに深まっている。
親しみのこもった眼ざしで、高らかに歌いながら君の姿を見やれば、いつもわがまなかいにあった人
そしていまはわが目の前にある君よ、ぼくももう年をとったなあ。
前野直彬「唐代選 上」1961 岩波書店
四字熟語「阮籍青眼」。白眼視という言葉のもとになった。気に入った人(嵆康 けいこう)には青眼(よろこんで見る)で見て、気に入らぬ俗物を白目でにらんだという故事「晋書阮籍伝」で知られる。阮籍(げんせき)も嵆康も、竹林の七賢。
温客行にとって顧湘は青眼という意味。短歌行は楽譜題の一つ。
4.趙敬が諸葛亮と言われ、蝎王に言う
お前ときたら口がうまいな おだて上手だ
你这小南蛮 巧舌如簧
四字熟語「南蛮北荻」。中国周辺の異民族のこと。
『詩経 小雅 巧言』
(略)
巧言如簧,颜之厚矣口から出任せのことを上手に言って人を欺くことは、笙の簧が空気に随って鼓動して上下左右に揺いて声を出すが如くであり、ごまかして言っても恥ずることがなく、面の皮の厚いことである。厚顔の徒である。
高田眞治「詩経 下」1996 集英社
23話感想
温客行と顧湘の絆と、武林の全体がみえた回。
李宅。沈慎は小怜のことを張成嶺にも頼み、捜しに去る。
意識が戻らない温客行を案じて離れようとしない顧湘。曹蔚寧より大事と言い張るのが健気じゃ。顧湘に少し探りを入れている様子の周子舒。やはりうっすらと察しているのか。
夢の中。幼い温客行が赤面の谷主にぶたれている。自分から鬼谷に入ったのではなく、連れ去られていたのか。原作とは異なっているらしい。そして孟婆湯を飲んだが、親の仇のために執念で忘れなかった。けれど思い出すと身体にダメージがあると。
周子舒は案じて温客行に、沈慎は良心の呵責に苦しんできたと言うが、温客行には許せない。周子舒の回復を待ち、五湖盟の相討ちを眺めるとする。
喜喪鬼と艶鬼、その様子を蝎王が見ている。この格子越しが美しいな。喜喪鬼の症状は離魂病らしい。于丘烽の元へ行ったのは博打で、心を賭けたら負けたが、命を賭けたら勝ってしまったと話す。手を血に染めながらも情の深い艶鬼と蝎王が並ぶと、なんだか悪の華が咲いたようで絵になる。そして艶鬼が語る思いは、蝎王の心中と同じか。執着を断ち切るという、孟婆湯の処方箋を手に入れるよう艶鬼に指令をくだす。
温客行の意識が戻り嬉しそうな顧湘。温客行が孟場湯を飲んだのは7,8歳。温客行は顧湘を曹蔚寧に托そうとしている。顧湘が訴える曹蔚寧の優しさゆえに正体を知られたときの怖さは、言葉にできない温客行そのままの心境でもある。
最初に作った雪だるまにこだわる顧湘。昇る日に消え失せたという描写が、暗闇の鬼のようで切ない。はかない雪だるまには、なんとなく5話の幼い周子舒の場面も思い出す。
調理している曹蔚寧。未来の婿殿は料理ができるのね。張成嶺はこちらも修行中のよう~。
そして温客行は曹蔚寧を呼び出し、顧湘のことを話して托す。幼い頃に会い付いてきたと言うが、あの鬼谷で幼い子供を守るのは大変だったろうなぁ……。この時のアングルが屋根からなのは、周子舒の目線でもあるんだろうか。こんな所から見ていないだろうが。曹蔚寧は初めて会った時から生涯を共にしようとしていたと話し、死ぬまで裏切らないと誓う。周子舒が飲んでいたのは酢のような味の酒。味覚が無くなっているのね……。
一方、趙敬は手紙を手にしてご満悦。どうやら仙霞派残党が泣きついた先が少林寺で、慈穆和尚からの手紙だったようだ。ここへきて八大門派というのが存在していることがわかる!英雄大会に来ていたのは雑魚だったとな。趙敬は名分と利益でしか動かない大所を、鬼谷征伐に引っぱりだしたいようだ。そして趙敬が求めているのは、これら武林全体のトップになることなのか。武林が鬼谷のような蠱毒になっているのがなんだか皮肉だけれど、趙敬も策士よのう。そして蝎王、長明山の剣仙がよこしたのは弟子じゃないよ、本人だよ~~。
いよいよ曹蔚寧と顧湘が出立しようとしている。温客行が薄朱色な衣裳になり華やか。赤系の衣裳になると、めでたい気もするし、ちょっと不穏な予感もしてしまう。そして曹蔚寧に顧湘を3銭で譲ると言い出し、最後はただで送りだす。
趙敬は蝎王に「群鬼冊」を作り、武林に配布するよう命を出す。早速、鬼谷を切り捨てにかかるのか。急色鬼から連絡がないことを不審がる趙敬のうしろに、無邪気に手紙を読んでいる蝎王が映っているのがニクイなぁ。
24話 天窗の光
1.三人が四季山荘を訪れる
春はつつじ 夏は鳳凰木が咲き乱れ 秋は木犀が香り 冬は寒梅が雪に映える
春浴杜鵑花海 夏賞鳳凰花開 秋来丹桂飄香 冬有寒梅映雪
禅詩 南宋 無門慧開禅師『無門関』
春有百花秋有月 夏有凉风冬有雪
若无闲事挂心头 便是人间好时节春に百花有り秋に月有り、夏に涼風有り冬に雪有り
つまらぬ事を心に掛けねば、年じゅうこの世は極楽さ
西村恵信「無門関」2004 岩波書店
頌の応用。『無門関』は中国宋代禅宗の公案集。第19則「平常是道」。『趙州録』巻六、『五灯会元』巻四などにもある。
趙州から「道とはどんなものですか」と尋ねられ、南泉和尚は「平常の心こそが道である」と答え、道は知るとか知らないというものではなく、本当にこだわりなく生きることだと言われると、趙州が悟ったというもの。
2.師匠が秦九霄の生後一月の祝いに彫った磨崖石刻
帰るを思わざる
不思帰
宋 釈子淳『颂古一 一首』
虚空为鼓须弥槌,击者虽多听者稀。
半夜髑髅惊破梦,满头明月不思归。虚空が鼓に 須弥がばちに
たたく者は多いけれども きく者は稀である。
真夜中どくろが驚かせて夢を破りて
満月に帰るを思わざる
禅詩。唐の斉安(悟空禅師)が【虚空为鼓,须弥为椎,什么人打得?】と説いた。虚空蔵菩薩は鼓を打つそうだ。
宋 顧夐『浣渓沙 二』
(略)
粉黛暗愁金带枕,鸳鸯空绕画罗衣,那堪孤负不思归。粧にも愁ほのかに金帯の枕、羅衣の鴛鴦の画のむなしくして、うらめしや約束まもらで帰らない人
倉石武四郎「宋代詞集」1970 平凡社
宋 蘇軾『華陰寄子由』
三年无日不思归 梦里还家旋觉非
(略)
三年帰りたいと思わぬ日はなく、夢の中では家に帰って覚めやらず。
蘇軾詩集巻二。
3.張成嶺が周子舒に言う
私がいます 任せてください
有事弟子服其劳 有徒児在呢
『論語 第二 為政編 八』
子夏问孝,子曰:“色难。有事,弟子服其劳;有酒食,先生馔;曾是以为孝乎?”
子夏が孝行とは何かとたずねた。先生がいわれた。気持ちを顔色にあらわすことが問題だ。村の行事に、若者たちが労力を奉仕する。終わって宴会がはじめると、年輩の方にご馳走をさし上げる。これと同じように、父母に通り一遍の奉仕をしているのが孝行といえるだろうかね。
貝塚茂樹「論語」1973年 中央公論新社
4.顧湘が曹蔚寧を眺めながら思う
無理よ 紙では火を覆い隠せない
不会的 紙包不住火
従維熙『第十個弾孔』
他知道紙是包不住火的,瞞得過初一也瞞不過十五。
彼は紙では火を覆い隠せないことがわかっている。初めに一隠せても十五は隠し通せない。
ことわざ。真相は覆い隠すことができない。従維熙(じゅういき)は小説家。
5.四季山荘の柱の文字
山僧不解数甲子 一葉落知天下秋
宋 唐庚『文録』
山僧不解数甲子,一叶落知天下秋
山の僧侶は年を数えず、一葉落ちて、天下の秋を知る
故事。わずかなきざしから、起こる出来事を推測すること。
『淮南子 説山訓』
以小见大,见一叶落而知岁之将暮。
小をもって大を見る、一葉が落ちるのを見て、年がまさに暮れんことを知る。
青桐(あおぎり)は落葉が早いことから。身近なもので遠大なもの(普遍的な現象)を究めること。
青桐は鳳凰が止まる木でもある。『詩経 大雅 巻阿』梧桐生矣 于彼朝陽。
14話-7でも「青桐/青梧」が出ていた。
6.周子舒が四季山荘の人たちのことを言う
非業の最期を遂げたのは
他们之所以不得善終
坚指天为誓曰:‘吾若果得此宝,私自藏匿,异日不得善终,死于刀箭之下!
天に指さし誓って言った「吾もしこの宝を得てひそかに隠していたならば、後日非業の最期を遂げ、刀や矢で死のう!」。
袁紹に玉璽のことを聞かれ、孫堅が答えたくだり。実際は玉璽を手に入れていた。
24話感想
周子舒の過去がわかる回。
美しい花が咲き乱れる四季山荘。兎を可愛がる師母と、鹿を食べようとする師匠・秦懐章ったら……というか、それを告げ口したのは優等生な弟子・周子舒なんかぃ。張成嶺も両親を思い出し悲しげ……。
荒れた四季山荘を見て気落ちする周子舒を、趙成嶺に言葉をかけさせようとしている温客行の気遣いも優しい。蜘蛛の巣は張っているが、綺麗に見えるけどなぁ。四季山荘にはからくりがあるようだ。
一方、顧湘の方は食欲もない様子。そういえば曹蔚寧は食いしんぼキャラだったと思い出す、だから料理もできるのか。
そして久しぶりの祝邀之!久しぶりすぎて見覚えはあるけど名前が出るまで分からなかったよ~。好きなキャラなのに。殴る蹴るされていて、穆思遠が腹立たしく思えてくる。ピンチの時に沈慎が現れて良かった良かった。
曹蔚寧は顧湘に、「この人生を君と添い遂げられないなら、何をしても楽しくない」と伝えている。頼りになるなぁ。顧湘が柳千巧の言葉を思い出し、今の幸せを噛みしめる。
幼い温客行を薄情簿主がとりなし救っていた。「師弟」と寝言でつぶやく周子舒の手を握る温客行。
「俺たちの間に話せないことなど何もない」と言い、過去を語り出す周子舒。恩のある蒋殿へ晋王から指令がくだり、反対する秦九霄たちに酔生夢死を飲ませて手をくだし、秦九霄は去り、周子舒が捕らわれたと流言を聞きつけ死んでしまった。
師匠は病で亡くなり若荘主となり、2年は持ちこたえたけれど攻勢が絶えず、そんな折、従兄の晋王より老師の遺体救出の手助けをしたと。この頃の晋王は真摯だったのか、それとも一計のひとつなのか。1話-2で晋王がつぶやいていたのは、讒言された老師の辞世の句だったのか、納得。
周子舒は身寄りがなく四季山荘で育ったとばかり思っていたので意外だった。周子舒の父は先代晋王の右腕で、晋王は表哥だから、父方の姉妹か、母方の兄弟姉妹の子か。十代でトップに立つと、年齢でもつけ込まれて大変なんだろうなぁ。物語は違うけれど、江澄や金凌@陳情令と十代若宗主の苦労あるあるを語りあってほしいと思ったヒトコマ。
「本当は逃げてばかりの臆病ものなのに」と言う周子舒の言葉が印象に残った。
周子舒は温客行にも話してほしいんだろうな。そして誰もいなくなったと思っていた四季山荘ゆかりの人がまだおり、張成嶺が受け継いでくれることは希望なのだろう。
翌朝目覚めると、掃除をしている張成嶺。絵を修復している温客行。抱き合う三人。
世には十大悪鬼の人相書きが出回ったようだ。
温客行が谷主と知る葉白衣センパイ。白髪が生えたのは、浮世のご苦労でしょうか……。
声優
- 蝎王:俳優 李岱昆。イイ声してるなぁ
- 趙敬:郭浩然 アニメ魔道祖師:江澄。温客行と話すと、陳情令とアニメの江澄が会話している事になるのねw
- 晋王:苗荘
四季山荘の花が美しかったので、この記事タイトルにしました。高山植物は高山帯に生える植物のこと。四季山荘は俗世から離れた、高山にあるイメージも兼ねてます。
WOWOW放送:2021年10月28日(木)深夜
▼李密「陳情表」について
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