笛の音と琴の調べ

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魏無羨と虞夫人 金丹/江厭離・江澄の母の思いと呪縛 陳情令・魔道祖師

魏無羨に「虞夫人ほど気性の荒い婦人は見たことがない」と言わしめた虞夫人。そんな虞夫人が江氏の子供たちである、江澄・江厭離・魏無羨に与えた影響はかなり大きい。


虞(ユー)夫人こと虞紫鳶(三娘)
は、強烈な突きぬけた物言いと、その言葉にたがわぬ、王霊嬌に毅然と立ちむかった女主人っぷりで、人気のあるキャラクターだ。

とはいえ、陳情令第11話と第14話で虞夫人が登場した時、家族に対して言い放つその言葉に、私はかなり引いていた。あまりの苛烈さに、江澄は実子で、江厭離は義理の娘なのか?と錯覚したほどである。

第11話と第14話の虞夫人の言い分を要約すると、「江氏の次期宗主は江澄なのだ。魏嬰はしょせん下僕。そんな魏嬰に江澄はいつもかなわない。しっかりしろ。結局は母親の差なのだ。魏嬰は夫のという噂もあるわよ」ときたものである。引いたのは最後の言葉…。

※江楓眠は若い頃、魏嬰の母・蔵色散人と夜狩をしており、蔵色散人が次の蓮花塢の女主人になるのではと噂される中、そこへ虞夫人との縁談が舞いこむ。その内に蔵色散人は部下の魏長澤と道侶になり遠くへ行ってしまい、江楓眠は抵抗するも周りにかためられて縁談を受けた、というエピソードがある。(魔道祖師第56章)

 

それを聞く家族たちの反応から、これは毎度毎度の事なのがうかがえる。ことある毎にこれを聞かされて育つ江澄の気持ちやいかに・・・といたたまれない思いで同情し、それにしては健気に育っているなぁと思ったものだ。大仙家に引き取られた養子(師兄)が、実子よりも能力が高いなんて、とある将棋漫画では実子の姉弟が病む世界である。それをあれだけ肩を並べて仲良くできるとは。

 

跡継ぎである江澄はことごとく魏無羨と比べられ、おまけに父に愛されている実感がないようであり、それが一層やるせない。それでも母親からの次期宗主としての叱咤激励は江澄には深く刻まれており、のちに江澄が魏嬰の思惑に気づいてやれる余裕のなさは、これら複雑な思いから来ているようにも思う。

 

★   ★   ★

 

師姉である江厭離は、父親の江楓眠と気性が似ているのだろうし、「素質がすごいわけでもない」【天賦亦不驚世】(魔道祖師第18章)と明記されており、魏無羨と比較される対象ではないのであろう。
しかしのちのち、魏嬰の進退にとっては致命的な要因となった金子軒との婚約話は、元は虞夫人が強く望んで決めた事であり、江厭離の人生に与えた影響も大きい。
虞夫人と金子軒の母・金夫人は何でも話せる親友で、幼い頃から、もしお互いの子どもが男の子なら金蘭の契りを結び、女の子なら姉妹に、男女なら夫婦にと、約束を交わしていた。(魔道祖師第69章)

 

陳情令第14話、玄武洞から帰った魏無羨を囲む江澄と江楓眠に向かい、虞夫人が強烈に言い放った言葉。
いつか魏嬰は必ず災いを持ち込むわよ」である。

魏嬰の行動が温晃に目をつけられ、江氏襲撃となったとされているが、当時は温氏の勢力が拡大していた時分でもあり、それだけが直接的な要因になったかどうかは微妙ではある。しかしこの予言めいた言葉は江澄にも強く残ったことであろう。

第15話、温逐流たちに襲撃され、虞夫人が子供たちだけは助けようと舟に乗せ紫電で縛り、魏嬰に言うのである。

「全部お前が招いたことよ」
「魏嬰よくお聞き。江澄を守るのよ。命に代えてでもね。」と。
【魏嬰!你給我聴好了!好好護着江澄,死也要護着他聴到没有】

そしてその直後に会った江楓眠には、「阿嬰、阿澄と阿離を頼んだぞ」と肩を叩かれ、再度、送り出される。
原作第58章では、この場面には師姉はおらず、江楓眠から頼まれたのは阿澄だけである。

 

恩ある江氏が目の前で一族惨殺され、呆然とする魏無羨にとって、もはやすがれるのは「命に代えても守れ」という虞夫人の言葉である。そして自分のせいでこの惨劇が起こってしまったのではないか、という恐ろしい思いも底には渦巻いている。

それを打ち消すかのごとく、師姉と江澄を守ろうとするが、江澄は一族を突然失い錯乱している上に、虞夫人も口にしていた「魏無羨が災いをもたらした」という思いが頭を占め、それを魏嬰にぶつける。

一方、師姉は魏嬰を責めることなく、江氏姉弟3人で過ごすことを強く望んでいる。

そして江澄が温氏に捕まり、いよいよ魏無羨は窮地に陥る。命にかえても江澄を守らないといけないのに。それが今の魏無羨の生きるよすがなのに。
原作第59章で、魏無羨は「死ぬのは怖くない。怖いのは、江澄を助け出せず、江楓眠と虞夫人の頼みに背いて死ぬことだ」とある。


ここで魏無羨は一人で事態を解決せねばならず、自分の剣さえもなく進退窮まっていた。
そんな中、温寧が危険をかえりみず手を差しのべてくれ、江澄を助け出し、温情も協力してかくまってくれ、江楓眠と虞夫人の骸も取り戻してくれた。


そして金丹を奪われ自暴自棄になる江澄を何とかしようと、魏無羨は医書をあさり、ついに見つけた金丹を移す方法。魏嬰が仮に江澄の実弟であれば、恐らくその方法は取らなかったであろうし、虞夫人もああは言わず、せいぜい「兄を助けるのよ」位なものであったろう。
原作第60章では夷陵監察寮で温情初登場。医書探し・師姉・宋嵐の場面もない。

 

しかし魏無羨の使命は「命にかえてでも江澄を守れ」である。

 金丹を失い生きる屍となった師弟がいる。
 金丹を移す方法は見つかった。
 優秀な医師である温情さえもいる。

魏無羨に選択肢はもはやないように思われるのだ。

 

そして江澄を助けることを実現してくれた温情と温寧は、大いなる恩人となった。二人なくしては、江澄を救い出せずに約束も果たせなかったのだから。なので魏嬰が、江澄と温氏を助けた事について、江氏惨殺以来、魏無羨を貫いていたのは、虞夫人のこの言葉だったのではないか。

それぞれ、発端は母から子への思いでもあったが、ここまでくるともはや呪縛にさえ思えてくる。


そして魏無羨は乱葬崗へ落とされ、陳情笛と陰虎符を得て夷陵老祖となり、悲劇の道を辿っていく。

魏無羨にとって虞夫人たちの言葉が過去(前世)の後半生を導いたからこそ、陳情令第20話で夷陵老祖となり戻ってきた蓮花塢の江氏祠堂で、魏無羨は位牌に向かい、
「江おじさん、虞夫人。約束どおり江澄と師姉を守りました。ご安心を」と報告する。


しかし前世で約束を果たし、もはやそれらは過去となった現世の第46話、藍忘機と共にした江氏祠堂では、思わず、

「虞夫人ほど気性の荒い婦人は見たことがない」
【這麽多年口阿,我還真沒見過第二個女人像虞夫人這様脾氣那麽暴躁】
と口をついたのではないだろうか。

 

 

 

 

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