宮廷の諍い女56話～62話漢詩/冰嬉,梨の帳中香,霊犀,呉偉業,梅花,江南

いよいよ進化して、甄嬛ならぬ熹妃が後宮へ還ってきた！

５６話のお香

永寿宮に置かれていた梨の帳中香は、南唐の周娥皇が作った珍しい香。鹅梨帐中香は、宋洪刍《香谱》、宋陈敬《陈氏香谱》、明周嘉胄《香乘》など著名なお香の典籍にも記載されている、南唐の李煜の頃のお香。せっせと安嬪が作っていたものね。依蘭と併用すると体が熱くなり興奮するのだとか。依蘭はイランイラン。

おぉ、お久しぶりの小允子。

臘月、敬妃をこれだけ慕っていたら、この先甄嬛の元に戻しても、娘から恨まれて仲がこじれるパターンね。もう手放した方が良いのでは……。

５７話の食べ物

陛下がお隣さんの欣貴人のところを訪れると、悪夢を見たと騒いでちゃっかり夜伽Getな祺嬪。それを知った甄嬛は「悪夢を見るならはと麦玄米の汁物を届けて」と、地味な嫌がらせに笑っちゃったよ。祺嬪ちゃん、お顔がぷっくりして可愛いのにイキった小娘感満載で、カワイク見えてしまう今日この頃。この食べ物ネタは『瓔珞』の元宵団子を思い出すな。

輿上から安嬪と話している時に、甄嬛が左手指を頭に当てる姿が、なんとも毒々しくも美しくて負ける気がしない。

朧月公主ちゃん、甄嬛が抱こうとして嫌がる姿の演技がウマイわ。朕に似つつもなんだか素朴な感じでカワイイ。そりゃディズニーな魔女化している熹妃はコワイわな。

５８話の漢詩

まさか眉荘さんまで甄嬛と同じ懐妊コースを辿ることとなろうとは……と、笑っちゃったよ。

夏に菊の花が早々に開花するのは妖異の徴候でもあるのか。

侍女槿汐の、柳の葉を重ねた刺繍は、男女の情を表わすとな。

必ず助けようとする甄嬛と、槿汐が一心に甄嬛の無事なお産を願い、蘇培盛が拷問でも名を吐かなかった心意気に打たれていた様子が良かったかも。

端妃の諭し方
孟子：「男女室におるは人の大倫」は、結婚推進派な意見。
朱熹：「天理あらば私欲滅する」で、朱熹に賛同する者は「情がなく、寛厚の徳に背いている」と主張。
端妃の所に熹妃が来ているのは伝わっていないらしい。ここで「情を重んじ、寛大になる事が大切なのですよ」と前振りしてるのね。

端妃の「痴ならず聾ならざれば家翁とならず」に、笑う陛下。【不痴不聾不做家翁】は目上の者は目下に細かくとがめ立てせず鷹揚なのが大切という意味らしい。

端妃は「寒くなったので茶に菊を入れさせてください。唇が乾いておられますよ」と、陛下を細やかに労っている。
皇子時代からの妃嬪たちは、朕に情愛あるよなぁ～。そしてそんな情愛には見向きもしない朕……。

６０話の漢詩

槿汐は「噂に流され味方を傷つけてしまうのは、最も愚かだ」と言い、蘇培盛の側にいる。太監である蘇培盛が、一番純愛を貫いていたという……ね。

陛下は果郡王を招いた宴で、「人の情長久に千里嬋娟を共にせんと」。

蘇軾『水調歌頭』
明月几时有？把酒问清天。
不知天上宫阙，今夕是何年。
我欲乘风归去，又恐琼楼玉宇，高处不胜寒。
起舞弄清影，何似在人间！
转朱阁，低绮户，照无眠。
不应有恨，何事长向别时圆？
人有悲欢离合，月有阴晴圆缺，
此事古难全。但愿人长久，千里共婵娟。

宮中で果郡王が甄嬛の手を取ると、ハラハラするよ。

お産に立ち会えず、部屋の前で座りこんで固まっている侍医たちがなんだかカワイイ。皇子と公主を生んだとは、本当に双子だったのか。第六皇子で弘曕と名付けられる。『瓔珞』第23話で、和親王弘昼と共に出てきた乾隆帝の弟ちゃんね。史実ではそもそも熹妃の子ではなく、他の妃嬪が産んでいる。

この罰を受けた宮女は何かしでかしそうね。

それにしても陛下が最も喜んでいるのが、喜べない状況になった時だというこの皮肉、なんなの。前回の朧月の出産時は喜べる状況なのに、甄嬛を廃していたし。

６１話漢詩

公主には李商隠『無題詩』「鳳凰の翼はなくも、心は霊犀のごとく通じる」から霊犀と封号を名付ける。龍鳳胎なハズの公主に、鳳凰の翼がないってヒヤヒヤしないか？

李商隐（唐代）《无题二首·其一》
昨夜星辰昨夜风，画楼西畔桂堂东。
身无彩凤双飞翼，心有灵犀一点通。
隔座送钩春酒暖，分曹射覆蜡灯红。
嗟余听鼓应官去，走马兰台类转蓬。

敬妃に臘月を託して、敬妃も取り込んだ甄嬛。敬妃の瓦の数を数えた幾夜というのが、怨念のようでコワイ。

熹妃の勅命「熹妃鈕祜禄氏は謹厚慎重で妃嬪の鑑ゆえ、皇太后の命令に従い貴妃に封じる/惟赞宫廷而衍庆，端赖柔嘉。钮祜禄甄嬛，毓质名门，温恭懋著，仰承皇太后慈谕，册为熹妃，钦此。」。黒い衣装が映えるね～。

《清世宗实录》
朕惟赞宫庭而衍庆。端赖柔嘉。班位号以分荣。丕昭淑惠。珩璜有则。纶綍用宣。咨尔格格钮祜鲁氏、毓质名门。扬休令问。温恭懋著。夙效顺而无违。礼教克娴。益勤修而罔怠。曾仰承皇太后慈谕、以册印封尔为熹妃。尔其祗膺巽命。迓景福以咸绥。翊辅坤仪。荷鸿庥于方永。钦哉。

陛下の輿の後ろを歩くと言う甄嬛は、班倢伃以上だとお褒めの言葉。班倢伃は『瓔珞』の十二徳で学んだよ～。そういえば紫禁城の十二宮訓図の『班姫辭輦図』は永寿宮にあったのよね。甄嬛の住まいが永寿宮なのに掛けているのか？そして漢の成帝といえば……趙姉妹を寵愛した帝……ここで甄嬛の妹が宮中住まいとなるのは不穏。

皇后は「殿方の情は酒のようにあつく、女子の情は絹のごとく断たれることなし」と熹貴妃を祝う。

果郡王から贈られた珊瑚の腕輪に、甄嬛は「手中の珊瑚、愛でられず、遠くから眺めるのみ」。清 順治帝が寵愛していた董鄂妃に先立たれその悲痛を詠った詩。

呉偉業（清代）《古意》六首
珍珠十斛买琵琶，金谷堂深护绛纱，
掌上珊瑚怜不得，却教移作上阳花。

安嬪は声が出なくなった途端、妃嬪や太監たちから嫌がらせに遭うんだけれど、それがお清めだったり、古典的な煙の出る炭で、なんとなく呪術めいた安嬪ならではな感じで、ちょっとコメディにも思えてくる。いきなりこんな目に遭うとは、安嬪が宮中で皇后を頼ってしまった拠り所のなさも感じてしまう。とはいえ、止まり木としては適さない木ではあったよね。

６２話漢詩

前回の「無敵の貴妃」からの「貴妃包囲網」と、展開の早いことよ！それがこのドラマの面白さのひとつでもあるのだけれど。

冰嬉（スケート）は清の歴代の皇帝が愛し、騎馬射術と並んで代表的な文化と初めて知った。先帝の侍衛で冰嬉で高官に就いた人物もおり、太祖は冰嬉に長けており、戦場では馬より速かった。陛下も皇太子の頃、氷上の射術で腕を鳴らした。

安嬪が冰嬉している場面では、ジャンプする？イナバウアーする？とワクワクしながら見入ってしまった。それにしても安嬪は器用だよなぁ。その能力の高さと、出自で蔑まれるそのアンバランスさも、闇落ちする要因なのか。根性は好ましいけれど、いかんせん、過去の甄嬛に毒をもっているので、破滅の道をたどっているのが惜しまれる……。

中国時代劇ドラマでスケートを見ることができるとは思っていなかったので、この回はテンション上がった～～～！　清代宮中では年に一度の冬季行事だったようなので是非とも時代劇ドラマで再現して頂きたいが、いかんせんスケート、CGでも映像化するのは難しいのかな。華やかな氷上競技をドラマ映像で見てみたい。

冰嬉で検索すると色々興味深いのだけれど、中でも台北故宮博物館に所蔵されている乾隆帝時代の《冰嬉图》は有名で、この絵巻のように行われていたようだ。

▶台北故宮博物院《金昆等冰嬉图卷》

梅の花で、陛下が甄嬛と出会った頃の「北風に…心あるなら梅を散らすなかれ」を懐かしんでいると、すかさず崔道融『梅花』「香に格別なる趣あれば、清雅極まり寒さを知らず」と姉純元皇后を持ち出す皇后よ。そういや果郡王にも縁のある詩だったか。詩に「横笛」があるのが、ピロピロを思い出すよね。←ついにピロピロ呼ばわり

崔道融（唐代）『梅花』
数萼初含雪，孤标画本难。
香中别有韵，清极不知寒。
横笛和愁听，斜枝倚病看。
朔风如解意，容易莫摧残。

漢の趙飛燕が舞で成帝の寵愛を得た……『君花海棠の紅にあらず』でお馴染みの趙飛舞！息肌丸をへそに詰めて体内に吸収させれば、機敏に動け光り輝くような容貌を手にするが、流産を引き起こす麝香が入っており身ごもれない。鬧羊花は麝香を解毒する作用がある。趙飛燕には子ができなかった。史実文献にはこのような媚薬があるとされているらしいですね。なにかとドラマに出てくる趙飛燕……恐るべし。

再び安嬪は寵愛ゲット。床入りし掠れた声で歌う「江南で蓮を采る、蓮の花の何ぞ…」。こ、コワイ。陛下もヘッヘッヘッじゃないよ。そうか、安嬪の妖しいお香パワーを発揮するには、ともかく一度陛下を引き入れなきゃいけないワケね。

この詩をよくよく見ると、なんだか浮気性な魚さん……。蓮の花が妃嬪で、魚は陛下なの？　後宮復帰後、甄嬛が蓮の花壺を贈られて、あんまり嬉しそうじゃなかったのはそういう事かしら。

『江南』
江南可采莲，莲叶何田田，鱼戏莲叶间。
鱼戏莲叶东，鱼戏莲叶西，鱼戏莲叶南，鱼戏莲叶北。

川の南でもう蓮の実が採れましょう。蓮の葉はなんてびっしり生えたのかしら。さかなが遊ぶわ、蓮の葉の中に。
さかなが遊ぶよ、蓮の葉の東に。さかなが遊ぶよ、蓮の葉の西に。さかなが遊ぶよ、蓮の葉の南に。さかなが遊ぶよ、蓮の葉の北に。
川合泰三「中国名詩選上」2015年岩波書店

祺貴人、追求したのはさすがだが、相手がとんちんかん……。このドラマでは暗躍しているのに、どこまでもサンドバッグで不憫な温侍医……。

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