笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。「愛なんてただそれだけのこと」「宮廷の諍い女」を更新中。⇩カテゴリー選択はスマホでは左にフリックしてください。

清河聶氏聶懐桑の意味由来,中国四大発明紙,火薬,羅針盤/中国詩歌⑧と陳情令・魔道祖師

1.聶懐桑の名前のルーツをたどる

陳情令第7話、天灯作りで聶懐桑が口にしていた「清河澈雲堂」より、中国で実在していた「澄心堂紙」を知り、紙の原料に「桑皮」が用いられているということから、聶懐桑についての探索が一気に進んだ。

この天灯で聶懐桑が高価な紙を使っていた、というエピソードはドラマ視聴時に印象に残っていて、のちの第40話、素愫へ手紙が送られた場面で、「紙と言えば聶懐桑だなぁ、でも送り主は女性のようだし……」と連想していた覚えがある。

そうしてドラマの全容が明らかになり、聶懐桑は「扇と紙」で世を動かしたことについては前述した。

陳情令・魔道祖師のもうひとりの奇才
ネタバレしています。

 

さて中国文学から、聶懐桑の名前の由来を考えてみる。
例によって公式見解はないので参考程度です。中国にはこういうのもあるみたいよ、という紹介も兼ねています。

2.桑と紙

「桑」と言えば、「絹」くらいの連想しかなく、それも美しいものを愛でる懐桑に似合いはするのだが、今回、桑から紙が作られると知り、早速調べたところ、桑紙というのは古くから作られていた。

そもそも中国四大発明に、製紙法の発明が挙げられている。蔡倫が製紙法を改良したとされているが、その前の時代から桑紙が作られていたとあるのだ。現在でもウイグルで桑紙が作られているらしい。

日本でも楮(コウゾ)から和紙を作るが、楮は桑科の樹木である。

紙に縁の深い桑を名前にもってくる辺り、懐桑への思いが感じられてこないだろうか。

  五言古詩  白居易秋居書

(略)

況無治道術 坐受官家祿

不植一株 不鍬一壟穀

(略)

「秋居、懐ひを書す」

まして道徳や学問を身につけることもなく
何もせずに、お上の手当をいただいておるからにはなおさらだ
一株のも植えたりせず
また一うね分の穀物を耕したりしないで

山田勝美「中国名詩鑑賞辞典」1985 角川書店


題名と詩から一字ずつ、「懐」と「桑」の部分を赤字で示した。

この詩は、住まいで衣食住に満ち足りた心境を述べたものとあり、あくせくせずに暮らす様子が描かれている。
記載していないが詩中の「不用多積蓄/品物を多くつみ蓄える必要もない」というくだり以外は(懐桑は収集家なのでこれは異なっている)、兄・聶明玦がいた頃の懐桑は、こんな風に過ごしていたようにも思えてくるのだ。


また、桑乾河という、山西省北部ー河北省ー北京市天津市渤海湾を流れる川もある。この川が流れている流域は、聶氏の領域といえなくもない。

賈島が『度桑乾』で詠んでいる。

 

3.懐という漢字の意味

という漢字について、興味深い解説を見つけたので紹介しておきます。

死者の襟もとになみだを注いで、死者を懐かしみ懐(おも)うことをいい、死者を弔うときの悲しみ惜しむ哀惜の思いを懐という。

 白川静「常用字解」2003,平凡社

大哥をおもう懐桑の姿が、浮かんでくるようである。21.2.19追記

4.清河と中国

清河は、実際に中国の河北省邢台市に「清河県」というのがある。

また「大清河」と称される山西省ー河北省ー天津へと流れる河川も、華北部にある。

雲夢江氏/中国詩歌③」の記事で、雲夢は「楚」のイメージと述べた。
清河は、
古代中国の「晋・趙・燕」あたりをイメージしている。

 

5.中国四大発明と陳情令・魔道祖師

さきほど少しふれた中国の四大発明とは、製紙術火薬羅針盤印刷術である。

そして火薬と言えば、陳情令・魔道祖師の世界でも、各世家の煙霧弾/信号弾があるではないか。
そもそも火薬が発明されたのは、道士が煉丹を作る過程であったらしい。硝酸カリウムや硫黄など材料を混ぜていたら爆発し黒色火薬が生まれたとあり、まるで乱葬崗での夷陵老祖を思い出す。

また羅針盤は、夷陵老祖が開発した風邪盤とも似ている。

残念ながら物語には印刷術は出てこなかった。魏無羨が、座学時代、藍啓仁から家規の書写を言いつけられて、印刷術のようなものを編みだし、楽々と大量コピーしていたら面白そうだった気もしている。
魔道祖師Q第1話の魏無羨の自動書記ペンがそれらしいと言えばそれらしい。

 

おまけ

張平子  『文選 南都賦』にも

永世克孝,懐桑梓焉

永大祖先の祭りを絶つことなく、父祖の地を忘れざらん

中島千秋「新釈漢文大系79文選 賦篇 上」1977 明治書院

というのが出てくるが、「桑梓を懐む」なので、少し意味が遠いかなと思われた。

★「中国四大発明」であるが、10年位前の世界史図表を見ると、「ルネサンスの三大改良」で火薬・羅針盤は中国が起源とされているが、活版印刷機には特に触れられていない。蔡倫は「製紙法を改良」とある。
世界史は時代によって解釈が異なり、日本での最新のものは確認できていないが、ネットでは中国四大発明が載っており、中国サイトでも「中国古代四大発明」とあったので、こちらを採り入れた。ややこしいですね……。

6.聶懐桑の誕生日と小満

聶懐桑の誕生日5月20日。翌日である2021年5月21日は、二十四節気小満、七十ニ候では「蚕起食桑」にあたる。この「蚕起食桑」とは「かいこおきてくわをはむ」。すなわち卵から孵化した蚕が、桑の葉を食べる季節のことを指す。懐桑の誕生日が、この七十二候の桑と、どこか繋がる思いがしたので、書き添えておく。
5月20日は「我愛你」の日でもあるのだけれど。2021.5.21追記。

 

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