笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。「愛なんてただそれだけのこと」「宮廷の諍い女」を更新中。⇩カテゴリー選択はスマホでは左にフリックしてください。

王粲 七哀詩,仏国記,雉と兔⑰陳情令と中国詩歌,東洋文庫モリソン書庫

漢詩で物語を味わってみようのコーナー。中国文学と物語の世界が少し交錯すると楽しい性分で、時々そういうお仲間がいるようなので紹介しているこのシリーズ。例によって本当に関連があるのかは不明で、遊んでいるだけのものです。

1.一面の荒涼の地を 埋め尽くす白骨

これは陳情令第19話で、清河に着いた江厭離が馬車の中で言った言葉である。この詩はドラマ陳情令のみに出てくる。ちょっと内容は切ないです。

東漢  王粲(おうさん)『七哀詩』 其一

西京乱无象,豺虎方遘患。
中国去,委身适荆蛮。
亲戚对我悲,朋友相追攀。
出门无所见白骨蔽平原
(略)抱子草间。
(略)驱马之去,

西の都は乱れて常態を失い、猛獣どもが惨禍をいま引き起こす。
またしても中原の地を棄てて、遠く身を寄せて南の果て荊蛮に赴く。
親族はわたしと向き合って悲しみにくれ、友人は引き留めようと追いすがる。
城門の外は目に入る物とてなく白骨が平原を掩い尽くす
川合康三『中国名詩選 上』2015 岩波書店

後漢末期、李傕や郭汜らにより荒れた長安を出て、王粲が荊州へと落ちていく時の作。「七哀」は人の悲しみの諸相をうたう詩である。

この漢詩を江厭離が口ずさんだのは、戦乱の西京(蓮花塢)を追われ、荊州(清河)へと辿り着くわが身を重ねたとは思われる。が、白骨というのが気になる。白骨はむしろこの頃、乱葬崗に落とされた魏無羨の身の上を語っているように思えるからである。

 

ネタばれを含んでいるので第33話まで見た人向け。ここから先は私の連想であり深読みである。

本で川合氏は詩には三度「」(弃)という文字が出てくると指摘されており、「棄てる」と言うとすぐに思い出すのは、第28話で魏無羨が江澄に言う「守らなくていい。捨ててくれ/ 不必保我,了吧」である。小説では第3巻第十七章漢広のあたり。

江厭離は棄てようとしなかった人なので、これは魏無羨が棄てざるを得なかったもの、と考えるのはうがち過ぎだろうか。
前世の魏無羨が棄てざるを得なかった3つのもの、それは金丹であり、雲夢江氏(累を及ぼさないため)や仙門世家、そして我が身ではないだろうか。

3つ目を棄てるきっかけとなったのが、この句をつぶやいた師姉だったのが何ともいえない思いとなる。

 

また、白骨から連想したものもある。

2.地を行く奴 水を泳ぐ奴 空を飛ぶ奴も 俺を見ると逃げる

こちらは陳情令第43話、小説第3巻第十四章(64章)にて、雲深不知処のウサギとたわむれた後で、ロバに乗りながら魏無羨が言った台詞。【这地上走的水里游的天上飞的见到我就跑】。

山雞野兔家貓飛鳥,看到我都轉身就跑

空を飛んでるのも、地面を走ってるのも、水の中で泳いでいるのも、どいつもこいつも俺を見ると逃げちゃうんだ。

まず最初の「山雞野兔」であるが、俗語に次のようなのがある。

不捉下山鸡,不追上山兔
山を下りる雉を捕まえもしなければ、かけ上るウサギも追わない。

これは狩りをする時に、捕まえにくくなる状況を指している。キジは空高く飛べないが、下りで翼を伸ばすとグライダーのように風に乗る。一方、ウサギは前足に比べ後ろ足が長いので、上りでは追いつけない。しかし意外だが下りだとバランスを崩して捕まえやすいとか。

雉と兔と言えば、魏無羨と藍忘機ですよね。なんとなく忘羨の特徴を述べているような気がしないでもない俗語である。

 

また先日、東洋文庫ミュージアムの「シルクロードの旅」展を見ていた時に、法顕『仏国記』の一部が展示されており、先の台詞を思い出した。

東晋 沙門法顕『法顕伝(仏国記)』

沙河中多有恶鬼、热风,遇则皆死,无一全者。
上无飞鸟,下无走兽,遍望极目,欲求度处,则莫知所拟,唯以死人枯骨为标帜耳。 

沙河中はしばしば悪鬼、熱風が現われ、これに遇えばみな死んで、一人も無事な者はない。
空には飛ぶ鳥もなく、地には走る獣もいない。見渡すかぎり行路を求めようとしても拠り所がなく、ただ死人の枯骨を標識とするだけである。
長沢和俊「法顕伝・宋雲行紀」1971 平凡社

法顕伝』は現存する最古の西域旅行記であり、法顕が長安から西域を巡りインドを旅したものである。この文章は『仏国記』と言えば出てくる有名なくだり。言い回しは異なるが、先の台詞と意味は似ているように思えたのだ。

初めてドラマでこの台詞を聞いた時、人好きのする魏無羨がこういう表現をするのが意外であり、原作小説では「きっと魏無羨の方が先にいたずらをするせいで、好かれないんだろう」と続くのでそんなものかと思っていた。座学時代の藍忘機との関係にもみえる。

が、調べてみると更に興味深かったのは「悪鬼」についての注釈であった。
まず、文に出てくる沙河は、敦煌より西の大砂漠にあたる。広大な沙漠では方角もわからなくなり、夜に沙漠横断時に眠りこんだり、仲間と離れ離れになった時に、魔霊が話しかけるのが聞こえてくるとある!そうして旅行者は迷い死んでしまったり行方不明となる。これはまるで乱葬崗のようではないか!

またマルコ・ポーロ『東方見聞録第1巻』よりの注釈として、

そこで旅行者たちは、この沙漠を横断する時には迷わないように、夜になると馬の頸のまわりにをぶら下げて行く。

ともあるのだ!!雲夢江氏の清心鈴(銀鈴)~~~!!!

仏国記の世界を知って見てみると、藍忘機と共にする迄に夷陵老祖となった魏無羨のいた世界は拠り所のない、このような処なのかと思えて、しんみりしていた。

モリソン書庫

ちなみに東洋文庫ミュージアムにはモリソン書庫と呼ばれる美しい書棚があり、姑蘇藍氏の蔵書閣はかくや……とも思われる。書棚には四庫全書があるのが『瓔珞』の乾隆帝~~という思いに浸ることもできますよ。

 

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