笛の音と琴の調べ

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三尊 藍曦臣/沢蕪君の原家族の再現そして喪失(魔道祖師・陳情令)

三尊

三尊とは、大哥・聶明玦/赤鋒尊、二哥・藍曦臣/沢蕪君、三哥・金光瑶/斂芳尊であり、三人が交わした義兄弟の誓いである。

日本語では「さんそん」、中国語でも「sān zūn」と音があまり変わらず、響きも格好良い。

 

この三尊という関係がなければ、現世編は存在しなかったであろう、重要な意味を持つこの結びつき。

三尊を主導したのは原作では、藍曦臣/沢蕪君である。原作では魏無羨の推測として語られている。ドラマではハッキリとは描かれてはいない。

 

射日の征戦のあと、陳情令第23話(原作第49話)の頃、聶明玦は金光瑶に不信感を抱いていたし、金光瑶は立場としては下であり、そのようなことを言いだせる身分ではなかった。

 

藍曦臣は、物語の中でバランスが良く善良の塊だが、彼はどちらかと言うと受け身で、皆の意見を取りいれつつ提案することが多く、率先して物事を進めていくタイプではない。

 

当時は岐山温氏が討伐され、仙督が誰になるかも微妙な時期であった。

そんな時に清河聶氏や蘭陵金氏との同盟関係があれば有利にはなるが、しかし藍曦臣には、宗主として姑蘇藍氏を守ることはしても、盛りたてねばというような野心めいたものはあまり感じられない。

おまけに雲夢江氏からすれば、この時期に三大世家が結束するのはかなりの痛手でもあったのだ。

 

では、その沢蕪君がなぜ三尊に限って主導したのか。


それは、藍曦臣/沢蕪君無意識自分の原家族(子ども時代の家族)を再現しようとしたからではないか、と陳情令第43話を観ていた頃、仮説を立てていた。いま一度考えてみたいと思う。


話は逸れるが、藍曦臣の二次小説でよく見かけるのが、藍曦臣は関係を進める時に、意外と強引になる、という設定である。

しかしドラマ・原作双方の藍曦臣をたどっても、彼が強引になった場面はないのである、三尊の提案以外は。普段はおっとりしているが、肝要な時には押しが強くなる、という物語からの共通認識があるのだろうか。

 

 

藍曦臣のターニングポイント
ここは原作設定を取りいれて考えた方がより明確になるのだが、まず、雲深不知処が岐山温氏に襲撃された折、ながらく蟄居していた父親が亡くなる。

そして藍曦臣は蔵書閣の書物を持って逃亡し、姑蘇藍氏を離れ、金光瑶とお互い誰であるか知らずに出会う。(陳情令では父親は既に亡くなっており、金光瑶と逃亡先で会うのは二度目)


姑蘇藍氏という大世家の中で御曹司として育った藍曦臣が、このひとりきりの逃亡生活で会った金光瑶というのは、相当心強い出会いだったと想像できる。

しかも原作ではこの当時、雲深不知処を焼かれ、父を亡くしており、大きな喪失感もかかえていたと思われる。

雲夢江氏の一族惨殺が強烈すぎて、やや霞んでいるが、若干20歳百度百科より)の藍曦臣にとっては相当な衝撃であっただろう。

 

そこで思ったのだ。藍曦臣は、父親・青蘅君弟・忘機三人の関係を、心の拠り所としていたのではないかと。

そして、そうなったのはさかのぼれば、忘機が6歳の時にいなくなったという母親・藍夫人の存在が、大きく影響をもたらしている。

 

 

兄・藍曦臣と弟・藍忘機

藍曦臣と忘機が何歳違いなのか。百度百科には)当時8歳と記されている。

6歳の藍忘機よりは、藍曦臣の方が分別もついた年齢であったであろうし、何よりも藍曦臣はである。

人は、同じ心情であっても、先に相手にある態度を取られると、それを補う役割にならざるをえなくなる。(深刻度は異なるが、藍湛に酔っ払われると、魏嬰は介抱する身となるように)

藍曦臣は月に一度対面できる母に会う楽しみと、嬉しいながらも言葉少なな藍忘機との仲を取り持ちながら、三人の時間を慈しんで暮らしていたのだろう。そんな母ー自分 藍曦臣ー藍忘機の三人の関係の中で幼い日々を過ごしていたのが、そもそものベースになっている。2022.9.14追記

それがある日、突然失われた。

藍忘機は幼すぎて、突然の出来事を理解できない気持ちと共に、それを周囲に構わずに「毎月静室の前で座りこむ」という行動をすることで、ある意味、突然の喪失への混乱怒りの表明と共に、それを受け容れる喪の作業も彼なりにしていたのだと思う。(原作では母親がいなくなった後、いっそう内にこもったようであるが)

 

けれど、藍忘機よりも年長の藍曦臣には、藍忘機の行動に困り果てている周囲が見えるし、何より弟のケアもせずにはいられない。

藍曦臣は弟である忘機をこまやかに配慮し、無表情な藍忘機のわずかな動きをとらえて、気持ちを読みとることもできるほどである。

 

そうして藍曦臣はいなくなった母の代わりに「母親」役を担っていった。

そして、父親・青蘅君代理母である藍曦臣弟・藍忘機の家族関係が出現する。

それは原作では、父親の死まではおそらく順調に続いていたのだ。

 

 

藍曦臣と金光瑶

そんな混乱状況にあった藍曦臣にとって、金光瑶というかなり魅力的な「弟」が現われたら、心奪われ急速に距離を近づけていくのではないだろうか。

そもそもこの頃、藍忘機とは離ればなれになったばかりでなく、藍忘機自身、魏無羨という存在が現われ、一種の家族離れの時期にも入っていた。

魏無羨との親交をあと押ししていた藍曦臣だが、濃密な家族関係という意味からは、少し兄として手の離れた隙間のような気持ちもあったのではないかと、うがった見方をしてみる。

 

そして愛想のない忘機(そこがまた良いのだが)よりも、愛嬌もあり怜悧な孟瑶である。

藍曦臣にとって可愛くないわけがない。

そしてそんな母性味あふれる藍曦臣の存在は、「妓女の子」と差別されないだけでなく、母を慕う気持ちが人一倍強い孟瑶にとっても、相当魅力的な存在であったと想像される。

 

 

聶明玦・三者関係
さて、この時は二者関係であった藍曦臣と金光瑶。このままで終われば、物語は変わっていたのやもしれぬが、そこへ登場する、聶明玦である。

 

もとより、藍曦臣と聶明玦は親交があったのであろう。

聶明玦も藍曦臣には信頼をよせている。

そもそも孟瑶は聶明玦の部下であり、目をかけて副将にひきたてた。しかし孟瑶が聶氏の総領(原作では温氏)を殺害した疑いにより追放する。


そして、温若寒を討ちとった孟瑶。聶明玦はなおも孟瑶を疑っている。

が、藍曦臣は温氏討伐のために、苦渋の気持ちで間者として働いたのだと、関係を取りもち、そうして三人は三尊となる。

 

聶明玦と孟瑶を取りもとうとした思いはいろいろとあるだろうが、根底には父親的存在である聶明玦を取りこむことによって、藍曦臣には慣れ親しんだ原家族を再現したかったのではないか、と思われるのだ。

 

 

聶明玦にとっての三尊

孟瑶には大きな後ろ楯となり利点しかない三尊であろうが、

ではなぜ聶明玦はそれに応じたのか?

孟瑶を疑う気持ちはあったはず。

原作第49章では金光瑶は得がたい人材であり、聶明玦が考える正道を歩ませるべく指導鞭撻しようとしたのではないかと、魏無羨の推測で語らせている。

しかしそこまで信じていたのか?

 

ここで陳情令では、少し意味づけが加わえられている気がする。

 

陳情令では、スピンオフ「乱魄」にもあったように、家の発展を急いだ気持ちも強かったのではないか、個人的感情よりも宗主としての立場を優先させたのではないだろうか。

陳情令で、聶明玦/赤鋒尊が、金光瑶/斂芳尊を見る目つきはいずれも険しく、聶明玦の本心としては三尊として認めていたのだろうかという疑問は残る。このあたりの解釈は人それぞれである。

 

 

藍曦臣にとっての三尊

三尊となった藍曦臣/沢蕪君にとっては、聶明玦/赤鋒尊が亡くなるまで、とても満ち足りた日々だったのではないだろうか。

父親のように頼もしい聶明玦/赤鋒尊のように利発で熱心な金光瑶/斂芳尊

 

もちろん不夜天の決戦後は、満身創痍の弟・藍忘機のことで心を痛めていたとは思うが、それ以外では仙門百家や世の中を良い方向へ導こうと尽力し、順調だったのではないだろうか。

そして聶明玦が亡くなり、それは藍曦臣にとって父親が亡くなったことの再現でもあったが、それでも金光瑶がいる。

 

突然復活して現れた莫玄羽こと魏無羨赤鋒尊のことを聞かされるその日まで、その蜜月は十数年以上続いていた

金光瑶の累々つらなる所業の衝撃を、藍曦臣が受けとめることは、あの短期間では相当難しかったと想像される。

幸せな時間が長かっただけに。

 

そして原作では聶明玦と金光瑶は共に封棺され、藍曦臣はひとりとり残された。

自問自答の長い一日が始まる。

 

 

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