笛の音と琴の調べ

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小説赤い袖先中巻感想レビュー/唐諺文,葉銭

小説『赤い袖先 中巻』に出てきた食べ物風習史実人物、サンとドギムの関係について気になったところを覚書として挙げています。

全17話ドラマでは、第13話~第16話のあたり。

第八章 木から落ちた小さな青梅

元嬪の入内にあたり、大人しかった王妃が謁見を拒み、宮中内の緊張が高まる様子に、頁をめくるのも億劫になってくる。ドラマ第13話では描かれていない部分。

側室の事なんて考えられないという王 サンに、ドギムが「美しい・優しい・笑わせてくれる側室の三人は従えたいです」と言うのが面白い。

王室との婚姻は人気がなく、諫沢令逃れが横行したのは意外だった。娘を諫沢に送るのは、家が傾くほどにお金のかかる事でもあるようだ。

サンの祖母である義烈宮は、当時大妃だった仁元王后(英祖の継母)の宮女であり、英祖に見初められるも最初は遠慮したが、仁元王后の勧めもあり承恩を受ける。2年後先々王(粛宗)の三年喪が明けると、従二品 淑儀に、宣義王后オ氏(景宗の正室)の国葬中に、正一品 嬪に任じた。

優れている分、他人の足りなさに腹が立つという王 サンの傲慢さを、ドギムは可愛いと思い始めているのね。


異例の待遇で王室に入った元嬪だが、王妃は元嬪の朝見礼を断っていた。「元」の字は、国母と国の世継ぎにのみ許された最高のものらしい。

ドギムはの手入れに格闘している。

王妃は紅酢5樽と白蘋酒10樽を元嬪に下賜。
王妃は9才で諫沢されるが、病床に伏し、1年後に嘉礼を挙げた。
王妃の「大切なもの」に、「物柔らかな王様と公明正大な大妃様、実の娘のように大事にしてくださる恵慶宮様。三人の目から外れないように頑張った」とドギムに語る姿が切ない。

王 サンは酒を好み、禁酒令を解除していた。

一日中仕事をして読書に励む王に疑問を投げかけるドギムに、「だから王なのだ」と答えるサンの当たり前さがさすがです。自分が常に疲労を友としているので、他人を疲れさせるという考えに及ばないあたり、そういうのあるよね。

体調を崩して倒れたドギムに、駝酪粥(牛乳で煮た米)を下賜するサン。

ドギムがサンの顔を見たくなる衝動にかられるも、近づきも遠ざかりもしたくなくて距離感をはかる様子に、そうなのか…とも思う。

 

第九章 破局

元嬪が亡くなり、ギョンヒたち宮女が失踪し、ドギムが大妃を頼ったという、ドラマ第14話でもあった場面。ドラマではドギムがサンよりも大妃を信じたのが意外だったが、小説では割と納得できた。やっぱりドラマのドギムとサンは、既に打ち解けすぎているんだな。


親蚕礼が気になるドギムが、ソ尚宮に賄賂として干し柿古酒を差し出しており、干し柿は貴重だったのね。

王妃は華やかな青色の国服である鞠衣を着ており、元嬪も王妃と同じ色の助蚕服で列席して、王妃の不興を買ってしまう。

ヨンヒがきれいになっているという描写に、「切り干し大根みたいだった肌には張りが出て」とあり、切り干し大根って……と思った表現。切り干し大根、置いておくと茶色くもなるのよね。

党争によって追い出された儒学者の登用を反対され、「宋子のすごさを知らずして誰がここにいられるというのだ」と腹を立てるサン。

ドンノは「蝶を集めて青山に遊びに行こう」という流行歌が気に入りよく歌っているそうな。

酔ったサンが絵を描く場面がある。ドラマではふざけた絵を描いていたが、小説では芭蕉を描き出していた。

小説好きなドギムに、サンはどうせならと「景樊堂の文集」を差し出す。詩人の許蘭雪軒の別名で、200年前の士大夫の妻。夫に蔑視され子供にも先立たれ若死。弟が謀反の罪で一族も滅ぼされ、許蘭雪軒の漢詩文も焼かれたが、異国で流行り再び戻って来ていた。許蘭雪軒は上巻で「才能ある妻を遠ざけ、家に寄りつかない夫」としても紹介されている。

サンが宮女を嫌うのは、父親の宮女への所業に起因しており、宮女はあらゆる望まない気持ちを呼び起こす存在なのだと語る。そういう背景だったのか。

サンがドギムに迫るが、次の瞬間、サンは酔って寝オチ~。

ヨンヒの相手は、婚礼を挙げた3ヶ月後に妻が亡くなっており、不倫ではないのね。

大妃は学問を好み、「学問で男性に劣らない境地に達することができ、才能を有効に使う日も来る」と、ドギムに語り梅のお茶を勧める。

ギョンヒからの「七ㅣ 二七ㅣ 二一八ㅣ 十四ㅓ 九ㅓ八」は諺文で、子音を数字に置き換えたもの、「申の刻に凌虚亭で会おう」という意味。これもドラマ第14話にもあったね。

サンが露骨に男らしさを表わし始め、「自分の興味を引いた女人の関心が欲しい、女人のすべてが知りたいし、自分の手のうちに置いておきたい」と思っていることに気付くドギム。

ボギョンの言う「ビビンククスムルグクスのうちどっちがおいしいか」。ククスは細めの麺で、ビビンククスは汁なし混ぜそば、ムルグクスは出汁がかかったもの。

サンがドギムに語るドンノに対する思い「汚れ仕事を任せる者が必要だった。宮殿の内外に光らせる目、宮殿内の兵力を掌握させ、報告体系を1つにまとめ、官僚を味方にし外戚を撲滅し、士大夫の信望も失わず、あらゆる恨みは全面に立つドンノが被った」は、王ならではの冷酷さである。

ドギムは一連の出来事を見通していた王であるサンに愛想がつき、サンは自分でなく大妃を頼ったことに腹を立て。

ドギムは傷つけたくて「女として王様を慕うことはありません」と告げ、サンはドギムを引き寄せ熱いキスをする~。ドラマ第14話のラストだ。
そして告げる「宮殿を離れろ、二度と私の前に現れるな」。

 

第十章 転換点

宮中を出たドギムとドンノの行く末。


宮中を追い出されたドギムは、大妃の口利きで懸録大夫である恩彦君の宮人になったのが意外であった。恩彦君はサンの腹違いの弟で、北村に屋敷があった。北村は宮殿近くにあり、身分の高い両班や宗親が住んでいる村。

ドギムは恩彦君の長男である完豊君と親しみ、完豊君はホン・ドンノにより亡き元嬪の養子となっていた。メンコ遊び羽根蹴り遊びに興じている。

恩彦君の元へ訪れるのは、名門ク氏の訓練隊長ク・サチョと、ホン・ドンノ。ドンノは王の仕打ちについて理解しており、許してくれるだろうと期待していた。
一方、ドギムにとっては、サンが王という立場を優先させなければならない事が嫌であり、卑屈に我慢しなければならない関係など望んでいない。


恩彦君の宮人ヨンエが語る英祖像の中で、「英祖は痩身を高く評価して少食するようにと言い、ホギョンを見かけると舌打ちしていた」というのがそんな事もあるのか。

そんな英祖からプレッシャーを受け続けた景慕宮(サンの父)は心の病となり奇行がみられ、宮女たちを斬り捨てることもあった。


半年後、ドギムが他人中心で消耗する宮殿生活から離れて、北村での生活を受け入れている様子に、宮殿生活の過酷さを感じる。

吏曹判書の上疏をきっかけに、ドンノ失墜の流れが一気に加速する。

ドギムは、諫沢が行われた新しい側室に仕えるよう命じられる。戻る折にせっかく書き始めていた小説の短い文を燃やしてしまうのが残念だ。そしてドギムは戻る間際に、横城へと流されるホン・ドンノへと会いに行く。
 章の終わりに、ドギムと正反対な道のりとなったドンノがひとり取り残され、
一つの時代を風靡した人が、その時代を終え、自らを古き時代の剥製にした」との表現に、胸突かれる思いになる。


第十一章 亀裂

和嬪に仕えるドギムと、兄との交流。


ドギムは和嬪の宮人となるが、和嬪は実家から連れて来た乳母や本房内人を重んじ、ドギムたち至密宮人を近づけなかった。王室では房中術などは禁じられている。ドギムはミユク生姜の砂糖漬けを食べさせ、諭そうとするがうまくいかない。
 ドギムはミユクが自分と同じ変わり種とされる類と気付くが、「自分は主流からやや外れた無害な変わり種」であり、「ミユクは能力に比べて意欲だけが先んじて特別だとう傲慢さが災いをもたらす危うさを持つ」と描写しており、冷静な洞察だ。

久しぶりにサンの姿を見かけたドギムには、温かな感情が流れたという描写に、そうなのか……とも思う。王がすぐに帰ってしまった事を嘆く和嬪に、はちみつ茶を勧めるドギム。

サンに水飴で甘く煮詰めた正果人参茶を運ぶドギム。ドギムが内心で思う「なんでも好きなようにできる男と、何もできない女」という描写がやるせない。


ドギムの兄シク科挙に合格、御宮庁(首都防衛を行う軍営)に配属される。お腹の空いていく兄に、薬果カボチャ飴を差し出すドギム。ドギムの仕事は、捧げ物整理で葉銭とお米を計算している。
 葉銭李氏朝鮮後期に鋳造された銅銭、常平通宝の小平銭。鋳型から取り外す前の形が連結されており、枝についた葉のようだった事から呼ばれるようになる。

和嬪が妊娠するも生まれず、故事では新羅の萬明夫人は二十ヶ月妊娠した末に、伝説の将軍キム・ユシン(金庾信)を産んだそうだ。

ドンノは火病となり亡くなった。

第十二章 王と宮女

『女範』の疑惑から一転して……。


サンのドギムへの思いが綴られている。
ドギムに拒絶された事は始めて味わった挫折であり、宮殿から追放した後も、ドギムを案じて気を揉んでおり、「彼女が恋しかった」という文章に目が留まる。そしてサンはドギムが和嬪の世話をする姿を見て、自分のものを奪われた感じがした、とあるのだ。

和嬪について大妃たちに問われても応じないドギムの姿に、サンはドギムの本質が変わっていないことに安堵する。

義烈宮は春紫苑の花のようなひとで、サンに「ひとりで怒りを鎮める習慣があるのは心配です」「心配ごとを打ち明ける相手はいないといけません」と諭していた。

義烈宮の『女範』の弁明は、英祖はもう逝去しているので、大妃や恵慶宮や王妃による詮議となっていた。ドギムをかばったのは、記憶力の優れた恵慶宮貞聖王后(英祖の正妃)に日記でも書いてみろと感心されていたらしい。これは実際に残っている恵慶宮洪氏の回顧録閑中録(恨中録)』を匂わせているのね。

恵慶宮の証言を得て潔白となったドギムは、ここぞとばかりに、本房内人を責め立て、和嬪が私的に飲む薬には触れないドギム。

英祖はサンに「お祖母様を恨んではいけない」と言い、サンは王の愛は「手を汚すことなく人を操る巧妙さ、最も大切にしている女人でさえ好きなように利用できる冷酷さ、迷うことなく斬りつける決断力」と英祖から学んでいた。

そしてサンはソ尚宮に「ソン家ドギムを今夜侍寝するから連れてこいという意味だ」と告げる。

父である景慕宮は祖母がサンを可愛がると妬み、サンは父が庶子の恩彦君を大事にすることを妬み。

サンに名前を呼ばれてドギムの心が溶け、不慣れな感覚にそれを望んでいたと気付くドギム。きゃ~。

 

巻末の解説「宮女の世界」で、至密、針房、繍房の宮女はチマを左巻き、それ以外の部署は右巻きというのが興味深かった。

原作小説とドラマの違い

元嬪の華やかな輿入れに、ドラマには出てこなかった王妃は不快感を示していたのね。

ドギムは王であるサンに対してツケツケ物を言うが常に用心深くはあり、宮中を追い出されても結構快適に暮らしていたのが、その方が性に合っているのかなと思った描写。まぁ、そのまま恩彦君の所にいてもその先の事を考えると……ではあるのだが。

ドラマのドンノはサンの期待を裏切り続けた形になっていたが、小説の方がサンは元から切り捨てる気満々に描かれていたように思う。

和嬪の想像妊娠も小説では描かれている。『女範』はドラマでは英祖が存命だった第8話に入れられていたね。

 

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