笛の音と琴の調べ

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映画 西湖畔に生きる,草木人间感想レビュー/呉磊,願暁剛,將勤勤

第36回東京国際映画祭が2023年10月23日(月)~11月1日(水)まで東京日比谷にて開催され、コンペティション部門で映画『西湖畔に生きる』が公開された。全115分。

ワールドプレミアでもあり、中国でも上映されていない中、日本で初公開なのだ。アニメ『天官賜福 貳』と言い、なんだかそういうのが増えているね。

監督:グー・シャオガン願暁剛)、映画祭でも黒澤明賞を受賞した。
プロデューサー:陳彩雲(チェン・ツァイユン)。
脚本:願暁剛と郭爽(グオ・シュアン)。
撮影監督:郭达明(グオ・ダーミン)、《皮绳上的魂》。
音楽:梅原茂、『それから』『花様年華』『不夜城』『2046』。


グーシャオガン監督の前作でデビュー映画でもある『春江水暖』はカンヌ映画祭批評家週間でクロージング上映され、第20回東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞してかなり注目された作品。私は見ていないが、公式サイトで『富春山居図』や漢詩も紹介されており実にわかりやすかった。

映画「春江水暖」公式サイト

 

今年の東京国際映画祭はコンペ部門でもワールドプレミアが増えているような? 中国映画も今年1月に映画局のトップが変わり、許可が通るようになっているのだとか。

中国語タイトルは『草木人间』であるも、英語タイトルが『Dwelling by the West Lake』だからか、それが訳され日本語タイトルは『西湖畔に生きる』となっている。dwellは「住む」の文学的表現で、根付くという意味もあるとか。

映画祭のQ&Aで監督が、中国では【茶】の文字は【人在草木間】と言われると紹介し、確かに【茶】には、くさかんむりの【艹】と、木な【ホ】の間に、人な【𠆢】がある。

映画の撮影時期は、杭州にて2022年3月15日~2022年11月7日あたり。ちょうど一年前に撮影していたんですね。

西湖畔に生きる

映画のメインビジュアルは緑の中、ウー・レイ(呉磊)が自転車に乗っており、舞台は杭州とお茶という情報より、お茶農家に起こる世相のあれこれなのかと思っていたら、直前になってマルチ商法にハマる母と子の物語と聞き、しんどかったらどうしようかと案じていた。

実際はマルチ商法に切り込みつつもどこかコミカルに温かさも感じられ、監督さんのテイストなのでしょうね。とにかく自然が美しい!人間の業が渦巻くもどこか優しさが滲んでいるのが良き。

モチーフは『目蓮救母』で、釈迦の弟子である目蓮が、餓鬼界の母を救うという説話なのだとか。母親が餓鬼界に落ちたのは諸説あるようだが、要は持っているものを請われても人に分け与えずにいたからなようだ。

感想レビュー

さて、ここからはネタばれを交えつつの感想レビューです。

深い緑の山が映し出され、山の神を起こすべく山の茶畑に茶摘みのライトが光るさまが、はかない蛍の点滅のようで美しい。
その山向こうには西湖、そして大都会の杭州市。

山深い森に自分の木を持っていて、亡くなると切り倒す、というのがなんだか良いな。
森の中を走るウーレイくんなムーリェン(何目蓮、ウーレイくんと自転車って似合うよね。

ジアン・チンチン(蔣勤勤)なタイホア(呉苔花はここでも夫が失踪……夫は任雪堂か?と思うのは、ドラマ『清越坊の女たち」の視聴真っ最中だから。そして銭さん陳建斌)は蔣勤勤の夫だったのね。映画の艺术指导でもある。

一方、ムーリェンは今でも父を慕っており、母 タイホアの再婚にも反対している。名前表記がカタカナだったので、父が彫ってくれたというムーリェンの木彫りのペンダントもよく分からなかったが、そうか「蓮」なのかと、母の名前の苔花と牡丹のくだりで気付く。


ムーリェンは大学を経て就活をしており、住み込みに誘われるが月5~6千元。日本円だと10~12万あたりか……。ムーリェンへの「父親を探しているのか?」から「父親になろうか」には笑いが出ていた。

タイホアがムーリェンにまだいもしない未来のお嫁さんへの思いを語る場面、時代劇ドラマではよく見るけれど、現代の中国でも農村地帯にはよくある考えなんだろうか?

西湖は龍井茶の名産地で、龍井茶は緑茶で、葉を干した後に発酵させずに釜炒りするのが特徴である。その工程を映画でも動画紹介していた。

タイホアの交際相手は雇い主である製茶業の主人で、その母や娘が怖いと言っていたら、いきなりその母親に怒鳴り込まれ仕事も解雇され……。
そんな苦境に陥ったタイホアに、マルチ商法の魔の手が迫る。

タイホアがマルチ商法バスツアーへ出かける一方で、息子のムーリェンは薬屋で高齢者詐欺の仕事に関わっているという、この対比がなんとも効いている。
高齢者への勧誘の極意は、「寄り添う」に「恐怖」と説明付き。

案内役の万晴王佳佳)や董万里閆楠)に煽られ、狂乱のマルチにハマっていくバスのご一行さま。孫悟空には人脈があったと力説されているよ。

ハイテンションになった周囲の人たちが足裏シートをガンガンお買いあげしていく中、母のタイホアは及び腰だったけれど、万晴の息子とおぼしき若い男性が出てくると、タイホアに刺さってしまったよ~。母をマルチ商法に転ばせたきっかけが、息子のムーリェンを思ってというのがやるせない。

その人物のなにかに触れるとハマっていくんだなぁ。映画ではマルチ商法ではあったが、なにかにこだわったり執着する過程にも似て見え、思い当たらなくもない。

周りに行為を承認され、多く購買する事が自分の価値を上げる事のように思えるだろうし、何もしないでいると勝手に取り残され感を感じさせられるというジレンマ。


それまで素っぴんだった母 タイホアが、いきなりきついパーマに厚化粧で出てくるのには会場からも笑いが出たが、美人が化粧すると映えるよなぁ、とも思ったりする。実際のところ、相当な美男美女の親子なのよ。

母 タイホアと息子 ムーリェンが舟に乗り語らう場面も情緒がある。

マルチ商法だと言うムーリェンにタイホアが在庫の山を見せるところはある意味狂気でホラー。「妈/母さん」とウーレイが必死にマルチ商法だと訴える様が胸に迫り印象深い。

タイホアが「稼げなくても幸せなの!」と言う姿に、そうか、本人は半分わかっているし、幸せなんだなぁとしみじみ考え込んでしまった。

警察に訴えても取り合ってもらえず、証拠集めにとムーリェンはバタフライ社の集まりに潜入するのだけれど、ガンガン仕掛けられる洗脳に染まるのではないかとちょっとヒヤヒヤ。

そして雨の中のタイホアの叫びはアクセル全開であり、かなり激しいのはお国柄なのか。それが中国ドラマな演出に見え、タイホアが「本当の自分」と叫ぶ事もあり、『明蘭』の秦氏の姿と重なった。あの息子(顧廷煒)は井戸に閉じ込められていたが、ムーリェンくんは母を救うべく戦う。

バスツアーの司会をしていた万晴がついにボスとなり1080万元を受け取れる段となるも……と、真相に辿り着く場面から、タイホアをバスツアーへ連れてきた女性が混乱しており、タイホアを騙していたワケではなかったのかとどこか救われる思いもする。1080万は2億位か。


正気でなくなったタイホアを、山へと背負って連れて行く息子 ムーリェン。転んで指をグサッは痛そう……。

深い森の中、獰猛な獣のうなり声に、「今、日本で話題の熊が出たか?」と思ったら、虎でした。そうですね、仏教の仏陀と言えば虎で捨身飼虎ですものね。インドのあの辺りは熊っていないのかな?あんまり熊の説話って聞かないなぁ。

大いなる自然が癒してくれた、というスピリチュアルな感じでしょうか。
タイホアと交際していたご主人も、ずっと寄り添ってくれているのがちょっと救い。
それにしてもウーレイくんはなぜに上半身を見せて自転車漕いでるのかしら、サービスショットかしら。

中国で《草木人间》が公開され、映画の舞台挨拶(鄭州市3/26)で呉磊がこの場面について説明。ムーリェンがタイホアを森へ連れて行った後なので、上半身裸なのは「再生」であるのだとか。2024.4.20追記

ムーリェンの父もお寺で生存しているようで、性癖を越えたのか、いまだ抱えているのかともよぎってしまったが、明るい先行きを感じさせて映画は終わる。


とにかくタイホアなジアン・チンチンが熱演しており、その熱量に圧倒されつつも、そんな母親をなんとかして救おうと寄り添うムーリェンなウー・レイの真っ直ぐさが清冽でもある。

マルチ商法の会社の名前はバタフライ社。
タイホアが肩についた毛虫に触れる場面が二度ほどあり、毛虫から蝶になる、という意味合いも込めているのか。

タイホア(苔花)の名前は漢詩由来と思われ、タイホアの生き様を感じさせる。

袁枚(清代)『苔』
白日不到处,青春恰自来。
苔花如米小,也学牡丹开。

春の暖かい陽の光が差込まない所でも、生命は芽吹き、苔が緑に生い茂る。
苔の花は米粒のように小さくとも、高貴な牡丹と同じく華やかに綻ぶ。


マルチ商法の場面は爆竹や大鑼がガンガン鳴らされるかのようにけたたましく、また視聴するのはしんどい気もするが、自然を映し出す映像は美しいし、演技もじっくり見直してみたいところ。日本での映画公開の予定もありそうだし、WOWOWで放映しそうだよね。

クレジットに山水図第二巻とあり、第三巻はどの方向へ展開するのか次作も気になる監督作品。


今回、東京国際映画祭の動画などを見ていて、ウーレイくんが監督や出演者たちと映画祭を楽しんでいる様子がなんだか好ましかった。
長歌行』や『星漢燦爛』で見ていた呉磊は前髪をあげていて怜悧で厳しい顔をしている事が多い将軍役(ヒロインにだけは格別)なのだが、私は髪をおろしたふんわりウーレイくんが好みなのだなと今回で気付く。ギャップ萌えもあるのかな。

丁度、実年齢も23歳と、映画の設定と同じ位。古装もイイんだけど、この年齢でしか演じられない現代役も見てみたいな。

 

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