笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。「君花海棠の紅にあらず」とアニメ「天官賜福」、漢詩で「山河令」、「瓔珞」もはじめました。

陳情令・魔道祖師 黒幕~もうひとりの奇才~蔵鋒~扇と紙を手にして

黒幕、とはそもそも歌舞伎で、場面変換の際に舞台を隠すのに用いられる黒色の幕である。

それが舞台裏で黒い幕を操作し進行にかかわることから、背後で影響力を行使する強力な人物をこの進行役になぞらえて呼ぶようになった。

中国語では【幕后mù hòu】【幕后黑手】【幕后boss】になるのだろうか。 

今回は陳情令・魔道祖師の黒幕について述べてみたい。
陳情令の黒幕については、陳情令番外編「乱魄」もふまえて考察している。ネタバレを避けたい方は、「復讐の動機」からお読みいただければ大丈夫・・・のはずである。

「聶懐桑の復讐の動機」へジャンプ

 

★  ★  ★


「陳情令」「魔道祖師」の黒幕は、
刀を持たず扇を持ち、四季折々山河の美しさを愛する風流人である。
そんな彼が大切な兄のためとは言え、なぜ復讐しようとしたのか。

まずは信じていた金光瑶に利用され、盾にされ、裏切られたことが大きいのであろう。
金光瑶は、夷陵老祖復活前の物語における黒幕でもある。

ここでは陳情令と魔道祖師では少し異なる気がしているので、それぞれにわけて考えてみたい。

陳情令の聶懐桑

「乱魄」であれほどまでに刀霊を鎮める伝統よりも、周囲の人の命を優先していた聶懐桑が、なぜ少なからず犠牲者の出るあの方法に踏み出したのか?

陳情令では、聶懐桑が聶明玦を殺された真相を知ったから、ということも加わってくる。「乱魄」を観て思うのは、自分も兄の死因の一端を担ってしまったという負い目が決定的となったのではなかろうか。


魏無羨は、恩ある雲夢江氏の一族が惨殺されたのは、自分がかつて取った行動がその襲撃の一因となったのではないかという疑念と自責の念も重なり、金丹譲渡の行動まで取ったようにも思われる。

同じように、聶懐桑も自分が実の兄の死に関与させられたという強烈な罪悪感から、あのような長く細く険しい道を選んだのではないだろうか。


そして印象的な聶懐桑の台詞である
やるべきことは自分でやるが、本分でないことは手は出さぬ」
という思いで、粛々と進めていったのであろう。このセリフは原作にはなかったように思う。

魔道祖師の聶懐桑

一方、原作の魔道祖師の方はどうだろうか。聶懐桑にあの清心音・乱魄抄のような出来事があったのだろうか。

なんとなくであるが原作の聶懐桑にはあのエピソードはなかったような気がしている。
原作のニュアンスを忠実にすると「どちらにでもとれる」であるが、私にはそう思えた。

 

まず原作の金光瑶は、陳情令ほど一連の出来事に関与していないというのが一点。

また聶懐桑を巻き込むとそれだけ発覚する危険性も高くなり、原作の金光瑶はもっと慎重な気がするのだ。そして「乱魄」の物語は原作では描かれていないということもある。

だからこそ原作の聶懐桑と聶明玦は異母兄弟で、「陳情令」では実の兄弟と、わざわざ変えたのではないだろうか。

原作では、異母兄弟でも実の兄弟のように仲が良く絆の深かった二人。それを信頼していた金光瑶に殺されたと真相がわかり復讐に走ったのではないかと。原作・懐桑に関しては、人によっていろいろな解釈があると思われる。

聶懐桑の復讐の動機

聶懐桑の復讐劇の第一の動機は、兄の遺体を取り戻すことであろう。

兄が殺されたことを知り手をつくした結果、鬼腕(左腕)に辿り着く。しかしそれ以上は見つからないばかりか、左腕は凶暴で制御できず、この問題を解決できる人物と言えば亡き夷陵老祖であった。この辺りは原作第109章で、魏無羨の推測として描かれている。

聶懐桑が莫玄羽と組したのは、自分では八方、手をつくしても、兄の遺体を見つけ出せず、かつての友・魏無羨と姑蘇藍氏の力を必要としたのであろう。

そして玄羽自身の、犠牲を払ってでも復讐したいという思いに、聶懐桑が共鳴したこともあったのではないか。

原作では聶懐桑は莫玄羽を知らなかったと魏無羨に弁明しているが、実際はどの時点、またどの程度かは不明ながらも、金鱗台で二人は見知ってはいたのだろう。

大切な人の遺体が見つからないばかりか、手がかりは腕だけ、という状況では、懐桑としてもそのままには捨て置けないであろう。この第一の動機が最も懐桑を動かした要因と思われる。しかしこれを解決しようとすると、それは第二、第三の動機に繋がらざるをえない。


そして第二の動機として、聶懐桑の復讐は、金光瑶を殺害する事である。ただ金光瑶の罪業を明かして地位から失墜させるだけでは不足なのだ。莫玄羽が莫家の人を殺害する事が望みだったように。


原作第109章で魏無羨は聶懐桑に関して、鬼腕・猫の怪事件と猟師・金光瑶への手紙・思思たちについても推察している。

またそこまで詳細に述べた一方で、手紙を送り猫を殺し聶明玦の首を一つにした人が他にいて、聶懐桑は正真正銘の役立たず【脓包】かもしれない、とも短く書かれているのである。(原作第110章)


そして、単なる復讐劇でなかったこの物語の最大の要因。
聶懐桑には清河聶氏の宗主としての立場があり、そうでなくとも彼自身、胆怯(臆病・小心)という性質も持ちあわせている。

たとえ復讐を成功させても、その連鎖、すなわち聶懐桑が首謀したと知られて、この復讐により影響のあった人達から禍根を残し、次のターゲットとなることはなんとしても避けなければならない。(一方、魏無羨は夷陵老祖時代、まんまとターゲットとなり身を滅ぼした) 

つまり自分が復讐したことを人に知られてはならない

これが聶懐桑にとってこの復讐劇の非常に困難な点であり、復讐劇という物語としては魅力にもなっている。物語を語るので、倫理観はひとまず置いておく。
 

もうひとりの~扇と紙の奇才

そして自分が関与していることを知られまいとして、自分は「知らぬ存ぜぬ」を通し、人を操作していった。

 

魏無羨が死者の遣い手の奇才ならば

聶懐桑は生者の遣い手の奇才である。

 

どちらも霊力は低い二人。

魏無羨はなんでも瞬時にこなしてしまう天才肌である一方で

聶懐桑は用意周到に進めていく努力型でもある。

 

これが「魔道祖師」「陳情令」の凄さであり醍醐味なのだが

魏無羨は陳情笛と陰虎符であやつるが

聶懐桑は、扇と紙(乱魄だとか)であやつる。

 

筆で手紙をしたため、そして煽のである。

「扇動」には「扇」の文字が使われており、風を起こすという意味合いもある。

扇動とは群集心理の操作でもある。

 

これこそが彼の武器なのだ。

仙門世家で正道とされる剣や刀によってではない。

まさに「ペンと扇は剣より強し」なのである。

 


兄の遺体を取り戻すことと

三哥・金光瑶への復讐と

人に気取らせない事。

 

懐桑が挑んだこれら3つを、彼の呼び名である「一問三不知」にちなむと、「一企三困難」とでもなるのだろうか。

この復讐の首謀者にも関わらず息をひそめているあたりが、聶懐桑の賢さであり、百度百科/聂怀桑の人物紹介で「腹黒」と称される由縁なのだろう。

まさに「黒幕」の名にふさわしい人物である。


すなわち、なりふり構わず復讐したのではなく、利用できるものと、それ以上踏み込んではいけないことを、冷静に秤にかけながら進めていたのだと思う。

 

その聶懐桑ならば、自分が犯した罪も自覚できているのであろう。だから陳情令では最後に自分の手に血がついても、ぬぐおうとはせずじっと見ている。

そして金光瑶の帽子を拾うことからも、そこには仇というだけでない複雑な思いも感じられる。

 


私は聶懐桑の復讐の目的に、聶明玦殺害の要因に関わってしまった藍曦臣を含めて考えていない。

正直な内心は別かもしれないが、清河聶宗主の立場としては藍曦臣に何かあれば、よほどやむを得ない状況でなければ、兄思いの藍忘機や姑蘇藍氏との禍根が生まれる。それは避けたいのではないだろうか。

 

なので、最後の藍曦臣への「曦臣哥、危ない」という言葉は、状況が刻々と変わる中での、聶懐桑の渾身の「教唆」だったのだと思う。藍曦臣がそうしなかった可能性もなくはなかったのだから。

とはいえ陳情令第49話で、聶懐桑はそぶりを見せており金光瑶も動けるような状態ではないとは思うが、藍曦臣に刺される直前の金光瑶の場面は描かれていないのだ。


ちなみに原作小説第107~110章のタイトルは「蔵鋒(ぞうほう)」と言う。観音堂に温寧と共に覇下が現れ~江澄と金凌が会話するあたりまでで、物語はクライマックスを迎える。

蔵鋒とは書道の技法のひとつであり、筆鋒(ひっぽう)(筆の穂先)が筆画の外にあらわれないように書くこと。これとは反対に、穂先を見せて書くのは露鋒(ろほう)と呼ばれる。

蔵鋒とはすなわち、能力が備わっていることを消し、才気を外に出さないことのたとえでもある。書に通じていた聶懐桑にふさわしく、秀逸な章名である。 2021.6.24追記



「乱魄」で自らの筆により雅な風景画を描き出していた聶懐桑。

「魔道祖師/陳情令」で壮大な復讐絵巻を描き出し、なし遂げた最後にはどんな思いが去来していたのだろう。

 

なにがしか解き放たれたものはあったのだろうか。

 

 


www.youtube.com(2:42) 露鋒と蔵鋒

 

fuenone2020.hatenablog.com

 


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