笛の音と琴の調べ

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山河令の時代や晋王とは~李存勗/沙陀族や節度使からたどる歴史壁

毎週木曜日の深夜は『山河令』の時間だったので、今週はもうないのがなんだか寂しい……のだけれど、登頂後は歴史関係の調べものに忙しく、いつもは山河令の漢詩ルートを歩いていたが、今回は歴史壁に挑んでみた。

山河令の時代

『山河令』は架空のファンタジー物語ではあるが、ドラマ化となるとおおよその時代背景が設定される。なんとなく唐~宋時代と、花嫁衣裳や漢詩禅宗からうかがえ漠然とその辺りなのだろうと思っていた。

そして七爺が語った「晋王沙陀族節度使末裔」から沙陀族を調べてみると、実在した部族であり俄然興味がわいて深掘りしてみた。

例によってこれが山河令の時代です、というものではなく仮説で、ドラマの中のキーワードを元に、実在する中国の歴史を身近に感じよう、という目的でまとめたものである。こういう時に読む歴史の本は、するすると入ってくるのだ。細かい点は異なっているかもしれないのでご容赦を。

 

晋王とは誰か

沙陀族8~9世紀頃山西地方で繁栄した西突厥の一部族とある。朱邪とも言い、こちらの方が耳にしたことがあるような?
そして第1話で晋王中原制覇を目指していたので、中国で各勢力がしのぎを削っていた頃に、節度使に関連した沙陀族出身の人物というと、李克用李存勗が候補に挙がった。

李克用は片目が小さく「独眼竜」と呼ばれ、また「飛虎子」とも称されており「虎」というのが気になる。伊達政宗が独眼竜と呼ばれるのは、この李克用にちなんでいるらしい。

河東を平定とあったので、河東節度使となったのは李克用なのだが、最大のヒントは、第1話で晋王を告発しようとして殺された節度使/李大人にあった。中国語字幕では周子舒が静安郡主に告げる場面で「振武節度使が逆臣と結託した」とあるのだ。振武節度使の李姓と来れば、晋王の叔父・李克寧(父の弟)が実在し、実際に晋王となった李存勗に殺されている。となると静安郡主は晋王の従妹という事にもなる。

李存勗(りそんきょく)は後唐を建国した人物で、世界史の教科書では唐の後の五代十国時代の「後梁後唐後晋後漢、後周」とだけ記されている部分にあたる。李存勗の祖先は北方異民族(西突厥の沙陀部)の出身で姓を朱邪と称した。

 

沙陀族とは

そこで歴史をひもといてみる。
沙陀部は新疆省東部のバルクル西北沙漠地方(新疆と蒙古の境界)に散在していたトルコ系民族であった。西突厥の別部である処月の系統。
外蒙古のトルコ系ウイグルの勢力に圧迫され、南に遷り吐蕃の保護を求めたとある。これが沙陀族の祖先が隷属したという「拓掲」にあたるのだろうか? 甘粛の甘州に置かれ、戦争の際に先鋒に配されたようだ。

『斉民要術』は北魏の532年から549年に成立したとあり、北魏を建国したのは鮮卑族拓跋氏。実際、この頃、移民に一定の田地を支給し、耕作させるという措置を取ったようで、諸部落は一定の地区に定住して遊牧民的な移動を禁止されたともある。

沙陀の文字が初めて資料でみられるのは、651年の第3代高宗の時代である。
李存勗の曾祖父・朱邪執宜は唐の保護を求め、第11代憲宗の頃、従軍して功を建て山西北部の蔚州刺史となった。

 

李存勗の祖先、鴉軍、節度使

資治通鑑 唐紀』の終わりと『資治通鑑 後唐』の冒頭、および『十八史略』に李存勗の祖父や父について記されている。

869年の第20代懿宗(いそう)の時代、龐勛(ほうくん)の乱で朱邪赤心(李存勗の祖父)は功を立て振武節度使となり姓名を李国昌(姓は皇室と同じ李)と賜わった。

李存勗の父・李克用も有能で、農民暴動の黄巣の乱を平定するため882年に雁門節度使に任ぜられ黄巣軍を撃破し黄巣を自殺に追い込み、895年に第22代昭宗より晋王に封じられた。
晋国は武力国家で、鉄鋼と石炭を有し唐代より良質の鉄器の産業で知られ、北方より良馬や戦士の補充の便に恵まれ戦力を誇っていた。
黄巣と言えば、9話-11の英雄大会を高見から眺めて温客行が詠じた詩が、黄巣『詠菊』であったことを思うと、なかなかに複雑な味わいがある。

面白いのが、李克用の軍は黒装束で統一された鴉軍」(あぐん)という異名があったということである。天窗の周子舒が黒衣裳だったのと同じなのだ! 鴉軍の威光もあり戦争では強いが、戦略では敵の朱全忠に劣っていたようである。少し天窗とは前後(天窗は晋王と共に創設したとある)しているが、李存勗も鴉軍を用いていたようではある。


907年に唐が倒され、華北では朱全忠後梁を興したのに始まり、五つの王朝が興亡し、その他の地方では十国が抗争を繰り返したことからこの時代は五代十国と呼ばれている。この五代においては節度使体制がもっとも重要な政治の基盤となる体制であり、武人政治の時代でもあった。

この武人の間においては、主君である節度使を父とし、配下の武人を子とするという、仮父子関係がさかんに結ばれた。李克用に至っては百余人の仮子がいたことが記録されている。
ここでの仮子は、姓は仮父の姓にかえられたが、実子と異なるのは、仮父の家や地位・財産の継承権はもっていない。有能な者を仮子とする、あくまでも主従関係の一変形でそのネットワークで勢力を拡大していったとあり、その姿はまさに趙敬を思わせて実に興味深い。蝎王や謝無恙は名前は変わってはいないが。もっとも趙敬は腕に加えて容姿選抜もしていたのではないかとも思えるのだが……。

 

李存勗とは

資治通鑑 後梁』によると、
908年に李克用は腫物ができ重態となり、長子の晋州刺史 存勗を後嗣にと言って正月四日に亡くなった。李存勗が24歳で継ぐと、年少ということで陰口もあり、存勗は長らく軍事権を握っている叔父 振武節度使 李克寧に位を譲ろうとしたが遺命があると辞された。……と資治通鑑にはあるのだが、一方で二月には李克寧の心中の不満を察知して誅殺したともある。となると、周子舒が出奔したのはこの辺り、ということなのだろうか。

また実際に李勗存の有力な武将に周徳威という人物がおり、周子舒の周姓を思わないでもない。

そして周子舒がドラマの晋王に与したのが10年前で898年あたり。史実では李克用が周徳威を河北の青山口に派兵し、張公橋に大敗をきたしたとある。前晋王(李克用)がライバルの朱全忠と覇権を争っていた頃。

周子舒が秦九霄を亡くし嫌気がさし釘を打ち始めるきっかけとなったのは1年半前。906年辺りの戦というと、幽州の劉仁恭に援軍を頼まれ出兵した潞州での戦だろうか。

史実の周徳威は晋から離れず919年に戦死し、李存勗は“丧失良将,都是我的罪责。”と嘆き悲しんだとか。その4年後に李存勗が皇帝となった事を鑑みるに、ドラマの晋王が「3年以内に~」と言ったのはこれに因んでいるのだろうか。

また沙陀族の人種は【欧罗巴人种】ともあり、となると顔立ちはヨーロッパ系なのかしらとも想像が膨らむ。

 

史実の晋王の行く末

さて、その後の晋王である。に対して反撃を試み梁は大敗をきたした。晋王は燕を降し、梁を攻め、ついに都の開封を落とした。

そして923年、李存勗は国を後唐と称して荘宗となる。唐に傾倒して洛陽を都とし、武人としては優れていたが政治家としての資質に乏しく家臣の離反を招く。ドラマでも晋王は親しい人と歌舞に興じたと話されていたが、李存勗も音楽が好きで自ら役者を演じてもいたようである。

李存勗は「自信家で名誉心が強いとされ、うぬぼれが強く人を人ともおもわぬ」と本では評されている。「その尋常ならざる鬼神の如き働きと、平時にあっての心の平衡を欠いた無神経ぶり」という表現に、趙敬がしきりに言っていた『大学』の「止まるを知り心は定まる」が思い出されて、ちょっと興味をひいた。

926年に父 李克用の義子である李嗣源が擁立され開封を占領すると、わずか在位三年で殺された。実際、この中で有名なのは李嗣源(明宗)で、人望も篤く優れた天子であり小説にもなっている。

 

原作『天涯客』では

『天涯客』ではこの辺りがどうなのか気になり冒頭の数章をざっと見てみたが、門番や七竅三秋釘のくだりはあるものの、李大人,静安郡主,梅の図もなく晋王の孔融の詩も詠まれず、晋王に至っては「容嘉皇帝 赫连翊」となっていた。おまけに周子舒が着ている服は、宝藍色長袍のようである。なので上記の設定はドラマオリジナルと思われる。晋王と周子舒が従兄弟というのもドラマ設定だったはず。

赫連という姓の皇帝は、407年に五胡十六国大夏胡夏)を建てた赫連勃勃がいる。赫連勃勃は三男のようであり、姓は「赫赫と天に連なる」という意味だそうだ。

 

ドラマや京劇

李存勗は、リー・イートン主演の中国ドラマ『晩媚と影~紅きロマンス~/媚者无疆』で蘇小玎が、若様 李嗣源を汪铎が演じている。

香港映画『英雄十三傑』は、李克用の義子たちを描いた映画である。

李嗣源の小説はその名も『李嗣源』で仁木英之著。

ちなみに晋王父の李克用は、京劇『珠帘寨』でも描かれており、『君、花海棠は紅にあらず』第2話で商老板が衣裳を調べながら言った「拒むは不恭」は李克用の唱なのだ。

 

いろいろ繋がるとオモシロく、そして際限がない歴史壁、である。何か気付いたら追記します~。

 

参考文献

駒田信二,村松暎「新十八史略」1981 河出書房新社:全般
岡崎文夫「隋唐帝国五代史」1995 平凡社:全般、通史。
頼惟勤,石川忠久「資治通鑑選」1970 平凡社:全般

杉山正明「疾駆する草原の征服者」2021 講談社:沙陀族、李克寧、李存勗の人柄について
布目潮風「隋唐帝国」1997 講談社:仮父子関係、節度使について
周藤吉之,中嶋敏「五代と宋の興亡」2004 講談社:李克用や李存勗について
宮崎市定「大唐帝国」1989 河出書房新社:晋国について
川勝義雄魏晋南北朝」2003 講談社北魏について

 

 

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