陳情令番外編映画「乱魄」の冒頭、暗闇に浮かびあがる行路嶺・聶氏祭刀堂の壁画。
初めて観た時から気になっており、陳情令における聶家の祖先の謎に迫れるかと、じっくり見てみることにした。
気分は古代遺跡の洞窟をさぐっているかのよう。かつてキトラ古墳特別展で、壁画に目を凝らしたのを思いだす。
乱魄の壁画
壁画は10枚ある。
- 台の上で逆さにした獣を、刀を持った人が屠ろうとしている。周りには成型肉のようなのが吊されている。獣頭部の下には血を受けるタライも見える。
- 怨霊みたいなのが出現したのだろうか。場所は同じで、人と向き合っている。刀と台の上の獣も見える。
- 蛇みたいなのと皆で闘っているのか。
- 刀に怨霊が吸いこまれているのか?
- 刀に付いた怨霊のようなのを、皆が取り囲むが、一方では倒れている人も。
- 刀を持っている人がなにかと対峙しているように見える。下は屍か?
- 横向きなのが刀で、なにかクライマックスなのか?
- 右を頭にして横向きになった人の周りに鬼火のようなものが。投げだされているのか?
- 丸いものを取り囲む点、点。
- 最後の、八方体を鎖で封じた陣のようなのから、実際の祭刀堂内の映像となる。
画像は、一番わかりにくかった7枚目のクライマックスとおぼしきもの。
聶氏祖先のものがたり
さてここからは推測である。
これらは刀霊のいわくのようでもある。
乱魄の中で聶明玦が「祖先が幾多の苦難を乗り越え門派を開いたのに、刀霊の呪いを受けてしまった。それを破るため懸命に刀を修練した」と語っている。
となると
①刀に取り憑いた怨霊が、刀霊になった。
②怨霊を倒そうと、刀が刀霊となった。
とも考えられるが、②だと制御できないほど凶暴なのが説明がつかないか。
動物(妖獣?)屠る ⇒ 怨念 ⇒ 怨念暴れる ⇒ 怨念が刀と一体化 ⇒ 刀霊 ⇒ 刀の主には制御できるが、常に主を脅かし、死後は制御できない連鎖 ⇒ 祭刀堂で封陣、なのだろうか。
これだと聶氏の歴史が長くなるほどに刀霊が増えるだけで、厄介なことこの上ない気もしてくる……。
陳情令第4話(アニメ前塵編第3話、原作第14章)で、魏無羨が口にしていた「怨念を利用して戦わせる」を、実は清河聶氏が昔から祭刀堂で実施していた、というのが何ともいえない。(当時の聶懐桑は知る由もなかったが)
目の前の破滅的な危機を回避するために、禁忌や犠牲を伴う連鎖に手を出してしまう。しかしそのツケはいつか支払わねばならないのだ。
そしてその厄介さを身をもって知っていた聶明玦だからこそ、邪道を人一倍嫌っていたのかもしれない。
陰虎符と聶氏の刀霊は、成り立ちが似ているのだろうか。壁画の動物は四つ足だったので、人の霊識を吸いこんで怨念に取り憑かれていた屠戮白虎にでも関わってしまったののか? 虎というよりは牛のようなフォルムに見えたが。
古代中国では祭事のいけにえとして牛をささげたそうである。犠牲のいずれも「牛偏」であり、壁画には祭祀の様子を描いたものも少なくないそうだ。
聶氏兄弟について
さて、聶兄弟。
私は聶氏兄弟の設定が、原作とドラマで微妙に異なっていたことをドラマ視聴終了後に陳情令設定資料集で知り、その思いを記事にしている。
先日記事にした陳情令の脚本について、楊夏さんのインタビュー記事を探す中で、設定資料集の俳優篇のB5冊子を読んでいた。
すると楊夏さんが「脚本を大きく改編した点は?」との質問の中で、「聶懐桑の最後(権力に向かったかどうか)を変えた」と聶懐桑の名前を挙げておられたのが目をひいた。(原作でもその結末が明確に述べられていたわけではないが、方向性という意味合いであろう)
他に改編した登場人物もいる中、わざわざインタビューで名前が出ていることからも、重要な点を改編したから陳情令の兄弟設定も変えておこう、という意味なのかな、と思いここで紹介した次第です。
原作での聶氏兄弟と言えば、第49章の懐桑の扇子をめぐる兄弟喧嘩が個人的には好きである。兄弟喧嘩が好き、というのも変な話だが、明玦による体育会系VS懐桑の文化系というバトルが、魔道祖師という仙侠世界で繰り広げられているのが、妙にリアルな世界と交錯しているのと、そしてその体育会系と文化系は平行線なのが面白いのだ。特にコレクター気質の人ならば、懐桑の思いがひしひしと感じられるだろう。
そして原作小説ではそんな喧嘩の場面から少し時間が経ったあとに、あの大哥の場面となる。
蓮花塢のあの場面の直前で、江氏夫婦が喧嘩していたのが思いだされてしまった。
祭刀堂の壁画も、見る人によって解釈が異なるであろう。
興味のある方は画面を止めて、聶氏祖先の物語に思いをめぐらせてみませんか。
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