第二部は甄嬛が懐妊して……というお話。
第25話~第45話まで。
記事は第33話の漢詩から始まります。
33話の奏でられた音楽
子を失い意気消沈していた甄嬛のために、果郡王が笛を吹いた『長相思』の後半を甄嬛が詠じる
「花のごとき美人を雲が隔てる、上は青冥の空 下は渌水の波瀾、天へは遥か遠く、夢魂関山に至るも難し」。
李白(唐代)《长相思·其一》
长相思,在长安。
络纬秋啼金井阑,微霜凄凄簟色寒。
孤灯不明思欲绝,卷帷望月空长叹。
美人如花隔云端!
上有青冥之长天,下有渌水之波澜。
天长路远魂飞苦,梦魂不到关山难。
35話の漢詩
覚醒した甄嬛が陛下と安貴人の前で書いていたのは柳永『雨霖鈴』。陛下は「文字は悪くないが悲壮感が漂っている」「手を執り涙眼を相看る」と言って、手ずから「花好く月圓にして縁長し/花好月圓人長久」と書いたものを送る。
安さんの前でイチャイチャする甄嬛、コワイ~。
柳永『雨霖鈴』は別れの悲しみを詠った詩。美しい景色を見ても、語り合える人がいなければ楽しめないと詠う。
柳永(北宋)『雨霖鈴』
寒蝉凄切,对长亭晚,骤雨初歇。都门帐饮无绪,留恋处(一说:方留恋处),兰舟催发。执手相看泪眼,竟无语凝噎。念去去,千里烟波,暮霭沉沉楚天阔。多情自古伤离别,更那堪,冷落清秋节!今宵酒醒何处?杨柳岸,晓风残月。此去经年,应是良辰好景虚设。便纵有千种风情,更与何人说?
37話の漢詩
甄嬛が陛下の事を口にすると、甄嬛母が「宮中のことは鸚鵡の前では語るな」と言う。朱慶余『後宮詞』。
朱庆馀[唐代]《宫词》
寂寂花时闭院门,美人相并立琼轩。
含情欲说宫中事,鹦鹉前头不敢言。
安貴人がよよよと友情を口にしていると、甄嬛は「恩情はいずれ断たれる」「その時私のそばにいつのはあなたと眉荘さんだわ」と言う。白居易『後宮詞』。
白居易(唐代)《后宫词》
泪尽罗巾梦不成,夜深前殿按歌声。
红颜未老恩先断,斜倚薰笼坐到明。
38話の京劇と漢詩
曹貴人が華妃に言う「娘娘の最も好きな「娘子関」も披露されるとか」。娘子関は長城の関所の一つで、唐の平陽公主がこの関所を守った事に由来する。華妃は勇ましい戦な戯曲がお好き。
甄嬛は頌芝に構うなと言い、杜甫の「前出塞」九首の六を挙げ、「賊を擒まえんとすれば、まず王を擒えよ」。
其六
挽弓当挽强,用箭当用长。
射人先射马,擒贼先擒王。
杀人亦有限,列国自有疆。
苟能制侵陵,岂在多杀伤!
40話の書状
年羹堯からの吉兆の祝賀を述べた書状には、勤勉さを称える言葉「朝乾夕惕」が、「夕陽朝乾」と書き間違えていた。文字が入れ替わっただけでなく、漢字も異なっている……。
この吉兆とは、雍正3年(1725年)2月1日、欽天監が【日月合璧 五星聯珠】という天文現象を予測したもの。太陽と月が同時に昇り、水火金木土の5つの星が連なる天体現象を言い、これは大吉祥とされ、臣下たちから祝賀を多数送られていた。実際には1725年3月15日にこの天体現象が出現したそうな。要するに天王星や海王星を除いた惑星直列ということなのかな?最近では2000年5月にみられたらしい。
《世宗憲皇帝實錄 卷之二十九》
雍正三年 二月 一日
雍正三年。乙巳。二月。己巳朔。諭諸王大臣等。據奏二月二日庚午。日月合璧。五星聯珠。為亘古難逢之大瑞。請陞殿慶賀等語。
華妃から曹貴人への蹴りがもっともなのは、華妃の不思議な魅力よね。妃嬪たちにはオラオラなのに、陛下や粗暴な兄の事になるとあれこれ気を揉んで可愛ゆくなるし、着飾っているより質素な方がこれまた可愛ゆくなるし。罪状はなかなかひどいのにね。
43話メモ
陛下に修繕した碎玉軒に1人で住むようにと言われ、
「春になったら陛下と海棠が咲き乱れる中お酒を飲み、梨花が咲いた時には驚鴻の舞を、夏になれば一緒に涼みましょう、秋になったらそなたと桂花酒を造り、冬は雪を眺めるのだ」と仲睦まじく言っていたが、皇后による衣装の計略にかかり、閉居となる……。衣装を用意した姜総管は巻き添えをくらったのかと思いきや、皇后の手下だったか……。用済みな配下にも容赦ない皇后。
『古香亭詩集』《古香亭诗集》は銭名世の詩集で、年羹堯と同じく康煕38年に抜擢され関係も深そうなのが問題だった。ホントは棋盤街で買ったのに、銭名世の友でなければ刊印なき詩集は手に入らないと言い立てる瓜爾佳鄂敏(グワルギャ・オミン)。
陛下が純元皇后神格化なのは、血に染まっていない時代の付き合いでもあったし、若くして亡くなっているというのもあるよね。生きている人は思い違いする可能性もあるけれど、思い出は裏切らない。なのでどんな妃嬪も勝てないわよね。
44話
この状況で甄嬛が身ごもっていることが分かった時には、同じ展開でちょっと笑ってしまった。
沈眉庄から送られた文には「心が縛られなければ自在なり/心不禁 湛自在」と記されていた。
銭名世を罷免し故郷に戻す、官吏に所業を誹らせ一冊にまとめ全国に頒布するよう命じたが、方苞の詩は傑作、陳万策の詩にも感嘆、陳邦彦と呉孝登は同情的で、罷免・寧古塔へ流刑。
45話の漢詩
杏の花より松になりたいと言う甄嬛に、浣碧は「杏仁と鷓鴣の煮物ができている頃」と促している。
重陽節なので皇太后に、菊花餅と菊花酒、茱萸袋(ぐみ)を紅い糸で結び、桑とにれの葉で彩りを添えている。
皇太后は皇后を螽斯門(しゅうしもん)に立つように命じる。「螽斯の羽 詵詵たり、子孫宜しく振振たり」、皇族の子孫繁栄を願って螽斯の名がつけられた。第一皇子は病にかかり死んだとは、産まれてはいたのか。『詩経 螽斯』より。
诗经·国风·周南《螽斯》
螽斯羽,诜诜兮。宜尔子孙,振振兮。
螽斯羽,薨薨兮。宜尔子孙,绳绳兮。
螽斯羽,揖揖兮。宜尔子孙,蛰蛰兮。
甄嬛は産まれた娘に「夫君と心を綰ねる/长发绾君心」の意味の綰綰と名付ける。
甄嬛は陛下に告げる
卓文君『訣別書』
「朱弦断ち 明鏡缺く 朝露晞き 芳時歇む 白頭吟 離別に傷む どうか私を思うなかれ 錦水に誓う 君と永久の訣別なり」
卓文君《诀别书》
春华竞芳,五色凌素,琴尚在御,而新声代故!
锦水有鸳,汉宫有木,彼物而新,嗟世之人兮,瞀于淫而不悟!
朱弦断,明镜缺,朝露晞,芳时歇,白头吟,伤离别,努力加餐勿念妾,锦水汤汤,与君长诀!
卓文君は、かつて第7話、倚梅園での願掛けで、甄嬛が陛下に声をかけられ言えなかったのは「一心の人を得て、白髪になるまでそばを離さない」、『白頭吟』。
卓文君〔两汉〕《白头吟》
皑如山上雪,皎若云间月。
闻君有两意,故来相决绝。
今日斗酒会,明旦沟水头。
躞蹀御沟上,沟水东西流。
凄凄复凄凄,嫁娶不须啼。
愿得一心人,白头不相离。
竹竿何袅袅,鱼尾何簁簁!(袅袅 一作:嫋嫋)
男儿重意气,何用钱刀为!
第43話で甄嬛と陛下がいついつまでも四季を共に愛でようと言っていたのが、思いかけずに訣別となり、第35話の柳永『雨霖鈴』の別離の詩が効いてくるなぁ……。
絶望の中、陛下に仏門入りせよとの言葉を受けて、娘を敬妃に託し、寺入りする甄嬛。純元皇后の身代わりと分かり家族を流刑され、もはや陛下の下で寵愛は競う気にもならないし、捨て置かれた妃は毒を賜わる恐れもある。ならば、仏門入りした方が心穏やかな日々を送れるものね。とはいえ、産んですぐに赤子を預けるとはツラいわ……。
甄嬛パパも言官とは言え、政治情勢を少しは読んで……とも思わないでもないが、そういうある種の頑なさや、職務への誇り高さが親子なのかもね。
第二部のクライマックスは華妃VS甄嬛!
よくよく考えると後宮でさんざんひどい事をしてきた華妃なのだが、その実は陛下大好きで身内は大切にして、不遜な兄にハラハラする様子にはギャップが大きい。
そんな姿を見た後で、どんな状況になっても妃嬪たちの前ではオラオラ歩きするのを目にすると、なんとなくヤンキーなツッパリ少女を見る思いになり、生温かい目になるのはナゼなんでせう。裏切り参謀な曹さんを蹴っ飛ばす姿は、なんだか爽快だわ。
第二部で皆が思うのは、策略の根源は陛下と皇太后よね、という思い。ヤンキーが跋扈していたら、背後にはマフィアがいた、みたいなヒンヤリさ。
外部サイト