陳情令第5話、水行淵のあと、彩衣鎮で魏嬰が藍湛に枇杷を投げる場面がある。【藍湛、吃枇杷。】
原作は第17章。目の前に枇杷を差し出すが藍忘機は相手にせず。
古代中国では、女性が自分の思う相手に果実を投げることによって求愛の意を示す習俗があったとある(聞一多氏説)。
投げられた男性は、その女性を気に入れば、腰の佩玉(はいぎょく:腰帯につるしている玉の装身具)を返し、カップル成立となる。
ここから「投瓜得瓊」(とうかとくけい)という四字熟語ができ、意味は男女が愛情の誓いの品を互いに贈ることとある。
魔道祖師Q10話で詩経を参考にしていた折に見つけたのだが、
詩経国風衛風の「木瓜」(ぼくか)にそのような詩がある。
投我以木瓜
報之以瓊琚
匪報也
永以為好也
(略)
わたくしにボケの実投げてきた
お礼に美しき玉で応えよう
お礼ではないが
いつまでも仲良くしたいから
歌垣(求愛のために、男女が春や秋に、山や市などに集まって歌い合い踊る習俗)における投果婚をうたった詩。
牧角悦子氏説では、果実を投げるのは、あなたの子供を産みたい、という素朴な求愛表現であり、これらの果実は、酸っぱい実のなる樹木で、酸果樹と呼ばれるものとも書かれている。
枇杷は【酸性水果】なので、酸果樹と言ってよいのだろうか。
ちなみにこの詩では、「サンザシ/木桃」「コリンゴ/木季」も続いて投げたとある。
これでドラマの中で、現世編の藍忘機がしれっと通行玉令を魏無羨に渡してくれれば万々歳だったのだが、そんな描写はなく、想像で補うしかないのが現実である。
時は同じ頃、ドラマ陳情令では、江澄が櫛を買おうかどうか・・・という場面がある。
こちらは詩ではないが、中国では、愛する人に櫛を贈り、自分の気持ちを伝えるという文化があるそうな。
櫛は愛のしるしで、【白头偕老】「白髪になるまで一緒に居よう」という気持ちを表わすのだとか。
陳情令では、魏嬰は果実・江澄は櫛という、なにか対のようなモチーフなのだろうか。
また、魏嬰は温寧に護身用の護符も贈っている。
第5話は贈り物がこの先の暗喩となっているようにも思われる。
春画もある意味、贈り物……なのかな?
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