第7話 希望と絶望
劇場を建てると二旦那に話す商老板。浮浪児たちが聞かせたのは「李娃伝」「二仙採薬」。浮浪児たちにたかられタジタジな二旦那の姿が新鮮である。商老板は文字を書くのもおぼつかない様子。老弦児(徐福来)が「鉄拐李は珍しい神仙~」、「京には名高い建築一族の様式雷~」と戯曲を歌う。二旦那は見せたお金を、老弦児に全て持って行かれる。
六月紅(何瑞贤)が子をみごもり、薛社長の側室になるので一座を辞めると言い出す。臘月紅と付き合っているのかと思っていたら、師姉弟だったのか。そして何瑞賢(ホー・ルイシェン)は「家族の名において」の唐灿だった。火山アネキ、いい役もらえて良かったね。皆、証文で水雲楼に売られているのね。
水雲楼は乾隆帝の時代から都に入り、陛下にも芸を披露し五代続いた一座。姜会長の骨董から、先祖の遺産が使い込みされていたという流れ~!二旦那は所持金を、商座長は先祖代々のお金をすべて持っていかれる仲良しさん。
「そなたたちと酒など飲まぬ」「怒りをお鎮めください」「通宵酒と申します」とレコードをうっとりと聞く二旦那。すっかり京劇の虜になっている。
養父・商菊貞(王茂蕾)と少年・商細蕊(石悦安鑫)。「今後誰にもたたかれず思うがまま、自由に生きたいと思わないか?圧倒的と思われるまで芸を磨け」「とてつもない困難にぶつかっても、胸をたたいて自分を鼓舞しろ。それを乗り越えた時、今のお前の悩みはちっぽけだったと分かる。お前は勝者として自由に生きられるんだ」。妹が二旦那に言われたという言葉と似ている。しかし勝者になっても不自由はあるような……。
座長は、遺産のお金が入っていたはずの箱に首をつっこみ、閉じこもってしまう。踊りならぬ、すね肉で機嫌を取ろうとする一座。
7話の京劇メモ
・李娃伝:小説。科挙の受験生である劉生は、芸妓の李娃に一目惚れし、入れあげている内に無一文となる。ひとり残された劉生は失意に陥り流転していたところ、李娃に救われ科挙にも合格、ついには李娃とも結ばれる。
持ち金がなくなるというお金と、意気消沈にまつわっているのかな。
・二仙採薬:相声。柳成と元照という2人の賢者が、病が流行り薬を探す旅に出る。山に入り下りてくると後世の時代となっていた。やがて仙人となり良薬を広めた。
・鉄拐李:蓮花落(俗謡)「静寿」。李鉄拐とも言い、太上老君に会うために、身体から魂を抜け出し、弟子に身体を見守るように言いつけたが、弟子の母が危篤となり、期日の前に身体を焼いてしまったという逸話がある。京劇「八千過海」にも鉄拐李が出てきている。
二仙は、程鳳台と商細蕊で、程鳳台の魂が抜け出してしまったのかな?
・様式雷:中国清代の宮廷建築を造営した建築家一族。紫禁城を建築し、円明園・頤和園など数々の設計をした。
・乾隆帝の時代から:京劇は乾隆帝の時代より始まったという説が有力なので、非常に歴史のある一座という事がうかがえる。
・通宵酒:「貴妃酔酒」の一節。高卿は高力士。玄宗皇帝が梅妃のところへ行ってしまい、宦官の裴力士たちとヤケ酒を飲んでいる。
程鳳台は奥方(ある意味梅妃)と留仙洞について話しており、楊貴妃の商老板は諸々お怒りの図か。
京劇メモの登場人物たちとの関連についての、私の感想は区別するために行替えしています。
BS再放送7話感想
二旦那がたかられている場面での広告は「白蘭地」。フランス産ブランデーのレミーマルタンらしい。
天橋の菩提苑に建設予定だったのね。商老板が「金もある」と言った直後に流れる「諦めよう如海様」と姜会長。思わず吹き出してしまうが、京劇『翠屏山』、『水滸伝』にて、人妻の潘巧雲と私通した僧侶の裴如海が露見し成敗される場面。六月紅と遺産に関連した挿入戯曲か。
師姉のために叩かれている臘月紅、とりなす六月紅は、4話の幼い商細蕊と商菊貞、師姉を思い出す。瓔珞を見ているせいで、少年商細蕊への説教は、袁春望が言っているみたい。乾隆帝の時代に北京入りの言葉に、あの時代かとちょっとニッコリ。2022.1.6追記
第8話 「決断の時」
十九(方安娜)が閉じこもる商細蕊に対して「先代は西太后の宮殿で寧九郎、侯玉魁と共に歌った」と迫る。
察察児は姉を嫌っているらしい。屋敷を案内され、天井裏を見るドイツ人技師。范湘児の叔母はモンゴルの姫。円明園が焼かれた時に雷家の者が止めようとして焼け死んだと語られ、あの歌と繋がる。奥方は助言も的確。
座員は37人が25人になっている。商老板は座員たちを集め、自分の証文以外を焼いてしまい、平陽に帰ることを宣言する。商先生、一座の管理能力がないことはわかっているんだな。誰か優秀な金庫番を付けてあげて。
お金を作ろうと鼻煙壺や麻雀で勝った時に貰っていた指輪を取り出す。商老板は钮白文(易勇名)にも鼻煙壺を譲っている。
二旦那に一時的にも援助を求めてはと言う小来に、商老板は「あの人は”私”を理解してくれる。情誼の厚みが違う。その思いに応えねば。」「男子は知己のために死すと言うが、人というものは知己に会えば、返しようのない借りを常に感じるのだな」と語る。
二旦那に尋ねられても、老弦児は有り金をもらわない限り、歌を思い出そうとしない。范涟くんは子どもの扱いも慣れている。老弦児は「大通りの入口に来る。行き交う人々よ。私の話を聞いてくれ~」と立ち去る。
雷家にある数々の宮殿模型が素敵。西太后・80歳の誕生日を祝うための建物の模型だが、着工前に亡くなった。程家の邸宅は、元は順王の建物。四義弟が感嘆して老雷(卫羽)に講義や出版を勧めるが、「感覚が命の仕事で、図面や数字は読めるが字は読めない」と言う。商老板も老雷も、字は読めずとも素晴らしい技を披露することができる。かえって感覚が研ぎ澄まされるのかな。
このドラマは京劇だけでなく、中国伝統建築も入れてくれるのですか!程家邸宅ツアー、是非ともお願いします!
8話中国メモ
・円明園:北京の北西郊にあった清朝の離宮。アロー戦争の1860年英仏連合軍の北京占領の際に破壊され遺構となっている。
・鼻煙壺:嗅ぎたばこを入れておく容器。
・大通りの入口に~:京劇『三家店』,『打登州』第六場 秦琼の唄。秦琼は楊林に鄧州へ連行され、途中で三家店で泊まる。秦琼は救出される。
BS再放送8話感想
見えない場所での変化を技師に語る二旦那。
水雲楼の証文が入った箱は、鳥が二羽おり一羽は枝に止まり、片方は飛んでいる。見つかった帽子がネズミにかじられているのも何かある?
順王は多羅順承郡王。太祖ヌルハチの次子 代善の孫 勒克徳渾が、順治帝より順承郡王を賜わる。八大鉄帽子王の一。この当時も最後の代となった順承郡王 文葵は存命。
六月紅が嫁ぐ時に、四人目と噂されていたので、第五夫人になるのかな?
「男子は知己のために死す」は「士は己を知る者のために死す」ならば、『戦国策 趙策一 豫譲』士为知己者死,女为悦己者容。「君子は知己のために死す」ならば、山河令8話で出てきた陶淵明『詠荊軻』。2022.1.7追記
第9話「梨園の王となれ」
二旦那は建築予定の隧道に、心一つで倒壊させられる仕掛けも要望する。ある意味浪漫だなぁ。老雷は「机を倒してでも飯は食わせない」という二旦那の心意気を買う。太和殿の修復を望む老雷。
北平を離れようとする商老板の前に、偶然出くわす二旦那。商細蕊のイヤーマフが可愛い。
「君子の交わり」を望む商細蕊に対し、「千金で知己に報う/ 千金酬知己」と戯曲を引き合いに出す程鳳台。「君が范巨卿ならば張元伯が必要だ」と。
結局パトロンとなる展開は、言わんこっちゃないとも思うが、「梨園の王になれ/ 诸位替我梨园称王」に「妃よ、朕もそなたと共に歩もうぞ」と荷車にのぼり見得をきる場面でお釣りが来た。(拍手~)
怪しい邱記者が現れる。梨園会長と商工会会長が手を組むと不穏である。
商細蕊は二旦那とのティータイムで、チョコケーキをぐさぐさと刺している。二旦那は「人を束ねる極意は、厳格さと一貫した態度」と。ごもっとも。二旦那は自分が管理すると名乗り出る。財神降臨のこの安心感よ。
ここで戯曲作家・杜洛城/七坊ちゃん(李泽锋)が新しく登場し、容貌は四義弟系な感じ。文曲星と財神で張り合う二人。喧嘩を止めるどさくさに、顔を寄せ合っている商細蕊と杜洛城。
スザンナに逢いに2階の窓までのぼった七坊ちゃんはロミオとジュリエットになりきっていた。が、スザンナはひ弱な東洋人よりバイキングが好みで、王女でなく人魚姫を希望した。フランスのチョコで商細蕊をつる七坊ちゃん。
商老板が「山河尽きし時、柳が生い茂る」と挨拶。皆との会食でも手をつけない二旦那。座員に契約書を渡す。劇団の帳簿は遣った人が書く、という性善説に基づいたもの。商老板はスナックを食べ続け、帰ろうとする二旦那に吹きかけるという名場面がでた。靴を隠して帰るのを妨害する商老板、おもろすぎる。いつもツライ展開にならないかとハラハラしながら観ているのだが、コメディ回だった。
楽屋で振り返る楊貴妃な商細蕊の美しいこと! モグモグ座長と同一人物とは思えません。すっかり心奪われる二旦那。我ら視聴者の心も魅了されています。
司令官息子も不穏な動き。ゴージャス姉さん、赤いドレスに何重もの真珠に負けてません。
四義弟が劇場に連れてきた女性のちょっかいも、受け流す二旦那。
9話京劇メモ
・太和殿:北京にある紫禁城の最大の正殿。
・范巨卿なら張元伯:4話で説明した「范張鶏黍」。「菊花の約」などに派生している。
・妃よ、朕もそなたと共に歩もうぞ:「長生殿 驚変」の唐明皇の台詞。
・文曲星:文筆や試験の星宿。道教の北斗七星の一。文芸の才能や文学芸術を好む。
・財神:中国道教の世の中の富や財をつかさどる神仙。
・スザンナ:スザンナにも意味があるのかは分からないが、名前で思い浮かぶと言えばモーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」のフィガロの恋人か。オペラでは伯爵をぎゃふんと言わせていたがハテナ?
・ロミオとジュリエット:この先の話に関連があるのか?「梨園の王になれ」は、ロミジュリを思うと「世界の王」が流れ出す。古い因襲を破ろうとする若者の歌。この地上のヒーローはここにいる俺たちだ~俺たちの王は俺たちなんだ♪ フランス発のミュージカルでもある。なんとなくだが商老板の場面は「レ・ミゼラブル」の「民衆の歌」も思い出す。
そしてグノーのオペラ『ロミオとジュリエット』では、「ジュリエットのワルツ~私は夢に生きたい」というのもあるのだ。
・人魚姫:ドヴォルザークのオペラ『ルサルカ』か。女性陣のことを言っている気はするような。
・山河尽きし時~:山穷水尽 柳暗花明
南宋 陸游『游山西村』
莫笑农家腊酒浑,丰年留客足鸡豚。
山重水复疑无路,柳暗花明又一村。
箫鼓追随春社近,衣冠简朴古风存。
从今若许闲乘月,拄杖无时夜叩门
BS再放送9話感想
淑妃は清朝最後の皇帝溥儀の側室文繡で、この頃には離婚している。新聞の日付は中華民国25年12月? 一桁の所が薄くて見えにくい。
二旦那が范漣と飲む酒は、ウイスキーのMIDLETONかな。ミドルトンはアイルランドのコークで製造されている。ジェイムス・マーフィーが兄弟3人で設立。英国帰りと水雲楼を3人で経営というのにちなんでいるのかな?もうひとつはウォッカ。外にいる老弦児が共に唱うのは『貴妃酔酒』の「海島~」。2022.1.10追記
想像していたドラマと異なり、予想以上のコミカルさとシリアスな展開が良い按配である。
fuenone2020.hatenablog.com
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▼「君子は知己のために死す」出典の詩について
▼六月紅役の何瑞賢が元曲を唱ってます。
外部サイト
▼ミドルトン蒸留所ウイスキー
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