笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。「愛なんてただそれだけのこと」「宮廷の諍い女」を更新中。⇩カテゴリー選択はスマホでは左にフリックしてください。

漢詩と山ごはん 山河令7話8話感想/十八摸,楚辞九歌湘夫人,君子死知己,渾水摸魚

登山中にラジドラ魔道祖師の花畑が目に入り、つい寄り道していたらえらく体力を消耗してしまった。屋台で楽しそうな温客行と同じく、まずは山ごはんで腹ごしらえ。

7話 江湖の雑魚

1.艶鬼・柳千巧が皆に告げる

住まう世は違えど 永遠には離れません
互許鸳盟 永結秦晋之好

鸳盟は男女の愛情の誓いをあらわす。

盧照鄰『長安古意』

得成比目何辞死 愿作鸯不羡仙

比目の魚になれるならどうして死を避けようか
鴛鴦となるのを望み仙人も羨みはしない

秦晋之好は熟語。

 

2.周子舒が気に入った烏程酒

美酒の名。

李賀仏舞辞
尊有乌程酒 劝君千万寿

 

3.周子舒の符牒の言葉

晴れに傘を差し 雨に扇を開く
晴時打傘 雨時打扇

面白い表現だったので載せてみた。

 

4.温客行は周子舒の殺し方が残忍と評して言う

顔は桃や李のように艶美 心は蛇や蝎のように悪辣
有道是颜如桃李 心如蛇蝎

金庸神雕侠侣
小龍女の師姉である李莫愁を形容した言葉。失恋により男性を恨むようになる。郭襄(郭靖の次女)を誘拐するも、母性に目覚めた一面もある。

 

5.温客行が腰から瑠璃甲をさげていることに対して

確かに皆がこれを捜しているが
虽然天下攘攘 皆为此物奔忙

史記巻129 列伝第69 貨殖列伝

天下熙熙 皆为利来
天下攘攘 皆为利往

天下の人々が騒がしいのは みな利益を求めて来ており
天下の人々がごった返しているのは みな利益を求めて出かけている
青木五郎「史記 14 列伝7」2014 明治書院

「貨殖」は財貨をふやすことをいい、富や財をなした歴代の人々について書かれている。この段では、礼儀は富がある所に生じて、貧窮においては捨て去られると述べている。

 

6.温客行が楽しいことでも探そうと周子舒に言う

寿命 百年に満たず 常に千載の憂いを抱く
生年不満百 常懐千歳憂

『古詩十九首 第十五首』

生年不满百 常怀千岁忧
昼短苦夜长 何不秉烛游
(略)

人間は百歳までは生きられぬのに千年後のことまで考えて、日夜憂いの種をまくのは愚かなことである
もし昼が短く夜が長いのを苦にするなら、なぜに燭をてらして、夜を日につぎ遊ばぬのだ。
内田泉之助・網祐次「文選(詩篇)下」1964 明治書院

生命のうつろい易さ、青春の再び得難いことを惜しんでいる。

7.男女で掛け合う十八摸を、顧湘が応じる

鼓は早打ち 鑼は遅打ち 私の「十八摸」を聴いてちょうだい
君の髪に手を触れて 漂う黒雲半天を覆う 君の顔に手を触れて
緊打鼓来慢打鑼 听姑娘我給你们唱一首十八摸
伸手先摸頭髪絲 烏雲飛過半辺天 伸手再摸臉前辺

十八摸』は性的含みのある民間民謡らしい。【摸】は「触れる,なでる」なので、アレやコレやソレとおさわりする歌詞が連なる。日本でいえば『野球拳』みたいなものかと思ったが、本来の『野球拳』は三味線と太鼓の伴奏で行われるじゃんけんで、脱衣ゲームはテレビ番組に影響されたものと知る。

『野球拳』のはじまりが「プレイボール」あるいは「や~きゅうぅ~す~るなら~」で始まるように、『十八摸』も「紧打鼓来慢打锣」で始まり、顧湘もそこから歌いだし酔客に触れるどころか張り倒していた。蒔花女ちゃんみたい。そういえば周子舒のお顔はナデナデしていた。

触っては、その部位について述べていく歌詞らしい。いろいろバリエーションはあるようだが、

停锣住鼓听唱歌 诸般闲言也唱歌 听我唱过十八摸。
伸手摸姐面边丝 乌云飞了半天边 伸手摸姐脑前边……

とつづくようである。
十八般武芸】という中国武術の言葉もあるので、このもじりなのだろうか。
金庸の『鹿鼎記』でも十八摸があったらしい。

リクエストされた十八摸の代わりに挙げたのは『楊柳枝』。

 

8.曹尉寧が顧湘に言う

君は守るべき美しい方だから
只是姑娘如花美眷

湯顕祖牡丹亭 驚夢』青年・柳夢梅の一節。

则为你如花美眷 似水流年
花のごと美わしきに 水の流るるごと年は逝く

夢の中で柳夢梅杜麗娘が出会っており、この句の前に柳夢梅は「花園で柳の枝を一本手折ってきました。柳の枝を詩によんで下さいませんか」「お嬢さま、わたくし、あなたにぞっこん惚れこんでいるのです」と言う台詞がある。上記の『柳折枝』との関連を思うと面白いのだ。2021.9.6追記

 

9.周子舒が顧湘と曹尉寧の同席を見て

お前の白菜が食われてるぞ
你家白菜被猪拱了呀

小説『魔道祖師4巻 番外編 家宴』でも出てきた。良い女と冴えない男。山ごはんでも白菜と豚バラ料理は人気のようですよ。

10.曹尉寧が顧湘を評して言う

九嶷の神々 居並び 雲のごとく霊 来る
流風に雪が舞うごとし
九嶷缤兮併迎 霊之来兮如雲
飄飄兮若流風之飛雪

楚辞 九歌 湘夫人

九嶷缤兮并迎 灵之来兮如云
捐余袂兮江中 遗余褋兮澧浦

九嶷の山から、神々が入り乱れて、湘夫人を迎えにやって来て
神々が群がり来るさまは、あたかも雲がわだかまるようだ
わたしは衣の袂を江中に投げ捨て
わたしの褋を澧水の水辺に投じた
小南一郎「楚辞 岩波文庫」2021 岩波書店

湘夫人は、堯帝のむすめで、舜帝の后となったとされ、楚の水の女神という説もある。九嶷は舜帝が居る山で、湘夫人は舜帝のもとへと行ってしまう。「わたし」は男巫とされ、ひとり取り残される。身近に着けていた肌着を相手に贈ることは、自己の魂を奉げることを意味するらしい。

洛神賦
飄颻兮若流風之

『洛神賦』は洛水の川の女神を詠ったもの。曹尉寧くんも頑張っているように思えるのだが。廻が飛になっているのは、顧湘の十八摸にちなんだのだろうか??

「湘夫人」と「洛神賦」を混同しては屈原が怒るぞと言っているが、温客行が怒っていたので温客行は屈原なのか。そもそも『洛神賦』のこの句は、2話で周絮の流雲九宮歩の漢詩で、温客行が用いている。

 

11.漁夫と十八摸とタイトル名と

三十六計の二十「渾水摸魚」 。

「摸」は手さぐりでとるという意味。水を濁し、魚の目をくらまし、その機に乗じて魚を捕えるというところから、一般には混乱に乗じうまい汁を吸う比喩に用いられている。

ここから3話の「漁夫」のを思い出し、ここでの「十八」、そして温客行は瑠璃甲で江湖を揺るがしており、また7話の日本語タイトルは「江湖の雑魚」でもある。2021.12.25追記

 

8話 光ある所に闇

1.顧湘が温客行に銭入れを取り返すよう言われ

人を好き勝手にこき使って
有事鐘無艷 無事夏迎春

列女伝7 弁通伝 斉鐘離春

「弁通伝」は言葉の力の抜きん出た女たちの物語である。
斉の宣王の正后に鐘離春がおり、容姿は醜かったが宣王に謎解きを問いかけ、腐敗していた斉国の平安を導いた。中島みどり「列女伝 3 東洋文庫」2001 平凡社

そして宣王は美しい夏迎春という妃も迎え、国難時には鐘無艷を、平安になると夏迎春妃をはべらした、という事から「有事钟无艳,无事夏迎春」という言葉が生まれたようだ。ここでは顧湘は自分が鐘無艷だと憤慨している。

2.温客行が愛想の良い周子舒に言う

快活な笑顔で気持ちのいい応対だ
就和顔悦色 如沐春風

論語 第十六 李氏篇 4

友便辟 友善柔 友便佞 损也

見かけがいいだけの人を友とし、人あたりのいいだけの人を友とし、口先のうまい人を友とするのは損である
貝塚茂樹論語」1973 中公文庫

【和颜悦色】を調べるとこの「論語」が出てくる。孔子が損だとする人となりを褒めているのは、温客行ならではか。

【如沐春風】は、朱熹『伊洛渊源录 卷四』にあるらしい。

 

3.温客行が言う

地獄が空かずば成仏せず
地獄不空 誓不成仏

地蔵菩薩本願経』。「地獄にいる人を済度させねば仏にはならない」という地蔵菩薩の請願【地狱不空 誓不成佛 众生度尽 方证菩提】である。

 

4.温客行がおとりになると周子舒に言う

君子は知己のために死す
君子死知己

陶淵明荊軻

燕丹善养士 志在报强嬴
招集百夫良 岁暮得荆卿
君子死知己 提剑出燕京
(略)

燕国の太子丹は、士の養成を心がけていたが、そのねらいは強国秦の報復にあった。
よりすぐりの勇士を招き集め、ある年末に荆卿を手に入れた。
士はおのれを知るもののために死ぬ。荆軻は、剣をひっさげて燕の都を出立した。
松枝茂夫,和田武司「陶淵明全集 下 岩波文庫」1990 岩波書店

荆軻(けいか)は戦国末の刺客。燕の太子丹の依頼によって秦の始皇帝の暗殺に向かった。意味深い詩である。

 

7話8話の感想

鬼谷開心鬼無常鬼屍鬼急色鬼艶鬼が揃う。誓ったのだからと穆雲歌に冥婚をさせ、新郎の友人10名を招き、戦わせて残った1名を解放するとは一種の蠱毒か。

喜喪鬼・羅浮夢(チェン・ズーハン)が登場! 羅おばさまかな。憂いを秘めた白髪の女性である。白髪の女性というと映画『白髪妖魔伝』を思い出すなぁ。裏切られた哀しい過去がありそうだ。陳紫函は「神雕侠侣2006」の郭芙(郭靖の長女)だった、「神話」吕雉。

一方、五湖盟も義兄弟の
1.岳陽高崇
2.太湖趙敬
5.大狐山沈慎が揃い踏み。
3.丹陽派は亡くなり
4.が鏡湖派・張成嶺の父か。
1.高崇と4.張父には確執があったようだ。

そして顧湘の前に、曹尉寧(マー・ウンユエン)が登場! 「麗王別姫」の李承寀。気の好い公子で、グルメに目がないお坊ちゃま。強くて食いしんぼうな顧湘と良いコンビである。ここで出てきたのは君山銀針で炒めた鶏料理。君山銀針は黄茶の最高品種。中国茶が飲みたくなるな。

曹尉寧の声優は苏尚卿である「陳情令」金光瑶でおなじみ。艶鬼・柳千巧は乔诗语「陳情令」温情、「桃花」百鳳九~。

えらく周子舒が曹尉寧に笑顔を向けているなぁと思っていたら、案の定、温客行は面白くないようで。顧湘からも曹尉寧を蹴散らしており、その姿は愛娘の前に現れた若者を追いはらう父親のよう。独占欲が強いのね。

温客行が曹尉寧に「席を外せ/ 圆润地走远点」と言ったら、周子舒から同じように言われている。

いっぽう、張成嶺の前に高崇のひとり娘高小怜(ジン・ロー)が登場。こちらも面倒見のよいお嬢さま育ちな娘さんである。曹尉寧に好意があるのかな。
張成嶺が変装をといた周子舒を見かけて、「師匠と似ているが、あんな男前ではない」と真面目な様子で思うのが、ちょっとオモシロイ。

天窗を前にして、周子舒が笠や布を被ると、それは変装していることになるらしい。
天窗にバレたらマズイのでは?と思っていたが、そこは忠義な韓英だった。そしてこの韓英(汪融)は「陳情令」の温旭とな!

天窗は北、毒蝎は南の暗殺部隊で、晋王も瑠璃甲狙いに加わり、大集結である。そして温客行が盗ませた瑠璃甲も、誰かに持ち去られる。

屋台のお代はすべて周子舒まかせで、楽しそうに食べ歩く温客行。西瓜に中国菓子に糖水。確かに周子舒といる温客行は人間らしくなるというか、素で楽しんでいる様子だ。西域のマジックショーも一緒に見に行っている。温客行にとって「朋友」では不満で「知己」だと言う。少しふたりの距離が縮まっているかな。

温客行は「最も悪い鬼は人の皮をかぶり群衆に紛れている」とその化けの皮を剥ぎたいよう。高崇を前にして敵意を感じさせる温客行は、”鉄判官”と温父との間に何かがあったのか。


話は展開しているが、どちらかというと垂直方向の急斜面ののぼりというより、笹藪をひたすらわけながら平行移動しているような感覚である。

WOWOW放送:2021年9月2日深夜

 

 

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▼『列女伝 孽嬖伝』

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