中国ドラマ『清越坊の女たち~当家主母~』がBS11にて2023年10月9日より毎月~金1話放送で始まった。全35話。
于正作品ならではの崑曲が出て来たのでメモメモ。やはり于正は『牡丹亭』が好きなんだなぁ。商細蕊@君花海棠が出て来てほしい位だわ。ドラマは清代の乾隆帝の時代なので、いるハズもないんだけど……。
1話の崑曲
仁雪堂(徐海喬)がうっとりと曽宝琴(楊蓉)『三体』慕星、『玉楼春』孙有贞 の崑曲を聴いていると、沈翠喜(蔣勤勤)映画『西湖畔に生きる』苔花、『海上牧雲記』南枯皇后 が乗り込む場面。徐海喬、どこかで見たようなと思っていたら『夢華録』の欧陽旭さん……。
「夢から醒め鴬はさえずる。春の陽光が辺りを照らす。美しきかな。小さな庭の奥深く立つ人あり、灯が尽き煙がくゆれば、織り糸を投げ出す、今春に抱く想いは昨春と同じく変わらない」
《牡丹亭 惊梦》第十出
梦回莺啭,乱煞年光遍。人立小庭深院。炷尽沉烟,抛残绣线,恁今春关情似去年。
晓来望断梅关,宿妆残.你侧着宜春髻子恰凭栏.剪不断,理还乱,闷无端.已吩咐催花莺燕借春看.云髻罢梳还对镜,罗衣欲换更添香.
2話の崑曲
白木蓮を見て、久しぶりに仁雪堂が曽宝琴に会いに行くと、曽宝琴が唱う。
「昨夜の夢で書生に出会った、あのお方は私に柳の枝を贈っては、詩を詠めと言う。歓会を強いられた時のことは話せば長くなる。あのお方はいずこの家のお方かしら。見目麗しい青年だった。遠くより近寄り来ては誘い出そうと試みる。深閨にいるこの私を」
《牡丹亭 寻梦》第十二出
杜丽娘(白)昨日梦里,那书生将柳枝来赠我,要我题咏,强我欢会之时。好不话长也。(嘉庆子)是谁家少俊来近远,敢迤逗这香闺去沁园,
3話メモ
曽宝琴が語る、清代の妾についてが興味深かった。
深紅の衣装、牡丹の髪飾りを付けられない。
正門から輿入れできない。
婚礼で夫と拝礼できず、夫と正妻に跪く。
毎朝正妻に挨拶。
正妻の許しなく両親に会えない。
食事は夫妻が座る傍らで正妻のお世話。
共寝は多くても5日に1度。
大変だゎ……。
沈翠喜が妾の館に、扉を付けてあげていたのにちょっと安堵する。
4話
長老という名の三叔父、五叔父、七叔父たちが早速やって来た時の部屋の扁額は「光前裕后」。
なんとなく『明蘭』の叔父たちを思い出してしまうけれど、秀山を抱きたそうな叔父上には和んだ。
5話の漢詩
李照が赤子の服を見ながら言う「慈母の手には針、子の衣を縫う」。『孤城閉』でも出てきていた漢詩。
孟郊《游子吟》
慈母手中线,游子身上衣。
临行密密缝,意恐迟迟归。
谁言寸草心,报得三春晖。
お役人の曹文彬、「喜上眉梢」を気に入り持ち帰る……というより、情報と引き換えに好き放題なような。侍女の巧児は「万年如意図」が完成したと言うが、やり直しさせられている。
沈翠喜は「富貴錦鶏図」に取りかかる。
曽宝琴は趙昌の「杏花図」を織る予定。花は雪のように白く凛とした趣がある。趙昌は北宋の著名な画家で、「杏花図」は台北の故宮博物館所蔵。曽宝琴も織ることができたのか。
七叔父は任如風(李逸男)《泡沫之夏》西蒙、《河神》黄玉に「家和して万事成る/家和万事成」と忠告。
6話漢詩
沈翠喜と曽宝琴が対決している場面での扁額『言物行恒』。
《周易 家人 象》
风自火出,家人,君子以言有物而行有恒。
出典は『易経』で、易经64卦の第37卦 風火家人。
解釈を当てはめると色々と面白く、中で「女性が中心となって家を守る。上が長女、下が中女で、ふたりは仲が良く本分を守り互いを補い合う」とあったのが興味深かった。
楓泊坊は「新韶如意図」。こちらは『缂丝新韶如意图轴』で故宮博物院所蔵とあり、乾隆帝時代の刺繍作品。献上されたのね。
沈翠喜の「富貴錦鶏図」は、故宮博物院所蔵の『刺绣牡丹锦鸡图轴』と似ている。
▶缂丝新韶如意图轴 - 故宮博物院
▶刺绣牡丹锦鸡图轴 - 故宮博物院
(中国・故宮博物院への外部リンク)
杏は幸せを呼ぶ意味があるらしい。
戧色法は任家の先代は息子である任雪堂にのみ教えており、それが曽宝琴に伝わった。任家に一途に仕えている沈翠喜には切ない話……。
離れでは沈翠喜が「荘生の暁夢は胡蝶に迷い、望帝の春心は杜鵑に託す」と詠じながら、古そうな蝶の図柄を愛でている。
李商隐(唐代)《锦瑟》
锦瑟无端五十弦,一弦一柱思华年。
庄生晓梦迷蝴蝶,望帝春心托杜鹃。
沧海月明珠有泪,蓝田日暖玉生烟。
此情可待成追忆,只是当时已惘然。錦の瑟、なぜかそれは五十絃。絃、琴柱、そのひとつひとつから、あの麗しい日々が蘇る。
荘子は朝の夢で蝴蝶と化した自分にとまどい、望帝は杜鵑に身を変えて春情を吐き続けた。
蒼海に月の光が明るく降りそそぎ、真珠は人魚の涙を帯びる。藍田を日の光が暖かく照らし、玉から煙が立ち上る。
この思い、いつか振り返ることができるだろうか。その時、すでに定かでなかったこの思いを。
川合康三「中国名詩選 下」2015 岩波書店
7話刺繍図
任如風と林舒芳(張慧雯)が生糸の相場について話している場面の扁額は「黨堅勢威」。団結して勢力を強めるの意味。林舒芳は『琅琊榜弐』の林奚だ。
李照の回想で、若い曽宝琴が白木蓮の中、微笑んでいたから、横恋慕な思いもあるのか。
任如風を救うために蘇州知府である曹文彬に贈ったのは、家宝である明代の「粉紅地双獅球路紋錦」。数百年前の宋錦で織りが精巧で色鮮やか、獅子も生き生きとしてかわいらしい。物事がうまくいくようにと願いをこめた縁起のいい紋様。
曹文彬の部屋の扁額は「惇信明義」だけど、少し物陰になっているのは、そうじゃない、という意味なのかしら。
任如風が沈翠喜に誓いを立て令牌を返した部屋の扁額は「凝祥聚瑞」。南宋の馬遠の「十二水図」を捜すようにと頼まれる。異色双面緙の技法を求める戦いになるのかな。
令家の男性陣は商才がないのか、叔父や任如風も実権を取りにこないのね。
丁栄(汪汐潮)がしれっと蘇州の領織になり、どうなっていくのやら。しかも丁栄は『君花海棠の紅にあらず』のイケズな姜登宝じゃないの。
(つづく)
最初は正妻と愛人がドロドロとやり合うのかと見るのも迷ったが、崑曲が割と長めに流れたのでそれを目当てに視聴継続。
ふらふらしていた夫が行方知れずとなり、正室である沈翠喜が離れに扉を付けようと提案したあたりで、なんだか筋の通ったヒロインなのかしらと頼もしくなり、ちゃんと見始めた。
ドロドロした場面は回想でなされ、商売ドラマが中心となっているので、比較的スッキリと見ることができているような。主人公である正妻な沈翠喜を応援しているけれど、曽宝琴側に立てば幼なじみとの愛を貫くも子を奪われており、気の毒な立場ではある。
実在する国宝級な刺繍絵が紹介されるのが大変好み。『瓔珞』でも藤豆と蜻蛉の刺繍が登場していたし、ドラマに出てきた文物を見てみたいなぁ。
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