27話 絶世の知己
1.周子舒が葉白衣に言う
兄弟は手足のごとく生死を共にします
既为手足之情 一栄俱栄 一損俱損
清 曹雪芹『紅楼夢 第四回』
“这门子道:‘这四家皆连络有亲,一损皆损,一荣皆荣。’”
門番は言いました「この四つの家は互いに姻戚関係にあり、一つが衰えれば残りも衰え、一つが栄えれば残りも栄える」
井波陵一「新訳紅楼夢1巻」2013 岩波書店
雨村が昔知っていた門番から経緯を聞いている場面。
2.葉白衣が言う
天地は仁ならず 万物を芻狗とす
天地不仁 以万物為芻狗
『道徳経 第五章』
天地不仁,以万物为刍狗;圣人不仁,以百姓为刍狗。天地之间,其犹橐籥乎, 虚而不屈,动而愈出。多闻数穷,不如守中。
天と地には仁(いつくし)みはない。万物は、わらでつくった狗のようなものだ。聖人にも仁みはない。人民どもは、わらでつくった狗のようなものだ。天と地の中間は、ちょうどふいごのようだといえるだろう。その内側は虚であるが、尽きはてることはなく、動かせば動かすほど多く出てくる。口かずが多ければ、しばしば使いはたされる。なかにじっと保っておくにこしたことはない。
小川環樹「老子」2005 中央公論新社
肖戦主演の『ジェイドダイナスティ』、李易峰主演のドラマ『誅仙青雲志』の原作小説『誅仙』の主題がこの言葉だった。
3.温客行が周子舒に言う
手は下していないが 家族の死の一因は私にある
雖然我不殺伯仁 伯仁却因我而死
『晋書 巻六十九 列伝三十九 周顗伝』
导执表流涕,悲不自胜,告其诸子曰:“吾虽不杀伯仁,伯仁由我而死。幽冥之中,负此良友!”
王導はのち中書省の故事を調査し、周顗が上表してきわめてねんごろに自分を救おうとしてくれたのを見、その上表をとって涙をながし、その諸子に、自分は直接周顗を殺したわけではないが、彼は自分の態度が原因となって死んだ。よみじのうちにあるこの良友にそむいたことになる、といった。
越智重明「晋書」1970 明徳出版社
「百口」。王敦の乱が起こったために、王氏の一族が除かれようとした折に、周顗(字:伯仁)は王導を保護はしなかったが元帝に取りなしてくれていた。王導はそのことを知らずに恨んでさえいた。その後、勝利をおさめた王敦に周顗の今後の処遇を問われるが王導は答えず、周顗は王敦により誅されたという経緯があった。
4.周子舒が温客行に言う
人生とは日に三度の飯にすぎぬ
人生不過一日三餐
5.趙敬が書をしたためている
静かにして安し 安くして慮る
静而後能安 安而後能慮
『礼記 大学』
知止而后有定。定而后能静。静而后能安。安而后能慮。慮而后能得。
15話-4で趙敬が蝎王に言っていたものの続き。
6.周子舒が温客行に言う
もはや俺たちの運命は糸で結ばれたように1つだ
反正咱倆已経是一根繩上的螞蚱
清 文康『児女英雄伝 第四回』
也不是我壞良心來兜攬你,因為咱們倆是‘一條線兒拴倆螞蚱’,飛不了我迸不了你的。
13話-9のねじり菓子を思い出す台詞。螞蚱はバッタ,イナゴ。
27話感想
温客行が簫を吹いている。三人の穏やかな日々の回想場面、陣の像に赤いリボンを巻いているのは春節の準備なのかな。
葉白衣が山中を飛ぶ中、周子舒が立ちふさがる。温客行の正体を告げる葉白衣。やはり周子舒は知っており、師弟として終生の知己として温客行をかばう。けれど葉白衣もまた、龍背剣にかけて鬼谷を平定するという誓いを立てており、両者は対立し葉白衣に剣・白衣を向けるという皮肉。戦うが所詮、葉白衣にはかなわない。
そこへ温客行が駆けつける。温客行がひらりと剣の上に立つ姿は、いよっと声を掛けたくなる。温客行とも戦うが、仙人な葉白衣は無敵である。自決を迫る葉白衣に、周子舒は「わが師なら居丈高に裁くのではなく、師弟を導き悔い改めさせる」と言うと、葉白衣は一振りし、今度江湖で会ったら殺すと言って去って行く。
二人になるとからかい甘えモードな師兄・周子舒。左腕が折れたらしい。二人の唇の血が紅のよう。
蓮の花美しい清風山別邸で、繕い物をする顧湘とずっと顔を眺めている曹蔚寧。蓮の花が咲いている場面では、だいたいラブラブなのだ(陳情令より)。顧湘、縫い物もできるのね、家事力高し。莫蔚虚が手紙を届けに来て、曹蔚寧に顧湘には邪気があると指摘する。察しがいいな。曹蔚寧はキッパリと顧湘は良い娘だと主張する。そういう所、カッコイィぞ。
またまた風呂に入っている温客行。温客行の気がかりは張成嶺のこと。五湖盟が両親や自分たちを見殺しにしたのと、温客行が流行り歌を流したことで鏡湖派が襲撃されたことで、同じようなものだと言う。周子舒は身体を治して、敵を討ちに行こうと言い置く。服を置くときに見ないようにしているのが奥ゆかしい。
趙敬に顧湘が清風山にいることを告げる蝎王。バレてますやん。蝎王が薬人を使って闇討ちすると言うと、趙敬は激怒。蠱術に関わっていたことを知られたくないようだ。その剣幕に思い当たることがアリアリな蝎王は絶望した様子で、趙敬から貰った瑠璃甲に触れ「自分も博徒だったとは知らなかったな」とつぶやく。蝎王は蝎掲留波と言うのか。残忍なんだけど健気すぎる蝎王……。
雨に濡れる赤トンボ。曹蔚寧は周殿や温殿は高潔な知己と言う。
葉白衣からの手紙は「群鬼を除き山河を清める」と山河令の印付きである。右手だけで薬研ですりつぶす周子舒に、温客行は初めは手伝っていたが、髪に悪戯している。
夜でも修行している張成嶺を見ながら、温客行は「誰かと共に過ごしたいと思うなんて」と思いをはせる。
28話 我が家
1.趙敬が蝎王に長舌鬼の瑠璃甲は天窗にあると言う
こうも簡単に見つかるとはな
真是踏破鉄鞋無觅所啊
南宋 夏元鼎『絶句』
崆峒访道至湘湖 万卷诗书看转愚
踏破铁鞋无觅处 得来全不费工夫道を学ぶために崆峒山からずっと湘湖まで探しまわり、万巻詩書から答えを得ようとすればするほどかえって愚劣になる。
鉄の靴をはきつぶすほど探してもないのに、得るときはいとも簡単である。
2.温客行が周子舒と張成嶺に言う
お前たち2人は食ってばかりで働かない
你们師徒二人整天四体不勤 五谷不分好吃懒
『論語 第十八 微子 七』
“丈人曰:‘四体不勤,五谷不分,孰为夫子?’”
老人がこたえた。「肉体労働をしたこともなく、五穀の見分けもつかない男、それを『うちの先生』とはどういうことだ」。
貝塚茂樹「論語」1973 中央公論新社
3.酔った趙敬が位牌に向かって言う
富貴にして帰郷せぬは 錦を衣て 夜行くがごとし
富貴不帰故郷 如衣錦夜行
16話-7で趙敬が蝎王に言った台詞。富貴と言うと、14話の富貴鶏を思い出してしまうのだが……。
4.温客行が周子舒に言う
灯下 酌み交わす人なし 我が心 憂うと謂う人なし
無人灯下対酒 無人謂我心憂
明 楊慎『贈別陸後野』
邂逅叶心期 灯花对酒卮
浮云迁客梦 明月美人诗
馆曙鸣鸡早 关寒度马迟
行过宜禄驿 好寄世南碑
「灯下」と「灯花」の違いはあるが、「雲」と「客」が続いていたので取りあげてみた。
『詩経 王風 黍離』
知我者 谓我心忧
14話-10でも温客行がつぶやいていた。
5.韓英が周子舒に言う
忠臣は二君にまみえず
忠僕不事二主
『史記 田単伝 第二十二』
王蠋曰:忠臣不事二君,貞女不更二夫
王蠋は言った、忠臣は二君に仕えず、貞女は二夫にまみえず
燕が斉を攻めた時に、斉の王蠋を賢人と聞きおよび仕官させようとしたが、王蠋は断り自死した。
28話感想
二転三転して陰謀渦巻いている。数珠つなぎに話が展開しているのが面白い。
- 黎淳殿。韓英が毒蝎に襲われ、仲間も殺されたと晋王の元に担ぎこまれる。内通者がおり段首領が見当たらないと告げるが、晋王は江南へ向かわせたと返す。
- その段鵬挙が趙敬と密談しており、趙敬は瑠璃甲は鬼谷にあると伝える。うまくいけば晋王の諸侯や太師に取り立てられるらしい。
- 蝎王が趙敬に、晋王に仕えて瑠璃甲を集め、そこで得た物を趙敬に渡すと申し出る。
- 段鵬挙が毒菩薩とお戯れしており、晋王は薬人に関心があるらしい。そこへ蝎王がやって来て、晋王は瑠璃甲が欲しいならなぜ私に頼まぬ?と問う。
- 韓英が晋王の密室に忍びこみ、瑠璃甲を盗み、密書を見る。
- その姿を報告され、晋王はそのまま尾行させ、大物を釣りあげたい様子。
- 韓英が傷だらけで四季山荘へ辿り着く。周子舒の正体を知られないよう仲間を殺害し、密書の内容を周子舒に告げる。
今のところ、蝎王が最強だな。イーフにぞっこんでなければ。
毒菩薩のおみ足の美しいことよ。段鵬挙にはモッタイナイんだけど、男性なら誰でもいいんでしたっけ?
今回の趙敬はなんだか滑稽な面白さが出てきている。蝎王の胸をツンツンしていたのもあるのかも。晋王の方が不気味で脅威なのだ。蝎王が趙敬に会う前の、薄い布越しのアングルは何だろう。
祠堂での趙敬には、さすがに蝎王もドン引きしていた。戦利品の指輪や剣も確認。師匠の趙聞達に軽蔑されていたらしい。
年越しにぼっちで寂しく過ごす顧湘のところに、師叔や師兄も祝いに来てくれる。そうか、二人で暮らしてるワケじゃなかったっけ。実家だと思えとは、和やかでイイ人たちだな。
四季山荘・風軽雲淡。春節のために春聯を飾っており、三人も冬服になり、張成嶺の赤黒の衣裳がカワイイ。
幸せな年越しを過ごす三人にほのぼの。キクラゲや鶏の汁物を食している。やたらお皿が割れているのが不吉と思っていたら、韓英が運び込まれてきた。張成嶺が二回皿を割ったのが気になる。鶏を仕留められない……鶏は誰だ? 器と言えば、22話-8でネズミと器の成語もあったっけ。
それにしても韓英、白い梅を愛でてどれだけ周子舒ラブなんだ。最初は晋王が韓英を殺させようとしていたのかと思ったけれど、自分で仲間を殺していたのね…。そうとわかって再度見ると、晋王はお見通しな様子だった。晋州を出られたのは星明が守ってくれた…。わかりやすく置かれていた密書もアヤシイ。
今となっては古い情報で動いてしまい、温客行の因果が巡ってしまったか……。これは14,5話位の情報だから、その後の放映を韓英くんに見せてあげたい……。韓英のひたむきだけれどどこかズレてしまった忠心と、蝎王のそれとは重なっているのか、正反対なのか?
韓英の姿に、葉白衣センパイの井戸の中の蛙という言葉も思い出され、山河令では人と繋がらす単独でいると、なにか思い違いで取り残される世界線なのだろうか。
(つづく)
今週は陳情令オケコンで大いに盛り上がり、視聴日には祭りのあとの腑抜けになっており、登山できるかと危ぶまれたが、漢詩の数は25話がピークなのでそちらの方は少し気が楽だった。
27話はそんな急な登りを終えて、山々の美しい景色を見ながらの楽しい稜線歩きな気分であった。が、28話はつづら折りが続き、なんだか方向感覚もなくなる思いである。
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