笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。「愛なんてただそれだけのこと」「宮廷の諍い女」を更新中。⇩カテゴリー選択はスマホでは左にフリックしてください。

漢詩でスタンプラリー 山河令5話,6話感想 断袖哀帝と董賢,元好問,地山謙,酔生夢死

この山河令ではドラマを見つつ漢詩な台詞もチェックしており、なんだかスタンプラリーのスタンプを探す姿のようにも思えてくる。スタンプラリーはやり始めると制覇したくなってしまう……が、意外と見つけにくかったりしませんか、スタンプ台って。そしてウロウロ。

5話 梟の笑い

1.沈慎が傲崍子に言った台詞

分不相応な宝は災いを招くぞ
匹夫無罪 懐璧其罪

春秋左伝 桓公十年

匹夫无罪 怀璧其罪

いやしい男にはもともと何の罪もないが
身分不相応な宝玉を持つと、人からねらわれて禍を受ける
鎌田正「春秋左氏伝1」1971 明治書院

この言葉は周のことわざである。兄の虞公に宝玉を所望され虞叔が献上した時に言ったもの。しかし続いて宝剣を欲しがられ、「欲望は満足することなく、やがて身を害される」と虞公を攻めた。 

2.周絮が趙敬を評して言った

孟嘗君(もうしょうくん)

中国、戦国時代田文(でんぶん)。戦国四君(信陵君、平原君、春申君)の一人。食客を3000名、召し抱えており、「鶏鳴狗盗(けいめいくとう)」の出典でもある。秦の昭王に捕らえられたが、犬の真似をして盗みを働く食客と、鶏の鳴き真似をする食客により無事に逃れた故事で、つまらないことでも何かの役に立つことがあるたとえ。

 

3.傲崍子が師弟たちに言い聞かせる

関わる者は皆 被害を免れられぬ
覆巢之下 焉有完卵

世説新語 言語第二 五』が出典。
アニメ魔道祖師前塵編12話感想で解説。

 

4.変装した艶鬼が、穆雲歌に迫る

天では比翼の鳥となり 地では連理の枝とならん
在天願作比翼鳥 在地願為連理枝

唐の白居易長恨歌

在天愿作比翼鸟 在地愿为连理枝
天长地久有时尽 此恨绵绵无绝期

天上にあっては比翼の鳥となりたい
地上にあっては連理の枝となりたい
その誓いの言葉であった
天地は長く久しくつづくとも、いつかは崩壊の時が訪れる
この二人の離別の恨みは、いつまでも長く絶え尽きることはないであろう
石川忠久「白楽天100選」2001 NHK放送出版協会

有名な楊貴妃玄宗皇帝の漢詩をこの場面で投入してくるか。

5.温客行が周絮に言う

夜中に幽鬼の噂はするなと言うだろ
白天不谈人 夜里不说鬼

俗説。


6.温客行が血のついた周絮の袖を扇で切り落とす

断袖

前漢哀帝董賢(とうけん)の故事。
この言葉は『魔道祖師』でもおなじみだが、どんなふたりだったのか興味がわき、『漢書 佞幸伝第63』を読んでみた。

『佞幸伝』は寵臣について描かれたもので、「佞幸」はこびへつらって主君に寵愛されること、とある。

ふたりの出会いは哀帝となってから見そめており、董賢は自他共に認める美貌であったようだ。董賢の性格は「柔和で人の意をむかえ、善く媚びることでみずから固った」とある。

哀帝は董賢が家に帰るのも厭うて、董賢の妻共々召し抱えとあり、董賢は妻帯していたのか! 董賢の年齢は文中では22歳と記載されている。董賢や妻の家族は厚遇され、その勢いは哀帝崩御するまで続いた。哀帝が亡くなると王莽は謁者に命じて董賢に勅語し、董賢と妻は自死している。
小宮武夫「漢書下巻列伝2」1979 筑摩書房

ちなみに哀帝の先の帝は成帝であり、「君花紅」の商細蕊が演じた趙飛燕の名も、この段で少しだけ出てきて、「(成帝の)趙皇后となった」とある。哀帝は成帝の甥であり、趙飛燕の後楯で哀帝は皇太子となったようだ。19歳で即位し、25歳で崩御

後漢書 列伝2 王劉張李彭盧列伝第2』の王閎(おうこう)には、哀帝が崩じる際に、董賢に璽綬を預けたとある。そんな大切なものも渡していたのか。王閎は元帝の王皇后の後ろ楯を得て董賢に迫り、董賢も拒まず璽綬を授く。
吉川忠夫「後漢書 列伝1」2002 岩波書店

 

7.温客行が周絮に賭けを持ち出す

蝉を取る蟷螂を狙う雀
螳螂捕蝉 黄雀在后

説苑』にある逸話。中国ドラマで割と見かけるたとえでもある。「金の雀を追いしかの道/中国詩歌⑨と陳情令魔道祖師」で説明。

 

8.温客行が梟の声を聞いて言う

梟が笑うと 死人が出る
不怕猫头鹰叫 就怕猫头鹰笑

俗説。猫頭鷹はフクロウ。

6話 酔生夢死

1.温客行が素顔を見せてくれと言い、周絮が去ろうとして言う

お前がいなくなったら 私は寂しい片割れになる
你若不在了 千山暮雪 我孤翼只影向誰去啊

金の元好問摸魚児 雁丘詞

问世间 情是何物 直教生死相许?(略)
君应有语:
渺万里层云 千山暮雪 只影向谁去

世に問う、情とはなんぞや、生死を互いに約束すること?
君は語る
万里の雲や 雪降る千山 影は誰に向かう?

つがいの雁の一羽を捕らえたところ、残された一羽は自ら落ちて命を絶ったという話を聞いて作られたもの。

周深の『情是何者』の歌詞にもなっている。なんでもCCTVの『经典咏流伝』という漢詩を今時な曲で歌うシリーズ番組で歌われたらしい。周深は第三季の2020年7月放送である。肖戦が『竹石』を歌ったのもこの番組由来だった。


www.youtube.com

2.温客行が周子舒に本名かと聞かれ答える

温厚なること 玉のごとき君子だ
謙謙君子 温其如玉

詩経 国風 秦風 小戎

(略)
言念君子 温其如玉
在其板屋 乱我心曲

祖霊のことを思うてやまぬ
穏やけき玉のような人
はや宗廟に降りたもう
はや鎮めよ我が心のうち
石川忠久「詩経 中」1998 明治書院

この詩は諸説あるようで、秦の襄公が西戎を討伐した時の詩、または遠征する夫君によせる妻の叙情詩とされている。もちろん温客行は詠われている夫君のポジションである。

謙謙君子は、『易経』の第15卦 地山謙の
初六に「謙謙君子、用渉大川、吉」というのがある。
へりくだった態度でのぞめば、大河をわたるような大事業もなせる、という卦。本来上にある「山」が「地」の下にあると、すなわち「謙遜」という意味になるらしく、雌伏の時のようだ。2021.8.30追記

 

3.幻覚の香の名前

酔生夢死

何もせずにただむなしく一生を過ごすこと。酒に酔ったように夢を見ている心地で死んでいく。
北宋儒学者程颐(ていい)の言葉。

 

4.温客行が酔生夢死について述べる

世は危うく 人心は計り知れぬ
世道艰险 人心鬼蜮

詩経 小雅 何人斯

 則不可得
有靦面目 視人罔極
作此好歌 以極反側

鬼(ゆうれい)ならば蜮(よく)ならば
姿は人に見られまい
みすみす厚い顔をして
あまりにひどいこの仕打ち
このよい歌を作りもて
常なき人の心をきわめる
目加田誠詩経・楚辞」1969 平凡社

兄弟のように親しんでいたふたりが仲違いをし、近くまで来たのに会いに来ないと陥れられた側の人が恨みつらみを歌っている。蜮は水中に住み人に害なす怪物。

 

5.温客行が張成嶺を評して言う

か弱いヒナには止まり木もなく
人海孤雏 无枝可依

曹操短歌行

月明星稀 烏鵲南飛
繞樹三匝 何枝可依

月の光がさえわたり星の光がまばらとなる中を
かささぎが南に向かって飛んでゆく
高い樹木を三度も回って
どの枝に身を寄せようかと迷っている
鎌田正「漢文名作選3」1999 大修館書店

『短歌行』は4話でも紹介。

 

5話,6話の感想

次々に登場人物が出ては消えていく。なかなかのハイペースである。覚えた江湖な傲崍子も早々に消えてしまった。そんな中、浮気クズ男・穆雲歌(袁帅)を成敗してくれる艶鬼・柳千巧(柯乃予)は必殺仕事人系のようで好感が持てた。そして蝎王(李岱昆)が琵琶をかかえて登場。これからの暗躍が楽しみである。

一方、あまりイイトコロなしの五湖盟。陳情令の名残か、豪邸は私腹を肥やしているように見えるし、酒を強要するヤツに好漢はおらず、張成嶺まで知らぬ存ぜぬになってるし。三白山荘の屋根瓦をめくるだけで、屋敷内がわかるという謎の構造の建物である。

そんな中、周子舒と温客行が森を飛んでいると、武侠モノでよく見る主人公男女ふたりのロマンスに見えてくるのは、流れる主題歌『天問』のせいなのか。毒を吸い出すのも、背中は届かないという……。

本国では流れなかったスペシャル版というのが6話にはあったらしく、水を掛け合う場面がそうらしい。陳情令で言えば、WeTV特別版だけにあった藍忘機の酒でふらふら@座学場面みたいなものか。

藍忘機の酒のようと言えば、温客行の酔生夢死での幻覚場面が愉快。日頃完全無比な人物が本音をもらす場面は面白いのである。肩甲骨フェチは母上由来だったか。この時にもらした「周子舒」という言葉はどういう意味を持ってくるのか。そして周子舒がめそめそする張成嶺の面倒をみてしまうのは、弟分の秦九霄を重ねているのか。四季山荘荘主・秦懐章(宫正楠)の姿も。

なんとはなしに6話で周子舒の変装がとかれる、と目にしており、どうやって変装をとくのかと思っていたら、水の中からあがってきたらとかれていた。温客行がじーーっと見て嫌がられていたけど、見たくなるのはわかる気がする。見慣れないから見たくなるのよね、おまけに美しいし。

薬人という傀儡のようなのも出現。瑠璃甲は5つあり、五湖盟がそれぞれ持っていた。その内の1つが周子舒の手に入り、ウサギ二羽と交換で温客行の手の中に。それを30個複製する温客行。瑠璃甲コピー品がこれから江湖に出回るのね……。温客行の衣装も濃紺系になる。

張成嶺を気にかけている周子舒。そして顧湘が出てくるとやはり賑やかで楽しい。沃隆のロゴがやけに目立つと思っていたら、劇中でCMを入れてきた。沃隆は中国の青岛沃隆食品有限公司のナッツブランドらしい。

 

5話の再登山メモ

三白山荘の璟瑞殿。雌雄の孔雀。「百聞は一見にしかず」は温客行が沈慎や華山派に対しても言っていたのね。

断剣山荘 若荘主・穆雲歌が追われて傲崍子たちの前にあらわれる。離恨天にある薄情簿に名前が載っているようだ。度秋聲で穆雲歌が燕婉に責められている。

岳陽派長兄の弟子・宋懐仁が沈慎を送り届ける。温客行が華山派掌門・于丘烽子息・于天傑を紹介される。璟瑞殿に忍びこんだ于天傑が、覆面の男を追っていく。纏魂糸が張られ、于天傑が殺され、覆面の男・宋懐仁も太岳三青峰の剣法に加えて暗器で殺されていた。

いっぽう傲崍子には開心鬼に殺害された跡が残っている。怡月軒にいるのは張成嶺。

泣く幼い秦九霄を慰めたのを回想している周子舒。二兄・趙敬の瑠璃甲が盗まれ、天機鎖で封じていた扉を開けられたと話す。

趙氏義荘、柱には「丁蘭刻木思親孝 千百年祖宗如在」。趙氏祠堂、「徳澤流長」の扁額。振り向いた姿に父上と呼びかける温客行。

四季山荘荘主・秦懐章。酔生夢死の香で幻覚を見ている。温客行に解毒を飲ませると「周子舒だましたな母上に言う」と叫ぶ。

離恨天は三十三天の最高位で、民間伝説では男女の生き別れ、生涯の恨みの境地とある。

丁蘭は二十四孝のひとり。

 

6話の再登山メモ

長舌鬼が鐘を鳴らすと薬人たちがあらわれる。そんな最中におんぶをねだる甘えっ子温客行。纏魂糸匣Getだぜ。
 薬人は鍼を打って意識や五感を操り、毒薬で皮膚や骨を硬くし、生身の人間を怪力の化け物に作り変え意のままに操る。纏魂糸匣は吊死鬼のもの。その中に瑠璃甲が入っていた。

毒蠍首領・蝎王無常鬼。傲崍子から三兄・瑠璃甲を無常鬼が奪い、長舌鬼に託して今は周子舒から温客行の手元に。

于丘烽と断剣山荘荘主・穆思遠。息子・于天傑は弟子・賀睿を捜しに行ったと話す。西北からの賓客・韓英。英雄大会は7月。

牌九なら負けないのにと言う顧湘。木の実を差し出され「店から金をもらったか」と言う温客行(笑)。侍女たちは姉・雲栽(付柔美琦)ピンク衣裳と妹・紅露(任伊暄)。2021.11.3追記

 

 

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▼覆巢之下,焉有完卵の説明

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▼陳情令のネタばれあります

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長恨歌

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▼「詩経 小戎」

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外部サイト

 

▼特集・中国大接近 山河令はなぜ面白い?