笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。「君花海棠の紅にあらず」とアニメ「天官賜福」、漢詩で「山河令」、「瓔珞」もはじめました。

陳情令解説 金の雀を追いしかの道/一問三不知 螳螂捕蝉黄雀在后 中国詩歌⑨魔道祖師

今日はドラマ「陳情令」の、座学に連れてこられていた金雀について。

ネタバレになるので、アニメ「魔道祖師」日本語吹替版が始まる前に紹介しておきます。物語を最後まで知っているorネタバレOKな方のみでお願いします。

黄雀と説苑

まずは「螳螂捕蝉, 黄雀在后」という成語がある。
これは『説苑(ぜいえん)』に収録されている。『説苑』とは劉向が撰した故事・説話集であり、「説」とは、義理を解釈して自己の意見や考えを人に説いて相手を説得することとあり、その説得のために故事寓話が用いられた。

『説苑』巻第九 正諫

園中有樹、其上有蟬。
高居悲鳴飲露、不知螳螂在其後也。
螳螂委身曲附欲取蟬、而不知黄雀在其傍也。
黄雀延頸欲啄螳螂、而不知弾丸在其下也。
三者、皆務欲得其前利、而不顧其後之有患也。

大まかな意味としては、
楡(にれ)の枝の先にがいる
 ↑
かまきりが身をかがめて蝉を捕まえようとしている
 ↑
黄雀がそのかまきりをついばもうとしている
 ↑
木の下に黄雀を弾丸で狙っている人がいる。


すなわち、みなそれぞれに目の前の利益を得ようとして、その背後に災厄がひそんでいるのをふり返って注意しようとしない、と君主(呉王)をいさめた説話である。黄雀は、口ばしと脚が黄色い雀の一種とある。

高木友之助「説苑」1969 明徳出版社


陳情令の金雀・魔道祖師の黄雀

さて「陳情令」「魔道祖師」にて。

原作小説第81章で乱葬崗にて魏無羨が蘇渉に【蟷螂蝉黄雀在后】、
第105章では、観音堂にて魏無羨は金宗主に【你有没想過,今晚你是蟷螂,但是還有一隻黄雀/今宵おまえは蟷螂で、しかしまだ黄雀がいる】と言うシーンがあった。

これらはそれぞれ、陳情令第45話の乱葬崗にて蘇渉の所業を暴く「傀儡が待ち構えてる算段だ」の台詞、
第48話でも掘り起こした棺の中に大哥の遺体があった場面で、中国語ではこの台詞があったが、日本語では魏無羨の「お前は出し抜いたつもりでいても、背後に先回りする者がいた」と訳されていた。

なんとなくその言葉が気になり調べてみると上記の「説苑」の説話であり、陳情令第4話で、座学へ来る前に聶懐桑が金の雀を3日かけて捕ったというエピソードは、物語の暗喩になっているのだと気づく。小説魔道祖師ではそのままの意味になる。

 

金の雀のとは、すなわち金氏である。これを陳情令の物語に落としこむと、

  • :岐山温氏・温旭
  • かまきり:清河聶氏・聶明玦
  • 金雀:蘭陵金氏・金光瑶
  • 狙う人:清河聶氏・聶懐桑

となるのではないか。


その金の雀を、かつては座学へ行く道行きで、聶懐桑と孟瑶が共にして捕った、というのがなんともいえない思いになる。

孟瑶は、捕らえることでやがて「金の雀」そのもの金氏の人になり、そうなったがゆえに、懐桑は金の雀を狙わなくてはならなくなった

陳情令ならではの切ないエピソードである。

調べついでであるが、この説話の物語は、日本でも『十訓抄』に収録されている。
『十訓抄 第六の一』「楚の襄王晋の国を討たんとす孫叔敖これをいさめ申していわく……」で始まる。
『説苑』では、呉王が荊(楚)を攻めようとして側近にいさめられた話であるが、『韓詩外伝 巻十』に「楚荘王将興師伐晋」から始まる同類の文があり、十訓抄はこちらから取られたものと思われる。
またこの説話は「不顧後患」で高校の漢文でよく紹介されているようだ。
荘子 外編 山木』にも同じような話があり、そちらは黄雀ではなくカササギである。

 一問三不知とは

清河聶氏宗主となった聶懐桑の呼び名は「一問三不知」。発音も【yī wèn sān bù zhī】と、「プチ」と聞こえなくもないカワイイ感じがする。

「一問三不知」は”なにを問われても知らない”という中国語の慣用句で、元は『春秋左伝 巻第十二 哀公二十七年』にある。

春秋左氏伝』とは、春秋三伝の一つとして春秋の経文を解釈した古典である。『春秋』は五経の一として、孔子の制作したものといわれるが、元来、魯の史官の手に成る史記の名称で、広く天子や諸侯の史記の通称であった。左史は君の行動を記録し、春秋と称し、右史は君の言葉を記録し、尚書と称した。春秋三伝には、左氏・公羊・穀梁の三伝が有名である。左伝は、魯の君子・左丘明の作という説だ。

『春秋左氏伝 巻第十二 哀公二十七年』

君子之謀也, 始衷終皆挙之,而後入焉。今我三不知而入之,不亦難乎?

君子が事を謀る場合には、その始め、その中間、その終わりの事情をくまなく考えて、それから実行にかかるものです。それなのに私はその三つをよくわきまえずに実行してしまった。うまくいかなかったのももっともなことだ。

鎌田正「春秋左氏伝 四」1981 明治書院


そしてこの『説苑』の物語の中国語をよくよく見ると
不知」が三つあることに気づく。

園中有樹、其上有蟬。
蟬高居悲鳴飲露、不知螳螂在其後也。
螳螂委身曲附欲取蟬、而不知黄雀在其傍也。
黄雀延頸欲啄螳螂、而不知弾丸在其下也。
三者、皆務欲得其前利、而不顧其後之有患也。

 
現世編での聶懐桑は「一問三不知」と呼ばれていた。

しかしこの物語でほんとうに知らなかったのは蝉・蟷螂・金雀なのである。



 

 

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