13話の証拠
20年前、范淵は奉興按察使司照磨で、奉興各府の会計や税を監査、吏部主事である李世達は官吏を監察していた。人頭絹布税である銀3530両は、仁華県が徴収して金安府に届けたあと、省城の戸部へと送られる。仁華は附郭県ゆえ金安府と庫房を共用しており、手続きを行うだけで実物は庫房から動かされないので横領できたのだった。
帥家黙の父 帥敦誠は大地主の田畑を測量する際、面積を狭める見返りを貰っており、それが横領分とすり替えられていた。
帥敦誠は范淵に「算術は間違いが許されない。間違えたらそれを認めて正します。私は息子にそれを教えたい」と話す……と酒を渡される、アヤシイしかないお酒。
『絹布全書』は帥敦誠が記録した20年前の土地取引の明細で、実際の面積と登記面積が異なり、面積が狭められると隠田となっていた。20年前は嘉靖38年で、先々帝のこと。
嘉靖38年7月、同陽の費家と趙家が土地を売買。実際の面積は120畝だが、魚鱗図冊には110畝と登記し売買額は600両、保管されている契約税の記録と魚鱗図冊で照合できる。田を売った費家は馬文才の母親の実家、田を買った趙家の叔父は経学で名高い趙好古。8月には科挙が行われ、奉興の試験管は先ほどの趙好古。相場は1畝 10両のところを、5両5銭足らずで売買。
架閣庫で書いた数字を、幼い息子 帥家黙に間違ってると指摘され、父が不正に荷担するのを止めていたのが心痛むね……。幼い帥家黙はお酒を飲みたがったが「大人になったら父さんと飲もう」と言われ、むくれて外へ出ていったのが、火事目撃に繋がったのね。お酒は毒かと思ったら、眠り薬だった。毒だったら検視で出てしまうか。
14話最終回感想
処罰される程仁清が豊宝玉に扇を渡し、清々しい晴れやかな表情で去るのが印象的。
方知県が架閣庫を焼いた張老吏をかくまっていた。程仁清、乱闘騒ぎ~で絹布全書が焼かれてしまう。帥家黙は気絶したまま。
范淵は江南の郷神について言う。
奉興の松江/徐閣老の徐家:24万畝
嘉興の袁家:20万畝
銭塘の許家:18万畝
余姚の虞家:17万畝
仁華の武公塘下69号、
帥家黙は「これでやっと算術の問題に戻った。目の前の問題さえ解決すれば一件落着だ」と。
推歩聚頂の術。
縦と横に縄を引っ張り、原点からの距離を記す。田の頂点の位置をそれぞれ測り、計算すれば面積が出る。
牵经纬以衡量,再点圆初标步长,田形取顶分别数,再算推步知地方
龍に乗った成人 帥家黙が、父と酒を酌み交わし、帥家黙の顔がくしゃっとなる表情が印象深い。
あの方知県が収穫を手伝っているよ~。
県税は下がり、馬文才、毛攀鳳、宋仁は都察院で審理。鹿飛龍は流刑。范淵は田畑を没収、人頭絹布税は仁華県のみ1000両、残りの2530両は范淵の田畑で充当。
姉と程仁清も良い感じ。帥家黙は猫と旅立っている。
(完)
翻訳:コンテンツセブン
ドラマ完走記
明代の税制や訴訟を描いたドラマで、テンポ良くコミカルに進んでいき、「3530」の謎解きに興味がそそられた。
序盤、さほど区別の付かない官吏たちの中、初めは憎たらしい程仁清が陥れられた背景が見えた辺りで、登場人物たちが立体的になる。
丁度、ドラマ『宮廷の諍い女』で後宮の熾烈なレースを見ていることもあり、地方官吏の諍い男とでも言うべき、出世レースが展開されていた。
方知県と毛知県は同じ知県でも出身の背景が異なるために、寄らば大樹とばかりに毛知県が范淵に加担している様子は、『宮廷の諍い女』で出自の低い安貴人が、皇后の手先と化している姿を思い出す。
劉知県も算術に詳しいことから、帥家黙を応援する気持はあれど、味方はできないという辺りが、宮仕えのツラさといった辺りか。
中央官僚の争いはドラマ『孤城閉』などで見聞きしていたが、地方官吏を描いたものはあまりなく、ドラマ『夢華録』などおおよそいばっている事が多い彼ら地方官吏の悲喜こもごもがうかがえ興味深かった。
帥家黙が何度も上訴する中で、その動機を何度も問いただされる。
帥家黙の背景には、父の汚名と両親の不審死があるので、それを晴らしたいがためと言えばそうなのだが、帥家黙自身の特性もあり、あくまで数字を正したいという事になっていた。
そんな帥家黙の訴えを、周囲の人たちは自身の立場や思惑で、拒絶したり受理していくワケだが、その中で、人というのはそれが正義であっても職務であっても、何がしかの思いがあって動いていくのだなと実感した。
物語自体はなんせ主人公は算術しか関心がなく、時折過去の記憶がフラッシュバックすると倒れ込み、その間に周りが解決に走るため、弁論はもっぱら程仁清か豊宝玉頼みなのよね。
最終回自体はあまりスカッとしなかったのは、取り扱っているのが税なので、きちんと測量されたとしても、実際に民の暮らしが楽になったのか定かでないという要素が大きかったのだろうか。范淵の田畑を没収しても、他の隠田は存在しているワケだし、そもそも税率の設定はどうなっているんだという思いもする。
馬文才が審理されても、程仁清が科挙を受けることができるようにならないし、帥家黙の両親も帰ってはこない。
そんなこんなで、利欲に満ちた人たちの中で、私心のない帥家黙が中心となり、皆が巻き込まれていく、というのは昔話の物語ちっくでもある。
周りがどんどん変わっていく中で、豊宝玉が案外、デキるヤツだとか、程仁清とお姉さんとイイ感じとかよりも、なによりも印象的だったのは方知県!
石像呼ばわりされていたのが、たまたま民衆から褒めそやされてその気になり、協調していた他県からないがしろにされた感で足並みを揃えなくなり、ついには民と共に収穫までしているという!
ドラマ『ロングシーズン』での沈棟梁役のイメージが払拭された侯岩松であった。
ドラマの時代背景
ドラマの年代は第13話で語られており、嘉靖38年(1559年)の出来事に端を発し、20年後とあるので、1579年は万暦7年。
この20年の間に、明は嘉靖帝から隆慶帝、万暦帝の世となっている。ちなみにドラマ『恋心は玉の如き/錦心似玉』の「隆慶開関」は、隆慶帝時代に施行されたものであり、中国ドラマつながりでの時代感覚としてはそんな感じ。
講談社学術文庫の『モンゴルと大明帝国』で、嘉靖・隆慶年間の辺りの記載を見ると、「土地集中化の進行と能吏海瑞」という項目がある。
1569年、海瑞が江南地方の巡撫となったとき、この地方はゆたかな地域だが、農民の生活はひじょうに苦しいものであり、その原因は税糧と徭役が一番重く、土地が大地主の手に集中していたことにあった。当地方最大の地主は、前年まで宰相であった徐階の家で、4000頃の田地をもっていたとある。まさに第13話で范淵が口にしていた【徐家】なのだ。
ちなみに海瑞は大地主たちに土地を返還させようとしたが、北京の朝廷とつながりをもつ地主たちの反発に遭い、巡撫の職を解かれたとある。
李世達も実在し、万暦5年に右副都御史、総理河道であり、黄河の氾濫に瀕し、淮安に石堤を築くよう提案した。万暦7年には浙江巡撫であった。
第14話で范淵は李巡撫に「都で張首輔や陛下にどう報告しますか?」と言っており、この張首輔は、張居正である。隆慶帝に仕え、革新の政治家として、宋代の王安石とともに高い評価を受けている。王安石と言えば、第10話で程仁清が漢詩を詠んだ政治家。
張居正は幼帝 万暦帝の先生でもあり、官界の綱紀を引き締め、全国的な土地の丈量(いわゆる検地)を1578年(万暦6年)に行った。
この事により国の財政は潤うが、張居正が1582年に亡くなると反対派が攻撃し、政治は乱れ、また万暦三大征による軍事費の増大や、宮殿焼失再建の支出がかさみ、明の衰退が決定的になったのだとか。
中国では、張居正のドラマ《風禾尽起張居正》が作成される予定だそうで、このあたりを扱うのかな。
史実の出来事から着想を得ているというのもこの物語の面白さのひとつ。ネット情報です。
【徽州丝绢案】で実在した帥嘉漠(帅嘉谟)は、隆慶4年(1570年)より7年間、実際に告発し万歴5年(1577年)6月に、人丁絲絹税は徽州が負担するも、他の税については、他県から銀を差し引くという形で決着した。
しかし程任卿がそれに反発してデモを起こし、その騒動で7月には帥嘉漠は投獄され、11月には新たに、人丁絲絹税は徽州が負担し、補償の銀は減額との裁定がなされてしまう。
おまけに政治的見地から帥嘉漠には「100回の杖刑、3000里の流刑、国境での兵役/杖一百流三千里,遣边戍军」を課される判決が下されてたというなんともはや。
おまけに程任卿も、執行猶予付きの死刑判決を受け、嘆願により死刑は免れるも、帥嘉漠と同様に軍隊に送られている。
『明実録』にて程任卿の記載のある部分はこのあたり。
《神宗顯皇帝實錄 卷七十七》
萬曆六年 七月 八日
○刑部覆應天撫按胡執禮等題稱婺源縣民程任卿藉稱絲絹加派不堪要欲分派休婺祁黟績五縣鼓煽生員汪時等十五名聚黨脅迫官吏逼求申豁幾於作亂程任卿允宜擬斬其餘或擁眾抗官或乘機罔利乘機罔利:抱本罔作圖。各擬編遣行枷示如律得旨各犯聚眾毆官敢行稱亂程任卿汪時著監候處决餘依擬發遣發落於是該撫按官會議以絲絹復歸歙縣則舊制不變五縣之民既各輸服以歲辦均派六縣則政體公平歙縣之民亦無編累亦無編累:抱本無編字。疑應改作偏。今後將徽州府人丁絲絹折價六千一百四十五兩三錢復歸歙縣其歙縣均平歲辦等項算多銀二千五百兩仍令歙縣納五百三十兩餘者休婺祁黟績五縣攤之報可
事件についての記載はこれかしら?
《神宗顯皇帝實錄 卷六十四》
萬曆五年 七月 三十日
○先是南直隸歙縣以絲絹偏累具奏分派而戶部尚書殷正茂歙人也議加派休寧等五縣三千餘金已奉旨移咨矣至是休婺
しかしながら程任卿が徽州絲絹事件について仔細に記録していたので、後世にこの出来事が伝わり、やがて小説の題材となりドラマ化される運びとなったのである。
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