33話感想
趙盼児は顧千帆との日々を思い出しており、♪「なぜに互いを忘れられようか」の歌詞が沁みるな。
3日後。花火が打ち上がっている。もしかして永安楼の開店日? 茶楼の常連さんも来訪してる。
西州の天女の舞は、天竺の伝説で乾闥婆(けんだつぱ)たち神々が仏陀をたたえ踊る様子を表現した舞らしい。
玉碁子はえびをもち米で包み蒸したもの、郡仙羹は山の幸を多数用いた羹。
鶉の丸焼き、蛤蜊(はまぐり)の炒め物。決明兜子(けつめいとうし)に、両熟紫蘇魚、楊州の新たな調理法で熟した油を素材に直接かけ、焼き物以上に香りが立つ。
決明兜子の決明はアワビで、これらを細かく刻み青豆粉皮で包み蒸した料理。紫蘇魚は干した紫蘇の葉と草魚の料理。
一元閣の最初のお客は、東京で名高い文人12名を招き、招待状の花月箋が届くようだ。商売上手な趙盼児、濁石先生たちに届かなかったらガッカリしちゃうよね。
招待状「永安楼にて花咲き月出る今宵饗饌12品をご用意しました。ぜひ酉の下刻にどうぞ/永安楼头,花月今宵,十二雅馔,酉末相候」のお値段は50貫。
濁石先生に招待状が届く。薛濤箋(せつとうせん)と言われ、飛白の文字は数十年の努力なしに書けない。柳九は受け取って喜んでおり、林頻は納得している。薛濤箋は唐代女流詩人の薛濤が作った紙。飛白の文字は漢字書体の一種。
花月宴の踊りが始まる。え?女装の何四? 宋姐さんの琵琶も、煙や花吹雪も。
唐代の宮廷画家張萱(ちょうけん)の名作である『搗練図』(とうれんず)を再現。『搗練図』はかつて円明園にあったが、現在はボストン美術館所蔵。
周昉(しゅうぼう)の『簪花仕女図』。現在は遼寧省博物館所蔵。名画の再現はなんだか現代の「春節聯歓晩会」みたいだわ。。
何四の「三郎は参内してしまった。今宵はお集まりの皆様と花月に酔いしれましょう」から察するに、何四はまさかの楊貴妃!? 三郎は睿宗の第3子である唐の玄宗皇帝のこと。『百花亭(貴妃酔酒)』で酒を飲む楊貴妃と、この花月宴をかけているのか。
酒の名を問われ、「主能く客を酔わしめば、何処が是他郷なるを知らず」。
蘇合鬱金酒(そごううっこん)を雨過天青の器とともに。「玉碗盛り来る琥珀の光」。
初献には雪泡菊酒、香薬脆梅、蜜餞彫花、水晶涼果(画像右下から左へ)。「玉瑟(ほうひつ)常に怨みを余し、美しき枝春に譲らず」。
武元衡(唐代)《春分与诸公同宴呈陆三十四郎中》
南国宴佳宾,交情老倍亲。
月惭红烛泪,花笑白头人。
宝瑟常馀怨,琼枝不让春。
更闻歌子夜,桃李艳妆新。
南国宴佳宾,交情老倍亲。
月惭红烛泪,花笑白头人。
宝瑟常馀怨,琼枝不让春。
更闻歌子夜,桃李艳妆新。
側転してる池蟠~。
亜献は西施舌膾(せいしぜっかい)、江揺清羹、四腮美鱸、蓮花饆饠(ひちら)。(画像右中から左へ)。「清娥扇中に画かれ、春樹鬱金に紅なり」。
温庭筠(唐代)《清明日》
清娥画扇中,春树郁金红。
出犯繁花露,归穿弱柳风。
马骄偏避幰,鸡骇乍开笼。
柘弹何人发,黄鹂隔故宫。
濁石先生は「時の流れに花を見て涙す」と。
杜甫『春望』
国破山河在,城春草木深。
感时花溅泪,恨别鸟惊心。
烽火连三月,家书抵万金。
白头搔更短,浑欲不胜簪。
終献は茘枝白腰、青梅湯餅、蟹醸金橙、杏仁玉羊(画像右上から左へ)。
締めは花火の競演~。
ひとり寂しい袁屯田先生……懐事情がキビシかったりするんだろか……。
開店日は人日 元宵らしい。顧千帆が蕭欽言に「人の命は杯四杯分」と言って血を流す…。月は雲の中に入っている。
せっかく趙盼児に会いに来たのに、鼠取りにかかる顧千帆。
え?話しないの?帰るの?
皇后劉婉登場!赤い石榴の花、踏雪尋梅は石榴の実と酸酪糕の紅白が美しいと女官の永安楼の噂話が皇帝の耳にも入る。梨の砂糖煮を作ってくると言う皇后。
「物は稀なるを貴しと成す」と言う趙盼児、「憎まれるのは成功の証」とも。
(つづく)
宴となると料理名も漢詩も大判振舞い。今回は趙盼児と顧千帆の回想集でもあった。
34話感想
欧陽旭は皇帝に「鼓を打っている女子に見覚えがないか」と進言し、皇帝から硯を投げつけられる。自分で硯にゴンは初めて見たかも。
趙盼児は池蟠に、「永安楼は江南料理で新鮮かつ精巧、飽きられたら西北料理を供する予定。酒は李家の中等品しか出せないので香料を加えた」と説明。
頭痛を訴える皇帝に、林三司があの蘇合鬱金酒を手渡した~!蘇合と鬱金は南洋の珍しい香で活血止痛と行気解鬱の効能があり、「一杯飲めば、神仙になれる/不饮一盏,枉做神仙」とも言うとか。いや、そんなに早く効く薬はもはや毒だろ。
ついに孔牛に奥方との喧嘩仲直り法を聞く顧千帆さん……。身を案じさせるのが肝要だと助言されている。
お忍びの皇帝を西の間の雨水廰へ通す池蟠。皇帝には龍鳳団茶、お忍び太監にはのどを潤す甘草茶でもてなす趙盼児。
お忍び太監が「官…」と呼びかけると、慌てて皇帝は「関々たる雎鳩」と詠み、「川の洲にあり」と答える太監。『関雎』は思う人を求めて得られない恋のつらさから、獲得の喜びまでをうたう。婚礼における祝いの歌ともある。
『詩経 国風 周南 关雎』
关关雎鸠,在河之洲。窈窕淑女,君子好逑。
カンカンと鳴くミサゴの鳥が、川の中州にいる。
しとやかなお嬢さんは殿方とよくお似合い。
川合康三「中国名詩選 上」2015年 岩波文庫
宋引章がかつて銭王王妃から下賜されていた龍涎香の香りがしたと話す趙盼児。
趙盼児はお忍び皇帝に、新鮮な蓮根と肉による「二十四橋 明月の夜」には荷葉と薄荷が入っており、「瀛州(えいしゅう)はいずこに/海客何处寻瀛洲」には石決明が入っており、どちらも熱を除き心の臓を養う。鬱金酒と合わされば寒熱が中和されると説明する。
杜牧(唐代)《寄扬州韩绰判官》
青山隐隐水迢迢,秋尽江南草未凋。
二十四桥明月夜,玉人何处教吹箫?
李白(唐代)《梦游天姥吟留别/别东鲁诸公》
海客谈瀛洲,烟涛微茫信难求;
越人语天姥,云霞明灭或可睹。
お忍び皇帝に、料理は決明兜子だと問われ、『詩経』の風 雅 頌では同じ物事が詠まれているが、朝廷の正しい音曲である雅と、民の声である風では表現が異なると返す趙盼児。
趙は、『百家姓』の筆頭なのね。あ、楊運判の話題が出ちゃった。
荊浩(けいこう)の『雪廬図』、王靄(おうあい)の『夜宴図』、懐素の『会棋帖』は焼失したと話す。荊浩は山水画家。懐素は唐代の書家で狂草という書体に優れている。
王靄は、顧閎中(ここうちゅう)の『韓熙載夜宴図(かんきさいやえんず)』の摸倣だと揶揄され画業を辞めている。北京故宮博物館所蔵。おぉ、茶百戯で描くのか。趙盼児は「水丹青」と呼んでいる。表装の切れ地の緑菱湖は、以前は紫鸞鵲と言っていたっけか。
皇后は勅命により昇王を引き取った。趙盼児はお忍び皇帝に、父も疲労時には頭痛で、熱い生姜湯に浸した手巾を額に置けば治まるやもと助言する。
お忍び陛下の前で。陛下のご厚恩を言うなんてナイスよね。……と思ったら、途中で気付いていたのか。
(つづく)
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