笛の音と琴の調べ

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周子舒の別名,周絮の由来を禅や雁から考える/山河令

周絮の名について考える

『山河令』第2話で周子舒が名前を尋ねられ、咄嗟に名乗った「周絮/ zhōu xù」。は姓の周であり、柳絮にちなんでいると考えられる。

そこで今回、この名前に関連したものとして取りあげるのは『五燈会元』。五灯会元とは、中国南宋時代に成立した禅宗通史である。

これは18話-7で「虎」の出典をあたろうと、『五燈会元鈔講』という本にて探していた時に目に入ったもので、このような機会でもなければ手にすることがなかった本だ。そこで頭に思い浮かんだのは「牛に引かれて善光寺参り」ならぬ「虎に引かれて禅巡り」勝手に作ったという言葉である。いつものごとく、中国文学を楽しむためのものなので、典拠かどうかは定かではありませぬ。ちなみに柳絮とは綿毛のある柳の種子(タンポポの綿毛みたいなの)。

柳絮と禅宗

趙州禅師(趙州従諗)の中に、このような説話があった。

趙州禅 系列之四十七

赵州观音院中,有位学僧看到很多僧人访师行脚,云游禅林,亦想效仿他人,去南方求学,临行之时,他来给赵州道别。
 学僧来到方丈内,对赵州道:“学人闻听南方佛法昌盛,高僧云集,打算去南方学习些佛法,可不可以呢?”
赵州道:“你去南方途中,见到有佛处,要急急走过;没有佛的地方,千万不要住下来。”
学僧听罢,不明赵州话中深意,就又问道:“如此来说,不是让学人无所依止吗?”
赵州徐徐道:“柳絮,柳絮。”


趙州禅師という高僧がおり、とある雲水が「私はこれから、江西・湖南などの南方に行脚するのだが、その心構えについて御指示を」とお伺いをたてたところ、「世俗的な繁昌を誇っている寺は急いで通りすぎよ、禅の無い荒廃した寺にはとどまるな」といった趣旨のことを言われた。
するとこの雲水は「それでは私の寄宿するところがありません」と泣き言を言うと、「柳絮、柳絮」と答えたのだ。
芳賀洞然「五燈会元鈔講」1996 淡交社

趙州禅師は、24話-1でも挙げている。この雲水が向かう方角が「江西・湖南などの南方に行脚」というのも、周子舒の向かった方向と一致するではないか。

世俗的な繁栄というと、五湖盟のようにも思え、荒廃したには龍淵閣を思い出す。
そして「行脚する者にとって何より大切なことは、風に吹かれて舞い上る柳絮のように、無心にしかも一所不往で修行に励むことじゃ」という意味と述べられている。

ここでの柳絮とは、枝にしがみつくこともなく、無心にファーッと舞い上り、風のまにまに飛んで行く。そこには些かの我もなく、また執着もないと言うのである。この段を踏まえると、周子舒がとっさにこの名を口にした思いも感じられてくるようなのだ。

私はこの本を読んでいた時にこの頁を見た瞬間、「柳絮、柳絮」と書いてあるはずが、なぜか温客行が「阿絮、阿絮」と呼んでいるように見えたものだ。重症かな。

虎も『山河令』の中では重要なシンボルだと思っているので、意味深い道行きであった。

柳絮ふたたび

「風柳絮を吹けば毛毬走り、雨梨花を打てば蛱蝶飛ぶ」という「円覚経の頌」の公案もあるようだ。

大慧普覚禅師語録 第十巻 

风吹柳絮毛扑走,雨打梨花蛱蝶飞。

雨打芭蕉針」も思い出す。

また大慧普覚禅師(大慧宗杲)が著した『大慧武庫』は『大慧普覚禅師宗門武庫』とも言い、宋朝禅林の逸話を集めたもので、大慧が弟子たちに語ったものとある。「武庫」の由来だろうか。

また、柳絮の「柳」。柳千巧の姓名が柳だったことを思うと、かなり重要視されて付けられた姓のようにも思えてくる。

 

地獄について

この趙州和尚は、こういう事も言っている。

趙州禅師語録 壁観 20

崔郎中问:“大善知识,还入地狱也无?”师云:“老僧末上入。”崔云:“既是大善知识,为什么入地狱?”师云:“老僧若不入,阿谁教化汝!”

雀郎中が趙州に問うた。「大善知識、還って地獄に入るや、也た無しや」。既に三毒を超克した大修行底の人は、地獄に堕ちるでしょうか、堕ちないでしょうか。「州曰く、老僧、末上に入る」。わしは誰よりも早く、真っ先に入る。自分が地獄に入って行かなければ、誰がいったいお主のような迷える衆生を教化するというのか。

という地獄へも身を挺して入って行く衆生済度を意味している。
周子舒や温客行が地獄と何度も言っていたが、この事にも通じるのかなと思っている。

 

柳絮と漢詩

『松枝茂夫文集第一巻』でも柳絮が詳しく紹介されている。

浮生六記』巻一には、浙江の芸妓の詠んだ柳絮の詩に伝され、作者はこれに和韻して、春愁や別離の悲しみを詠んだそうだ。

紅楼夢』第七十回でも柳絮の詞が詠まれており、
柳絮は驕りの春との訣別を象徴する景物で、風のまにまに行方定めず天のはてまでも漂いさすらうさまは、さながら幸うすき人の運めに似ている
と歌っているらしい。

中国で楊柳の本場といえば、江南らしく、

 杜甫『絶句漫興九首

(略)
肠断江春欲尽头,杖藜徐步立芳洲。
颠狂柳絮随风去,轻薄桃花逐水流。
(略)
糁径杨花铺白毡,点溪荷叶叠青钱。

 

唐 杜甫『送路六侍御入朝

童稚情亲四十年,中间消息两茫然。
更为后会知何地?忽漫相逢是别筵!
不分桃花红似锦,生憎柳絮白于棉。
剑南春色还无赖,触忤愁人到酒边。

幼な友達の路六侍御と四十年ぶりにひょっこり出会ったのが異郷の蜀の地で、しかもその再会の場所がそのまま送別の酒宴となったそうだ。

 

『柳絮』という題名の漢詩もある。

中唐 薛涛『柳絮

二月杨花轻复微,春风摇荡惹人衣。
他家本是无情物,一任南飞又北飞。

春二月、柳の花は軽やかにしてほのか。春風にふわふわ待って人の衣にまといつく。彼はもともと心なき物。たちまちのうちに南へ飛んで、また北へ飛ぶ。
川合康三「中国名詩選 中」岩波書店

柳絮の甘やかさが感じられ、どちらかというとまとわりついてるのは温客行ではないかとも思うが、この漢詩で注目したいのは、「南へ飛んで、北へ飛ぶ」というくだりでもある。それは『山河令』のモチーフでもある「」を連想させるからだ。

雁については6話-1の元好問『摸魚児 雁丘詞』、25話-3の蘇軾『卜算子 黄州定慧院寓居作』でも紹介してきた。

 

雁と山河令

顧湘の「湘」とも関連深い「湘夫人」と「雁」についても挙げておく。

中唐 銭起『帰雁

潇湘何事等闲回,水碧沙明两岸苔。
二十五弦弹夜月,不胜清怨却飞来。

瀟湘の地を意にも留めずに帰ってゆくのはなにゆえか。水は碧く砂は輝き、両岸には苔もあるというのに。
二十五絃の瑟を月光のもと、女神が弾くと、その透き通った悲しみに堪えきれず、舞い戻ってしまうのか。
川合康三「中国名詩選中」岩波書店

「帰雁」は南から北へ帰る雁と注釈にある。瀟水と湘水は湖南省から洞庭湖にそそぐ川で、付近の衡山には「回雁峰」があり、雁の南限とされる。瑟は、「湘霊(湘水の女神)をして瑟を鼓せしむ」ともあり、瑟には「帰雁操」という曲もあるそうだ。

顧湘がいる地を南限として帰って行く雁の姿は、温客行と重なる思いがする。

 

三国志演義』では雁についてこんな事も言っている。

燕青が雁の群れに射かけ、宋江が言った。
「この渡り鳥の雁は仁義の鳥であり、数十羽、あるいは四、五十羽が、たがいに譲り合い、年長のものが前に、年少のものがうしろにと、順番に飛び、仲間を追い越さない。夜になって泊まるときもまた、寝ずの番をするものがいる。
さらに雄が連れ合いの雌を失くし、雌が連れ合いの雄を失くすと、死ぬまで相手を求めず、信義を立てとおす。この鳥は仁、義、礼、智、信の五常を兼ね備えている。空中でははるか遠くから死んだ雁を見つけると、みな哀しげに鳴いて思いをあらわし、仲間を亡くした孤雁は、けっして迫害しない。これが仁だ。ひとたび連れ合いの雌雄を失くせば、死ぬまで相手を求めない、これが義だ。順番に飛び、前後を飛び越さない、これが礼だ。あらかじめ鷹や鵰を避け、蘆を口にふくんで関所を越える、これが智だ。秋は南に春は北へ渡り、季節どおりにやって来る、これが真だ。
この鳥はこうして五常を十分備えているものであり、害するに忍びない!天上で一群の渡り鳥の雁が、呼びかけ合って飛んで行くさまは、まさしくわれら兄弟と同じだ。
井波律子「水滸伝5」講談社文庫 第九十回

 

連れ合いの雌雄の雁が周子舒と温客行をほうふつとさせるのは、漢詩でも述べたが、張成嶺や葉白衣、周子舒の仲間たちとの群れも、この雁たちのようだったと思えてくる。

話は飛ぶが、雁の群れと言うとアッカ隊長を思い出す。『ニルスのふしぎな旅』で頼もしいリーダーで、統率力の優れた隊長なのである。

 

柳絮の舞うところ

これだけ柳絮、柳絮とみていると、実際に柳絮が飛ぶ様を見てみたくなる。が、今の状況では中国には行くことができない。『松枝茂夫文集』には次のようにある。

柳絮はわが国では北日本に見られ、晩春から初夏にかけて水辺の楊樹(しだれない方のヤナギ)から飛び立つが、それほどは目立たないそうだ。一度見てみたいものである。

中国で柳絮が舞うのは晩春であり、日本の桜のように春を感じさせるもののようだ。

 

桜が散るのを見て、もののふのあわれを感じるように、柳絮が舞う様子を見て何を思うのだろうか。

 

 

▼身は柳の絮のごとし:徐再思『折桂令・春情』

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