第3巻が2021年6月28日(月)に発売された。
発売前からネット予約もしにくくなる人気ぶりである。土日をはさむせいか24日には首都圏、25日では関西圏などでも、26日には全国で店頭に並ぶ書店もあったよう。
この3巻の表紙が「馬に乗った赤い衣装の忘羨」。とても好きなイラストなので、アニメイト特典のポストカード目当てで、店頭予約より店頭受取をした。受取の際にカウンターの後ろに3巻がずらっと並んでおり、これだけ同朋がいるのかとニンマリ。
このイラストの特典があれば特典版を購入したかもしれないが、なぜか採用されていない。馬に乗っている貴重な場面なんだけどなぁ。単なる馬好き。実写でも見たかった乗馬の華やかなシーンであり、設定集にコンセプトアートはあるのだが、残念。
これは弓比べの赤衣装と百鳳山の騎馬が合体している場面のように思える。
表紙見返しもストーリーが続いている。
表紙カバーを外すと、紫色であり、裏には剣・三毒と紫電のイラストが描かれている。帯のコピーは「道は違えど、不変の思い。」「愛執」も付け加えられている。
第3巻は原作では第84章途中までとなっている。現世の蓮花塢に向かう舟中の場面まで。
なんせこの巻には第69章の百鳳山が収録されているのだ!
さて、ここからはネタばれも含むので未読の方は要注意。
第3巻の感想
読み始めは蓮花塢のあの場面から始まるので、気が重い重い。とは言え、読み始めると止まらなくなる。
3巻は温寧の存在感が大きい! いろんなメディアミックスが混じっていたせいか、「温寧との出会いは、ここで初めて出たんだっけ?」と軽く混乱していた。
そして江厭離も大活躍。幼い雲夢3人姉弟が沁みいる。
温情の別れの言葉はもちろんのこと、現世の乱葬崗での温氏残党の一族に泣けた……。思い出しても泣けてくる……。
3巻はかなり重い話が続きホラーめいてもいるが、なにか気になり、また手にとってしまう巻である。
第十二章 三毒
《蓮花塢のあの場面~魏無羨が乱葬崗へ落とされる》
江澄がこれは悪夢で、目覚めれば「父は書を読んで剣を磨き、姉は台所にしゃがんで何を作ろうかと頭を捻り」という蓮花塢の日常の場面を思い浮かべる所で、その光景が広がってきた。
前世編の弓比べで、魏無羨が温寧を励ます場面が良い。こういう教える所、上手いよなぁ。温情を知っていたのくだりで、美人はしっかり記憶している様子の魏無羨。
第十三章 風邪
《温晃に復讐する夷陵老祖~藍忘機が夷陵老祖に再会》
射日の征戦での温宗主による四大世家の講評が面白い。
そして逃げだそうとする王霊嬌が温晃のことを「脂てかてかのガマガエル」と評しており、想像してしまった。
温逐流への制裁として、魏無羨が藍忘機たちに「守ろうとしている温晃が、少しずつ変わり果てて変わっていくところを見せてやろうと思って」と話していたが、それはこの先の物語で、誰かを守ろうとしている人にとっても、なかなかにしんどい未来を示唆している言葉だと、遠い目になってしまう。
章の終わり、「地上の太陽は沈んでいく」の場面。陳情令第20話を視聴後に読んでいたこともあるが、岐山温氏を示すだけでなく、太陽に照らされるような仙師としての道や、藍忘機との仲を暗示しているようで、気持ちも沈んだ一文だった。(次章につづく)
第十四章 優柔
《現世で魏嬰が静室へ~乱葬崗で仙門たちと遇う》
優柔は、「ゆったりと落ち着いている、優しい、柔和、煮え切らない、思い切りがよくない」こと。
☆ ☆ ☆
……と前章で沈んでいたら、現世に戻り魏無羨が「俺をお前の家に連れて帰ってくれ!/ 快把我带回你家去!」と言っていたことから、気持ちも急上昇した。(陳情令では1話分位は疎遠になっている)
雲夢不知処には、梔子や白菊もあり、静室にはリンドウが咲いている。
蔵書閣で藍忘機の声が魏無羨の耳元で響き、魏無羨の手が震える、という乙女な描写もよき。
雲夢不知処を出て魏嬰が藍湛にロバに乗せてもらい、両親のことを思い出す場面。両親との幸せな記憶と、魏嬰の幸福で満ちたりた気持ちが重なり、魏無羨を安心して見ていられる思いになった、3巻の中で一番好きな場面。両親やロバとの再現に、自分を母親の立ち位置で追想しているのもほのぼの。そのあとに続く藍湛と体を接して、どさくさに紛れて内心嬉しくなっているのもカワイイのだ。
途中で会った若い夫婦が交わした会話で、「男の子は好きな子にばかり意地悪するのは、相手に自分を見てほしくてそうしてるだけ」に、魏無羨が固まるのも、そうかそうかと言う気持ちになる。
魏無羨の隠居後の空想、機織りの魏無羨は似合わなさすぎる。
乱葬崗で聶懐桑の描写で「ただの埋め草です」のフレーズが気になり、原文を見たら「我就是來湊個數的」だった。絶妙な訳だなぁ。
第十五章 将離
《百鳳山巻狩場~蓮花塢での幼い雲夢姉弟の回想》
この章名については小説でも解説されている。公式にはそちらを見て下さい。
将離は芍药の別名で、他にも「离草」とも言うらしい。
芍薬は、六大名花(梅、蘭、菊、ハス、牡丹、芍薬)のひとつで、また十二花神の「五月花神」とも称されている。「愛情」の花とされ、七夕の代表的な花でもある。中国絵画でもよく見られ、友情や情愛を象徴している。
『詩経 鄭風 溱洧』(しんい)
士與女 方秉蕑兮
(略)
且往觀乎
洧之外 洵訏且樂
維士與女 伊其相謔
贈之以勺藥
(略)男と女がフジバカマを取りに行くにぎわい
(略)
「それでもまあ行って見ましょうよ
渭水の外の処は、ほんに広くて楽しいことよ」
そこで男と女は ふざけ戯れあって
別れて贈る芍薬の華
石川忠久「新釈漢文大系第110巻詩経(上)」1997 明治書院
互いに戯れて、別れに女に芍薬を贈って契りを結ぶことをいうという説もある。曹咏梅「歌垣と東アジアの古代歌謡」2011 笠間書院
「韓詩」には「三月上巳(桃の節句)に川でフジバカマを取って招魂続魄し、不祥を払った」と禊ぎを歌う詩もある。
「将離」は【jiāng lí】と発音し、「江離」と同じ音でもあり、この章で江厭離が多く描かれていることも掛けているのかと思わないでもない。
☆ ☆ ☆
各世家の騎馬陣の入場の違いも面白い。赤鋒尊が男性修士に人気が高く、野太い歓声が聞こえてくるようだ。
目隠しをしている魏無羨が、押し倒されノンキに「力持ちの割に怖がりで恥ずかしがり屋」と思っているのに、んなワケないでしょとツッコむところ。しかも当時、魏無羨は20歳だった。
金夫人が御剣で飛来する場面もなかなかカッコイィ。
百鳳山で金光瑶がぼやく姿は、魔道祖師Q13話映像で再生されてしまう。
雲夢に来た藍忘機に、魏無羨が降らせた芍薬の色は粉色(薄紅色)とある。こんな色(#FFC0CB) なのかな?
そこで「天子笑は絶品だ。姑蘇へ行く機会があったら、十個でもどこかに隠して、満足するまで目一杯飲んでやるんだ」と言っていたのを、叶えようと静室に天子笑を隠していたのか、藍湛……。
幼い頃の回想で、江厭離が江澄のことを「気が強いから、いつも家の中で一人ぼっちで遊んでいたの」に、江澄と金凌は似ているんだなぁと思ったり。
蓮花塢の外を魏無羨が歩く中、すれ違う門弟たちが見知らぬ顔ばかりになっているのが切ない。
☆ ☆ ☆
百鳳山の目隠しキス場面。中国の掲示板で「藍忘機は壇香の香りがするから、目隠しをしていても香りでわかるのでは?」という声も見かけたが、藍忘機が壇香をまとうようになったのは現世編で、過去編ではそのような香りの描写は見られなかったような気がするのだ。
中国語で読んでいた時、その場面のあとの藍忘機のご乱心な姿に「この訳で合ってる?」と何度も読み直したものだ。あまりにも普段の藍忘機と異なっていたので。
第十六章 豪毅 / 桀驁
《金鱗台で連れ帰り隠します~乱葬崗で江澄と訣別》
『漢書 匈奴伝 賛』にあり匈奴の単于を言う。アニメ羨雲編5話で解説。
☆ ☆ ☆
蓮花塢波止場で、温情が魏無羨にすがる様子に胸が痛い。
魏無羨について話を盛る金光善に「聞いていません」と簡潔に抗弁する藍忘機の姿が清々しい。そして綿綿の心意気も爽快である。
江澄が伏魔殿に来た折に、開発中の召陰旗や風邪盤があるのが、ワクワクしてしまう。
魏無羨が江澄の腕を掴んだ場面で「まるで鉄の箍のようだ」の漢字が読めず、手書き入力してようやく「たが/ 桶の周りにはめる金属などの輪」と判明した。すっきり。
第十七章 漢広 / 漢廣
《夷陵の親子3人~師姉の晴れ姿》
この章名についても小説で注釈されている。「漢廣」は【hàn guǎng】。
『詩経 国風 周南 漢廣』
翹翹錯薪 言刈其婁
之子于歸 言秣其駒
漢之廣矣 不可泳
江之永矣 不可方思入り乱れ茂った草木、その小枝を刈りとる。
女神は今嫁いでゆく。その輿の駒にまぐさかう。
漢水は広く、泳いではわたれない。
江水は長く、いかだでもわたれない。
石川忠久「新釈漢文大系第110巻詩経(上)」1997 明治書院
この詩も諸説あるが、この章では師姉が花嫁衣装を披露することもあり、「嫁ぐ」とするこの説を挙げてみた。
漢水は長江最大の支流。長江を「わたれない」とする、どこか隔てられた距離も感じる詩となっている。
☆ ☆ ☆
原作の温寧はやはり一度死んでいる設定なのか。
阿苑いわく、藍忘機は「お金持ちにいちゃん/ 有錢哥哥」、魏無羨は「お金なしにいちゃん/ 沒錢哥哥」という、ここでも対比……。
温氏残党との宴会食事場面。陳情令ではこの場面はどちらかと言うと忘羨な場面として記憶している。原作では魏無羨と温氏残党との場面としてのみ描かれているので、より距離が縮まって心温まり、魏無羨の帰る場所となった側面が感じられた。
江澄の「たった一人を救いたい時は、往々にしてどうすることもできないものだが、たった一人を陥れようとする時、その方法は何千何百にとどまらないんだ」という言葉が重い。
第十八章 夜奔
《窮奇道の悲劇~不夜天》
京劇の『林沖夜奔』。アニメ羨雲編7話で解説。
☆ ☆ ☆
霊宝閣は、なんだかドラクエの道具屋みたいな場所だな。キメラの翼とか。
魏無羨がもったいぶって「秘密だから教えられないんだ」と言い、温寧が「そうですか」とアッサリしたのに対して、魏無羨がああだこうだと言うのが愉しい。
窮奇道に金子勲を差し向けたのは、金光善もかんでいたのか。自業自得じゃないか。
温情が一人で責任を取ろうとすることに、魏無羨も恨めしい思いを抱いていたのね。
登場が続いたこともあるが、温情や金夫人、金子軒にしても、悲痛に満ちた場面で容姿を崩して描写されるなぁと目についた。
そして陰虎符が合わさる場面は、小説が一番カッコイィ気がする。
第十九章 丹心
《現世での乱葬崗の戦い》
藍景儀が蘇渉について「いったいなんなんですかね、あの人は!」と言う剣幕に吹き出してしまった。
温寧が血屍たちに対して「あなたたちは、ずっとここで待っていたんですか?」という言葉に泣く…泣いた…。
蓮花塢に向かう舟の中で、倒れた魏無羨に、藍湛が「ここにいる」というのもよきよき。
感想あとがき
見た目や評判はパッとしないが、誰よりも優しく強く、接した人にはわかる魅力を持つという点で、温寧と江厭離は似ているんだなぁと思った3巻であった。
なにより温氏残党たちの弔いに、一献ささげたい思いである。
▼「桀驁」の説明
▼「夜奔」の説明。
▼江厭離の大泣きについて
▼藍思追と金凌の選び取り
▼現世での乱葬崗での戦い
外部サイト
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