笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。「蓮花楼」「古相思曲」「ロングシーズン」「宮廷の諍い女」「月に咲く花の如く」を更新中。⇩カテゴリー選択はスマホでは左にフリックしてください。

魏嬰にとっての藍湛

藍忘機の魏無羨への立ち位置を記した記事「藍忘機にとっての魏無羨枇杷が木から落ちるとき」は、比較的アクセスされており、「忘羨」人気を実感させてくれている。

ずっとアンサーとして魏嬰側からの思いを書きたいと思っており、漠然とした構想はあったのだが、結局半年以上延ばし延ばしにしてしまった。というのも、魏無羨の思いというのはわかりにくく、書き始めると長文になるからである。

前々回の記事「陳情令番宣にみる忘羨の台詞」でも明らかなように、藍忘機は魏無羨一辺倒だが、魏無羨はそうではないことにも表われている。

それは魏嬰自身の身の上が転じているからでもあり、それに応じて思いも変わっていっている。なので今回は座学時代、夷陵老祖時代、復活後と三期にわけて記した。BLで、物語を最後まで知っているという前提で書いているので、ブロマンス・アニメ勢はご注意を。そしてやはり長文になった。

1.座学~蓮花塢まで

無表情ながらも人への対応がハッキリしている藍湛(ラン・ジャン lán zhàn)と異なり、魏嬰(ウェイ・イン wèi yīng)は初対面でも気やすく話し、好意の見極めが難しい。なのでまずは、魏嬰が大切に思っていることから読み解いていきたい。

魏無羨が誇りとし大切にしているもの。まずは「志があり腕のたつ仙師であること」である。血筋を重んじる仙門世家という肩書きを、敬いはするものの単にそれだけでは評価しないが、どんな志や力量を持った仙師であるか、という事へのウエイトはかなり大きい。

暁星塵や宋嵐への尊敬の念はもとより、その事をより思ったのは、物語の終盤、原作112章,陳情令44話で綿綿と再会し、綿綿の夫に「どちらの世家か」と訊く場面であった。まずそこが気になるんだな、と印象に残っている。思い起こせば、原作74章,陳情令29話、夷陵で藍湛と久しぶりに会った時も、世家や門派の出来事などを尋ねている。そして魏嬰は乱葬崗でも実験を繰り返したり、風邪盤や招陰旗を発明するなど、心の底から仙師業が好きなんだなぁと思うのだ。

そしてそれは、魏嬰の両親の影響が大きいと思われる。4歳の時に生き別れ、ほとんど親の記憶もない魏嬰にとって、ときおり耳にしたであろう、尊敬する江楓眠の部下であった、そして伝説とも化している包山散人の愛弟子であったの話は、優れた仙師であった父母への思慕の念と共に、自分もそうなるのだという明確な向かうべき目標として、魏嬰の中で芽生えたのだと思う。

魏無羨はもともと向上心があり覚えも早い。9歳で江氏の元へ来ているが、魏嬰はきっと幼児の頃から覚えも良くて、親元で文字なども早くに教わっていたのかもしれない(これは想像)。そして、江氏に引き取られその才能は一気に開花し、周囲も驚くほどあっという間に結丹したのではないか。そこで自分が認められ、雲夢江氏の縁の子とはいえ、なんとなく居づらかったであろう蓮花塢で自分の居所を見つけることができ、また新しく学ぶことも両親に通じることでもあるし、生きる術を得て安堵したであろう。

しかし、そこには同年代の江澄がいた。

物語を観ていた初めの頃、座学時代の魏無羨の態度は、能力の高い少年にありがちな、座学を物足りないものと捉えているのかと思っていた。しかし蓮花塢でのやり取りを見る内に、魏嬰の置かれている複雑な背景がみえてくる。

以前にも書いたが「事:江楓眠溺愛説を検証、虞夫人は蔵色散人に強い対抗心を抱いているようなので、魏無羨の能力が江澄を上まわると、虞夫人の叱責がただちに江澄に飛ぶことが続き、魏無羨は少しずつ自分の能力を人前で顕わすことを抑えるようになっていったのではないか。だから、寝坊して舟に乗っては蓮を食べ雉を捕らえていた。それでも大師兄なのだ。

そうすれば自分が怒られはしても、自分のことで江澄が傷つく姿は見なくてすむのだから。決して自分の力を最大限には発揮しないのが、雲夢江氏で過ごしていく処世術でもあり忖度でもあった。誰が悪いわけでもなく、それぞれの思惑が交錯したゆえであったろう。それでも「奇才」と自分でも言えるほどの片鱗は表われていたようだが。
これと似たような描写が某百人一首漫画にもあった。名人が対戦するとあまりの強さに勝負にならずに皆尻込みして対戦相手がおらず、戦い方を変えている、そして名人はヒトカドの人間になる為に闘っている、というもの。

それだけ魏嬰にとって自分を拾ってくれた雲夢江氏への恩義は大きく、雲夢江氏、そしてその家訓も、なによりも大切なものである。原作でもそのような表現はされていないが、宗主はもとより、父親も同じ家訓を受けていた、というのも大きかったのではないだろうか。


長々と前振りをしたが、こういった状況で魏嬰は雲深不知処の座学へ参加した。そして藍忘機と出会う。

初めて出会ったのは、陳情令では雲深不知処の門前だが、それ以外のメディアミックスでは天子笑を手にした雲深不知処の塀の上である。ここで魏嬰と藍湛が剣をかわすことになり、お互いに思いもかけず相手が自分と互角の強さを持っていることに気づく。そのことが、魏嬰にとって心ときめき胸おどる思いになったのだと思われる。

魏嬰にとって藍湛は好敵手。今まで抑えていた自分の力を存分にふるうことができるというのは、魏無羨にはたまらない新たな自分との出会いでもあり、猛烈に相手への興味が湧いたのではないか。

そしてもうひとつ重要な要素、藍忘機の美しさ、である。出会う前から藍忘機の美しさの噂を雲夢で聞いていた魏嬰は、少し対抗心めいた思いもあったのかもしれないが、実際に目にして予想以上だったのではないだろうか。特に原作ではなにかと復活後の魏嬰は、藍湛の美しさについて内心で語っていたような印象がある。

を兼ね備えた上に、藍湛には理不尽なことでも潔く罰を受けることも厭わないその心意気にも急速に惹かれ、「俺は自分が認めた奴とは友達になりたい」と申し出て、なにかと藍湛に構っていく。が、感情表現に全く慣れていない藍忘機の反応は終始つれなく魏嬰には感じられ、少しずつ藍湛の変化を感じられた視聴者には、藍湛を応援したい気持ちが芽生えてくる。

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友達になりたい
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2.夷陵老祖時代

夷陵老祖となり、これらは一変する。
まず夷陵老祖となると、仙師としてはまったく弱くなってしまい、それらを隠さなければならなくなる。それは恩ある雲夢江氏の行く末にも影響することなので、絶対に知られてはならないのだ。人間隠し事があると、それだけでまず人とは距離が遠くなる。

そして何ものにも囚われないと言っているが、魏嬰は先に述べたように仙門の価値観が染みついている。なので今の自分の状態の後ろ暗さも十分にわかっており、しかしそれ以外に手立ても見つからない苦しい胸の内である。

藍湛は、以前の魏嬰だからこそ胸をはって対等でいることができた存在だったゆえに、それが裏返り、魏嬰は藍湛にはいっそう知られたくない思いで避けたのではなかろうか。拮抗するところがあるがゆえに認め合っていた相手だからこそ、自分がそこから降りた時には会いづらくなってしまう、ということはあるように思われる。藍湛は邪道は許さないと知っているし、自分も本当は正道の仙師として誇り高く共に戦いたいが、どうあがいてももうできない。

その一方で、魔道祖師71章,陳情令24話、原作では雲夢で魏無羨は藍忘機に,陳情令では藍曦臣に会ったあとに、師姉に「人はなぜ誰かを好きになるのか」と尋ね、三歳発言もしており、魏嬰の中にある何かうごめく思いを口にはしている。

しかしこの頃の魏嬰には温寧や温情という守らなければならないものもあり、それどころではなくなった、というようにも感じる。

陳情令29話でのかの台詞「みんなが輝かしい道を歩もうと 俺は険しい道を突き進むのみ」という言葉からは、自分が選んだ道への覚悟と共に、同じ道を歩けなくなった無念さ、正道を歩み続ける含光君を誇りに思っていることもにじんでいるように思われる。

もうひとつ、夷陵老祖となってからは、魏無羨は座学時代に藍忘機にされたことを返している気(け)がある。それは魏嬰が自ら「俺はやられたらやり返す性分なんだ」と言った言葉を実行しており、もちろん温寧や温情の恩には恩で報い、温晃による怨には怨で返している。

それでも陰虎符を使って誰よりも強い夷陵老祖は、道は違えど含光君と好敵手、というポジションは変わらない。

3.復活後

さて、復活後の魏嬰である。過去編での魏嬰にとってなによりも大事だったのは雲夢江氏であり、師姉はともかく江澄を守れたことで、さほど思い残すこともなく、戻っても仙門世家とは関わらず過ごそうとしていた。過去編で恩怨は精算したので、罪悪感が残るのは金凌に対してくらいだろうか。

そこで現れたのが、過去編の藍忘機から変わった成年・藍湛である。この成年藍湛は「とにかく強いし、余計なことを言わないし、見守ってくれるし、信頼してくれるし、めっぽう甘い」。そう「とにかく強い」以外は、師姉に通じているのである。人のことを構うが、自分のことは後手にまわす魏嬰は、師姉のようなタイプにとても弱い。過去は正論を貫きやや北風のようだった藍湛が、ぽかぽか太陽となって魏嬰を包み込んで側にいてくれる。

私は物語で対等で「好敵手」な関係が好きである。だからか、夷陵老祖時代のふたりが一番惹かれるのだが、恋愛関係となると、対等なライバル関係だと進展するのは難しいのかな、とは思ってしまう。同い年位だったけれど、生きていたお陰で藍湛が年上になった(変な表現だな)こともあり、藍湛にも包容力がみられ、魏嬰を甘やかす懐の深さができたのかしらと。いっぽう莫玄羽の身体は、過去と異なり夷陵老祖をもってしてもかなり脆弱である。なんせ玄羽くんも金丹がない。なので魏嬰も無理せず助けも素直に求めている。

魏嬰が復活しても修師業好きなのは変わらず、真っ先に招陰旗の出来具合も確かめている。そして含光君のことも、かつて自分も志した道を歩み続け、高く進んだ者として尊敬の念がある。
自分とはかけ離れてしまった、という思いがあるから、原作37章,陳情令37話で、義城にて藍思追に「莫先輩は含光君に似てる」と言われるが、「天地の違いがあるだろ」と答えている。

とはいえ霊力がなくなっても、藍思追の言う通り、推理力と呪符で含光君と対等にわたり合える魏嬰も変わらず奇才と言える。この対等感が素敵で、ふたりが並び立つとワクワクするのだ。

魏嬰の居場所

過去編で魏嬰は雲夢江氏の大師兄として宗主家族や周囲からも認められていたが、どこか根底には幼くして親を突然失い、なんとか生きているところを江楓眠に拾われた、という寄る辺なさをまとっていた。師姉や江澄と過ごす中で薄れた感はあったが、悲劇にみまわれ夷陵老祖となり、その影が再び表われいっそう色濃くなり、それらが過去での魏無羨がひとりで背負いこもうとした事につながり、破滅に追いやったようにも思われる。

それが復活後は、含光君という世間からも尊敬されている超一流の仙師である藍湛が、いつでもどんな状況でも自分を信じて味方になってくれた、そして共に真相をさぐり自分の身の潔白も証明された、この一連を通して、魏無羨は、自分がこの世にいていい存在である、とどこか確かな思いを抱くようになり、安心して身を委ねられる居場所を見いだしたことが物語を通して印象的であった。

それは好敵手なのか恋なのか

さかのぼって座学時代での魏嬰の思いは、恋心であったのか、明らかにはされていない。

しかし原作者が「ふたりの思いはあまり変わらず同じ頃である」と答えていたというのをずいぶん前に見かけた覚えがある。……がソースを保存していないため朧な記憶である。おまけに「魏嬰の藍湛への口調は、甘ったるくて江澄には耐えがたかった」ということも言っている。(作者微博2016.6.8より)

それらをふまえて考えると、藍湛の美しさに目を奪われ、その互角の強さに本来の自分を見出し、志にも強く心惹かれていたが、無自覚だった、というところなのだろうか。

いよいよ出版される原作小説を日本語訳で読んで、また考えてみたいと思う。

 

 

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