笛の音と琴の調べ

ドラマ「陳情令」・「魔道祖師Q」・小説/アニメ「魔道祖師」の感想や考察を綴っているブログです。「愛なんてただそれだけのこと」「宮廷の諍い女」を更新中。⇩カテゴリー選択はスマホでは左にフリックしてください。

金光瑶の目下なら良いが上司になると~父性の承認と憎しみ~

金光瑶については、以前記した薛洋記事「 薛洋、その破壊に満ちた魅力と遅すぎた切望、悪友」と「悪友シリーズ」として続けて出したかったが、2022年1月以来となってしまった。そういえば今日7月22日は薛洋の誕生日。思いはあってもそれをまとめるのがなかなか億劫であった人物。

ネタばれになるので、最後まで完走してからをお薦めします。

権力者としての金光瑶

金光瑶は、忘羨視点からの魔道祖師・陳情令の世界では非道なれど、権力者の一生、という点から見れば、父妻子兄を殺害(小説第二十一章 恨生で本人の弁)とフルコンボであってもさほど珍しくもない。古今東西歴史を辿ると、権力を得るためには仁義なき戦いをしているものだからだ。

私は陳情令で金光瑶を見ていた時、上司の総領を殺害したのは、殺害意図を持ってか、咄嗟の事だったのかが気になっており、陳情令第41話で意図があった、という点で権力者の思考かとガッカリしつつ、金光瑶を権力者カテゴリーに入れた。

権力を目指したとある皇帝の物語であれば、金光瑶は伎女の子から立身出世を成し遂げ仙督にまでなっているので大したものなのだ。それは子ども達のごっこ遊びでも演じられていた程である。権力を前にすると、人は血を分けた家族だろうが殺(シャー)しているので、金光瑶のそんな面もその類とあまり気にならなかった。

が、なんせ私は義侠好きである。義侠につきものの義兄弟や知己を大切なものと考えている。
 家族は選べないが、義兄弟は自分の意志で結ぶ契りなのだ
よって義兄弟の絆を無下にするのは許せないので、義兄弟である聶明玦を、義兄弟な藍曦臣の技で殺害するのはいかがなものかとは思っている(それがこの作品の面白さでもあるのだが)。

金光瑶の目上と目下への落差

さて、そんな認識である金光瑶に興味を抱いたのは、意外なほどの目上への残忍さと、目下への寛容さ、である。

上司の総領・温若寒・聶明玦・金光善は殺害したが、薛洋と莫玄羽は追い出すに止め、金凌に至っては観音廟で人質にした以外は手を出していないし可愛がってもいる。蘇渉には慕われており、かつて庇ってくれた思思も殺さずに閉じ込めていた。この落差が不思議なのであり、金光瑶の複雑さを示し、魅力でもあるのだろう。

陳情令第30話で、金子軒の婚礼の準備に追われ、配下に的確に差配する金光瑶の姿を見て、「金光瑶の部下は案外やりやすいのではないか」と思った記憶がある。

父親に認められることと憎しみ

では、何故目上に対しては厳しいのか。それは金光瑶の最大の目的が「実父である金光善に認められること」であったからであろう。それが母から事ある毎に植え込まれたものなのか、自らの意思によるものなのかは不明である(恐らく前者の方が強そうではある)。

そのように自分を認めてほしい気持ちの一方で、現実には周りから「妓女の子」と蔑まれるばかり。そもそも真っ黒な薛洋を白にできる金光善である。金光善の一言があれば、皆恐れて妓女の子なんて言わなくなるハズである。しかし金光善は金光瑶を利用はするも、周囲の対応は放置した。

能力は高い金光瑶なのだ。金光善が金光瑶を自分の子だと確信できれば、さほど母親の身分が低くても黒を白にできたであろう。それをしなかったのは、どこかで自分の子であるのかと疑う気持ちが相当、強かったとも思われる。

だいたい、浮気性の人ほど、人の事も信頼しないものらしいし。

自分や母親を守ってくれないが、汚い事だけ押しつけてくる父親。しかし母親への思いがあるので、そこから離れられずに、父性への憎しみをどんどんと内在させていく。

父親との関係が悪い人は、父親のようなポジションにあたる上司などとうまく関係が結べなくなるというのを、とある精神分析関連の本で見かけたことがある。上司が代理の父親となり、憎しみが向けられてしまうのだとか。

そして実際にそんな代理父にあたる上司の総領(小説では温氏)、温若寒、聶明玦を殺害。特に赤鋒尊に承認されず妓女の子呼ばわりされた事は大きかったと思われる。そして永遠に認められる日は来ないと知って、ついに実の父親殺しがなされた。

金子軒や金凌や薛洋とは

金光瑶は有能である。金子軒は金光瑶をひとりの人間として認めており、金子軒が宗主となり、金光瑶は金子軒を支えるのが良さげにも思えるのだが、金光瑶の法則(上に厳しく、下に寛容)を考えるとそれも難しいような気がしてくる。
 そもそも金光瑶にとっては父親の愛情をめぐりライバル関係にある金子軒でもある。なかなかNo.2におさまりそうもない気もしてくる。

ただ、金光瑶は金凌に「なぜ金子軒と対応が異なるのか」と責めたてていたが、嫡子とそれ以外が差別化されるのは権力社会の中では当然よくある事である。仮に同腹であっても弟というだけで序列を付けられるのであろうから、この兄弟に関する申立てに対してはあまり同情はできなかった。

それらを考えると、自らがトップとなり、大商人あたりにおさまるのが最も適していたのだろうか。

正直、金光瑶の金凌への対応は不思議である。血統からいけば、金光善にとって金凌が最も正統で保護対象になりそうなものだが、金麟台での従兄たちによる金凌への仕打ちを見るに、さほど金光善のお気に入りというワケでもなさそうである。母親がいない事も大きいのだろうが、やはり雲夢江氏の血筋という事がどこか影を落としたのだろうか。

下に寛容であった金光瑶だが、実の子である阿松に対してはそうはならなかった。これは子殺しという、また別の自分との同一視が関係していそうなので、また機会があれば述べてみたい。暗い話題なので陰鬱になるのだが……。

ドラマを見ていて不可解だったのは、薛洋が追い出されても金光瑶と良好な関係にあった事であった。なんせやられた事を何十倍にしてやり返す薛洋である。噂通りに金光善が亡くなり追い出されたのならば、何かやり返しそうなものだが、義城でも連絡は取っていたようでもある。

これは乱葬崗で魏無羨と江澄がやり合って一芝居打ったのと同じで、金鱗台を追い出したという事にしてお互い納得して離れた、という事なのかなと類推している。薛洋が怪我をして暁星塵の前に現れたのは、何かに巻き込まれただけだったのかな。きっとその後、その相手にお礼参りはしたに違いない。

金光瑶という人

上を尊び、下を哀れんだ」。
(目上の人々を敬い、目下の人々を労る『魔道祖師 第十四章 優柔』にて)。

陳情令第43話にて藍曦臣が金光瑶の評して言った言葉である。

この言葉は半分当たっていて、半分は異なっている。
実際には
「目上を害し、下の者達を哀れむ」
であり、目下に対しては相手に応じて報いていた。

この目下への接し方に関しては、
金光瑶の母を思う気持ち

母の思いを叶えたい。
母の願いを実現したい。
母を認めてほしい。

ある意味、君子としての振舞いでもあったのか。

そんなそれぞれの親への切なる思いから来ているかと思うと、父である金光善の業の深さを思わずにはいられない。

 

 

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