以前にTVで山崎育三郎、尾上松也、城田優による「IMY旗揚げドキュメンタリー」の番組を見たときに、ロミジュリの「世界の王」が印象に残り、いつかミュージカルで観たいと思っていた。去年宝塚で再演されると知り、ようやく今年宝塚観劇しようと久々にチケ取りに参戦するも、なんせ人気演目な上にダブルキャストなので手に入れることができたのは立ち見席~。一応、フランス版感想のあとに、陳情令・魔道祖師についても述べています。
立ち見は体力的に大丈夫かなぁと心配していたが、結論から言うと、ミュージカルが素晴らしくて問題なし!むしろライブ感を味わうことができるのに1500円という、映画よりもリーズナブルな太っ腹プライス。立ち見鑑賞録も交えながら、つらつら観劇レポしていきます。
東京宝塚劇場の立ち見席
はじめて公式サイトからチケットを取ったので、発券からして慣れない。紙のチケットが欲しいため、自動発券機にQRコードをかざして発券し、体温チェックをしてチケットをプラの下にさしこみ、QRコード認証してようやく入場。劇場はリニューアル20周年ということで、祝福ムード。
大劇場の立ち見席は1階A席後ろ(2500円)だけれど、東京宝塚劇場は、2階B席後ろの最奥。なので、エスカレーターを乗継ぎひたすら上階へと向かう。
通常の立ち見とは異なり、現在は感染予防対策ということで、立ち見席は限定20枚、センターから奇数は上手、偶数は下手と割りふられた番号が足下に標されている。お隣は座席3席分くらい離れているので、気分は楽。立ち見指定席なので、立ち席確保に前もって並ばなくて良いのも〇。
席に立つと、係員にチケットチェックされ、手すりは使えず、番号表示よりは前に出ない、後ろが通路なので荷物は前方に置くこと、と説明される。
視界は、前に着席されている方の座高が高いと、ステージが見えにくいこともある。そしてステージ階段上部が見切れることはままあり。そのことを知人に言ったら「専用劇場なんでしょ?」と言われてしまふ……。そのぶん立ち見は大劇場よりお値打ちなのよ。
第1幕
ミュージカル演目や最近の宝塚についても事前情報を入れずの観劇だったので、ロミオとジュリエットがトップふたりとわかる程度の認識。
ダンスシーンから始まりダンスも素敵。あとでこの役柄は「愛」碧海さりおさんと「死」天華えまさんだとわかる。この「愛」役は宝塚版オリジナルだそうで、対照的な二役なのは良い。このあたりで他の版とは解釈が変わるんだろうな。
ロミオの礼真琴さんは、歌がうまく可愛い感じの男役さん。このロミオは両家の争いを回避しようと良い人なのね。歌や台詞を聞いていると、女の子に奥手なんだかよくわからないキャラ設定。ロザリンドの名前は出てこない。
ジュリエットの舞空瞳さんは、アイドルな感じの愛くるしい娘役さん。おきゃんなお嬢様で突っ走るジュリエット。観劇後あれこれ読んでいると、乳母に返事する時にドスのきいた返しをしていたのは今回の演出らしく、確かにあの返答で可愛かったキャラの印象が揺らいだので、他のジュリエットはどんな感じなのかな。
ここでの2番手は、ジュリエットの従兄弟のティボルトだったのか。ワイルドで色気のある愛月ひかるさんで背も高い。ティボルトってジュリエットを好きだったっけ? 跡継ぎ扱いだっけ?と記憶をたどる。ミュージカル設定と宝塚設定だったようだ。
ティボルトは、おばのキャピュレット夫人夢妃杏瑠さんと薔薇のやり取りをしており、夫人は見事キャッチしていた。なんだか二人の関係が怪しい……と思っていたら、この日本版ではそういう方向性らしいが、本家フランス版では夫人は使用人と浮気をしている程度だった。実のおばと甥なので、ん~?とは思うが、薔薇の演出としては、ロミジュリと対比っぽくなっているのでこれもヨイかな。
キャピレット家とモンタギュー家のダンス場面は、こういうの好きです。以前に陳情令で姑蘇藍氏VS雲夢江氏+蘭陵金氏なダンスバトル場面を想像していたのを思いだし、舞台化にならないかなぁとほのかに考えたりしていた。
「世界の王」の歌をなによりも楽しみにしていたので、音楽がかかるとテンションも上がる~。ロミオ・ベンヴォーリオ・マーキューシオ三人で歌う歌だったのか。そういやIMYの3人で歌っていた。この歌も良かったし、ロミオの「僕は怖い」も心情が伝わってきて良い。歌がうまい人のミュージカルは安心して観ることができる。
儲け役に思えたのは乳母。乳母はジュリエットの味方なのか敵なのかと思っていたところに、「あの子はあなたを愛している」の歌となりホロリときた。乳母的な体型補正衣装で歌もうまく熱演されていて、有沙瞳さんは娘役さんなのね、今後が楽しみ。
綺城ひか理さんのパリス伯爵は空気が読めずニブイ感じで大らかではありそうだが、そりゃ、このジュリエットなら繊細なロミオの方に惹かれるでしょと思った次第。
そして礼拝堂でのふたりのデュエット「エメ」で結婚式の場面となる。主人公ふたりと、愛と死の踊りが重なり美しい場面。エメってフランス語なんだろうなぁと思っていたら、意味は「愛する」で、アニメ魔道祖師EDを歌うAimerさんのエメでもあったのか!どこかで聞いた言葉と思いきや~。ここで一幕終わり。
上演時間と休憩
一般的な宝塚公演は、第一幕90分,第二幕60分くらいだが、ロミジュリは第一幕70分,休憩30分,第二幕80分という時間配分。観劇中も立ち続けていると疲れてくるので、ちょこちょことうしろの壁にもたれて小休憩していた。
休憩時間にロビーで休めるとやや回復するのだが、ソファも減らされているという……。休憩を終えて立ち見席へ戻ると、他の立ち見の方々もすでにスタンバっておられ、そこはかとない連帯感を感じつつ双眼鏡を構える。
第二幕
第二幕は群舞場面が減り、ソロで歌いあげる印象が強い。物語も悲劇に向かうので、華やかさは第一幕に分があがる。歌で心情に迫るのは第二幕の醍醐味。ところどころ、戯曲ロミオとジュリエットで記憶にある台詞が歌われるのも良い。
刺されたマーキューシオ極美慎さんが、ロミオに「ジュリエットを離すな」と言った場面で、交際に反対していたんじゃないんかーいと思ってしまう。
また、マーキューシオを刺したあとのティボルトが悠々と女性をはべらしている姿に、「大公が今度何かしたら処分を下すって言っていたのでは?」とハラハラする。またじっくり見ると違うのかな?
印象に残った、ベンヴォーリオ役の瀬央ゆりあさんが歌う「どうやって伝えよう」でまたホロリ。ふたたび歌われたロミオの「僕は怖い」も良かった。
ロミオを追って、ジュリエットが歌いあげる「ジュリエットの死」の場面でも胸に迫りホロリときた。
モンタギュー夫人白妙なつさん・キャピュレット家のふたりの夫人が「罪びと」を歌うのもしんみり。そしてさいごは「愛」と「死」が折り重なる。
ショーは、愛月ひかるさんの銀橋から、ロケット。男役さんたちのダンスから、皆でのダンスがカッコイイ。この衣装の色合いがよくわからないが、公演毎に変わっているのだろうか?
トップスターのタンゴなフィナーレも、雰囲気がありもっと間近でダンスを観たい。
エトワールは、小桜ほのかさん。ハートのシャンシャンは、ロミジュリはこの仕様なんだろか? ロミジュリ衣装に着替えて、大階段となる。娘役トップの膝丈ドレスな大階段も珍しいような。羽根を背負っているのはトップふたりだけ。銀橋でのスターさんたちの笑顔も素敵。
youtube(5:00)
いや~、良かった。ミュージカル熱が再燃する。
立ち見は、体力がある時は集中力がとぎすまされ、舞台に没頭できる利点がある気がした。本も立ち読みをすると、すごく集中できるのと似ている。反面、このyoutube公式動画を見ると、表情など細かい演技を再発見したので、その辺りは遠くからではわかりにくくはある。
今回は最後まで体力はもったが、帰る途中にどこかへ立ち寄る気はしなかったし、家に帰るとしばらく立ちたくない思いとなった。このあたりは日頃の鍛え方で個人差が大きそう。
わたしが観たのはA日程と言われるもので、主役以外が役替りするB日程も人気があり、ティボルト役の愛月ひかるさんの「死」役が話題になっていたよう。帰宅後「TCA PRESS 2021.5月号」をつらつら読んでいると、93期生に愛月ひかるさんと夢妃杏瑠さんのお名前があった。同期でバルコニーの薔薇のやり取りをしていたのか!
すっかりロミジュリファンになり、スカイステージで7月にロミジュリ一挙放送があると知る。今回、ロミオ役だった礼真琴さんは、2013年星組では研2で「愛」役に大抜擢されていたそうで、コチラも観ることができるのかな?
フランス版初演映像を観た
原点のフランス版が気になり、勢いにのってフランス初演版を映像で観た。
フランス版は、明確に赤と青にわかれ、中央に白い「死」が存在感をもっており、青白赤とフランス国旗のトリコロールではないですか。フランス版は台詞は少なく、とにかくダンスと歌でぐぃぐぃと魅せてくる。一度日本語版を観ていれば、言葉はわからなくても楽しめる。
ヴェローナ大公(フレデリック・シャルテル)は厳粛で権威的で、どこか村長さんのような苦労人タイプな宝塚の大公と雰囲気が異なる。
ロミオ(ダミアン・サルグ)は長髪サラサラな優男で繊細な感じ、ジュリエット(セシリア・カラ)も夢みる少女感があり可憐と、透明感のあるカップルなのが良い。ジュリエット母(イザベル・フェロン)は宝塚よりもあっさりとしていた、薔薇の演出としては宝塚版も面白いかな。ロミオ父は不在で、フランス版には「詩人」(セルジュ・ル・ボーニュ)もいる。
「エメ」はやはりフランス語なのがハマり、ジュリエットが高音で歌うのも、とっても素敵である。この場面での「死」(アンヌ・マノ)が官能的で美しい。
フランス版では「死」が白い衣装で女性なのが大きく異なっていた。どこか「死」が運命のようにも、ここからの解放というようにも見える。フランス版はこの「死」がとにかくべっとりと誰か登場人物に絡みつくと、次なる暗示のようでドキドキする。
ロミオは「死」の接吻を受けて死に、ジュリエットは「死」にそっとナイフを渡され胸を刺す。と、とにかく「死」の印象が強く、このミュージカルは「憎しみ」も描いているようだが、憎しみというよりは「かけ違い」という感じがした。
「罪びと」でさくっと終わり、ベンヴォーリオ(グレゴリー・バケ)がキャストを紹介、あとはカーテンコールで「エメ」や「世界の王」を歌っていた。
宝塚は夢々しくて良いし、フランス版も赤と青の対立に「死」が絡むのが良い。
各国で演出が異なるらしく、たどっていくと奥が深そうである……。
陳情令・魔道祖師とロミオとジュリエット
すこーんとロミジュリにハマったので、つらつら考えてみると、ロミジュリの家の因縁を受け継ぐ少年・少女たちと親世代との構造が、陳情令・魔道祖師の登場人物とそれにまつわる各世家の因襲と、似て感じたのかな?とも思った。親世代の価値観に子世代が翻弄され、悲劇を迎えるのだ。
そんな時に先日放送されたNHKの「いまこそ、シェイクスピア」番組の中で、シェイクスピア翻訳家の松岡和子さんが「ロミオとジュリエットは前半は喜劇で、後半が悲劇」と話されており、陳情令も復活編をのぞくと、前半が座学の喜劇だが、途中から悲劇へと転じている。
そして「喜劇は結婚で終わり、悲劇は結婚で始まる、ロミオとジュリエットは結婚を境にしている」といったような事も言われていて、陳情令・魔道祖師も師姉の結婚を経た、という一部そのような節もある。
そしてこのロミジュリのキャストには、少年少女から大人への途中という、この時にしか出せない特有のものが求められる。それが陳情令のキャストに感じられた旬な感じと似ているようにも感じられた。
両家の争いの中で死んでは致命的となる人物が殺められてしまうあたり、金子軒が浮かんでくる。
そしてフランス版を観て「死」をつらつら考えていると、最後につき飛ばした金光瑶を思いだした。彼がそっと触れると、その人物は死んでいく。そして藍曦臣は「愛」の人のようにも思えてきた。なにやら藍曦臣が「愛」のように、忘羨の背後にいる気がしたのだ。
とすると、宝塚版で「愛」と「死」が折り重なり合い、ロミオとジュリエットが昇天したのとは異なり、「愛」が「死」を刺し、「死」が「愛」をつきはなすのは、「生」なのかなぁとぼんやりと考えていた。
各国の言葉と世界のロミオとジュリエットでの「死」役
各国の「死」の言葉が、それぞれ女性名詞・男性名詞なのが興味深くてまとめてみた。
- フランス語の「死 la mort」は女性名詞であり、ロミジュリでも女性が演じている。
- ドイツ語は男性名詞「der Tod」で、かのトート閣下を思いだす。が、ウィーン版には「死」は登場しない。
- 日本語で「死」というと男女どちらを想像するか考えたが、直感的には男性か?だから日本版の「死」は男性が演じているんだろうか。
- イタリア語では「la morte」と女性名詞、フランス語と似ている。イタリア版には「死」はいない。
- ロシア語では「смерть」女性名詞。しかしロシア版の「死」は男性が演じている。
- ハンガリー語では「a halál」で、ハンガリー語は特に男性名詞・女性名詞はないらしい。ハンガリー版も「死」がいない。
他版もあるのかもしれないが、目についたところではこのあたりで。意外とミュージカル内に「死」がいないんだなぁ。
全く関係ないけれど、言語圏を離れてアラビア語にも男性・女性名詞があるので調べてみた。「مَوْت」 (maut) で男性名詞らしい。
抽象観念と男性・女性名詞という、イメージの重なりが興味深かった。
外部サイト
★↓「エメ」「世界の王」収録。