中国ドラマ『宮廷の諍い女』がBS11にて2024年1月29日より毎週月~金1話で再放送されている。中国語タイトルは《後宮 甄嬛傳》。全78話。
以前に第1話だけ見た時点で、そのイケズぶりに恐れをなして退散したものだが、『瓔珞』や『明蘭』視聴で後宮側室ワクチンを接種したかのごとくかなり免疫ができており、冒頭の秀女選びも『瓔珞』で見覚えがあるため、展開が気になって視聴継続。
どんどん蹴落とされていく後宮ドラマだが、華妃と皇后の、自分の手は汚さないギリギリを攻めた攻防が見所なのですね。
雍正帝役は陳建斌で、ある意味リアリティのある感じ。
甄嬛が初めは後宮でひっそりと暮らしていたが、妃嬪である限り、浮かばれなくば虐げられ、寵愛されても攻撃され……の中、すっかり逞しくなっている今日この頃。
このドラマで感激したのは、漢詩名が字幕で紹介されていること!この頃は付いていたんだなぁ。また漢詩名の字幕も付くようにならないかな。
見ていると割と今まで目にしたような漢詩が多い。というか、このドラマの方が先に作られているので、ドラマ内の漢詩を網羅すれば、おおよそメジャーどころはおさえられそうな気も。
人気作品なので既にブログで色々な方が書かれており、今回は全体感想だけにしようかと思っていた。が、ドラマの中の京劇が気になりちょこちょこメモしており、気になったドラマは途中からメモも長くなる私の性分もあり、記事が長くなって来たので第三部に分けてみた。
第1話から第25話でひとまず第一部となるようだ。第一部からは第19話と第22話です。
19話の漢詩 元曲
果郡王の「月光が映えて実に美しい光景だ/月光如银,良辰美景」に、「牡丹亭をご存じで?」と返す甄嬛。
湯顕祖《牡丹亭 驚夢 皂罗袍》
良辰美景奈何天,赏心乐事谁家院!
甄嬛が匂い袋を見つけて拾う。果郡王は「情はいずこより起こる。一往に深く、生ける者死を恐れず死しても心に蘇る」「それが情だ。理由を問うても答えるは難しい」。切り絵を見つける甄嬛。
汤显祖(元代)《牡丹亭·题记》
情不知所起,一往而深。生者可以死,死可以生。
22話の京劇
清音閣にて妃嬪たちが集い、南府劇団による「劉金定/刘金定救驾」の演目。
宋の初代皇帝 趙匡胤が苦戦していた折に、女武者 劉金定が活躍して助けるという物語。
小主たちが希望の演目と言いつつ、華妃が先にリクエスト。
三国演義の「鼎峙春秋」。黄巾軍の殲滅から始まり、三国統一で終わる宮廷大劇。
ひりひりする周りの空気。
「薛丁山 征西」。
曹貴人が、華妃の兄が唐代の薛丁山のごとく西を征し名を上げた、とヨイショ。
薛丁山は唐代の物語の将軍で、西涼国の女将軍 樊梨花と共に西涼を滅ぼした物語で、実在した唐の名将軍 薛仁貴の息子がモデルとなっている。
これらから華妃は、自分たち年家は軍功があるのだと、皇后に誇っているのかしら。
皇后は「勧善金科」と「瑤台」。
こちらは斉妃が、さすが天下の母とヨイショ。
皇后は「勧善金科」の元は「目蓮救母」、第三皇子の孝行心のようだと斉妃にお返し。
華妃は行火を贈るヒマがあったら勉強したら陛下も喜ぶのにと、第三皇子をディスり痛い所を突く。
目蓮救母は、映画『西湖畔に生きる』でも出てきた、仏教の目蓮尊者が、餓鬼道に落ちた母親を導き救う逸話。清の後宮で、年末や節句に上演される节令戏だとか。
「瑤台」は「南柯記」の演目の一つで、金枝公主が瑤台にいると知った四太子が妻にしようと包囲するも、淳于棼がやって来て敵兵を退けた。この先の話の展開を思うとなかなか興味深い展開……。
そして皇后に対して、薛丁山の樊梨花は万策用いて夫の気を引こうとするが、三度離縁された。自分以外の女を思う夫など忘れさっさと妻の座を降りると言う華妃。ほほぅ~。
皇后は、正妻には度量も必要で、正室には変わりはない、薛丁山も結局は樊梨花を迎えたと返す。
それにも華妃は、樊梨花は嫡出の娘だからだと言い返して、庶出な皇后に当てこすり~~~。
ちなみにこの薛丁山には妹の薛金蓮がおり、これがなかなか高飛車お嬢様な小姑で、兄嫁な樊梨花とやり合う「樊江関」という戯曲もあるのだ。まさに華妃じゃないの。
京劇演目での殴り合いがスゴい。
すると甄嬛貴人は「南柯記」をリクエスト。
夢を描いた戯曲で、「上り詰めるも倒れるも一瞬【眼看他高楼起,眼看他高楼塌】、誇示するほど足を踏み外す」と人々に警告し、貴賤や権勢など結局は南柯の夢にすぎないと語る。その言葉に満足そうな皇后。
「南柯記」は李公差の『南柯太守伝』を戯曲化したもので、蟻の世界に入りこみ、たまたま出世し藩鎮となる栄華を極めても、人知の及ばない力によって没落することもあると、成り上がり者に対する批判や哀切が込められているのだとか。藩鎮となっている華妃の兄 年羹堯を暗ににおわせていそうな。
《桃花扇·续四十出·余韵》
眼看他起朱樓,眼看他宴賓客,眼看他樓塌了
安常在も「心が通じ合えば久しく会えぬとも耐えられる/守得云开见月明」と言って加わるが、華妃に返り討ちされる。
甄嬛が「牡丹亭」には「生ける者、死を恐れず、死しても心に蘇る」と擁護。このフレーズは第19話で果郡王が言っていた言葉。
第一部で印象深かったのは、やはりブランコの場面でせうか。
少女漫画のようなブランコの場面なのだけれど、スン・リーとチェン・ジェンビンの組合せゆえか、なんとなくシュールな感じもしてしまうという……。
そんな中、ひとりでブランコに乗る雍正帝はどこかお茶目さんだった。
ブランコを作っちゃう小允子も器用よね。
第二部はいよいよ甄嬛が懐妊してからのお話!
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