笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。「愛なんてただそれだけのこと」「宮廷の諍い女」を更新中。⇩カテゴリー選択はスマホでは左にフリックしてください。

漢詩と森林限界 山河令29話,30話感想/秦觀 鵲橋仙,故剣情深,宣王 陳遵,布衣之怒

七爺たちが来るかと思っていたら、違う人ばかり来て急展開がつづく。

29話 花は常にあり

1.周子舒が張成嶺に陣の指示を出す

奎木狼、星日馬を回せ

二十八星宿のひとつ。
奎木狼(けいぼくろう):西の白虎七星の第一宿。『西遊記』の黄袍怪、『封神演義』の李雄。
星日馬(せいじつば):南の朱雀七星の第四宿。蛇の頭。『封神演義』の呂能。

 

2.曹蔚寧が顧湘に言う

金風 玉露 ひとたび逢わば 天上人間に勝る。天では比翼の鳥となり 地では連理の枝とならん
金風玉露一相逢 天上人間不算数。在天願為比翼鳥 在地願結連理樹。

北宋 秦觀『鵲橋仙

纤云弄巧 飞星传恨 银汉迢迢暗度
金风玉露一相逢 便胜却人间无数
柔情似水 佳期如梦 忍顾鹊桥归路
两情若是久长时 又岂在朝朝暮暮


たくみなわざ雲の綾絹 天がける恨みの星々たかくかける 銀漢をひそかに渡り
秋の風 玉の露 ただ一たびの逢瀬は 人の世のあまたの逢瀬にまされるよ
いとおしさ水とわき 夢のごと期はすぎ 帰り路にはかささぎの橋 ふりかえり見つ
これほどにふたりの情 いく久しくかようなら 朝ごと宵ごとつれそうにはおよぶまいよ
倉石武四郎「宋代詞集」1970 平凡社

秦観。七夕にちなんだ詞。

白居易長恨歌

(略)
七月七日长生殿 夜半无人私语时
在天愿作比翼鸟 在地愿为连理枝
天长地久有时尽 此恨绵绵无绝期

5話-4にて解説。変装した柳千巧が穆雲歌に言っていたのと同じ。こちらも七月七日で、「作→為、為→結」と、一文字ずつ違うのが曹蔚寧が引用する特徴でもある。「」に曹蔚寧の決意の程があるのかな。

 

3.段鵬挙が周子舒に言う

だが心は四季山荘にあったのだ
可您一宜身在曹営心在漢

三国志演義 二十五回

东汉末年,刘备被曹操打败。关羽为了保护刘备的夫人被迫投降曹操曹操对关羽关怀备至,送他宅院、美女、战袍及宝马,关羽还是无动于衷,一心想打听刘备的下落。张辽问他为什么身在曹营心在汉,关羽说他与刘备有过生死誓言。

関羽(周子舒)が一時降伏して曹操(晋王)の陣営に身をおき爵位も授けられるが、心は(四季山荘)にあるというもの。
関羽の見せ所、五関六将斬につながる。のちに劉邦袁紹の所にいるとわかり、曹操は約束通り送りだすが関所には伝わっておらず、関羽は五つの関所で六人の将軍を倒して劉邦の元に駆けつけた。これらは三国志演義の脚色でもある。
これから周子舒の五関六将斬的な場面がみられるのか?

 

4.晋王が段鵬挙に命じる

旧知に未練があるなら
他若故剣情深

漢書  巻九十七 外戚伝 巻六十七 上

公卿议更立皇后,皆心仪霍将军女,亦未有言。上乃诏求微时故剑,大臣知指,白立许倢伃为皇后。

公卿たちはあらためて皇后の冊立を論議し、みな心に霍将軍の女を擬していたが、まだ言い出す者がなかった。主上はそこで詔を下して、微賤であったころの故い剣を捜し求めた。大臣たちは主上の意向を知り、言上して許倢伃を立て皇后とした。
小竹武夫訳『漢書8』 1998 筑摩書房

成語。前漢 第9代皇帝・宣帝許皇后・許平君の物語で、天子からの情愛深い詔として名高い。故い剣は許平君を指し、皇帝となった当時、威光の強い霍将軍の娘を皇后にという圧力の中、宣帝が詔勅を出し、民間時からの妻・許平君が皇后となった。許皇后は元帝の母。毒殺され、その後に霍氏一族が誅殺される一因となった。宣帝が周子舒で、旧知が許皇后のたとえか。

5.若き張敬が温客行の両親に迫る

生殺与奪の権を握っているのは私だぞ
如今還不是我為砧板 君為魚肉

18話-4で解説。温客行が龍淵閣で言っていた。

6.温客行の母が趙敬に言う

常に先回りしているわ
防人之心不可無

3話-4の宿屋で、周子舒が衣を調べながら張成嶺に言っていた。

 

29話感想

温客行が韓英を内力で治療するが追いつかない。韓英が弟子入りした張成嶺を見て羨ましいと言う……。うぅ。温客行、偽瑠璃甲だけでなく、晋王の企みにも気付いてたのか。

周子舒が四季山荘へ戻ってくると、機関雀とランタンが飛んでいる。張成嶺が陣で矢を放つ。周子舒が温客行の元へ行くと、既に韓英は息絶えており……天窗が来たと知り、自ら心脈を断ったと。嗚呼。韓英がもたらした影響は大きいが、韓英が望んだのは周子舒の弟子になることだったのなら……。

そして温客行にとって過去の封印を解く言葉は「私のせいだ。すべて私が悪い」……。ツラい。
 周子舒が張成嶺に「話がある」と言った時に、張成嶺は間髪いれずに断り、「最後に見た父と同じ表情ですね」と言うのがもぅ……。そうだよね、張成嶺はそういう顔をした人に送りだされ、二人と出会ってここまで来たんだよね。三人(葉白衣がいた時は四人)でほのぼのしていたから忘れていたけれど。

ええぃ、憎たらしい段鵬挙め。
檻の中の周子舒、燃えあがる四季山荘。ええぃ、憎らしい晋王め。
そして「天窗」と名付けたのは、若き周子舒だった。「我が身を賭してこの悪世に光をもたらせたら」という思い。うぅ、そんな純粋な思いだったのに。晋王が1話で漢詩を呟いていたのは、コレをふまえていたのか。


曹蔚寧と顧湘。顧湘の衣裳が身軽になっている。鬼谷がだいぶ抜けたという意味かな。
清風剣派に薬人が襲撃し、掌門以外は裏山へ逃げこむ。そこで范懐空が鬼谷谷主の名前、温客行の名を口にし、ついに曹蔚寧にもわかってしまう。


内力を失った温客行は、夢の中で過去を追想する。
甄衍若き趙敬に二義兄であると声を掛けられ、両親の元へと案内してしまう。そして趙敬は武器庫の鍵を渡すよう迫り、母・谷妙妙が入れたお茶には毒が入っていた。26話で言っていた武芸が上達しない体の由来はココだったのか。ついに真相を思い出した温客行は、仇を取りに行こうとする。

七爺 景北淵(魏哲鸣)・大巫 烏渓(范津玮)たちがようやく到来。白黒コンビである。温客行を止める張成嶺と会い、大巫が温客行の気を失わせて止める。

莫蔚虚は顧湘たちに逃げるように告げるが、顧湘は共に戦うと言う。
(つづく)


いよいよ周子舒が晋王にまみえるのか!
趙敬、許すまじ。甄衍がツラすぎる……。

 

30話 精算できぬ恩怨

1.周子舒に大勢が死んだと言われ、晋王が答える

将はついに陣に死す
瓦罐難免井上破 将軍終究陣前亡

水滸伝 百十

两员将斗到十四五合,一将翻身落马。正是瓦罐不离井上破将军必在阵中亡。”


ふたりの将軍が戦うこと14,5回、ひとりが身を翻し落馬した。
まさに陶の釜が井戸から離れず壊れるように、将軍は戦いで死ななければならない。

俗語。【将军必在阵中亡】は『漢書 巻九十二 遊侠伝 第六十二 陳遵』にもあるとか。陳遵は先に述べた宣帝とも付き合いがあった侠客である。宣帝武帝の曾孫だが、巫蠱の乱で一族は誅され、牢獄で育てられ民間で過ごすという数奇な運命を辿り、中興の名君となった。

 

2.それに対して周子舒は言う

刀剣に罪はなく 生死は運命だ、と?
刀剣無眼 生死有命

刀剣には眼がない、という表現がちょっと面白かったので。

 

3.周子舒が師の言葉を引用する

天子が怒れば世は血の海と化す 民が怒れば流血は少ないが天下が喪に服す
天子之怒 流血漂橹 布衣之怒 血濺五歩 却令天下缟素

劉向『戦国策 魏策四 唐雎不辱使命 三五九

秦王怫然怒,谓唐雎曰:“公亦尝闻天子之怒乎?”唐雎对曰:“臣未尝闻也。”秦王曰:“天子之怒,伏尸百万,流血千里。”唐雎曰:“大王尝闻布衣之怒乎?”秦王曰:“布衣之怒,亦免冠徒跣,以头抢地尔。
”唐雎曰:“此庸夫之怒也,非士之怒也。夫专诸之刺王僚也,彗星袭月;聂政之刺韩傀也,白虹贯日;要离之刺庆忌也,仓鹰击于殿上。此三子者,皆布衣之士也,怀怒未发,休祲降于天,与臣而将四矣。若士必怒,伏尸二人,流血五步天下缟素,今日是也。”挺剑而起。 


秦王は忿然として怒って、唐雎に言った、「あなたは、これまでに天子の怒りというものについて聞かれたことがおありかな」と。唐雎は「臣はまだ聞き及びません」と答えた。秦王「天子の怒りとは、死骸は百万、流血は千里にも及ぶものだ」。唐雎「(それでは)大王には、布衣の怒りというものについてお聞き及びでしょうか」。秦王「なに、布衣の怒りとな。そんなものは、冠を脱ぎ、素足になって、頭を地面にたたきつけるにすぎない」。
唐雎は言った、「それは凡人の怒りというものです。士の怒りというものではありません。かの専諸が王僚を刺した時には、彗星が月を襲い、聶政が韓傀を刺した時には、白い虹が太陽を貫き、要離が慶忌を刺した時には、青い鷹が御殿に撃ちかかりました。これら三人の者は、全て布衣の士であります。怒りを胸中に秘めて、それがまだ外面に発せぬうちに、(彼らの心意気を賞でて)天から吉兆がくだりました。今、臣を加えて、四人になりましょう。もし士がここで怒れば、死骸は二つ、流れる血は五歩の間ですが天下皆が白絹の喪服を身につけましょう。今日がその日なのです」と。(唐雎)は剣を抜いて立ち上がった。
福田襄之介,森熊男「戦国策 下」1988 明治書院

説苑 第十二 奉使』にもある。
安陵君秦王に土地の交換を持ちかけられたが先祖の地であると断った。不興な秦王に唐雎(唐且)を使いにやり、唐雎が申し開きしたもの。
布衣と言うと、2話-6の『史記』が思い出される。布衣は周子舒であり、布衣(周子舒)が怒ると、数歩のところにいる相手(晋王)を殺すことができるのだ。

 

30話感想

蝎王が清風剣派のところへ現わる。蝎王は莫懐陽が「神や仏を連れてこようとも殺す」と言っている。

そして曹蔚寧が顧湘に言う場面。「我が同門や聖山を滅ぼしたなら殺すけれど、自分も共に逝って生まれ変わり、来世では生まれた時から守る」ってもぅ(涙)。

そして温客行と顧湘の過去が語られる。湘と名付けられたのは川で釣り上げたからと温客行は言うが、前谷主が魔の修練のためさらった子供たちの1人で、温客行が命乞いをして玩具として与えられた。その後、温客行は谷主となり、吊死鬼から瑠璃甲を取り戻すという口実で、復讐を実行に移し始める。という事は、最近谷主になったばかりなのか?

七爺たちが目覚めた温客行と話す。七爺は周子舒に命の借りがあるようだ。

 

どんな展開になるのかと案じていたら、晋王はせっせと剣・白衣のお手入れをしている。それで周子舒を刺すのか?と心配していたら、腕の縄を解いていた。剣を愛でていたのか……。そしてもう見納めだと思っていた周子舒の髪が結われた姿もまた見ることができた。原作ではこの二人、どんな関係だったのだろう?

存外、晋王は周子舒に執着しており、青鸞別院の古酒を取り出す。10年経ったら皆で飲もうと言っていたお酒も、今や二人のみ。允行は辺境へ行き、青鸞は命を絶ち、七爺(北淵)は晋王に毒を盛られ、九霄は戦死していた。允行は剣舞、青鸞は歌、北淵は琴、九霄は簫とあるが、周子舒はなにを?晋王の傍らにいただけなの?

大義を唱える晋王と、韓英も救うべき衆生の一人であり死ぬべきでない人の犠牲を語る周子舒。韓英は22歳だった。そして周子舒はそれは単なる野心だと、卓ごとひっくり返す。軟筋散も味覚・臭覚を失った周子舒には効いていなかった。

「知己」と晋王の口から出ると、1mmも心が動かないばかりか空々しい。知己は相手が大切にしているものを燃やしませんよ~~~。周子舒は逆臣の子だったと。なるほど、それで前漢・宣王になぞらえているのね。晋王は周子舒より術でやられても「殺してはいけない」と言う。晋王にとっての故剣は、古酒を共にした人達なのか?


清風剣派裏山前で毒菩薩が燃やしているのはまさか……と思ったら、意外な腹の虫攻め攻め作戦だった。
莫懐陽が連れてきた人物が最強そうだったので、まさか葉白衣でも連れてきたかと思っていたらナント趙敬。

え?趙敬がなんで??
まさかの掌門・莫懐陽、趙敬と密盟ですか~~~。
それは大どんでん返しだ……。アナタ、イイ人じゃなかったのか。
蝎王も「君 我を裏切らざれば」の言葉の意味を思い知る。趙敬に「消えろ」と言われて微笑む蝎王が、今までにない笑い方なのはさすがである。


周子舒が段鵬挙に責められている。その周子舒が晋王にほどこした術は四季山荘の凌寒暗香勁で、心脈が損なわれ余生は病床を離れることができず門派の伝承者でないと治せない。いや段サン、周子舒単身を脅しても効果はないよ。まだ触覚が失われたとは言ってないよね……。
根比べに受けて立つという周子舒。根比べと言えば、温客行も落とした筋金入りな周子舒ではある。
(つづく)

師兄弟水入らずな穏やかな日もどこへやら、物語は佳境へと入っていく。
森林限界は樹木が育たない、高緯度・乾燥・湿原・強風な場所の境界線を言う。
そんな山域に足を踏み入れた山人たち。

 

29話キャスト

  • 七爺 景北淵:魏哲鳴(ウェイ・ジャーミン)『下一站是幸福常欢』常欢、『贺先生的恋恋不忘』
  • 大巫 烏渓:范津玮 『九州縹緲録』『全职高手』

 

WOWOW放送:2021年11月18日(木)深夜

 

 

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▼鵲橋仙

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北宋 秦觀『鵲橋仙』について

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外部サイト

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