「君、花海棠の紅にあらず」がWOWOWで2022年7月2日(土)より放映されると知り、歓喜の声をあげた……WOWOWオンデマンドではあったが。
録画保存できないのは残念ながら、ノーカット版でじっくり楽しめるのは有りがたや~。WOWOWオンデマンドで2023年7月1日まで配信です。
番組検索しても2日までは出てこなかったが、0時を過ぎると出てきた!再会できたようでとっても嬉しい!! 第1話はカットがないのだが、第2話は冒頭からカットされた部分を見ることができる。じっくり見直すとしよう。
その嬉しさから、今回は商細蕊たちが住む水雲楼を訪ねてみる。
これは第5話と第14話、大家や葛さんが持ってきた証文の中に、水雲楼の住所と「房三间披厢五间耳房二间倒座房八间天井两方」という呪文のような建物の作りが出てきており、気にはなったが当時は京劇を調べるのに手一杯で時間ができたらと思っていたもの。
参考にした本は、『民居』王 其鈞、恩田 重直(東方書店)2012である。
四合院について
水雲楼についての記載は、
房三间披厢五间耳房二间倒座房八间天井两方。
覚えてしまえば、2Kとか3LDKみたいなものなのだが、四合院(しごういん)を知らないとどこで区切れば良いのか分からないお経に見える。
房三間 披廂五間 耳房二間 倒座房八間 天井両方
と区切ると理解しやすい。
文字で説明すると、
房:メインの建物、北に主屋
三間:開口部側の2本の柱の間、3間
披:家の左右や後ろに続く物置小屋と
廂:東西に廂房という脇部屋、が5間
耳房:正房の東西にくっついている小部屋が2間
倒座房:南の向かい部屋が8間
天井:(屋敷の中の家屋と家屋,または家屋と壁に囲まれた)露天の空間が2。北方の中庭は「院子」と呼ばれ、江南地方では「天井」と呼称するという説も。
ざっくり位置で示すと
北
耳房 正房 耳房
廂房 (後院) 廂房西 過庁 東
廂房 (前院) 廂房
垂花門倒座房 大門
南
こんな感じ。【披】は前院東廂房のあたりにある建物かな?
水雲楼は1つの中庭からなる四合院ではなく、複数の四合院が縦方向に組み合わされている。中庭の数で二進、三進となるが、この中庭の数え方がいまひとつ明確でない。
北側が後院、南側が前院とはある。本によっては外門から入ったすぐのスペースが前院とするものもあり、このあたりの正式名称はわからないが『民居』に準じた。ちなみに中庭が一つの四合院には、正房の北に後罩房が置かれるのが一般的。
方角は、北を背にして南面するのが最も位が高く、東西では東の方が位が高いので、それに応じた部屋割りとなる。本によると、正房の中央は祖先の霊を祀り、東側は祖父母、西側は両親、後院廂房の東側は長男、西側は次男、と準じて住むとある。
水雲楼の部屋割り
さて、実際の水雲楼の部屋に迫ってみる。
正房には三間あり、入って右(東)は商細蕊がよく滞在して寝起きもしている部屋で、小来はもちろん、親しい二旦那や七坊ちゃん、兄は入ることができる。寝床がオンドルになっているとドラマ後半で発覚。その奥(東)は衣装が置かれているように見える。
入ってすぐの中央の部屋は、茶色ソファが置かれており、座員達が集まったり、安貝勒や王秘書が訪れていた。蓄音機や鳥かごもここ。
その奥(西)は窓に向かって机が置いてあり、商細蕊が韓さんに字を習わされたり、小鳳仙の写真が飾られていた場所で、十九も入ってきていた。
耳房は、西側が役者の集合写真が掲げられており、陳紉香と商老板が南京行きを話す、小来に髪飾りを付けてあげたり、兄の縁者と話している時に出てきて、ふたり並んで映し出されるショットも多い部屋。
東側が二旦那が周香蕓の名前を書いていた大きな机のある部屋なのかなと思われる。
後院の東廂房は、小周子が入ったばかりの頃に映っていたので男子部屋。
六月紅が後院の西廂房の方から出てきており女子部屋と思われる。十九や小来は一人部屋のようだ。荷物をまとめていた十九も西側から出てきている。
食堂は2階にあり、前院と後院の間にある建物(过厅,厅堂)である。ドラマ序盤では暗く窓も閉ざされ場所も分からなかったが、どんどん窓が開け放たれて2階と気付いた。商老板の心の変化を感じられなくもない描写である。
范湘児が水雲楼へ来た時はここに滞在しており、正房には決して立ち入らないのが奥方の節度なのかもしれない。
第7話で小来がお茶を運んでくるのが庁堂1階西側から出てきたので、ここが厨房のようで、外には火をくべるようなのもある。建物東側に2階への外階段あり。
北方は木材が少なく煉瓦作りの家が多く、2階建ての家は少ないらしい。冬の暖房にも不便なようだが、1階にかまどがあるので、比較的暖を取りやすいのかしら。
先祖を祀る祠は垂花門を入って左、前院の西廂房。二旦那の寝床でもある。商老板が趙飛燕の稽古をしていたり、ショック療法で飛び降りようとしたのはコチラの屋根。正房の屋根かと思っていたよ。
ドラマを見ていた時は庭は一つかと思っていたが、よくよく見ると一座が稽古しているのは前院(門に近い方)の庭のようである。庭の西側に長いテーブルが置かれ、遺産の箱もこの庭に埋められてた。
座員達が范湘児により唱えさせられていた時は、珍しく後院の庭で復唱していた。後宮に関連しての事なのかな?と思うとちょっと面白い演出だ。
第9話で二旦那や商老板や七坊ちゃんが珍しく倒座房と垂花門の間にいた。
水雲楼の大門
通りに面している大門には等級があり、大門を見れば主人や家の格がわかるらしいのだ。
本には門の種類も詳しく説明されており、せっかくなので調べてみた。
格の高い順に、王府大門、広亮大門、金柱大門、蛮大門、如意門、窄大門、小門楼などがあるようで、水雲楼の門の扉やその周りが赤い事から、広亮大門、金柱大門、蛮大門に絞り込む。
この3つの門の違いは階段を上って門扉までの奥行きのようで、大門の屋根まで映りこんでいればすぐに見分けられるのだが、なかなかそういう映像はなく門扉周辺しか映っていない。
広亮大門が最も高い等級で、貴族の屋敷や清代では官位7品以上の役人でないと作ることができない。大門の屋根の最も高い部分の中柱に門扉があるので、パッと見でかなり扉が奥まって見え、入りずらい雰囲気を醸し出している。
金柱大門は、中柱より手前の金柱の位置に門扉がある事から名付けられており、広亮大門より手前に扉があるので、奥行きが減る。水雲楼はこのタイプだと思われる。
蛮大門は、門扉が軒に近づくので、奥行きが狭く、風雨にもさらされやすい。
門を入ると、影壁(えいへき)もあり、水雲楼では門を入ると左へと曲がらねばならない。悪魔は直線的にのみ動く、影壁に映る自分の影を見て驚いて逃げだす、などの考えから存在しているようだ。独立式と跨山式があり、水雲楼は独立式。
実在する中国の水雲楼
関係があるのかは分からないが、水雲楼という建物は江蘇省泰州市にもある。1265ー1274年に建てられ、もとは寺の蔵経楼で、中国十大名楼の一つであった。2004~2006年に再建されている。水雲楼には、“水流心不竟,云在意俱迟”という対聯があるとか。
じっくり見てみると、立体的に水雲楼が立ち上がってきて面白い。オンデマンドで見て気付いた事があったらまた追記するやも。四合院がわかり、北京の街並みを歩く時に楽しくなりそうである。
『鬓边不是海棠红』の設定資料集が欲しいなぁ。陳情令みたくクラウドファンディングしてくれないかしら。
外部サイト
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▼スマホのWOWOWオンデマンドアプリから飛ばして見てます。