韓国宮廷ドラマ『赤い袖先』がWOWOWにて2022年10月28日(金)から週に2話放送となった。韓国語タイトルは『옷소매 붉은 끝동』。全17話。
WOWOWの韓国ドラマはオンデマンドの配信期間が短い事が多いが、このドラマはオンデマンドはなく放送同時配信しかない。
WOWOWでは『ワン・ザ・ウーマン』に少し遅れてのスタートで、韓国ドラマブログを巡っていたらこの『赤い袖先』の評判が良かったので見てみることに。折しも『ワン・ザ・ウーマン』で出てきた「米櫃」に関する英祖も出てきて、イ・サン時代にも興味がわいていたところ。
千夜一夜のシェヘラザードのような機智に飛んだヒロイン宮女 ソン・ドギムとイ・サンの物語。宮廷ものにしては尚宮内での争いもなく、同僚は女子グループで仲良く上司もヒロインを案じてくれ、仲間意識が高いのが安心して見ていられる。
今のところ敵役と言えば和緩(クァワン)翁主だが、高貴妃@瓔珞みがあると思うようになると、それはそれで楽しめる。国王 英祖と王世孫 イ・サンの関係が、少し永楽帝と皇太孫 朱瞻基@尚食を思わせるのも和んだ。ちょっと英祖が病んでいる節はあるのだが……。
思いがけず韓国ドラマに『詩経』が出てきたので、そちらもまとめています。
1話「幼き日の出会い」感想
子供時代から始まる。英祖の側室である暎嬪が亡くなり、その屋敷へ行く途中に川を渡る映像が、緑の景色が広がり蛍も飛んでとても美しく印象的。赤い袖先は宮女の袖で、即ち王の女を指しているとあり、タイトルの意味が分かつた。
壬午年にサンの父である思悼世子が逝去したようだ。風が吹いても灯籠の火が消えなかったのはメッセージ、というのが良いな。
2話「書庫で始まった関係」感想
王世孫と知らずにいるドギムは、延々と反省文を書かされている。意外とコメディなので見続けることに。
3話「小さな波紋」感想
王様の前でドギムが語り始めるのが、千夜一夜のよう。主人公は和平公主に似ており、英祖から親近感を持たれやすいのね。主人公2人、池の水面越しに会った~!
4話「ドギムの戸惑い」感想
ドギムが石跳びでストレス発散し、水さしを締めあげるのも可愛い。雨を見つめる。要所要所で白梅が映るのね。兼司書は宮女のアイドルで、いつの世も親衛隊は怖いな。
世孫の母 恵嬪ホン氏、気が利くもんだ。王妃キム氏は若いのね。王妃 VS 王の姉妹である和緩翁主で宮中にて火花を散らしているものの、ヒロインに清涼感があり理知的な雰囲気とあいまり、爽やかな感覚になる宮中ドラマ。
5話「秘密の会合」感想
ケレ式と誓いが印象的。ケレは女性の成人式。
そして韓国ドラマで『詩経』が!!
『国風 邶風(はいふう) 北風』
北风其凉,雨雪其雱。
惠而好我,携手同行。
其虚其邪?既亟只且!北风其喈,雨雪其霏。
惠而好我,携手同归。
其虚其邪?既亟只且!莫赤匪狐,莫黑匪乌。
惠而好我,携手同车。
其虚其邪?既亟只且!北風は冷たく吹き、雪はこんこんと降る。
恋情を抱き私を慕ってくれる人と、手を携えて共に発とう。
何ゆえためらうのだ。ぐずぐずしておられぬのに。北風は激しく吹きつけて、雪もひらひらと舞う。
恋情を抱き私を慕ってくれる人と、手を携えて共に帰ろう。赤きは狐に他ならぬ、黒きはカラスに他ならぬ。
恋情を抱き私を慕ってくれる人と、手を携えて車に乗ろう。
『詩経』北門三章章七句とあり、解説本によれば友と共に亡命する詩、または結婚をテーマとした詩など解釈が分かれている。注目ポイントは「手を携えて共に~」からの変化なのではなかろうか。物語とどう絡むのか楽しみだ。
サンは苦痛を受けている民のためにも王位に就こうとしており、
ドギムは「力はなくとも世孫様の味方です。一生おそばを離れずひとえに世孫様に尽くす味方です」と誓う。白梅の花。
なんとなく韓国ドラマではふたりの関係が深まるのが早い気がするのは、中国ドラマだと短くなっても全30話位はあるせいなのね。
6話「障子越しの思い」感想
予告で見ていたサン(イ・ジュノ)の入浴シーンがある回である。花びらを浮かべて入浴するのは、中国ドラマだとだいたいはヒロインだが、こちらは王様なのね。衣を脱いだり着たりと忙しいが、一緒に入る羽目になるのはお約束~。
王妃とのなぞなぞの掛け合いも楽しい。ドギムの返答は、史実の王妃が皇后選びの際に英祖に答えた問答らしい、なるほど。韓国王朝でも親蚕礼は王妃の大切な儀式だったのね。虫嫌いな人にはかなり大変な行事……。皇后と蚕は瓔珞でも学んだよ。意外とおマヌケだった和緩翁主。
「清代の絹」に、この頃の清代はいつ頃か調べてみたところ、代理聴政が始まったのが1775年なので、乾隆帝が統治し、皇后は瓔珞のモデルな皇貴妃魏佳氏の頃だ。瓔珞が親蚕礼を執り行っていたのかと、物語をクロスオーバーさせて考えるのも楽しい。
そしてなんだかイヤな感じの兼司書 ホン・ドンノは、王の1番の側近というポジションを奪われそうな嫉妬ゆえとわかり、ヒロインライバル枠が、男主2なのね。男の嫉妬も怖いというやつ。
7話「ときめく気持ち」感想
サンがドギムの告白を聞いて、にやけちゃうのがカワイイ。でもそれは仕える者として慕うという事だったんだと……。
ドギム兄登場!兄と戯れる所を見られて嫉妬メラメラは、朱瞻基@尚食が第24話でもちょうどそんな場面だったのよ。ドギムが風邪と聞いておでこにそっと手を当てる場面がキュンキュン。サンが「好きな場所で好きな人と」と告白しちゃうこの離れのような場所、いいな。祖父のようにはならないというのは、大体そうなるフラグ。
おっかない提調尚宮 チョ氏は700人の宮女を守りたいし、宮女から側室を出して地位向上を図りたい。孟尚食@尚食もそんな感じだった。
お風呂の後でぼんやりしている世孫の講義の本はまたまた『詩経』。
「川の流れに沿って下ってゆくが、いつしか水の中にいる」。臣下たちに新たな解釈を試みられていると言われているのが楽しい。『魔道祖師Q』第10話で魏無羨がこの漢詩をもじっている。
『詩経 国風 秦風 蒹葭(けんか)』
蒹葭苍苍,白露为霜。所谓伊人,在水一方。
溯洄从之,道阻且长。溯游从之,宛在水中央。蒹葭萋萋,白露未晞。所谓伊人,在水之湄。
溯洄从之,道阻且跻。溯游从之,宛在水中坻。蒹葭采采,白露未已。所谓伊人,在水之涘。
溯洄从之,道阻且右。溯游从之,宛在水中沚。蒹葭の葉は蒼蒼として、白い露は霜となる。
わが思うこの人は、水のかなたに居る。
川をさかのぼって行こうとすれば、道はへだたって且つ遠い。
流れを渉って行こうとすれば、まぼろしの面影は水のさ中に。
高田眞治「詩経 上」1996 集英社
世孫が開いているページは『小戎』で『蒹葭』の前にある。
『詩経 国風 秦風 小戎』
小戎俴收,五楘梁辀。游环胁驱,阴靷鋈续。文茵畅毂,驾我骐馵。言念君子,温其如玉。在其板屋,乱我心曲。
四牡孔阜,六辔在手。骐骝是中,騧骊是骖。龙盾之合,鋈以觼軜。言念君子,温其在邑。方何为期?胡然我念之。
俴驷孔群,厹矛鋈錞。蒙伐有苑,虎韔镂膺。交韔二弓,竹闭绲滕。言念君子,载寝载兴。厌厌良人,秩秩德音。祖霊のことを思うてやまぬ。穏やけき玉のような人。はや宗廟に降りたもう。はや鎮めよ我が心のうち。
(略)どれほど待てば相逢える、何故にかくも心揺さぶる。
(略)寝ても覚めても思うてやまぬ。穏やけき良き人よ、違うことなき良き誉よ。
石川忠久「詩経 中」1998 明治書院
『山河令』で見かけた漢詩でもある。気になった所に下線を引いてみた。サンの心境かと思うとちょっとニッコリ。詩経の解釈は人によって異なり、石川氏は「板屋」は「遺体を一時的に収めておく建物」とする白川氏の説をあげており、幼いドギムとサンの出会いの場所に思えたので取りあげてみた。
ドギムが郡主たちと筆写したのに焼き捨てろと言われた『郭張両門録』は、あまり情報がなく中国と韓国サイトにて検索。『赤い袖先』の中国語タイトルは《衣袖红镶边》である。
『郭張両門録/곽장양문록』は、中国の中唐時代を背景にした郭子儀と左大臣張洪の両家子孫(架空人物)にまつわる全10巻からなる韓国語小説。『夢玉雙峰練錄/몽옥쌍봉연록』の続編で子世代の物語らしい。王が読む位だから本格小説なのかな?
史実では1773年春、正祖の妹である淸衍郡主と淸璿郡主、正祖の生母である恵慶宮洪氏付き宮女の徳任(のちの宜嬪)、恵慶宮女官の英熙、慶熙、福妍らが朝鮮古典小説『郭張両門録』を書写した(宜嬪字体/의빈글시)。
徳任は洪氏に娘のように遇されていたので、群主と共に書写したようである。コレクターより寄贈を受け、現在はソウル歴史博物館に所蔵され、このドラマを受けて展覧会も催されたとのこと。
(つづく)
ハングルの波に圧倒されたので、中国語サイトから検索。その後韓国サイトで単語を頼りに検索して機械翻訳にかけていたが、思いのほか分かりやすい! 中国語は謎な機械翻訳になりやすいが、それよりも比較的意味が取りやすかった。しかしどこの部分の訳なのかハングルの原文が分からないのが難点ではある。韓国旅行をした時は、にわかで何とかハングル文字が読めたが、身にはつかずすっかり忘れてしまったなぁ。
▼「詩経 小戎」
▼魏無羨が「蒹葭」をもじっている。
外部サイト
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