笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。アニメ「天官賜福」「愛なんてただそれだけのこと」「恋心は玉の如き」を更新中。⇩カテゴリー選択はスマホでは左にフリックしてください。

漢詩も風雨 山河令13話14話感想/詩経,長歌行,富貴鶏,借刀殺人,划举

降りしきる雨が、それぞれの心の内をあらわしているかのようだ。

13話 剣と鞘

1.周子舒が顧湘たちのことを温客行に言う

いずれ雨は空から降り 娘は嫁に行くと
这天要下雨 姑娘要嫁人

王有光『吳下諺聯 卷二』

 純陽無陰 要落雨則陽之求陰也
 孤陰無陽 要嫁人則陰之求陽也

は陽なので、陰を求め雨が降り
は陰なので、陽を求め嫁に行く

今回の雨と、それぞれの娘たちの因縁を思うと、意味深な言葉である。

 

2.曹蔚寧が顧湘に言う

桃花潭の水の深さは千尺といえど 親友の情には及ばぬ。世に問う 情とは何ぞ 生死すら委ねるとは
桃花潭水深千尺 不及汪倫送我情;問世間情為何物 直叫人生死相許

李白『贈汪倫』

桃花潭水深千尺 不及汪伦送我情

この桃花潭の深さは千尺。それもわたしを見送る汪倫の情の深さには及ばない
川合康三「新編 中国名詩選 中」2015 岩波文庫

汪倫は無名の村人で、美酒を造っていつも李白に飲ませていた人物。

元好問『雁丘詞』

问世间 情是何物 直教生死相许?

6話-1で『雁丘詞』を解説。

 

3.つづいて曹蔚寧が言う

人生は夢のように短い
人生一世 草木一春

『増広賢文』

人生一世 草木一春
来如风雨 去似微尘

人の一生は、草木の一春と同じだ
風雨のように来て、細塵のように去っていく

人生が短いことのたとえ。

 

4.喜喪鬼がつぶやく

白髪三千丈 愁いによりてかくのごとく長し 
白髪三千丈 縁愁似個長

李白『秋浦歌十七首 其十五』

白发三千丈 缘愁似个长
不知明镜里 何处得秋霜

白髪は長さ三千丈 愁いのためにこんなに伸びた
鏡の中に 秋の霜がどこから生じたものか
川合康三「新編 中国名詩選 中」2015 岩波文庫

喜喪鬼のためのような句。著名な漢詩で、NHKカルチャーラジオ「漢詩を読む」2021年7月10日放送でも『送汪倫』共々紹介されていた。

 

5.于丘烽たちがつぶやく

悠久の時が大海を陸に変える 山上の雪は雪のかなたへ消える 見渡せば万年もほんのつかの間 ただ残るは変わらぬ心のみ。
幾回滄海平 山雪別雲岫。一眼万年軽 唯此心如旧

平江柳色青 花月遥相守
岁岁复年年 逢此冰消后
几回沧海平 山雪别云岫
一眼万年轻 唯此心如旧

生查子と呼ばれる形式。小説にあり、原作者Priest作と思われる。

 

6.温客行が艶鬼柳千巧に言う

刀を借りて殺す
借刀殺人

『兵法三十六計の第三計』

敌已明 友未定。引友杀敌 不自出力 以损推演。

敵(五湖盟)が明らかで、同盟国が定かでない時に、同盟国(丐幇)を味方に引き入れ、敵を攻撃するように仕向けること。損卦(山澤損)でもって進める。「山沢損」は、易経の六十四卦の第41卦。損をするが誠意をもって取り組めば大吉とある。温客行の策がわかると面白い。

 

7.高崇が葉白衣を評して言う

まるで深い淵や 険しい山のようだ
淵渟岳峙

石崇『楚妃嘆』

矫矫庄王渊渟岳峙

人品や徳をたとえたもの。

 

8.葉白衣が言う

珍事が次々と起こるな
長江後浪推前浪

北宋 劉斧『青瑣高議』

我闻古人之诗曰:长江后浪推前浪,浮事新人换旧人

長江の後ろの波が前の波を押す。新しいものが古いものに取って換わる。

 

9.温客行が周子舒に言う

地獄なら私と2人で行こう 煮えたぎる油の中で1本のねじり菓子になる
下油锅不也有我陪着你吗 咱们俩捻成一根油条

油条は中国でよく見かける棒状の揚げパン。広東省福建省では、油炸鬼とも言うらしい。これから油条を見ると、ふたりを思い出すかしら……。2021.10.2追記

 

13話の感想

曹蔚寧と顧湘とのやり取りが初々しい。曹蔚寧は顧湘を清風剣派一門に会わせたがっている。ここで曹蔚寧が言う「人生には多くの縁がある。だが真に響き合うのは1人だけ。1本の剣とそろいの鞘のようだ」が印象に残る。13話のタイトル名にもなっている。


丐幇・黄鶴と崋山派が結びつこうとしている。あの弱腰だった人か。息子の于天傑が殺されている。

扮装術で髯をつけている周子舒。温客行は薄紫の衣裳。なんだかんだと互いの容貌を褒めあい、仲睦まじい場面なのだが、ここで周子舒が放った「尻に詰める」発言が波紋をよぶ……。中国語では【垫臀的】で、【垫】は「(下または上にものを)当てる、敷く、あてがう、あきをふさぐ」、【臀】は「尻・臀部」なので、「尻に当てる」あたりじゃなかろうか。字幕版制作陣の思いを感じる……。⇒BS放送で見ていたら「尻にあてる」になっていました。WOWOW放送時は上記の訳だったのですよ。もっとも「尻?」と思うのはいずれも同じようですネ。2022.12.9追記


そして長明山 剣仙 葉白衣(黄宥明)登場! なんだか随分、強そうだな。鬼谷が江湖に危害を加えた時は、山河令を持つ者が剣仙を招き、鬼を成敗することができる。ドラマのタイトルにもなっているのは剣仙と共に鬼退治の令牌なのか。ちなみに葉白衣の声優は、金弦 アニメ『魔道祖師』の藍曦臣

岳陽派に扮する周子舒。髪を結っているのも似合うな。周子舒も温客行が容炫の子ではないかと推測している。

そして案外、あっさりと喜喪鬼が捕えられたのには拍子抜け。
柳千巧と于丘烽のメロドラマ。雨の中の傘が美しい。どうやら正妻にエライ目に遭わされたようだ。思えば『陳情令』の思思も、『君花海棠』の兪青も、正妻が恐ろしかったが、中華BLあるあるなんだろか。


ゲームに負けて温客行に「なぜ傷を負ったか?」と聞かれる周子舒。周子舒は「多くの罪を犯したので、生きてる間に少しでも償いたい」と話す。
次は温客行が負けて「本当の姓は容か?」と聞かれるが、「私の姓は容ではないが、奴に会えるならその都度殺したい」と怒りをにじませる。ふむふむ。

このゲーム、酒令や划举(劃拳)と言うようで、中国民間の飲酒時に行われ、起源は漢代にさかのぼるとか。いろいろバリエーションがあり、基本はふたりが指を出すと同時に数を言い、両方の指の数を当てたら勝ち、負けたら酒を飲むなどする。日本でも親指をあげて、「いっせーの」と数を当てる遊びがあるが、正式名称は知らんしなぁ。


食事をおごられたお礼にと、葉白衣が周子舒の前に現れる。周子舒の師匠を知っているようで、白衣剣を作った白衣とわかる。そういえば4話で白衣の名前が出ていた!

飛ばされる周子舒を抱きとめる温客行。武侠ドラマでよく見る主人公ふたりのロマンスな場面だ~~~。

14話 死生契閣

1.葉白衣に武芸を聞かれて、温客行が答える

雨天喧嘩 どうせ暇
下雨天打兒子 閒著也是閒著

【歇后语】しゃれ言葉。元は【下雨天打鞋子,閒著也是閒著】で、「雨が降ると草鞋を作り、暇も暇」だったのが、「鞋子」が湖北地方で「兒子」になっていったよう。「雨が降ると農作業ができずに暇なので、子供に勉強を教える」という意味のようだ。雨繋がりの表現でオモシロイ。2021.9.25追記

 

2.葉白衣と温客行が戦いながらそれぞれに言う

この戦いも終わりだ。朽ちかけが~。
強弩之末 末日黄花

史記 巻108 韓安国列伝(韓長孺列伝) 第四十八』

强弩之极,矢不能穿鲁缟

強い弓も尽きて、その矢は魯の絹を貫くこともあたわず。

成語。

蘇軾『九日次韻王鞏』

我醉欲眠君罢休,已教従事到青州
鬓霜饶我三千丈,诗律输君一百筹。
闻道郎君闭东阁,且容老子上南楼。
相逢不用忙归去,明日黄花蝶也愁。

 

3.周子舒が葉白衣に言う

人の生死も運も天命ゆえ…
生死有命 造化在天

論語 顔淵』

生死有命 富贵在天

生きるも死ぬも運命にさだめられており、富や位の高さも天命である

四字熟語。決められていて人にはどうすることもできないこと。

 

4.周子舒たちが去り、葉白衣が言う

少年の日はとどまらず また少年は現れる
難留少年時 総有少年来

北宋 柳永『少年游』

长安古道马迟迟,高柳乱蝉嘶。夕阳鸟外,秋风原上,目断四天垂。
归云一去无踪迹,何处是前期?狎兴生疏,酒徒萧索,不似少年时

 

5.温客行が両親に言われていたこと

少壮に努力せざれば 老大に痛み悲しむ。…時宜にかなわない。
少壮不努力 老大徒傷悲 …不合時宜

長歌行』

百川东到海 何时复西归?
少壮不努力 老大徒伤悲

川はすべて東に流れ海に注ぐ いつまた西に帰ることがあろうか
若い内に気を入れておかねば老いてむなしく悲嘆しようぞ
川合康三「新編 中国名詩選 上」2015 岩波文庫

死へと向かうのが宿命なので、今を思う存分享楽しようという詩。

 

【不合時宜】は、第12話-5で紹介した哀帝の言葉。

 

6.顧湘に傘を差し掛けられながら温客行が言う

風雨 晦のごとし 鶏鳴やまず すでに君子とまみえ なんぞ喜ばざらん
風雨如晦 鶏鳴不已。既見君子 雲胡不喜。

詩経 鄭風 風雨』

风雨凄凄 鸡鸣喈喈 既见君子 云胡不夷?
风雨潇潇 鸡鸣胶胶 既见君子 云胡不瘳?
风雨如晦 鸡鸣不已 既见君子 云胡不喜

(3行目より)風も雨も真っ暗な闇
にわとりはずっと鳴きやまない
こうしてあなたに会えたから
喜ばずにいられましょうか
川合康三「新編 中国名詩選 上」2015 岩波文庫

恋の恐れにおののきながらも恋人に会えた思いが安堵から心の病も癒え、歓喜へと変化している、とある。

牧角悦子氏説では、女が男に会えた悦びを歌うものであり、吹く風と降る雨は出会いの予感を含んだエモーショナルな自然現象であり、鶏鳴が結婚の吉祥となり、これらは男女の契合と結婚とを導く呪物である、だそうな。牧角氏説はビワ@魔道祖師の時にもお世話になりました。目加田誠,牧角悦子「詩経 上」1997 明治書院

 

7.温客行がこう言って、簫を叩き割る

涼雨 秋を知り 青梧 老いて死す 一宿の苦寒 薄衣を欺き 世事 むなしく 生死は定まる 遅き出会いを恨み ため息をつかん
凉雨知秋 青梧老死 一宿苦寒欺薄衾 世事蹉跎 死生契闊 相見恨晩嘆奈何。

詩経 邶風 撃鼓』

死生契阔 与子成说
执子之手 与子偕老

生きるも死ぬも離れずにいようと、あなたと悦びを成しました。
あなたの手をとって、ともに老いようと誓いました。
目加田誠,牧角悦子「詩経 上」1997 明治書院

14話のタイトル名。魔道祖師Q10話にも出てきた。

史記 巻112 平津侯主父列伝 第五十二』

天子召见三人,谓曰:‘公等皆安在?何相见之晚也。

天子は三人を召し出し引見して言われた、「そちたちは皆どこにおられたのじゃ。もう少し早くに会いたかったぞ」と。
青木五郎「史記 十二 列伝五」2007 明治書院

武帝が上書した主父偃・徐楽・厳安に言い、三人を取り立てた。

8.黄鶴が緑紅翁媼たちに言う

絶妙な火加減があってこそ美味となる
火候足時它自美

蘇東坡『猪肉颂』

净洗铛 少著水 柴头罨烟焰不起
待他自熟莫催他 火候足时他自美
黄州好猪肉 价贱如泥土
贵者不肯吃 贫者不解煮 早晨起来打两碗 饱得自家君莫管。

黄鶴が「人を陥れる時には富貴鶏のように~」と言っているが、この句は東坡肉の由来となったという説もある詩で、黄州の豚肉を使った料理を紹介したもの。じっくり煮込むが肝心と言っている。

富貴鶏は別名・乞食鶏、叫化鶏とも言うらしい。蓮の葉にくるんだ鶏を粘土で包み、蒸し焼きにする中国江南地方の料理。乞食が調理を考案したとか。丐幇にはお手のものなんだな。こういう小ネタ好き。洪七公@射鵰英雄伝も好物とか。

 

9.趙敬が言う

浮生 夢のごとし
浮生如夢

李白『春夜宴從弟桃花園 序』

夫天地者,萬物之逆旅也;光陰者,百代之過客也。而浮生若夢,為歡幾何?

桃李園で仲間と宴をひらき、人生ははかなく短いと詠う。松尾芭蕉奥の細道』にも引用された。

 

10.温客行がつぶやく

我を知る者は 我 心憂うと思う。我を知らざる者は 我 何かを求むると思う
知我者謂我心憂 不知我者謂我何求

詩経 国風 王風 黍離』

彼黍离离 彼稷之穂
行迈靡靡 中心如酔
知我者  谓我心忧
不知我者 谓我何求
悠悠苍天 此何人哉

あそこのキビは垂れ下がり、あそこのコキビは穂を出す
ゆるゆると道行きて、心の中は、酒に酔ったよう。
私の心を知る者は私のことを「心を憂える者」というだろう
私の心を知らぬ者(世人)は私のことを「何かさがしている者」と思うだろう
遠きはるかなる青き空よ、ここまでにしたのは一体誰なのだ。
目加田誠,石川泰成「詩経 上」1997 明治書院

西周の宗廟・宮殿が跡形なく、今やキビの生い茂っているのを見て、さまよいながらもこの地を去ることもできず作られたものとされ、亡国、亡国の嘆きのことを「黍離」「黍離之痛」と言い表わすようになった。

上に挙げたのは第ニ章で、この詩は同じような句が展開しつつも季節が変わり、
「苗を出す→穂を出す→実ってる」。
【中心(心の中は)~】が転じて、
「ゆらゆらと定まらず→酒に酔ったよう→むせび息が詰まりそう」となっていく。劇中ではどの章なのかは描かれておらず、初めは第三章かと思ったが、ふたりの仲は穂を出した頃かとも思い、第二章を取りあげた。2021.9.26追記 魔道祖師Q10話でも魏無羨が吟じた。

 

11.高崇が現れたのを見て、温客行が言う

随分 熱心に呼び出してくれたものだ
你方唱罷我登場

曹雪芹『紅楼夢 第一回 甄士隐解』

乱烘烘你方唱罢我登场,反认他乡是故乡。

わいわいがやがやあなたが歌い終わると私がすぐに登場し、彼の郷里が自分の故郷であると認める。

跛足道人の『好了歌』の解釈を述べている場面。先を争い次々と登場することを指し、権力交代に関する政治的風刺に用いられるようである。

 

14話感想

切ない回……。

温客行と葉白衣が戦い、水柱が立つのも愉しい~~~。周子舒の身を案じてふたりが寄ってたかって脱がそうとするのに、周子舒は「突然襲われた女子の気分だ」「夜中に男2人に脱がされるなんて」と言うのがちょっとコミカル。

葉白衣に10年延命するのに、武芸と内力を取り除くと言われ、立ち去る周子舒。周子舒がしたいのは、生きる長さではなくその間に償うことでもあるものね……。その後の温客行の言葉が切ない……。

喜喪鬼を助けに来たのは食屍鬼だけ。まぁ、バラバラな鬼谷だからな。
その喜喪鬼に縁があったのはやはし趙敬か。こちらは孟婆湯(のような薬)を飲んでいるので忘れているようだ。

孟婆は中国古代神話伝説の人物。冥界の奈何橋にいて、孟婆湯を与え記憶を消す。以前に7話-4で『神雕侠侣』の李莫愁を評した表現が出てきていたが、これは喜喪鬼のことかな?と思っていた。

泰山派(傲崍子と逃げていた)が丐幇・黄鶴と接触して、すっかり人気者となっている黄鶴。

大師兄・莫蔚虚が来て、曹蔚寧も祝邀之には恋の達人呼ばわりされている。

なだれこむように各派閥が勢揃い。

 

前回、取りあげた台詞は短いものが多かったので、だんだん「成語の出典 山河令」になるのではと案じたが、今回は長いものが多く、ちょっぴり収穫気分である。

 

WOWOW放送:2021年9月23日(木)深夜

 

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

 

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

王羲之について

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

 

 

 

外部サイト

 

 

网剧《山河令》音乐原声大碟

 

▼日傘です。