中国映画『無名』が2024年5月3日(金・祝)より日本で公開となり、見に行って来ました~。中国語名は电影《无名》、英語名は《Hidden Blade》。全131分。
梁朝偉(トニー・レオン)&王一博(ワン・イーボー)主演映画なのは気になりつつも、ジャンルはスパイ・ノワール。スパイ映画は好きだけれど、ノワールは気分がずうぅんと沈んで苦手……。
監督は程耳(チェン・アル)。
ムビチケをGetした
さかのぼること2023年12月22日頃、ムビチケ前売券(¥1500)が発売開始となりその人気ぶりを眺めていただけだったのだが、映像美な映画とも聞きこみ、これは映画館で見た方が良い作品なのではと、ムビチケを映画館へと買いに行く。
チケット売場には第一弾・第二弾どちらのムビチケもあり、つい第二弾の真正面ショットなイボ(王一博)にしてしまった。が、チラシも第二弾仕様だったので、第一弾のモノクロの方が主演ふたりも揃っていたし良かったかなぁなどとも思ったり。同じ絵柄の特典ポストカードももれなく付いてくる。
座席予約や入場特典など
上映館は、主にテアトル系やイオンシネマ系。
テアトル系は2日前からオンライン座席予約ができるが、結局直前に予約した。ムビチケを使うのは初めてで、購入番号とスクラッチを削って暗証番号を入れればスムーズにお買いあげ。あとはメールに届いたQRコードで入場するだけである。
いざ映画館へ。今回、前売り券を購入した事もあり、鑑賞前から期待が高まり楽しみであった。俳優人気もあり、関連グッズが多く販売される充実ぶり。見た時はアクリルキーホルダーなどは売切れていた、さすがの人気である。
テアトル系列館の限定ドリンクとして「信頼と裏切りのスパイ・ノワールジンジャー¥500」が販売されていた。ノワール色(竹炭パウダー)に染めあげたジンジャーエールとゴールド色のゼリーで表現し、ライチも加わっているとか。
シネマート系の限定ドリンクは「名も無きメロンソーダ¥600」で、チェキ風ステッカーが先着で付いてくるらしい。イボカラーである緑色にちなんだドリンクなのかな?
シアターは10分前から入場開始。
テアトル系の入場特典ポストカード(数量限定)も貰えました~。A5サイズと少し大きめ、デザインは3種のランダムで、この劇場では3人続いて入場すればコンプリできそうな感じ。この特典がなければもう少し後に見に行ったと思うので、特典効果はあると思われ。
テアトル系以外の上映館では、本国版ポストカード(数量限定)2種がランダムで、入場者に先着配布されている。こちらはトニーさまがレアカードになっているとか?
そして5月8日には、5月11日・12日にヒューマントラストシネマ有楽町で未公開メイキング動画(日本語字幕付き)を本編上映後に限定上映とのアナウンスがあった。あれま、もう観ちゃったよ。
シアターは椅子の座り心地も良く、スクリーンも見やすい。
テアトル系の上映予告映画は興味をそそられるものが多く、さすがのセレクションである。吉田修一原作の映画予告が続き、インパクトがある。
映画《無名》の時代
映画日本上映を迎え、SNS情報では時系列がバラバラというのと、1940年頃の中国史事情を知っていた方がいいとの事で、慌ててざっとおさらい。
歴史のキーワードとして、映画の随所に出てきた年代の文字は、1938年広州爆撃、上海、1941年真珠湾攻撃、1945年終戦、1946年香港あたり。
汪兆銘政権・蒋介石の国民政府・共産党・日本軍のスパイが暗躍。近衛文麿、石原派や東條派、杉山元などの名前が出てきます。感想はネタばれも含みます。
映画《無名》感想
映画が始まると大きい活字でスタッフの名前が続く。アニメ『魔道祖師』でも見かけたが、こういうのが流行りなのかしら。字幕翻訳は渡邉一治氏。中国語からの翻訳ではなさげ。
出てきた人物名を見逃さず頭に叩き込むぞと構えていたら、フー/何主任(トニー・レオン)に続いて出てきたのは周迅(ジョウ・シュン)ではないですか。おぉ、豪華~。イエ/葉先生(王一博)、トニーさんと短いカットが続く。この時点では何がなんやら。
部屋の名前が「あ」や「き」だったりして、「いろは」じゃなさげだなぁなんて思ったり。トニーさんなフーは汪兆銘派で、共産党スパイから鞍替えしようとしているジャン/張先生(黄磊/ホアン・レイ)のリクルートを担当しているようだ。
ノワールで映像美という事から、ほの暗く目を凝らさないといけない映像が続くのかと思いきや、思ったよりも明るく、クローズアップなショットが多いなという印象。
イボさん、笑ってるよ~、タバコで輪っか作ろうとタコ口しているよ~とそんな場面にも和み、とにかく佇まいが美しいしカッコイィ。クラシカルなスーツに髪型も決まってる。そして日本語も話してる!
思ったよりトニーさんとイボの絡みがなく進んでいくのね。
そして出てきた女スパイなジャン/江小姐(江疏影/ジャン・シューイン)だ! ハラハラする映画で見知った俳優さんが出てくるとなんだか安心するぞ。赤い衣装も映えて綺麗。この縁でジャンからフーに渡された上海の邦人要人リストが効いてくるワケですね。
イボの返り血プシューもあったり。
イエの元婚約者 ファン/方小姐(張婧儀/チャン・ジンイー)は共産党系で、労働者か知識階級に嫁ぐわと言っているが、この頃はそういう感じだったのか。イボの顔がとにかく小さいし、ファンの顔を鏡に映していた演出が良かった。ファンが座って何をしていたのかよく分からなかったが、踊り子さんだったの?女優陣が美女揃いで見ていて楽しい。
イエがワン/王先生(王傳君/エリック・ワン)の言葉から察して、表情が変わっていく様子が迫力あって鬼気迫る。中性的な佇まいで静かなんだけれど、感情を爆発させる内面に熱いものを抱えている様子から、なんとなく「玉」を連想した。白くひんやりとしているけれど、手にしているとぬくもりが伝わる感じ。
いろいろな言語が話されており、普通話(トニーさんが普通話を話してるよ)・上海語・広東語・そして噂の聞き取りにくい日本語である。いまだ慣れない中国作品に突如として出てくるこの日本語イントネーション、始まったのはどの作品からなんだろう?
芸妓に関しては断ったり裾捌きがちょぃ気にはなるが、まぁ演出もあるだろうしね。
井戸から兵隊と村人の一連の場面は最も苦手なパート。セメントの辺りはもはや薄目にしてました。
引きの悪い軍人さんは公爵の息子、で邦人リストから狙われたという事で合ってるのでしょうか。それで交渉にも現われず決裂したと?
見終わったあと、映画の感想巡りをしていたら、タン/唐部長(大鵬/ダーポン)周辺の理解が手薄になっていたことに気付く。タン部長とフーは従兄弟同士のようで、最初の方で日本人将校 渡部(森博之)が会話で「イトコ」と言う場面では、「従兄」と変換できず「糸子?」なんて思って聞いていたよ。
ワンのあの流れの動機がいまひとつ掴めずにいて、いろんな感想を読んでいたら益々混乱してきた。様々な捉え方ができる映画なのか、ネットサーフィンすればするほど頭の中がとっちらかっていくので、映画を見て感じるのが一番なのかな。
チェン/陳小姐(周迅)が「夫がいる」と言った時点で、繋がりが見えた。残るはホントに夫婦なのかどうなのか、という疑惑だったが、フーと抱き合うチェンの様子を見て、思いが伝わってくる抱擁だったのが印象的だった場面。なんとなく『花様年華』を思い出したよ。
フーとイエとの格闘場面は迫力満点で見応えがある!そして痛そう~。
渡部がイエに満州の地図を見せた所で、あ、これは……と。渡部は序盤で、味方と敵の見分け方を口にしていて、イエはそれに合格したのね。わりと渡部は理想肌な青年将校風よね。
主要な登場人物は生きていて欲しい派なので、実はチェンは生きてるとかないかな~、とうっすら期待しながら物語を追っていた。
トラックの荷台からあおるイエの場面も印象的。
フーとイエの格闘や荷台の辺りが映画の中で一番盛りあがっていただけに、イエの正体がわかった時に釈然としない思いになる。だましあいはスパイには常套手段なのだけれど、映画のクライマックスが芝居となると、なんだかなぁ~。それが二重スパイなんだと言われればそれまでなんだけど、映画の脚本としてはちょっとズラされた感じ。
監督インタビューで、格闘場面では第三者の視点カットが挿入されており、監視下であったことが述べられている。また冒頭にフーがいたのは牢獄で(そうだったのか)、フーの仕組んだことだったことと述べられている。また荷台を見送るフーの表情の移り変わりもそれを示しているという声も。イエが荒れた件は渡部には伝わらなかったのね。2024.5.13追記。
戦後の香港でチェンや、レストランの娘さん(徐婧荧/ワンの妹)が出てきて、あ、無事だったんだねという思い。香港へ来た年について嘘つく必要……きっとあるのね。家族を問われ、無言なイエ……。
ナポレオンケーキ店も健在なの? この店主は誰だっけ? まだまだスパイ活動は続いている、という事なのか?
劇中に出てくる食べ物は、コーヒー・リブ(蒸排骨)・ナポレオンケーキ(拿破仑蛋糕)・酔っ払いエビ(醉虾)など。見ているとブルーベリーなナポレオンケーキが実に美味しそうで食べたくなるよ。蔡嘉(Mr.Choi)という上海や杭州で展開しているスイーツ店のもので、蔡嘉金牌拿破仑と言うらしいです。上海へ行ったら食べねば。
それにしてもなぜナポレオンケーキなのだろう。ちなんでいるのはフランスのナポレオンなのか、皇帝なのか。
映画冒頭ではイエはワンの朝食をシェアしていたけれど、最後はおひとりさまだったのは、敢えての演出なのかな。
元婚約者のファンがイエの服装について文句を言っていたり、イエのネクタイ柄が変わっていたり、渡部に軍服を脱いではいけないうんぬんと言っていったことからも、衣装=役割なんでしょうか。
あと最後、ワンがイエにファンについて「她是共产党」と言ったあとに、イエが身分を明かすところ。そのものズバリでなく、イエの志にできなかったのかなぁ。大切な婚約者にも言えなかった身分ではなく、そうまでして守りたかったもの、みたいなのをあの場面で言ってほしかったな。
……などと思っていたら、中国語字幕の台詞は「我也是」だったと知る。それならば「私もだ」で良かったかも、な。
……などと思っていたら、この最後の台詞の字幕が、ブログ「星の小兔 月の小獅子」の星月夜さん情報では、所属名ではなく「俺もだよ」になっているのだとかっ!(驚)こんな短期間に字幕が変更となるのがビックリな出来事でした。映画公開後に繰り出される上映会やグッズ展開だけでない手厚い対応がスゴいなぁ。2024.5.23追記
イボがエンディング『無名』を唱っている。今も頭の中をグルグル流れてます。
クレジットの声優監督に路知行の名前があった~。
『慶余年』范閑パパな高曙光の名前もあったんだけど、どこで出演していたんだろ?
犬についての考察
映画に出演している俳優名を調べていたら、エンドクレジットで俳優名に役名が載っていないのにも関わらず(無名ですから)、犬には出演犬の名前に添えて犬種がワザワザ記載されているのが気になった。
犬たちは映画前半に出てきて、かなり印象に残っている場面。
柴犬(小柴):日本犬。軍用機に同乗している犬は、ルーズベルトと名付けられ日の丸を背中に背負っている……。
パイロット仕様でゴーグルまで着用しているのがカワイイけど、同乗と言いネーミングと言いなんのシュールか。
映画では広州攻撃の際、飛行機で共に海に墜落したとあり、ルーズベルト(アメリカ)と決裂して、もろともに太平洋戦争突入という意味なのだろうか。
1939年7月にアメリカは日米通商航海条約破棄通告をしており、広州爆撃の頃と時期的に合致している。これにより石油や鉄などの経済制裁を受け、その後の戦況にも大きく影響を与えた。そしてルーズベルト大統領は原爆のマンハッタン計画・無条件降伏のカイロ会談・ソ連対日戦線のヤルタ会談・急逝して副大統領のトルーマンが大統領となる……となっていくのだ。
キャバリアキングチャールズスパニエル(査理):イギリス犬(查理王)。こちらは取り残されてしまったのでしょうか。空襲で崩れた建物の中、びっこをひく犬は兵隊に追い払われ、この場面はツラい。見ていた時は敢えて人間でなく犬で表現したのかな?と思ったりしていた。
犬種の査理王は、その名の通り、イギリス王チャールズⅠ世,Ⅱ世に愛されたのが由来な狩猟犬。広州でのアロー戦争を含めたイギリスにまつわる歴史もあり、また1938年頃よりイギリスは蒋介石の国民党に財政的支援を行い、1939年にはイギリス租界封鎖の天津事件が起こっている。
イーストジャーマンシェパード(大宝):ドイツ犬(东德)。監獄では猛烈に犬が吠え立てている。
犬種の名の通り、ドイツも表わしているのか? 映画のどこかで羊も出てきたハズ。シェパードは元々牧羊犬なので、羊を追い立てる……ということでもあるのか。映画では羊肉を食べていた人たちもいましたけど……。
これは余談だけれど、イーストジャーマンシェパード自体は、旧東ドイツが開発した軍用犬、ソ連がベルリン侵攻の際に手に入れたナチスの軍用犬繁殖書を元に、戦後にソ連がチェコで繁殖し訓練した軍用犬でKGBが用いたとか(中国サイト)、なんせネット情報なので真偽がよく分からないのだけれど、いずれにしても戦後作られた犬種というのがちょっと驚きだった。
犬と主人、スパイと政権という関係性もあるのでしょうか。
犬については様々な捉え方ができそうなので、いろいろな意見を聞いてみたいところ。
……と思っていたら、監督がインタビューで語ったものはもっと直裁的でした。……私の記事ではよくある深読みなんですけれど、歴史背景を知る意味ではいいかなと記述は残しておきます。2024.5.13追記
程耳:第一只狗我觉得还是挺动人的,本身就瘸了一只腿,它其实是影射那个年代,大家都是那样;飞机上那只狗是叙事的功能,后来大家都知道原来这个人是飞行员的弟弟;最后当汪政府树倒猢狲散的时候,有一只狗是表明他们完蛋了,就剩下一条狗;监狱里那些狗就是一种比较真实的存在,就是提供一种氛围,纸醉金迷和鲜血淋淋是并存的,那个年代可能特别不一样的一点,就是它是最纸醉金迷的和最刀光剑影的,它是在两个极端。
▶程耳淡《无名》
中国サイトです
登場人物のモデルについて
映画はスパイとして活躍しつつも、名も無き人物の物語なので、登場人物に名のあるモデルを挙げるのは趣旨が異なるのかもしれないが、歴史を理解するにはとっかかりとなりそうなのでメモとして残しておきます。
イエ(葉先生)は汪錦元、タン(唐部長)は周仏海、ジャン(江小姐)は鄭蘋茹がモデルとされているというのを見かけた。
ちょっと気になったのは、メガネをかけた日本兵な華族 公爵の息子。大山公爵(佐佐木智大)で、葬儀の場面で出てくる家紋は、陸軍大臣 大山巌の家紋である「丸に隅立て四つ目」なのだ。なんとなく四菱っぽくて気になった家紋。
大山巌は日露戦争で満州軍総司令官を務めた人物で、この時代の大山公爵となると、次男 大山柏で陸軍にも所属し、妻は近衛文麿公爵の妹ではあるのだが、戦後まで存命でいらして考古学者でもあり、モデルというワケではなさそうだ。
あとは大山事件という、日中戦争で大きな岐路となった出来事があり、それにもちなんだのだろうか?
ちなみに上述した鄭蘋茹は近衛文麿の息子である近衛文隆と親しくなった、という歴史もあるようである。
家紋入りの葬儀が印象的だったので、歴史を考えると満州進出の終焉を表しているのかなとも思ったり。葬儀は白が基調な中国モノの中で、黒というのも目をひいた。2024.5.22追記
★ ★ ★
俳優陣が素敵だった!表情に魅入ったよ。
映像も美しかったけれど、字幕と日本語聞き取りに追われた感はある。
けれど、やはりこの時代はツラいなぁ。
見た直後はどっと疲れてしまった。
ノワールもあるだろうけど、この映画に関しては戦争映画も入るような。
スパイ映画なので、己の信条が表わされているのかと思いきや、意外と個人の情が伝わってきて、任務と名も無き人々の情のはざまが描かれていた。
そしてスパイものだからこそ考えれば考えるほどに、実際はどこに所属しているスパイなのか分からなくなってくるのは、映画のコピー通り「信じるか、裏切るか、究極の心理戦」だからか。
トニー・レオンのにこやかでいて深みのある存在感と安定感、イボのひんやりとした美しさ、女優陣の華やかさが残っている。
中国映画がコラボなどを組まれて、大々的に日本で展開しているのを見ることができた、というのも感慨深い映画であった。
イボはこれから『ボーントゥフライ』『熱烈』日本上映が続くし、トニーさんもまたスクリーンで見たいな。
まだまだ映画「無名」はつづくよ
映画『無名』は公式さんがいろいろと展開しているし、ロングランにもなっているしで、その盛りあがりを眺めているのも楽しい。
そんな中、日本人将校 渡部役の森博之氏のインタビューがとっても興味深かったのでリンクしておきます。来歴や渡部を演じる上でのモデル、また共演者について話されています。トニーさんが気さくなおじさんから撮影に入ると一変するというのもその深みを感じるし、イボは3日前に日本語台詞の指示が飛んだのか……。そして渡部がジャンに恋愛感情を抱いていたのをこの記事を読んで知る……そうだったのか。やはり一度観ただけでは気付かない事が多い映画だ。
こういう中国で頑張る日本人俳優の話、もっと聞いてみたいですね。2024.6.14追記
▶映画ナタリー「国境を越えて活躍する日本人⑦ 森博之」
外部サイト
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