笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。アニメ「天官賜福」「愛なんてただそれだけのこと」「恋心は玉の如き」を更新中。⇩カテゴリー選択はスマホでは左にフリックしてください。

世説新語「幕天席地」屋根の上の魏嬰,劉伶/竹林の七賢 陳情令詩歌⑬

陳情令第10話で、清河にて魏無羨が、藍忘機の部屋の屋根に坐り酒を飲む場面がある。そこで魏無羨は【天地一穹庐 以天為被 地為席】「天地は天幕。天を布団とし地を席とする」と言う。この一節は『酒徳頌』に関連とおぼしきくだりがみられ、『世説新語 文学第四69』や『文選』に同様の文章がある。

これは竹林の七賢の一人である劉伶(りゅうれい)について述べたもので、彼は「酒徳頌(しゅとくしょう)」をしるした。

世説新語 文学第四69 酒徳頌

有大人先生。
天地朝、萬期爲須臾、日月爲扃牖、八荒爲庭衢
行無轍迹、居無室廬、幕天席地、縱意所如。
止則操巵執觚、動則挈榼提壺、唯酒是務、焉知其餘。

大人先生というものがいる。
天地永劫を一朝となし、万年も瞬時となし、日月を窓となし、世界の果てを庭とした
行くに定まる道は無く、居るに決まった家もなく、天を幕とし地を席とし、心の往くまま自由に過ごす。
止まれば杯を手に執り、行けば酒樽を携える。ただ酒だけを務め、どうしてそのほかを知ろう。

目加田誠世説新語上」1975 明治書院

これらから「幕天席地」(ばくてんせきち)という四文字熟語もできている。

なんとなく陳情令最終回第50話で、山上の別れで魏嬰が藍湛に行く先を訊かれて「この世は広い 酒とロバと天涯放浪するさ この天下が家だ」【不过天大地大 一酒一騎走天涯 四海為家嘛】と答えた台詞も思い出される。
四海嘛】は、上記の世説新語
八荒衢」になぞらえているようにも思えてくる。

f:id:fuenone2020:20210310235019j:plain

明月門

さて、劉伶についてである。彼は壮絶な酒浸りの人生を送ったとある。
世説新語 任誕第二十三 1,3,6』に、劉伶の人となりについて書かれている。

1沛国(江蘇省)の劉伶たち七人はいつも竹林のもとに集まり、気ままに楽しく酒を酌みかわした。そこで世間ではこれを竹林の七賢と言った。

3お酒を飲みすぎる劉伶を妻が泣いていさめ、劉伶は神に祈り酒を断つ誓いをするための御神酒を用意させたが、その御神酒すら飲んで酔っぱらったというもの。

6劉伶は酒びたりで時には裸になって家にいた。人から非難されると言った。

世説新語 任誕第二十三 (6)

我以天地為棟宇
屋室為衣㡓
諸君何為入我㡓中

私は天地を住居とし
わが家を褌(シタバキ)としているのだ。
諸君はどうして私の褌の中に入って来るのだ。

目加田誠世説新語下」1978 明治書院

ここだけを読んでいると、なぜ七賢なのかよくわからなくなってくるが、『任誕』は、世俗にとらわれぬ自由な生き方・態度を記したものとされている。世俗にとらわれず、おのおの老荘思想にもとづく独特のライフスタイルをもって自分の生き方を貫いた人たち、ということらしい。竹林の七賢清談を楽しんだ、ともある。

劉伶については、『世説新語 容止第十四 13』では「小柄(六尺)で容貌は醜かったが、悠々としてものごとにかまわず、肉体を土や木のようにみなしていた」とある。『容止』は容貌風采に関する論評が書かれたもの。

とにかく酒好きな様子は伝わってきた。魏無羨も無類の酒好きである。共に酒豪ということから陳情令の制作陣が、魏無羨に劉怜をかさねたのだろうか。


話はそれるが、騰訊遊戯(ゲーム)の大人気スマホゲーム「王者栄耀」に出てくる剣仙李白の台詞が「一篇詩,一斗酒,一曲長歌,一剣天涯!」というものらしい。魏無羨の【一酒一騎走天涯】となんとなく似ているような。
ちなみに李白大酒飲みなのである。

調べていたらクリス(吴亦凡)が「王者栄耀」李白の歌「侠客行」、チャーリー・チョウ(周深)大喬孫策のイメージソングを歌っているのに行き着き、かなり人気があるゲームなのは伝わってきた。


この幕天席地の部分を「大空は屋根、大地は床」と訳している本(劉義慶氏著)もあり、魏嬰にとって大空か大地は、藍湛の部屋の屋根になるのだろうか。というのは深読みしすぎか。
どちらにせよ、ごちそうさまな気分である。

 

▼陳情令19話&43話の台詞について。

fuenone2020.hatenablog.com

fuenone2020.hatenablog.com

 

外部サイト

 

世説新語 上 新釈漢文大系 (76)

世説新語 上 新釈漢文大系 (76)

  • 作者:目加田 誠
  • 発売日: 1975/01/01
  • メディア: 単行本