藍忘機と魏無羨についてはあまり書いていない気もするが、私は忘羨推しであり、HDDも残量攻防の末、二人の場面ばかり残されている。けれど陳情令を見終えて、なんだか忘羨に関しては満たされてしまい、陳情令の世界を探索する方へと向かっていた。
藍忘機と魏無羨については思いが広がりすぎるのだが、私の中でハッキリとしている忘羨像はある。それは藍湛と魏嬰の関係が進む時、藍忘機の魏無羨に対する立ち位置である。
藍湛と魏嬰の関係が進むのは、魏無羨が果実だとすると、藍忘機にとって魏無羨は「落ちてきた果実」と考えている。
決して自分からもぎとりには行かない。熟して落ちてきた時に、そこに藍忘機がいた、という構図。
藍忘機は、ひたすら健やかに熟すのを大事大事にして見守りながら傍にいる。落ちてこなくてもそれもよし。
日が当たっているか、風当たりが強くないか、病(邪)に憑かれていないかどうか、それだけを気にしている。時折、江澄が来ては最後に木を揺すって帰るのが苛立だしい。そして寄って来る鳥や虫に関しては、避塵のきらめきや剣気で静かに追い散らしている。こっそり天子笑もあげてみたり。もちろん機が熟さない限り、魏無羨はこの事を知るよしもない。
若き藍忘機の発した名言「雲深不知処に…隠します」は、果物で言えば、実が熟さない内に収穫して貯蔵する、追熟のようなものか。しかし、もし魏無羨を枇杷とするならば、枇杷は追熟しない果実でもあるのだ。熟れないと酸っぱいそうな。風水的には枇杷は'気'が強いとされ、陰木にあたるとか。
枇杷と言えば、陳情令第5話で水行淵の後、魏嬰が藍湛に枇杷を投げ、【不用】と投げ返されているが、第8話では陰鉄探しの旅へ同行する際に、【無聊】と言いつつ受け取ってもらえているのが、藍忘機の心情の変化を感じられ興味深い。原作では前半のみである。
<手中の枇杷にまだ鋭い目線の藍湛>
この「落ちてきた果実」をつらつら考えていた時に
・・・木から実が落ちる
・・・木から魏無羨が落ちる
・・・それを藍忘機が受けとめる
小説「魔道祖師」第87章が思い浮かんだ。
「木から飛び降りた魏無羨を抱きとめる藍忘機」の光景と重なったのである。
ドラマ「陳情令」で言えば第46話、魏無羨と藍忘機が蓮花塢の祠堂で三拝して、江澄にとがめられ、そこへ温寧が・・・のあの名場面の前である。
第87章。魏無羨と藍忘機が蓮花塢を散策していると、幼い頃、江澄と喧嘩してよくのぼっていた樹を見つける。魏無羨は懐かしくなって樹にのぼり、藍忘機はそんな魏無羨を見あげている。魏無羨は樹の下で月の光に照らされる藍忘機を目にする。まさに含光君の名の通り。すると魏嬰は「藍湛が受けとめてくれたなら俺は……」と突然飛び降り、見事、藍忘機が受けとめる、というエピソードがある。ちなみに祠堂で江澄が魏嬰に嫌みをぶつけていたのは、原作「魔道祖師」ではこの場面を目撃していたからでもある。
ドラマ第18話では、幼い頃の江氏姉弟の回想で、江澄に追い出され木の上にいる魏嬰を師姉・江厭離が迎えに行く、という場面があった。なので現世の蓮花塢でもこの話を入れてくれるのかと期待していたが、なくて残念である。一説では実際に撮影しようとしたがうまくいかなかった、というのを聞きかじったがどうなのだろうか。
魏無羨と藍忘機にとって象徴的な忘羨場面となりえそうだっただけに、是非、陳情令でも見てみたかった原作場面である。
画師Higgaさん/微博2016-2-12
…と、ここで書き終える予定だったのだが、「月の光に照らされる藍忘機」から、陳情令第35話、清河で魏無羨を待つ藍忘機が浮かびあがってきたのだ。
藍忘機が橋の上で、少し上を見あげ、月に照らされている横顔が映る。魏無羨はその姿を見てにっこりと笑い、「藍忘機とは対立するとばかり。だけどまさか今こうして逆の状況になるとは」と、ゆっくり階段をあがっていく。そして藍忘機におんぶされるシーンである。「魔道祖師」第24章では、魏無羨の台詞は同じなのだが、藍忘機はうつむいて思い詰めた様子で魏嬰を待っている。そして物語はまだ序盤戦。藍湛に嫌がられるために、魏嬰は一緒に寝ようとしたりお風呂に入ろうとしたり化粧し「キレイ?」と聞いていた頃か。(原作第28章) 陳情令の二人とは少し異なっている。
この月下の美しい藍忘機の場面は、魏嬰が飛び降りこそはしないが、原作第87章のエピソードと重ねているのか、という気がしてきたのだ。実際ドラマではこの後、魏無羨はおんぶから、聶懐桑との再会を経て、宿屋で刀霊を鎮めるための合奏、と、藍忘機との距離がぐっと近くなったように思える。
果実だった話が、最後には月の光の話になってしまった。
やはり藍忘機と魏無羨については、思いが広がりすぎる。
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