27話感想
日本語タイトル名「詩神誕生」に、范閑が漢詩を引用するのは予想したが、まさかこれほどの数を詠じるとは……。
范閑が郭郭保坤に言った「心が通じる」は【暗通款曲】。荘墨韓への「目クソ鼻クソを笑う」は【半斤八两】。少陵野老は杜甫の号。
夢の中で仙界を遊歴は、まさに紅楼夢第五回の賈宝玉を思い出す。第五回と言えば、第1話にも出てきた仙界での「紅楼夢十二支曲」が繰り出される回。皇太后のところへ忍び込み香を焚きお茶を飲む描写も、この第五回でも香やお茶が出てきているのだ。となるとこれらの漢詩が今後展開される物語を象徴している可能性は高いのか。
荘墨韓の「埋もれる歴史はない」は【史海钓沉】。
范閑が暗唱した漢詩
范閑が酒を飲み干し、
李白(唐代)『将進酒』
君不见黄河之水天上来,奔流到海不复回。
又不见高堂明镜悲白发,朝如青丝暮如雪。
人生得意须尽欢。莫把金尊空对月。
天生我材必有用,千金散尽还复来。
(略)
五花马,千金裘。呼儿将出换美酒,与尔同销万古愁。見たまえ、黄河の水が天上から流れ来るのを。奔流して海に辿り着き、二度と戻ることはない。
見たまえ。豪邸で鏡に映る白髪を嘆く者を。朝は黒糸のよう、夕べには雪となる。
人生思い満たされた時には、とことん喜ぼう。金の酒樽をむなしく月のもとに置いてはならぬ。
天がわたしに才を与えたのは使い道があるからに違いない。千金を使い果たしても金ならまた戻ってくる。(略)
五花の名馬に千金の裘。小僧を呼んでそれを持ち出して美酒に換え、君らと一緒に万古の憂いを消そうではないか。
川合康三『中国名詩選 中』2015 岩波書店
皇宮が映る。
李煜(五代)《虞美人·春花秋月何时了》
春花秋月何时了? 往事知多少。
小楼昨夜又东风,故国不堪回首月明中。
雕栏玉砌应犹在,只是朱颜改。
问君能有几多愁? 恰似一江春水向东流。春の花、秋の月。くる年もくる年もきまってやって来る。昔は幾たびそれを楽しんで眺めたことだろう。
いまこの小楼にも春が来たらしく、昨夜また東風が吹き入ってきた。(略)
もしも「あなたの愁いはどれほどですか」と聞かれたら、「大河の春先の水が東に向かってとうとうと流れてゆくくらいの量でしょうか」と答えよう。
松枝茂夫『中国名詩選 下』1986 岩波書店
荘墨韓、長公主が映る。
蘇軾(宋代)《水調歌頭·明月几时有》
不知天上宫阙,今夕是何年。
我欲乘风归去,又恐琼楼玉宇,高处不胜寒。
起舞弄清影,何似在人间。天上の宮殿では、今夜は何年の中秋になるものやら。
私は風に乗って月へ行ってしまいたい。とはいうものの、月の中の玉の御殿は、高い所だから、寒くてたまらないだろう。
立ち上がり、舞いおどり、清らかな月影とたわむれる。やはり人の世にいるほうがよい。
石川忠久『蘇東坡100選』2001 NHK出版
辛棄疾(宋代)《破陣子·为陈同甫赋壮词以寄之》
醉里挑灯看剑,梦回吹角连营。八百里分麾下炙,五十弦翻塞外声。沙场秋点兵。
酒に酔う中で明りを灯し剣を調べる。各々陣営に戻り次々と鳴り響く角笛の音。牛を炙って部下に分け、瑟で軍歌を奏でる。戦場では秋の観閲。
陛下のあまり今までにない表情なアップ。
白居易(唐代)《长恨歌》
在天愿作比翼鸟,在地愿为连理枝.
天上にあっては比翼の鳥になり、地上にあっては連理の枝になりたいもの
川合康三『中国名詩選 下』2015 岩波書店
辛其物や郭保坤や陛下。
高適(唐代)《别董大二首》
莫愁前路无知己,天下谁人不识君。前途に親しい友がいないと悲観することはない。天が下、君のことを知らない人はいないのだから。
川合康三『中国名詩選 上』2015 岩波書店
書写する太監たち。
小楼昨夜又东风→《虞美人》
東夷の弟子 雲之瀾。
李白(唐代)『夢遊天姥吟留別』
安能摧眉折腰事权贵,使我不得开心颜!眉を垂れ腰を曲げて権勢を誇る貴人に仕え、自分の心も顔も閉ざしたままなど、できるものか。
川合康三『中国名詩選 中』2015 岩波書店
范閑が自ら書をしたため、侯公公の姿も。
杜甫(唐代)『春望』
国破山河在,城春草木深。
感时花溅泪,恨别鸟惊心。都は打ち壊されても山河は存する。城内は春になって草木が生い茂る。
時節に心は痛み、花を見ても涙がこぼれ、別離を悲しみ、鳥の囀りにも心はおののく。
川合康三『中国名詩選 中』2015 岩波書店
(日本語字幕なし)
杜甫(唐代)《聞官軍收河南河北》
白日放歌须纵酒
大声で歌い、好きなだけ酒を飲むとしよう。
石川忠久『杜甫100選』1998 NHK出版
恨别鸟惊心.→《春望》
荘墨韓、范閑は両手を翼のように広げて走り
李商隠(唐代)《無題·昨夜星辰昨夜风》
身无彩凤双飞翼,心有灵犀一点通。たとえ二人の身には美麗な鳳凰の並び飛ぶ翼はなくとも、二人の心は霊妙な犀の角に通る一筋の白い線のように通い合っていた。
川合康三『中国名詩選 下』2015 岩波書店
陛下、長公主。
五花马,千金裘。呼儿将出换美酒 →《将进酒》
郭保坤。
我欲乘风归去,又恐琼楼玉宇,→蘇軾《水调歌头·明月几时有》
皇太子を見やり、女性が激しい愛を誓った楽府。
(前漢)《上邪》
山无陵,江水为竭,冬雷震震,夏雨雪
山が平らになって、川の水が涸れて、冬に雷が鳴って、夏に雪が降って、天地合せば、乃ち敢えて君と絶たん。
川合康三『中国名詩選 上』2015 岩波書店
第二皇子と絡み
王維(唐代)《渭城曲 / 送元二使安西》
西出阳关无故人。
不知天上宫阙,→蘇軾《水调歌头·明月几时有》
第二皇子と対面
欧陽修(北宋)《玉楼春·尊前拟把归期说》
人生自是有情痴
人生これより情痴あり
柳宗元(唐代)《江雪》
千山鸟飞绝,万径人踪灭
千の山に飛ぶ鳥の姿は絶え、万の道から人の跡は消えた。
川合康三『中国名詩選 中』2015 岩波書店
悼亡诗。
蘇軾(北宋)《江城子 乙卯正月二十日夜记梦》
十年生死两茫茫,不思量,自难忘,千里孤坟,无处话凄凉
纵使相逢应不识,尘满面,鬓如霜。
生死を共にして十年茫々として、考えずとも、おのずと忘れもしない。千里の墓、わびしさを話すところもない。たとえ逢ったとしても、埃に覆われた顔、霜のような髭でわからないだろう。
長公主。
辛棄疾(宋代)《丑奴儿·书博山道中壁》
少年不识愁滋味
少年は愁いの味わいを知らない。
荘墨韓。
晏殊(あんしゅ)(宋代)《采桑子》
时光只解催人老
歳月はただ人を老いに向かわせるものとわかるだけである。
纵使相逢应不识→蘇軾《江城子》
馬致遠(元代)『天浄沙·秋思』
枯藤老树昏鸦,小桥流水人家
枯れた藤、老いた木、たそがれの鴉。小さい橋、流れる水、人家。
松枝茂夫『中国名詩選 下』2015 岩波書店
(音声・日本語字幕)
蘇軾(宋代)《春夜》
春宵一刻值千金,花有清香月有阴。
春宵の一刻 値千金 花には清香あり
鐘を鳴らす。文天祥が元に捕えられている折に協力を拒否して書いた詩。
文天祥(宋代)《過零丁洋》
惶恐滩头说惶恐 零丁洋里叹零丁
人生自古谁无死 留取丹心照汗青さきに惶恐灘では惶恐すべき報道を聞いたし、いまこの零丁洋では文字通りひとりぼっちの身となってしまった。
人間誰しも昔から死なないものはない。せめてこの赤誠の心をこの世に留めおき、史書の上に輝きたいものだ。
松枝茂夫『中国名詩選 下』1986 岩波書店
皇宮と洪公公、そして范閑。広大な空間・時間のなかに孤独を詠じた詩。
陳子昂(唐代)《登幽州台歌》
前不见古人,后不见来者。
念天地之悠悠,独怆然而涕下。わたしの前に古の人は見えない。わたしの後に来る人は見えない。
天地の悠久たるに思いを馳せ、ひとり胸を痛めて涙する。
川合康三『中国名詩選 中』2015 岩波書店
あぁ、ようやく終わった。途中まではワクワクしたけど、最後の方はまだ続くの??となった書記役な気分が味わえた。そう思った書記係は一人くらいはいるやも。
『山河令』の漢詩好きには復習となる詩もちらほら。日本語&中国語字幕よりまとめました。音声のみでの漢詩はまた気力が湧いたら~。28話を見てから鑑賞すると、また違った趣に感じられる。
ちょっと面白いと思ったのは范閑が言い終わる頃の音楽が、サバイバル番組等の曲調に似て思え、カーンと鐘が鳴りそうだなと思ったところ。『爱乐之都』を観ているもので。
変装もできる五竹。范閑母仕込みだったとは……。陛下は范閑を詩神ではなく失神と。ここで陛下が広げている書にはこの漢詩も載っていた。曹操の政治理想が記されたもの。
曹操(漢代)『度関山』
天地间,人为贵。立君牧民,为之轨则。
车辙马迹,经纬四极。黜陟幽明,黎庶繁息。
於铄贤圣,总统邦域。封建五爵,井田刑狱。
有燔丹书,无普赦赎。皋陶甫侯,何有失职?
嗟哉后世,改制易律。劳民为君,役赋其力。
舜漆食器,畔者十国,不及唐尧,采椽不斫。
世叹伯夷,欲以厉俗。侈恶之大,俭为共德。
许由推让,岂有讼曲?兼爱尚同,疏者为戚。
前を顧み後を顧みる【顾前顾后】と、五竹VS洪公公はカッコイィ! 燕小乙はレーダーのような弓ね。
肥えた猫は皇宮を出入り自由~。猫と言えば長公主が愛でていたね……。
長公主が荘墨韓に向けて詠んだ漢詩は
秦観(宋代)『鵲橋仙』
两情若是长久时 又岂在朝朝暮暮。
もしふたりの情が永遠に変わらないのなら、どうして毎朝毎晩共にいなければならないだろうか。
なぜにこの漢詩なのか、長公主の事なのか、范閑達の事なのか、あるいはこのドラマ全体なのか、意味深だ。
肖恩は荘墨韓の弟だった!長公主は北斉王に貸しを作ったと話す。長公主は范閑を路頭に迷わせたいらしい。お互い、今や似たような目的を持っているのね。
見応えのある回だった!
第28話でも范閑が吟じた詩が少々でてきます。
▼将進酒その1
▼将進酒その2
▼虞美人、夢遊天姥吟留別
▼長恨歌
▼鵲橋仙
▼過零丁洋
外部サイト
▼第17話~第32話
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▼第1回~第10回