「魔道祖師」「陳情令」の禁術である、原作の献舎とドラマの舎身呪の意味について、当時の私の思いも交えて、その違いを詳しく整理してみる。
小説「魔道祖師」の献舎
献舎とは、己(術者)の血で描いた陣法と呪文の中で、己の肉体を献げ己の魂魄は大地に帰される代償として、悪霊邪神を召喚し、己の願望を実現してもらうのである。(原作第2章)
即ち、魏無羨の霊が、莫玄羽の身体に召喚され、莫玄羽の見た目になるのである。
実際、原作の魏無羨は莫玄羽の顔姿になっており、身長も藍忘機より二回り小さくなったという記述があったように思う。(魏無羨は186cmから180cmとなる。藍忘機は188cm※)
ちなみに原作の献舎では、魏無羨の腕に付けられた傷は4つで、莫子淵,子淵の父,阿童,莫夫人に対する恨みで、アニメの献舎では3つである。そして術者(莫玄羽)の願望を叶えないと、(魏無羨の)傷は深まり、しまいには魂を引き裂かれる。
一方、舎身呪では傷は4つで、莫家の人達が亡くなっても1つ傷が残っており、「仇敵を殺さぬことにはこの傷は永遠に癒えない」とだけ語られている。2022.4.25原作の傷について修正追記。
中国語で【舎】には「家」「捨てる」という意味があり、この【献舎】は「家(すなわち身体)を献げる」という事になるのだろうか。
ちなみにアニメや漫画「魔道祖師」でも献舎がなされており、舎身呪はドラマのみである。
ドラマ「陳情令」の舎身呪
次に舎身呪を見ていくと、第1話で莫玄羽が魏無羨に呼びかける場面。
「私とて舎身呪をかけたくなかった」
【我也不想給你下舎身咒】
[I don't want to cast the sacrificial curse on you,either.] WeTV英語字幕
【舎身】は「身を犠牲にする」を意味する。
この後、魏無羨が顔を洗い、
「安らかに死んでたのに、なぜ蘇らせた。しかも舎身呪とは」
【我这死得好好的。你為何么要救我。還用舎身呪】
と述べているので、魏無羨が一度は亡くなっていた事には変わりはないようである。
そして第42話の密室で、金光瑶が舎身呪について述べた台詞。
「己の霊識を代償とし重傷者を修復する」
【名為舎身呪是以自己所有的霊識為代償修復重傷之人的】
[It's a trick for healing those who are severely wounded at the cost of one's entire spiritual cognition.]
この言葉を鵜呑みにすると、莫玄羽の霊識を代償とし、重傷の魏無羨を修復した。という事になり、献舎と意味合いが変わってくるのだが??
そうなると、魏無羨の身体がどこかに保管されていて、舎身呪の時に運んできたの?
それとも身体ではなく、負傷した魏無羨の霊識を、莫玄羽の霊識で修復した??
衝撃への道のり
初めて第1話を見た時は、舎身呪についてはあまり気にせず、莫玄羽の復讐を叶える為に主人公は召還され復活したのね、位の認識であった。
その後に日本語翻訳を読んで献舎の設定を知った。しかし陳情令は実写ドラマなので演者を変える訳にもいかず、現世篇の魏無羨が過去篇と同じ容姿なのは、周りには莫玄羽に見えるとかのマジカル設定なのかと軽く考えていた。
そして過去篇が終わり、ようやく第34話の江澄とのやり取りで、仮面を外すと正体がバレてしまうという、顔は魏無羨設定であると初めて気付いた。が、それでも身体は莫玄羽とばかり思っていた。
そして第42話の金光瑶発言である。
えええええ~である。
顔だけでなく、身体も魏無羨のままなの!?
ひぇぇ。
かなりの衝撃である。
もはや陳情令が、復活後、身体も魏無羨のままに・・・と強く望むファンによる二次小説の映像化に思えてきたものである。
温氏の烙印は?
するとすぐに思い浮かぶ。という事は、魏嬰の身体には温氏の烙印があるの!?
藍湛とお揃いになっているの!!??
第1話を見返していて気付く、莫家で騒ぐ魏無羨は右胸をはだけていた・・(焼ごて跡は左胸鎖骨下の胸骨寄り)。
第42話の静室で、藍忘機が傷の具合を確認していたのは左下腹部であった・・・。
おまけに、過去篇の魏無羨の唇の左下にはホクロがあったのが、現世篇ではなくなっているらしぃ。舎身呪後はホクロや烙印は消えるのか?
第42話のこの画像にて検証。 ん? ・・・微妙すぎる・・・。
一方の玄武洞は暗くて目を凝らしてもハッキリしません。
16年間どこに?
江澄が谷底を探しに行った時は骨しかなかった(でも陳情笛は見つけた)、という事から、金光瑶辺りが直後に魏無羨の身体を拾って隠していた、という事になるのだろうか? もし身体が過去の魏無羨のものならば、誰が保管していたかは、それぞれの解釈に任されている。
しかし小説番外編「悪友」を読み、彼らに魏無羨の身体が渡っていたらエライ目に遭わされそうなので、それはナイと思った。2021.8.6追記。
もうひとつの可能性としては、魏無羨は少なからず陰虎符の影響を受けたのではないか、という点である。ドラマの中でも、陰虎符をとりまく怨霊が魏無羨をいざなう場面が描かれていた。魏無羨は不夜天で陰虎符を壊してはいる。しかしその遣い手であった魏無羨が制御する力を失った時、それらに取りこまれるなど何らかの影響がおよんだ、と考えられなくもないだろうか。2020.9.18追記.
随便はどこにあったのだ?
この頃の魏無羨は剣は佩いていないから伏魔洞?
原作小説での魏無羨の死因
このたび刊行された日本語版小説を読んでいると、1巻第五章(原作第19章)の、雲深不知処の冥室での場面で、「彼(魏無羨)が死んだ時は、確かに体は細かく噛み砕かれてしまった」とあった。
また2巻第九章(原作第43章)でも、現世で理性を取り戻した温寧に対して、魏無羨が「俺は、術の反動で死んだんだ」と述べていた。
小説冒頭で噂されていた、夷陵老祖の最期と少なからず重なる部分があったようである。
2021.5.30追記。
第1話の魏無羨の服装の色合い
第1話で、復活後の魏無羨の服が、蘭陵金氏系の色合いに見えた事は以前に述べた。
莫玄羽が莫家に戻った後も、金氏の服を着ていたのか、それとも魏無羨が金氏の服を着て保管されていたのか、どちらの意味合いになるのか興味深かったのだ。
衝撃だったのは……
「魔道祖師」第1章は【重生第一】、アニメ「魔道祖師」では座学時代~夷陵老祖出現までを【前塵篇】と称している。
【重生】は「転生」、【前塵】は「往事、過ぎ去った昔の事柄」を意味する。
陳情令での魏無羨が、16年経って自身の身体で復活したなら、それは一種の脳死状態からの覚醒のようにも思われる。私は原作で魏無羨が莫玄羽の身体で復活するという事に、切なさと愛しさを感じていた。その「転生」が「覚醒」になるという改変が、私には衝撃だったのだ。陰虎符説を考えると、もはや転生なのか覚醒なのかもよくわからず迷宮に入りこむ。
そして公式見解は、ない。
献舎と舎身呪のいずれにせよ
変わらないのは
魏無羨は魏無羨であるということと
そんな魏無羨のそばに寄り添い続ける藍忘機の思いの深さである。
★ ★ ★
原作で勝手に「思いこんだら衝撃の道を」シリーズ。
私が衝撃を受けていたのは、その変更が、私にとっては物語で重要だと思っていた設定だったのだなと改めて思う。
物語がかなり進んだ後で「設定違い」に気付いたお話である。
(了)
『陳情令』も様々な動画配信サービスで放送されるようになっていることもあり、少し追加をば。
そもそもこの「献舎」から「舎身呪」の変更は、本国での検閲「カルトまたは迷信を広める」にあたるのかなと想像される。想像です。なので、このドラマで語られたことがどの程度なのかは、視聴者に解釈を任されているあたりが様々な解釈が生じる要因でもある。舎身呪で望みを叶えられなかった場合の影響も、言葉通りにとるか、原作設定を重視するのか、難しいところなのだ。
その後ネット情報で見かけたものでは、「この術は次第に生前の姿に似てくるのだ」説もあったので、参考までに一応載せておきます。21.10.14追記
※Wikipedia-魔道祖師
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