中国ドラマ『繁城の殺人~大明に蠢く闇~』がWOWOWにて2024年8月14日(水)より、毎週2話放送で始まった。全12話のXシリーズで、時間は45分~75分とバラバラになりがち。
明代万歴年、主人公の捕吏が師匠の死を追って行く内に、20年前の事件が……という『天地に問う』と色合いが似ているが、こちらはあまりコメディ要素がなく視聴もどうしようかと思っていたら、『論語』が毎回出てくるのだ。
『論語連続猟奇事件簿』なのが興味深い!おまけに時折料理も出てくるしで、好みのテイストではないのに気になり、漢籍の部分と料理をまとめてみました。
1話漢文
時代は、明 万歴37年 江南 蠹県。
捕吏 曲三更の師匠である冷頭領の死体には「我が道 一を以て之を貫く」という文字が書かれた棒が貫かれ、案山子のごとく畑に置かれていた。棒は桑の木で、桑は強くしなやかで輿の担ぎ棒によく使われる。
新しく頭領となった易頭領は、汁気たっぷりな柿を食べている。
残されていた言葉は『論語』の里仁編の一節で、孔子が曾子に説いた教えで、「自分の行く道は一貫して一つである」、朱子の注釈では「聖人の心は渾然一理」と、王先生が解説。
孔子の道は「夫子の道は忠恕のみ」。朱子の注釈では「中心を忠と為し、如心を恕と為す」。忠とは一心一意であり、恕とは人の身になり思いやること。
孔子『論語 里仁 第四 十五』
子曰:“参乎!吾道一以贯之。”曾子曰:“唯。”子出,门人问曰:“何谓也?”曾子曰:“夫子之道,忠恕而已矣!
鳳可才は、肉まんをせいろで3段、乳餅3皿、麺3杯、瓜の漬物と味噌、山椒の醤油漬け、ニンニク汁と豚の角煮を注文。曲三更、高士聪とこの3人なイメージなのかな。鳳可才は地鶏とも呼ばれている。
発見場所が明るい屋外ならば、「動機はかなり深い怨恨で、下手人は己の冤罪を訴えた、胸中に湧き上がる怒りを高らかに告げている」と推測する鳳可才。そして「死者は不忠不恕の徒で、違法行為が不忠、人命軽視が不恕」とも語る。
冷無疾は役人(知県)には狼、犬、蛇、鼠、猫の5種がいると語る。
狼:最も冷酷で貪欲。
犬:欲はさておき、規則を厳格に守ろうとする。部下は甘い汁にありつけない。
蛇:軟弱に見えるが毒があり、動きは最も素早い。
鼠:ずる賢くて目ざとい。わずかな利益も決して見逃さない。
猫:上司として最高、なでると従順になる、遊ぶ時以外はほとんど寝て過ごす。毎日餌がもらえれば鼠など眼中にない、遊びで捕えるだけ。
2話漢文
宋典史は、臼歯を曲三更に渡す。通常、臼歯の歯根は3本だが、4本あるのは奇妙な特徴である。
1万両もの銀子が冷家の棺の中に隠されており、万歴17年9月17日に陸家で火事があり、その記録も残されていた。曲三更の父親もその火事で亡くなっている。
王先生は、印石を握りしめて亡くなっていた。文鎮にしていた銅尺には「童子 六七人」の文字。
意味は「莫春には春服すでに成り、冠者五六人、童子六七人、沂に浴し、舞雩に風し、詠じて帰らん」。「晩春の頃、新しい春服を着て、成人と童子数人ずつを伴い、沂水にて体を清め、舞雩で風に吹かれ、日暮れには歌を歌いつつ家路につきたい」。
3話論語
穴に梅の木を植える鳳可才。
王先生は銅の尺で後頭部を殴られ、口には頭部のないひよこが入れられていた。
「孔子が弟子4人に将来の夢を尋ね、3人は高官になると答えたが、曾皙だけが違う答えをした。出世には興味はなく、壮大な志もなく、のどかな春の情景こそ望む将来の夢」という解釈がある。
反対の意味は「王先生は子供に悔いるべきことをした」。
三更は易頭領に帳簿を見せて「月2200両になる」と伝える。
月に500両請求する易頭領。訴訟のもみ消し代1000両から、易頭領が宋典史に渡そうとしたのは200両……。がめついな。
宋典史は妓楼で妓女の春杏から、月に一度の来訪で魚を食べられると楽しみにされている。
笠を被った男ふたりが釣りをして、釣った魚を川に戻している。
陸家の火事では、博打打ちの陳旺、養子の陸直、守衛の張貴、料理人の尤二が生存していた。論語の弟子も生存者も4人。
鳳可才が私塾で「学びて時に之を習う、また説ばしからずや。友あり遠方より来たる、また楽しからずや。人知らずして慍らず、また君子ならずや」と生徒に暗唱させている。
鳳可才は生徒を残し、王先生と同じ事……と言って生徒が告発したのは、尺でビシバシ叩くこと。
王先生、変態なの?
三更は「身近な相手ほど、実像を知らないものだ」と語る。
陳旺の白骨死体が発見される。
「子 川上にて曰く、逝く者はかくの如きか」、川に身投げした博打好き、臙脂小屋の廃屋の主 陳旺だった。この事件は20年前の火事と関係がある。
孔子『論語 子罕 第九 十七』
子在川上曰,逝者如斯夫,不舍昼夜。
川岸に立っておられた先生がいわれた。「過ぎ去ってゆくものはみなこのとおりなのだな。昼も夜もすこしも休まない」
貝塚茂樹「論語」1973年 中央公論社
(つづく)
鳳可才が暗唱させていた『学而編』、論語の冒頭だから暗唱させているという事もあるが、ドラマを見終わってみると、なんとなく「ああ……」という思いになるのだ。
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