笛の音と琴の調べ

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小説赤い袖先下巻外伝感想レビュー/ドギムの気持ち,最終回へのアンサーは小説にあり

赤い袖先 下巻』は、いよいよドギムの側室編。なので表紙もブルーな側室衣装である。
ドラマ『赤い袖先』では全17話の第16話、第17話にあたるので、いかにドラマが側室編を駆けぬけたかが分かる。

果たしてドラマ最終回のモヤモヤがほどけるか?
本編についてはふたりの関係性や食べ物、歴史などについて詳しく記していますが、外伝についてはネタばれはせずに印象に残った部分だけ記載しています。

十三章 どうしようもなく、そんな人

承恩を受けたドギムは尚儀(正五品の宮女)に昇級し、疊紙(礼装用の装飾品)も用意される。

ギョンヒからドギムへの「王様には決して心を与えてはいけないのよ」という言葉が重い。

サンがドギムのそばでは眠りにつく様子が微笑ましい。けれどいまだふたりの間にはわだかまりが残っており、そのアンバランスさ。

ドギムは先の世子様の壬午年の出来事を、ここで始めて知る。そして世子の母である義烈宮が、世子を殺して欲しいと上疏しており、それは先王がさせた事だった。それが君主の愛だとギョンヒは告げる。

ドギムは夜食にと漬物用のエゴマの葉で包み飯を作る。ドギムはサンに「これからも腹を立てるでしょう」「間違っていました。王様の心を傷つけました」とも話す。サンは「私を恋慕しなくてもいい。ただ、泣くことはするな。私のそばを離れるな」と告げる。そして笑顔を取り戻すふたりの描写が良い。

ドギムに尋ねられたサンが「私は王であることが好きだ」と答えるのが明快。一方、ドギムは平凡な女人として生き、訳官として天下を飛び回っている幼なじみのオドンの事を思い出している様子に、確かにその方がドギムに合っているような思いになる。

チョンソン郡主に子が産まれたお祝いに、大妃が取り出したのは合歓の木酒。夫婦が愛を尽し仲睦まじい家庭を作るという合歓の木の花で作られ、閨房酒としても知られ、女将が万福を分けるという意味で息子と嫁に勧める風習もあるとか。

サンはドギムに心を置きつつも、王として厳しく接してくる。確かに寵愛する側室に入れあげる王も困るが、元宮女だからと厳しくされるのも、ドギム側の立つとそりゃないわという気持ちにもなるよ。

サンはドギムに「妾と称せよ」と言う。この言葉により、ドギムは妻より厳しい規範に縛り付けられる上に、決して妻のようには扱われない側室の座を実感するのだ。読んでいると、側室なんてなるもんじゃないという思いになってくる。

十四章 繋馬樹

ドギムの懐妊が正式に認められ、扱いが良くなり色の入った唐衣も許される。胎教は朝には聖人の言葉を唱え、亀や鹿など縁起のよい動物の刺繍をして、赤ん坊のおくるみを作るらしい。しかし苦手な針仕事をさせられるのは、果たして胎教に良いのか?

王になれなかった王子は宗親となり、宗親はいつ首が落ちるかとびくびくして暮らさねばならないというから大変だ。

兄のシクは貴重なを持って訪ねてくれる。
そんな穏やかな兄に対して、サンは外戚として増長しないよう、粛宗の側室 禧嬪の兄チャン・ヒジェや、英祖の側室淑儀の兄ムン・ソングク大妃の兄の例を挙げて釘をさす。

ドギムは市場でチョクピョン(牛の煮こごり)と肉串を買ってくるように言いつけたら、サンに咎められる。懐妊して事細かに記録される日々の窮屈さに、読んでいても息苦しくなってくる。王子誕生を待ち望まれ、赤ん坊が大切なのであって、自分のことなど気にしないと思う妊婦ドギムの孤立感も分からないでもない。

ドギムはウォレがいまだ典獄署の獄舎にいる事が気がかりで、サンに頼み、ウォレは黒山島の奴婢にと命じられた。

サンはドギムを殿閣の庭へと連れて行き、繁馬樹を見せる。元宗がこの木によく馬を繋いでいたことからそう呼ばれており、切り株だけとなったが、枯れた木から枝一つが生えてきて王子が産まれる慶事があり、それが粛王であった。その後、また生い茂りその年に英祖が王位に上がったのだった。そして今も太い枝が伸び黄色い花を咲かせている。

九月にドギムは男児を出産昭容(正三品)となった。サンは繁馬樹から取ったナツメの実をドギムに渡す。

王子が生まれたことにより、兄ソン・シクが罷免されていた。宮女時代、ドギムが支え続けて仕官できるようになっていただけに、その努力もあっけなく泡となったことがやるせない。
ドギムが内心で「側室の敵は王だ。すべては王の思うまま」と考えるのも無理からぬことである。

十五章 いつかの約束

ドギムが最高位の(正一品)となり、宜嬪となる。

サンは朱子や中庸もまじえながら、「宜家宜室」は夫婦になって和やかに過ごす、「宜家之楽」は、夫婦間の仲睦まじさが楽に至る、という意味と伝える。ドギムはサンに「好きという意味もあるのでは?」と訊いていた。

サンが上疏に対して「ユ・ウィハンの影」と言ったのは、粛宗時代に、禧嬪チャン氏の子を元子にしようとするが朝廷は反対する中、ユ・ウィハンだけは同調したことに由来する。

王の気持ちひとつで左右される立場である事に、気がふさいでくるドギム。料理を習い始め、ククスなどを作る。今やチョンソン郡主よりも品階が上がっているドギム。サンに薬果を作り饅頭果を出すが、郡主たちに形についてあれこれ言われる。ドラマでもそんな出来具合だったな。

元子は1歳を迎え、トルジャビ(初誕生の選び取り)では、本を掴んでいた。サンが元子の福にこだわるのは、早くに冊封された景宗、景慕宮(サンの父)、サンの兄は、長生きしていないから。サンは1歳の誕生日に『千字文』を与えている。

冬至の宮廷には小豆粥を炊く匂いが立ち込め、福笊籠(福じゃくし)を作ってかける風習がある。

ヨンヒに慕っているのかと問われ、「王は自分の手に負えない、自分から近づけず待たなければならない」と心中を話すドギム。ドギムがサンに対して壁を築くのは、自分を守るためというのが痛々しい。

小豆粥にえずくヨンヒ。大妃や恵慶宮は茹でた肉を召したようだ。この時代、小麦は貴重品。同じく貴重品の耽羅から進上されたみかんをサンからもらうドギム。耽羅済州島

ヨンヒの事が発覚するが、ドギムはどうする事もできずに、息子を人質にとられ王の顔色ばかりうかがう境遇に転落したと笑い出す。ドギムはヨンヒの幻と会話する。ヨンヒの言う、妻と死別した若い別監は見つからず、騙されていたのか?

ドギムたちは、出宮したら貸本屋の近くに家を建て一緒に暮らし、焼き栗を食べながら恋愛小説を読む、という幼い頃の約束を思い出し、ヨンヒは先に行って待っているのだと話する。

サンはドギムに「どんな女人もそなたにはなれない。自分の天性に逆らってまでそなたを心に留めた。だからそなたでなければならない」と告げる。

ドギムは女の子を出産。

十六章 絶頂期

ドギムの前世はアオガエル(天邪鬼)だったとサンに言っている。そして生後二ヶ月の娘が……。ドラマでは省略されていたけれど、娘の事もあったのか。そして火事や呪いの人形も出てきている不穏さ。

元子(ドギムの息子)が春紫苑の花が好きと言って、春紫苑の指輪をドギムに贈るのが微笑ましい。父親のサンに春紫苑の花は母(ドギム)に似ていると聞かされていたようだ。3歳である元子はドギムを母上と呼んでしまい(皇后が母親にあたるから)、ドギムは注意するが元子は納得できない。

そして元子は世子に冊封された。清国皇帝から貴重な玩具も贈られ、世子は独楽を好む。恩赦もなされ、大妃の兄も本土に戻ってこられた。
ドギムの弟フビは兵科に合格、兄も東宮殿に配属されることとなった。

ドギムは誕生日を迎え、ギョンヒ達が藿湯を持ってきてくれる。わかめや肉が入っておりワカメスープの宮中版で、ワカメスープは出産後の母親や誕生日に食べるもの。ドギムのギョンヒ像は、口は悪いわ偉そうだわとさんざんな中、一番柔軟だと評されている。

サンはドギムを重熙堂東宮殿)に連れていき、子供がたくさん欲しいと思いを告げる。またサンはドギムに、絶対に恋慕しないという言葉を変えないつもりかとも問う。サンは近づきたい気持ちを抑えるために退き、ドギムは引き下がりたいのに仕方がないと近づく、という言葉に示されるふたりの関係性。

サンが戸口で去りがたいようにドギムを振り返る場面、これがドラマ最終回に取り入れられたのか。

十七章 王と側室

ドギムに対してサンが報われなくても抑えきれない慈愛の気持ちを抱いている様子に、目を細めるような思いになるね。ドギムは5年の間に3度目の懐妊となっていた。

いまだ母上と呼ぶ世子を叱るドギム。世子がいろいろと小細工をするのは母親に似て、緻密に状況を動かす狡猾さは父親に似ているのだとか。

世子は「子母之心(慈愛にあふれた母の心)」と書く。

乳母が麻疹となり、世子もかかってしまう。
世子が書いた「望雲之情(遠くから親を懐かしむ)」
「倚門而望(母が気をもんで子供を待つ)」
「反哺之孝(子供が大きくなって親に恩返しする)」がやりきれない……。
そして……。

その葬礼にもドギムは庶母のため、立ち会えないという悲しみ……。体調を崩したドギムは、療養のため「ここを出たい」と訴える。

ドギムは「襟が触れるほどの出会いも前世からの縁」という言葉は、「お互いの襟をかすめるには、抱きしめられる仲じゃないと」という解釈をサンに伝える。

小説のドギムも最期の時に、友人を呼ぶように頼んでいた。最期を迎えるドギムの些細な願いは「自分だけを思う夫に会い、子供と気兼ねのない関係を築けること」だった。

十八章 疑惑

常渓君が亡くなり、常渓君の母方の祖父クリ・サンチョを弾劾。ヨンエは母方の祖父の家から毒薬が出たと証言していた。しかしサンは党派の争いの釣り合いをとるため、恩彦君は死刑をまぬがれ江華島へ流刑となった。そして哲宗@哲仁王后につながるのね。

ドラマでもあったように、パク氏の娘が綏嬪として冊立。17歳の彼女には婚約者もいたが揀択となり、35歳の王の側室となったとある。

ドギムが亡くなり、王は『平山冷燕』才知のある男と美しい女人の恋を描いた雑文に対してひどく怒ったとある。

最終章

サンは49歳となり、世子も冊封したが、大妃は僻派(老論派の保守派)であり、国舅にとキム・サウォンを立てるべく、娘を世子嬪とする予定である。

サンの元に綏嬪から全鰒炒(アワビの醤油煮)が届けられた。綏嬪は料理上手だが、ドギムは形も味付けもばらばらな饅頭をサンに出していたのは、ドラマと同じ。

世子に宜嬪の事を訊かれて「私を笑わせてくれる女人だった」と言うサン。

サンはドギムの末弟であるソン・フビが春紫苑の世話をしているのを見かけ、声を交わしていた。

堤調尚宮が、ドギムたちが筆写した『郭張両門録』をサンに献上する。堤調尚宮がギョンヒとわかる場面。

サンの背中に膿腫ができる。箱を開けるとドギムの反省文、長男が作った花の指輪、宮女の衣服があり、サンは「そなたを愛した、だからお前が恋しい」と涙する。

崩御後、夢から醒めたサンはドギムと会話するのは、ドラマ最終回と同じである。

外伝感想

外伝は長短とりあわせ四篇ある。
「袞龍袍のように赤い色」
「空の居所」
「最後に残る人」
「約束の地」
こちらは実際に読んでほしいので、印象的だったところだけかいつまんで。


空の住処」では”なぜにそんな厳しく対応する?”と思われた、サン側の事情もうかがい知ることができる。

そしてボギョンの思いに涙した……。これが実に良かったのでドラマに取り入れてほしかったなぁ。しかし入れるとしたら最終回の第17話……難しいかな。

ドギムは『荘子』の鵬に例えられており、荘子の鵬とは、九万里を飛び上がるほどの自由な存在。

ドラマドギムと小説ドギムの違い

約束の地」は、なぜにこのような展開(亡き人が存命で、王は不在)なのだろうと思いつつ読んでいたが、最終章へのアンサーであった。ドギムのサンへの思いがわかるので、ドラマ最終回でモヤモヤした思いもそうだったのかと腑に落ちた。
ただ、ドラマのイ・セヨンなドギムにはあまり恋の駆け引き感は感じられなかったんだよなぁ。


ドラマの最終回第17話は、原作小説を忠実に辿って
おり、それがそれまでのドラマのオリジナル部分(小説にはサンが王となるのを、ドギムが助けて活躍する流れはない)と微妙に齟齬を生みだし、ドラマドギムの言葉が「え?ここに来てそれ?」な印象を与えている気がする。

ドラマの宮女ドギムは世子時代のサンの懐に入りすぎており、原作小説のドギムは用心深くそこから距離を取っているので、同じ最終章を迎えても受ける印象が違ってくるのだ。

よくよく見ると、ドラマドギムは世子時代はサンを支えて、王となってからは一線を置いてはいるのだが、既にサンとドギムが力を合わせ寄り添う姿に感情移入している視聴者には、はしごを外された感はいなめない。
 それに小説ドギムより真っ直ぐな気性のドラマドギムならば、世子時代の関係性を慮って、あそこまでサンを突っぱねられないような気がしてしまう。やはりドラマのドギムと原作小説のドギムは少し異なる気はする。

もちろんドラマでの『詩経』など、心に残る名場面も多いので、ドラマならではの魅力は大きく、ドラマを見て小説を読んだ分、いっそう世界が奥まって楽しめた。


是非ご一読を。

 

 

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